円卓の少女達   作:山梨明石

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「―――とまあ。そういう経緯で出会ってしまった、出会いたくもなかった連中がこのユニコーン共というわけです」

 

 かいつまんで事情を説明する。

 色々と謎が多く度し難い連中だが、少なくとも最低限度の常識と誠意は持っているらしく、私が説明している最中に補足をはさむ形で喋る以外では、驚くほど静かに奴らはその場で待機していた。

 

「なるほど……。意思疎通が出来るモンスターなんて俄かには信じがたいですが、目の前に実物も居る事ですし信じますわ。―――開口一番に侮辱された件に関しては、山吹さんを助けに来たというその行動と、山吹さんに免じて水に流してあげますとも、ええ」

 

 話を聞き終えたルドネスが、憤懣やるかたなくも渋々納得した風に頷く。

 

「……ふーん。……ふーーーーーん」

 

 同じく黙って話を聞いていた霧は、無表情のままずっとユニコーンを睨みつけていた。

 後もう少しの所で。というタイミングで邪魔に入ってきたユニコーンが憎たらしいのだろう。

 殺気交じりの視線にさぞ怯えている事だろうと、意識を背後に立つユニコーンらに向けてみると。

 

「……どうする長よ。あの熱烈な視線ときたらどうだ。既に妻帯たる我らとあれど、愛人の一人や二人を囲うのもやぶさかではないと思うのだが」

「然り。あの少女もヤマブキと方向性は違えど類稀なる美少女。そして処女とあらばなんら罪なし。多少の(とげ)が気になるが、可憐な華に棘はつきもの故な」

「美しい……」

 

 様子を見る事すら後悔するレベルのくだらない会話を繰り広げていた。

 ―――なんだこいつら、処女なら何でもいいのか!

 私は眉間を指で揉み解しつつ、つい出そうになるため息を堪えながら話を続ける。

 

「……で、あなた達は私を助けてに来てくれたんですよね? その認識で間違いはありませんか?」

「然り」

「じゃあ聞きます。一応状況は把握しているとは思いますが、ラミーを『教団』より先に見つけて保護する。これについてあなた達は何か解決策の一つや二つ、当然考え付いた上で来たんですよね?」

「その通りだ」

 

 ここで「何も考えてません」とでも返答をよこそうものなら世紀末馬肉解体ショーが開催される所だった。

 まあ仮にそうであったとしても、こいつらには囮になってもらい満身創痍になった所をボッコボコにするつもりだったのだが。

 

「ではその解決策を教えて下さい。場合によってはそれを採用しますから」

「うむ。ではまず第一に―――」

 

 あまり期待せずに耳を傾ける。

 が、しかし。

 私の想像以上に、ユニコーン達は真っ当な(・・・・)解決策を寄越して来たのだった。

 助けに来た。と言う言葉はどうやら伊達じゃなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、決行の時が来た。

 

 場所は『魔女の鍋』の裏口。塀で遮られ監視の目の届かないそこに、私と霧にルドネス、そしてボス格を含むユニコーン四匹が出揃う。

 

「二人とも、これを。……幸運を祈っていますわね」

 

 ルドネスが私達にフード付の大きな黒いポンチョを手渡した。

 これから街が荒れに荒れる為、従業員の皆を守るために待機しなければならないので彼女は残念ながら見送りだ。

 

「ありがとう、ルドネス」

「うん」

 

 ポンチョを受け取った私と霧はそれを着込み、フードを被り前を締める。

 傍から見れば黒いてるてる坊主のように見えただろう。

 正体を隠すのには丁度いい。私達がこれからやる事は、テロの誹りを受けて当然の行いだからだ。

 

「準備はよいか。ヤマブキ、そしてキリ」

「……問題ありません」

「うん」

 

 最後の確認を終え、身体の大きいボスユニコーンに飛び乗る。

 同じく霧もユニコーンに飛び乗ると、乗られたユニコーンが二匹揃って小さく嘶いた。

 

