円卓の少女達   作:山梨明石

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 一生のうちに睾丸を四個(・・)も潰される。

 本来なら絶対にありえないその現象も、この世界ならマジカルミラクルポーションの力でイナフ。

 もしこれを私がやられたらと思うと考えるだに恐ろしい。身の毛もよだつ悪鬼羅刹の所業である。

 しかしながら私達には、クルミを割られた教皇にくれてやる慈悲も涙も無い。

 何故なら、今の私達はまさに悪鬼羅刹そのものであるからして。

 本気でやる、ということはつまりそういうことなのだ。

 

「エ、エミ、ルは……大聖堂の、ワイン貯蔵庫の、樽の中だ……部下が、連れて行った……部下は……全部で、十五人いる……」

 

 えちごやさんに股間を極められている教皇が、大量の脂汗を流しながら必死に答える。

 死ぬような―――否、実際死にかけた教皇は再びポーションの力で睾丸を再生させ事なきを得ているものの、一言一句を慎重に述べるその様子からは、睾丸を再び潰される事への夥しい恐怖が透けて見えた。

 それにしてもワイン樽が隠し場所とは、灯台下暗しとはこの事だろう。

 中にワインが詰まっているのが当然だと思う人の心理の隙を突いた、巧妙な隠し場所と言える。

 

「で?」

 

 息を詰まらせつつ喋る教皇に痺れを切らしたのか、えちごやさんが握っているソレへの圧力を万力を込めて強めていく。

 

「ひっ……! ぶ、部下のうち二人はカルロスとボリス! お前たちが倒したあの二人だ! 他の十三人の名前は―――」

 

 一度には覚えきらないので、教皇が吐いた名前を逐一メモに取っていく。

 その中には教皇クラスとまではいかないが、かなりの地位の人物も居れば木っ端の兵士も居た。

 切羽詰った教皇の様子からして、嘘を吐いているようには思えないが……その辺りの調査は今後の法国がすべき事だろう。

 

「そ、そして私が失敗した場合の合図を出せば、エミルを連れて法国から離脱する手はずになっている!」

「合図の方法は?」

「そ、そこの本棚の上から三番目、横に五番目の本の中だ! いいいいい痛い痛い痛い!」

「どれどれ?」

 

 本棚を見ると幾つかの本が教皇がぶつかった衝撃で地面に落ちていたが、彼が示した場所の本だけは不自然にその場に残っていた。

 御剣がその本を取り出そうとするが、何かで固定されているのかびくともしない。

 

「そ、その本には仕掛けがあって、私の持っている鍵がないと―――」

「ふん!」

 

 しかし御剣が持つ暴力的ですらある高い筋力ステータスの前では、その程度の抵抗は無意味に等しい。

 ばきゃりという音と共に何らかの部品が吹っ飛び、本は多少のゆがみを生じながらも御剣の手の中へ収まった。

 

「何か言ったか?」

「……がっ……かっ……」

 

 絶句した教皇を半ばスルーしつつ、本を検める。

 その本は見た目こそ重厚なつくりだが、実際の中身は四角に分厚く切り抜かれている。そこには導火線らしき紐が繋がった小さい筒状の物体と、マッチの小箱が入っていた。

 

「なるほど、打ち上げ花火か。いや、発炎筒か? ともあれ使えそうだ、貰っておこう」

 

 どちらとも取れる形をしているので詳細は実際に火を付けてみるか、鑑定スキルを使えば分かるだろう。

 中身を取り出してアイテム・バッグの中に仕舞った御剣は、本を適当に放って捨てる。

 

「お、お前たちは一体なんなんだ! ミツルギはともかく、お前たち二人のような強者が居れば我らの耳に入っている筈だ! それが何故今になって!」

 

 泡を食った様子で教皇が喚きたてる。

 二人、とは私とえちごやさんの事だろう。

 

「誰が余計な口挟んでいいっつったコラァッ!?」

「いいいいがああああ潰れる潰れる潰れるすみません申し訳ありませんでしたあああああっ!」

「まーまーえちごやさん落ち着いて……。うーん、何故も何も……ねぇ? 普段から目立たないようにして生活してますし、そういうのは人一倍気を使ってるんですよ、前例(・・)があるので」

 

 前例とは言うまでも無く我等が会長の事だ。

 下手に力を誇示すると、蜜に群がる羽虫の如く厄介ごとが集まってくる。それを間近で目にしている分、この手の事はかなり気をつけているのだ。

 とはいえ、それは私とえちごやさんぐらいのものだろう。

 御剣やルドネスは言わずもがな。霧は隠すつもりがあるのかないのか分からないし、タタコさんはとにかく鍛冶にしか興味がなさそうなのでそのあたりどう考えているのかは知らない。

 ただ、各自が設定した超えちゃいけないラインだけは守っているらしいので、会長のような悲劇はまだ起きていない。

 私も民衆の前で聖堂騎士団員らにゴーレムを見せてしまっているが、ささっと法国からおさらばすれば謎の美少女魔法使いという体で終わるし。うん。

 

