円卓の少女達   作:山梨明石

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―――――――

 

 ゴブリン。小鬼と称される事もある、その野卑で小柄なモンスターは、モンスター界における生態ピラミッドの最底辺に位置する種族だ。

 知恵も弱く、力も弱く、強力な固体でもレベル10を超える事は殆ど無い。

 彼らが唯一持つ武器は、その数だ。

 弱者らしく繁殖力は爆発的で、ねずみ算のようにその数を増やす。

 一体みたら二十体は居ると思え。という警句は、冒険者や国の一兵卒のみならず子供ですら知る常識だ。

 

 ゴブリンよりも強い生き物が存在しない空白地帯にゴブリンの巣が形成されると、彼らはたちまちに数を増やしゴブリンの王国を築き上げる。

 ゴブリンの王―――ゴブリンロードを主に据えた、ゴブリンの王国が生まれるのだ。

 ゴブリンロードが誕生してしまった場合のゴブリン達の危険度は一気に跳ね上がる。

 知恵と力を持つ王に統率されたゴブリン達は、逃げる事を覚え、獲物を罠にかける事を覚え、力をつける事を覚えるからだ。

 そうして国としての段階が進んでいき最終段階になると、レベル30以上の精鋭たち。ゴブリンウォーファイターや、ゴブリンランサー、ゴブリンライダーといった上位種が現われ始める。

 そうなると彼らは人間の国は無理だとしても、防衛力の弱い街程度なら陥落できる集団と化す。

 人類側としては勿論そうなる前に、冒険者達にゴブリンを間引くよう依頼を出しているがそれでも間に合っていない。

 その為最終段階まで成長したゴブリンの王国は、人間の国を滅ぼしうる災害として認定される。

 可及的速やかに大規模な討伐隊が組まれ、これを殲滅するまで戦争が行われるのだ。

 

 大陸のどの国家でも定期的に、大体十年に一度の頻度で見られるゴブリンとの戦争はある意味風物詩じみた所もある。

 戦争の匂いを嗅ぎつければどこからとも無く武器商人らが現われ暴利を貪っていくのだが―――。

 

 今年の法国に限っては、それはないだろう。

 

 

 「GIEE」

 

 ゴブリンロードは飽きていた。

 戦力を増強する為に代わる代わるメスを抱くのにも飽きていたし、部下が贅によりをかけてこしらえた豚の丸焼きを喰うのにも飽きていた。

 なにより、この近辺でゴブリンロードを唸らせるような力を持った強者が居なくなってしまった事に、飽きていた。

 

「GOAF……」

「BAJER!」

 

 料理とメスを下げさせ、残りは部下にやってしまう。

 王しか食す事の許されなかった物と者だが、許しが出れば最早躊躇いもない。

 近衛の精鋭達。ゴブリンキャスター、ゴブリンアサルトコマンダー、ゴブリンバーサーカーらが殺到する。

 顔を殴り、足をすっころばせ、メスの尻を叩き、雄叫びをあげる。

 互いを尊重しつつ、殺し合いに発展しない程度の紳士的な争いだ。ゴブリンロードは理性的な部下達の姿に満足げに笑みを浮かべた。

 これが最底辺のゴブリンなら、そもそも王の話も聞けない。

 肉があれば喰う。メスがいれば犯す。その程度の知能しか持たないからだ。

 

「……VEF」

 

 ニンゲンとかいうひょろひょろした奴らから奪った、琥珀色の液体が入った器を呷る。

 一体これが何なのかゴブリンロードには分からなかったが、とにかく飲むと体の奥から熱が湧き出てきて力が出る。

 誰よりも強くなったという実感を感じる。まさしくこれは王たる者に相応しい飲み物だ。

 きっとあのニンゲンとかいうのは、これを王に捧げる為に来た哀れな弱小種族の一つに違いない。

 ゴブリンロードは至極真っ当で冷静な判断力の元に、ニンゲンの事をそう理解した。

 

「KOM……? HUM」

 

 もしまた奴らを見つけたら、偉大なる王の慈悲の下に繁殖用の子袋代わりにならばしてやってもいいだろう。

 オスなら潰して肉団子にでもすればいい。

 

「GOFOFOFO」

 

 全く持って順風満帆だ。笑いが止まらない。

 

「GOAAAAA!」

「GYERRR」

「GHHHHOOOO」

 