「あぁ、処女の熱が―――」

「そういうの後でやってくれませんかね」

「……気持ち悪い」

「いだあだだだだ痛い痛い抓らないでくれその抓り方はいかん皮膚が裂ける!」

「長はまだマシであろう我なぞ既に斬られているのだぞ!? この娘ときたらまるで躊躇しない!!」

「処女に痛めつけて貰えるなどとなんとうらやまけしか―――すまぬ。ちょっとその斬られ方は擁護できぬ。初手で殺しに来ておる」

「死ぬなよ……同胞よ」

 

 せっかく気を引き締めて行こうと思っているのに締まらない奴らである。

 私はため息一つくらいで済んでいるが、初見の霧は生理的嫌悪感からかユニコーンの首を切断しにかかっていた。

 別に一匹くらい殺しても仕方ないとは思うが、今戦力を失うのは痛い。

 霧の行動に釘を刺す意味を込めて、首を斬られているユニコーンにポーションを投げつけてやる。

 

「おお……九死に一生を得たり。感謝するぞ、ヤマブキよ」

「……ちっ」

 

 こちらをちらりと一瞥した霧は舌打ちを一つしてそっぽを向いてしまった。

 どうやら拗ねてしまった様子。少しフォローをしておこう。

 

「ごめんね霧。後でならこいつらはいくらでも殺してくれてかまわないから……」

「……わかった。いっぱい殺すね」

「背の上でさらりとむごい事を言わないで欲しい我らが妻よ」

「この戯言もスルーでかまいませんからね」

「うん。今夜は、桜鍋だね」

 

 「サクラナベ? はて?」と疑問符を浮かべるユニコーン達。

 やはりと言えばやはりなのだが、日本人なら理解できる"桜鍋"の意味はこいつらには不明のようだ。

 意味が分からないならばそれでいい。理解できた頃には美味しく頂かれている。

 

「ヤマブキ。サクラナベとは一体どのような」

「―――さて、それでは現時刻を持って作戦を開始します。霧、あとお前達。……よろしくお願いします」

 

 ボスユニコーンの質問をあえて無視しつつ、既にウェポンスタッカーから取り出しておいた"アブソリュート・クロスボウ"の矢に導火線付きの"ニトロ・ポット"を装着し、更に霧から譲り受けた"ノイジー・スフィア"―――野球ボールサイズの透明な球だ―――が無数に連結された物を紐で縛り付けて装着する。

 

「うん」

「無視されると寂しいのだがな」

 

 私は導火線に火をつけ、クロスボウの狙いを天空に定めた。

 ルドネスと霧が両手で耳を塞ぎ、ユニコーン達は器用にも耳をパタンと閉じて塞ぐ。

 

「……王都の皆さん。名も知らないどなたか。王族貴族の方々。日々より良い安眠を求める者として、ここに謝罪します。許されざる蛮行ですが、どうか許されたく……」

 

 念仏のように謝罪の言葉を綴る。

 

「もうとにかく本当にごめんなさい。……南無三! 《ポーション・ストライク》!」

 

 そして頃合を見計らい、引き金を引いて、撃って、即座に両手で耳を塞いだ。

 見上げた空。晴天でぽかぽか陽気の暖かい、春の昼下がり。食後の昼寝には丁度良いロケーション。

 放たれた矢が猛スピードで空に向かって飛んでいくが、それに気づく者は誰一人として居ない。

 "ニトロ・ポット"の導火線が燃え尽きて、内部の液体と反応し爆発を起こすのと、矢がクロスボウの最大射程距離に達するのはまったく同時だった。

 

「――――――っぐぅぅぅっ!」

 

 その衝撃を例えるのなら、どう言い表せばいいのだろう。

 耳元で「わああーっ!」と大声で叫ばれた時?

 イヤホンで音楽を楽しんでいる時に、間違えて音量を最大にしてしまった時?

 それともインターネットの怪しげな動画を再生したら、鼓膜を破壊するレベルの爆音をPCから流された時?