「糞っ……ふざけるな……そんな馬鹿な話があってたまるか……お前らのようなぽっと出の女どもに計画を潰されるなど……あってはならんのだ……!」

 

 憤怒を湛えた表情で教皇が唸るように言う。そこには長年の苦しみが詰まっているようで、見ているだけで痛々しい。

 きっと彼が言う計画とやらを実行するにあたり、とても一言では語りきれない沢山の障害や問題があったのだろう。

 一々聞かずとも、彼の寂しい頭部がその苦労を物語っている。

 しかしながら。

 

「……さいですか」

 

 まあ、そんな事私達にとっては知ったこっちゃない。運が悪かったと思って諦めて欲しい。

 ―――っていうか会長をマジで泣かせたのが運のつきだ、その時点できさん(貴様)らの運命は決定していたのである。

 

「……もう用済みだし、御剣お願い」

「うむ。《みねうち》」

「がっ……!?」

 

 気絶した教皇が倒れ伏し、その身体をえちごやさんが手早く簀巻きにしていく。

 

「……っはー……なんで人のタマってこんなに気色悪い感触すんねんやろ……」

 

 ぶつくさと言いながらも、えちごやさんは教皇の額や頬に『私は罪人です』『金玉爆裂教皇見参!』『性欲ハゲ』など屈辱的な落書きを施していく。しかも落書きに使っている万年筆は、私の覚えが正しければ最低三日は洗っても取れないタイプの強力なインクを使っているはずだ。

 

「御剣さん、染色スプレー貸していただけませんか?」

「うむ、いいぞ」

 

 そしてオマケとばかりに、教皇のハゲ頭をクソスプレーでショッキングピンクに染めていく。これは課金アイテムなので脱色できない可能性がかなり高い。

 当然のように申し訳程度に残る髪の毛もショッキングピンクに染まる。もしかしたら毛根まで染まりきってしまって、今後生えてくる頭髪は全てショッキングピンクになる可能性もある。それはあまりにも悲惨な未来だろう。

 

「……オニだ」

「……うむ」

 

 慈悲も容赦も無い。そのすがすがしさに胸がすくような思いすら感じる。

 クソスプレーもクソスプレーなりに役に立つ所があったようで何よりである。課金ガチャ外れ枠の面目躍如だ。

 一仕事すんだとばかりに手をぱんぱんと払ったえちごやさんが言う。

 

「さてと、こんなもんでいいでしょう。それでエミルさんですけど、どうするんです? 保護するのは簡単ですけど、残りの不穏分子をどうにかしない事には会長も安心できませんよ?」

 

 そう。確かに一連の事件の首謀者は叩いた。しかし大本の『教団』はもとより、彼の部下らを早々にしょっぴかねば、また何時問題が起きるか分かったものではない。

 それに情報の裏を取る必要もある。

 私達は念のために拷問で得た情報でも、ちゃんと確信が得られてからじゃないとこんな凶行には出ない。

 一応教皇の事だって、彼が単に性欲旺盛のいい歳した色ボケジジイかもしれないという微粒子程度の可能性も考慮して、えちごやさんに色仕掛けをかけてもらったのだから。

 ……ウソっぽく聞こえるがウソじゃない、本当の事だ。

 

「とは言ってもねえ。名前を調べれば居所が出るような便利な魔法も無いですし、ここから先は申し訳ないけど会長任せになっちゃうのかなあ」

「……そうだな。法国に不慣れな私達がこれ以上下手に騒ぎを起こせば、何匹か鼠を逃がしてしまうかもしれん。セラフならその辺り慎重にやってくれるだろう」

 

 庭園燃やし尽くした上に、民衆の前でスプラッターな場面を見せておいて何を今更という話だがしょうがない。

 ともあれ、法国が患った巨大なガンは私達が取り除いた。

 後の小さな病巣たちは、法国の自浄作用に期待しよう。

 

「じゃ、粗方済みましたしエミルさんを回収してから会長のとこ戻りましょうか。《サモン・アイアンメタルゴーレム》」

 

 無詠唱で呼び出したゴーレムに、哀れな教皇を担がせる。

 

「そうだな。そろそろ薬の効果も切れる頃だろう」

「はーい。……ふわー、それにしても朝から働きづめで眠くなってきちゃいましたよ。全部終わったら宿屋に帰って寝ていいですか?」

「どうぞお好きに。―――まぁ、もしかしたら『聖女様』からご褒美に何かもらえるかもしれませんけど」

「絶対行きます!」

「ははは! 現金なやつめ!」

 

 姦しい話し声と共に、ゴーレムを引き連れながら教皇の私室を出て会長の下へと向かい進む。

 教皇は途中で聖堂騎士団達に突き出すとして―――。

 

「ところで、誰かワイン貯蔵庫と会長の私室への行き方知っている人居る?」

「……」

「あっ……」

「……後で教皇叩き起こして聞こうか」

 

 その前に、また教皇には痛い目に遭ってもらう必要があるのかもしれなかった。

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