 王の笑い声に追従して、精鋭達が叫ぶ。その中にメスどもの嬌声が混じっているが、景気づけのようなものだ。

 そんな肉と肉が入り乱れる乱痴気騒ぎの中、突如その空気を切り裂くように、近辺の捜索に当たっていたゴブリンストーカーが王の元に舞い戻った。

 

「WHOF」

「HUM、TREEWOM。BEAUT」

「GOFF」

 

 傅いたゴブリンスカウトの報告に、ゴブリンロードは股座がいきり立つような興奮を覚える。

 ニンゲンのメスが三匹、ゴブリンの王国に近づいてきていると言うのだ。

 それもこの場にいる美しいゴブリンのメスですら霞んでしまうような、繁殖欲求が抑え切れなくなるほどの美貌を持つメスらしい。

 実際報告に戻ったゴブリンストーカーは息も絶え絶えだった、王への忠誠心が無ければそのままニンゲンのメスを襲いに行っていたであろう事を、その下腹部が雄弁に物語っている。

 

「FORMN! HEAT!」

 

 王の判断は早かった。何時だって即断即決が、ゴブリンロードの強みであったからだ。

 

「REAPTT! HUMWOM! TREE! NOEW!」

 

 目標はニンゲンのメス三匹。生かして捕らえる事。目的は犯すためだ。

 精鋭達に素早く指示を飛ばす。必要だと思える分だけ下級のゴブリンを動かす事を許可し、落とし穴や吊り上げ罠の設置や確認を急がせる。

 勲功著しいものには、メスを抱かせてやるという褒賞をちらつかせるのも忘れない。

 それは王が抱いて、抱いて、抱いて、それでも抱いて飽きた後になるだろうが―――まぁ、子供を二十人も産ませる頃には満足するだろう。

 そうしたら抱かせてやってもいい。

 

「GOAAA! NOEW! NOEW! GOA!」

「GOAGOAGOA!」

「GOAGOAGOA!」

 

 王の指示の下、百名規模となるゴブリンの即応部隊が組まれ、勇ましく前進していく。

 これぞ、これぞまさに王とその臣下達のあるべき姿だ。

 

「GOAAAA―――!」

 

 ゴブリン王国の未来は明るい。

 ゴブリンロードは琥珀色の液体を再び煽りながら、報告に上がったニンゲンのメスの柔らかそうな身体を想い股間を膨らませる。

 冷静沈着なゴブリンスカウトがああなるのだ。さぞいいメスなのだろう。

 どんな風に犯してやろうか。ゴブリンロードの脳内で、下卑た妄想が繰り広げられ―――。

 

 突如遠方で爆発が起きた。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「……なんか来てますねえ」

 

 望遠鏡を覗いていたえちごやさんの報告を受け、私達は法国から借りていた馬から下りた。

 目を細めて遠くを見てみると、ごつごつとした岩肌が続く山岳地帯の中に、ぽつぽつと湧いた黒い影がこちらに進んでいるのが見えた。

 

「もういいですよ。後は私達の仕事が終わるまでその辺で遊んでいてください」

 

 馬の尻を軽く叩き放してやる。馬たちは軽く嘶いた後、どこかしこへと消えていった。

 彼らは法国が訓練した軍馬なので、一時の主人である私達が呼べば何処からでも戻ってくる。

 

「さっきの斥候が連れてきたんだろう。大した歓迎っぷりじゃないか」

「ひいふうみい……。うげ、百近くいる……気持ち悪いです」

「じゃあ少なくともあれぐらいの数を20セットこなさなきゃいけないって事だね」

「おえー。うぅん、でも課金アイテムの為です、ここはぐぐっと堪えてがんばりましょう」

「流石ですね、えちごやさん。私はそこまで簡単に割り切れないなぁ、必要とあらばモンスターを倒すことに躊躇いはないけど、これってぶっちゃけ会長の頼みだからやるだけだし、無益な殺生はなんたら、というか……ただそれだけの為に死体の山を築くというのは……」

「そう難しく考えるな山吹。モンスターを狩るだけだろう? 相手は歩く経験値だと思えばいい。それにゴブリンの討伐は国家が奨励している、私達は善意のもとにこれを成すのだぞ? 世の為人の為、いい事をしているだけじゃないか。三方よしという奴だぞ」