 ……いやぁ。全部温いかな。これと比べたら。

 きっと昼寝をしていた人にとっては寝耳に水どころの騒ぎじゃないだろう。本当に申し訳ない。

 

「こっ、れは、ひどい」

「酷いなんて、ものじゃありませんわ、下手をすれば失神しますわよ!」

 

 すぐ近くに居る筈の二人の声が遠い。頭がくらくらする。

 股下のユニコーンも流石にこれはきついのか、足をふらつかせていた。

 

 ―――これが第一の作戦。

 強い衝撃を加えると大音量を発し、周囲の敵にスタン判定を与えるアイテム"ノイジー・スフィア"。

 職業柄、霧が多く保有していたこれを限界まで連結させ王都の天空に放ち爆破させる事で、王都全域を覆う音波攻撃を仕掛けたのだ。

 この攻撃の目的は王都の機能停止と住民の混乱を招く事にあった。街が騒げば騒ぐほど、私達は動きやすくなる。

 

「ぬぐぅ……。流石に堪える。されど我ら意気高揚! 行けるぞ、ヤマブキよ!」

 

 音源に近い為相当きついだろうに勇ましく嘶くユニコーン達がちょっぴり頼もしい。……いや本当にちょっぴりだけだ、全然感心なんてしていないぞ。

 ともあれこの作戦は全体的にスピードを要求される電撃作戦の為、ユニコーン達の状態は素直に好ましい。

 

「結構、です。―――さぁ、奔れっ!」

「応!」

 

 ボスユニコーンの首筋をパシンと叩く。それを機に四匹が各々飛び上がり、街の東西南北に向けて駆け出していく。

 手綱も鞍も無く安定性は非常に欠けるが、高いステータスを有する私と霧にはそんなもの必要ない。

 

「霧! わかってますよね!? 私との契約は遵守するように!」

 

 反対側に遠ざかっていく霧に向けて大声で叫ぶ。

 彼女は分かっているのかいないのか、つや消しした黒塗りのダガーをぷらぷらと振って王都の中に消えていった。

 その背姿に一抹の不安を覚えるが致し方ない。もう賽は投げられたのだ。

 

「地図で確認した通りのポイントに! 最短で!」

「無論だ!」

 

 塀を飛び越え、家々を飛び越え、王都の街並みを縦横無尽にユニコーンが駆けて行く。

 伊達にボスモンスターをしていないだけあってか、その足並みに最早乱れは無かった。

 力強く大地を踏みしめて進むユニコーンを邪魔する者は誰一人として居ない。

 街の通りは音波攻撃でスタンし倒れた住民が殆どで、稀に立ち上がっていても茫然自失としておりまるで障害にはならない。

 レベルの低い一般市民ではこれが当然の反応だろう。

 ―――しからば、そうでない住民が居たとすれば。

 

「……! 早速ですか!」

 

 私の《ホスティリティ・センス》に反応があった。最早監視などと温い事をしていられる状況じゃないと判断したのだろう。

 進行方向に、目玉の意匠をした仮面を被った『教団』の構成員が数人立ちふさがっていた。

 

「奴だ! 止めろ!」

 

 奴らの手には弓とクロスボウが握られている。装着された矢の先端に付着した液体は察するまでもなく、"最期のくちづけ"という凶悪な高等暗殺毒だ!

 

「回避に専念して下さい! 流石にアレを食らったらゴキブリ並みにしつこいあなたでも死にかねませんよ!」

「自然に辛らつな言われようで涙が出そうだぞヤマブキよ! しかし! これしきの事、避ける程のものでなし!」

 

 回避をしろと言ったのに止める間も無くユニコーンが敵のど真ん中に突っ込んでいく。

 

「ちょっと!? まずっ……!」

 

 慌ててスキル《バラージ・アロー》で敵の数を減らそうとする、よりも早くユニコーンがスキルを発動させた。

 

「《アンブレイカブル・フォース》!」

 

 清浄な気配漂う、六面体で構成された透明のバリアのような領域が私達を包み込む。

 知らないスキルだ。少なくとも、あの森でユニコーンらと殺しあった時はこんなスキルは使ってこなかった筈だ。

 

「散れぃ! 下賎なる人の子らよ! 貴様らごときに我が処女道は遮れぬものと知れ!」

 