「物は言い様だね全く……」

「ははは……。それにしても奴らは遅いな。早く来い……疼いてしまう」

「…………怖っ、御剣さんマジ怖っ」

 

 三人で一列に並び立つ。

 臨時パーティー「乱獲パ」のそうそうたるメンツだ。

 レベル198、レベル152、レベル130とレベルバランスが良いとは決して言いがたいが、所詮臨時パーティーなんてそんなものだ。

 約一名カンストに手が届きそうな奴なんて、今にも愛刀を抜きたくて抜きたくてたまらないといった様子で、隣に立っているだけでも怖気が走る。

 頼むから間違ってもFF(フレンドリーファイヤー)はしないで欲しい。

 下手したら即死まであるし、このレベル差だと。

 

「……とりあえず作戦とかきめとく?」

「必要あるか? 私は普段通りにやるから、適当にやってくれればいいぞ?」

「げっ、じゃあ私は遠くでちまちまやってますよう……ね、山吹さん一緒にやりましょうね? いざという時は頼りにしてますから」

「またそう言ってゴーレムを囮にするつもりでしょう。……いやまぁそれが正しい使い方なんだけどさ」

「バレましたか、てへへ」

 

 視界の奥で蠢く黒点の数が刻一刻と増しているにも関わらず、私達の間には緊張感がまるで無い。

 これから行われるのは戦いではなく、ただの一方的な乱獲だからだ。

 目に付くMOBを死んだ目をしながら殺し続ける作業を、どうして戦いと呼べるのだろう。

 

「……ふぅ」

 

 本当に、本当にラミーを連れて来てなくてよかった。

 私達がこれからやる光景を彼女が目撃したら、きっと二度と一緒に生活してくれなくなるだろうし。そもそも同じ人間だと認識してくれなくなると思う。

 ……こんな血なまぐさい仕事、今回限りにしておきたいなぁ。

 

「さあ、そろそろおしゃべりも終わりだ」 

 

 御剣が腰のベルト、ウェポンスタッカーに手を当てる。

 すると呼び声に応えたかのように刀の柄が飛び出てきて、御剣の手の中にするりと納まった。

 凶刃アメノハバキリだ。刀身はおろか柄を見ただけで生理的嫌悪感を覚えるそれを、御剣は愛おしそうに撫でる。

 

「……ふふっ」

 

 腰を落として構えを取った御剣の口元が限界まで弧を描く。わきわきとした手の動きが生理的に気持ち悪い。濃密な死の気配がそこから漂ってくる。

 

「たまらんなぁ……!」

 

 今にも駆け出していきそうだ。

 もうコイツだけで二千匹殺しつくしてしまいそうだが、だからと言って流石に放置しておくわけにもいかない。

 

「……じゃ、準備しましょうか」

「そ、そうですね」

 

 ドン引いてるえちごやさんと共にウェポンスタッカーに手を当てて、自らの武器を引き出す。

 私は服の袖に縫いつけたポーションの形をしたパッチ。えちごやさんは服に無数に縫い付けられたポーチの中の一つ。

 そこから私はアブソリュート・クロスボウを、えちごやさんはダイコクテンを取り出した。

 

 私のクロスボウの全体は青白く光っており、手がかじかむような冷気を放っている。

 それはクロスボウ自体が宿す冷気属性のせいなのだが……そもそも矢を当てるための武器なのに、射手の安定性を欠くような冷気を放つとは、果たしてクロスボウとしてやる気があるのかと問い詰めたいが、今私が持っているクロスボウの中で一番強いのがこいつなので仕方がない。

 

 えちごやさんのダイコクテンはといえば、見た目は黒い色をした小ぶりのハンマーだ。

 筋力ステータスが低くても扱いやすそうな武器で少しうらやましい。

 

「まあやると決めたんですし、切り替えていきましょう。どうせなんで開戦の合図は派手にやっちゃいます」

「わかってるじゃないか、やれやれ、やってしまえ」

「おっ、となると投擲系を使うので?」

「うん。取って置きのやつをね」

 

 クロスボウの自動装填機能が働き、アイテム・バッグの中の矢が一本消費されてクロスボウに装填される。

 私はそこにポーション射出用の器具をセットし、アイテム・バッグの中から取り出したポーションをセットした。

 

「うわ。ちょ、ちょ何怖いもの出してるんですか!?」

「いかにも、虎の子でございます」

 

 そのポーションの名は、「メガ・ニトロ」。

 投擲系ポーションの中で爆発ダメージを与えるタイプの「ニトロポット」の上位アイテムだ。

 試験瓶程度の大きさしかないが、侮る事無かれ。喰らえば五千の固定ダメージを食らう危険物である。

 

「装着良し、安全装置良し、射出角度良し、バネ良し」

 

 最後に各種チェックを済ませ、スキルを発動する。

 そのスキル発動が重要だ。最悪これをしないでそのまま矢を撃つと、たいてい失敗する。

 

「《ポーション・ストライク》」

 

 しっかりスキルを発動し、力を込めてクロスボウの引き金を引くと、ぱしゅっと小さな音と共に「メガ・ニトロ」を装着した矢が山なりに飛んで行った。

 

「三……二……一……今」

 

 放たれたポーション付きの矢は狙い通りにゴブリンの集団に命中し―――。

 

 ポーションの中身が衝撃で反応を起こし、光の洪水と生命を即死させる高熱と共に大爆発を引き起こした。

 少なくとも三十体は巻き込んだだろう、一瞬遅れて爆発音と衝撃波が身体を打つ。

 望遠鏡を覗いていたえちごやさんが「うえーばらばらだ」と気持ち悪そうに舌を出した。

 

「では行って来るぞ!!」

 

 突然の大爆発にゴブリン達は混乱し、慌てふためいている。このタイミングで叩かない理由がない。

 御剣が駆け出し、岩肌を滑る様に走り抜けていく。あっと言う間に遠ざかっていく背を見ながら、私は続けてゴーレムの召喚準備に入った。

 とりあえず四体出しておけば足りるだろう。私が三体、えちごやさんが一体だ。

 

「―――意思なき土くれども。我が呼びかけに応じるならば、その身に偽りの命をくれてやろう。しかして、そは一日一夜の命。明晩を持たずして崩れ去る。されど命を欲するならば、されどこの地を歩みたければ、さあ、我が手を取り頭を垂れ、忠誠を示すのだ。《サモン・アイアンメタルゴーレム》」

 

 魔法の詠唱を終えると、地面が隆起し始めそこから四体の鋼鉄の人型ゴーレムが姿を現した。

 背の高さは私の倍以上もあり、その巨大な姿は包み込むような安心感がある。

 主人の命に従い盾になる防御力の高い強力なゴーレムだ。おかげで召喚するためにMPがごっそりと持ってかれてしまった。

 

「ふぅ」

 

 相変わらず召喚魔法の詠唱は長ったらしい上にこっぱずかしいが、もう慣れた。

 

「……うぅ」

 

 ……嘘だ、やっぱり恥ずかしい。なんだこの中二病垂れ流し詠唱は。『悠久の大地』の運営は何を考えていたんだろう。

 しかしながら、ゴーレムの召喚時間最大化の為には唱えきるしかない。もうほんっとに恥ずかしいけど我慢するしかない。

 聞いているのがえちごやさんだけでよかった。

 

「うわー。改めて思いますけど、召喚系魔法の詠唱ってこんなに恥ずかしいんですね。うち覚えなくてよかったかも……」

 

 やっぱりよくなかった。

 

「あんまりそういう事言うとゴーレム貸してあげませんよ」

「やっばい超格好いいです! 山吹さんサイコー!」

「……こほん。ま、まあいいでしょう。許します」

 

 ……くっ。明らかに棒読みなのに褒められた事を嬉しく感じてしまっている! どうしてこんなに褒められるのに弱いんだ私の体は! ちょろすぎる!

 

「……行きますよえちごやさん」

 

 私は頭を振ってゴーレムに命令を出し、腰を屈めさせて肩に乗った。そして前進命令を出す。

 

「あっ、ちょっと待って下さい! 私も乗せてくださいよ!」

 

 慌ててえちごやさんがゴーレムに飛び乗って肩までよじ登る。

 遠くでは既に御剣が血しぶきに塗れながらゴブリン達を切り刻んでいる。

 あまりまごついていると後で文句が飛んできそうだ。

 

「全速前進! 目標ゴブリン、進め!」

「お、おー!」

「OOOOHHHHHHHH!」

 

 地響きを慣らしながらゴーレム達が進む。

 はてさて、今日中にこの乱獲が終わるといいのだが。

 

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