 そう叫ぶユニコーンめがけ矢が飛んでくるが、バリアが全て弾き返してしまう。

 それを見た敵が慌てて矢の再装填を試みるが、もう遅い。

 

「効かん効かん効かん! ヤマブキの責めの方が、よほど歯ごたえがあるぞ!」

「まずい、避けっ……があっ!」

 

 ボーリングのピンを吹き飛ばすかのように、『教団』の構成員をユニコーンが吹き飛ばしていく。

 障害を弾き飛ばしたユニコーンは気前よく街中を疾走する。身体には、敵のささやかな妨害をせせら笑うように傷一つ無い。

 

「……おお」

 

 そんな快進撃に思わずあっけに取られた私は―――ひとまず話を聞かなかった駄馬への抗議もかねて首の辺りを抓りながら話しかける。

 

「ちょっと。今の何です。こんなスキルがあるなんて初耳なんですが?」

「痛っ、痛い、痛いが先ほどと比べ少し優しい痛みに"でれ"とやらを感じるぞ、ヤマブキよ。ふふふ、とうとうそなたも我らの事を夫と認め―――痛痛痛たたたた痛い!」

「ちょっと。今の何です。こんなスキルがあるなんて初耳なんですが?」

 

 三度目の質問はない。

 こめかみにクロスボウを突きつけてやると、ユニコーンは大人しく答えてくれた。

 

「い、今のはだな。我の所有スキルの一つで、三十秒の間外界からのいかなる攻撃をも無効化する能力を有しているのだ」

「……はっ、はぁぁぁぁぁっ!?」

 

 答えてくれたのだが、その答えに思わず耳を疑う。

 三十秒間外からの攻撃を無効って、それは実質無敵じゃないか! そんなチートスキルの存在が許されてなるものか!

 だいたい、無敵とは本来多大な代償を支払った上で得られる最上級の抵抗能力であって、何の準備も無くおいそれと発動できるものではないと言うのに!

 

「い、今のどう見ても即時発動じゃないですか! 代償は何を支払ったんですか!?」

 

 代償となる物は無敵を得るスキルによりけりだ。

 セラフが持つスキル《コール・アヴァター》なんかが分かりやすい。

 一時的に神をその身に降ろし二十秒間無敵と超大幅なステータス上昇を得るそのスキルは、発動する為にMP最大値の七割減を代償として要求する。

 例えばMP最大値が一万あれば、スキル発動後にはMP最大値が三千になってしまうわけだ。

 あくまで要求されるのはMP最大値の七割減であるため、無敵スキルの中では発動が容易な部類ではあるが、効果が切れた後は全ステータスが低下しMPがしばらくの間自動回復しなくなる大きなデメリットも有している。

 更に再使用時間(クールタイム)も五時間あり、連発は出来ない。

 このように本来なら重たい代償を支払ってこそ、無敵を得られるのだが。

 

「……代償? 奇妙な事を申すなヤマブキよ、何故スキルを発動する為に代償が必要になるのだ?」

 

 こいつらには常識という言葉が通用しないらしい。

 

「っ……再使用時間(クールタイム)は?」

「再使用時間? ふむ。まぁ力をある程度使うから、連続使用は避けた方がよいのだろうが、その気になれば連発可能であるとも」

「―――」

 

 とうとう言葉を失う。

 背筋に冷たいものが流れた。

 つまり私はあの森の中の戦いで、《アンブレイカブル・フォース》を連発されていたら確実に負けていた。

 だと言うのに、私はユニコーン達と引き分けになった。否、状況から鑑みるに最早引き分けにさせられた(・・・・・)と言い換えた方が正しいだろう。

 こいつは。こいつらはもしかしたら。本当は私達(・・)なんかよりももっともっと、遥か上位のモンスターだったのでは―――。

 

「……まさか、私との戦いでは手を抜いていたとでも、言うんですか?」

 

 知らず知らずのうち、震えそうになる声を抑えて問いかける。

 

「……先ほどから少し変だぞ、ヤマブキよ。ラミー(うじ)を気遣うあまり神経質になるのは理解しているが、今はそなたが作戦の要なのだぞ。腹に力を入れ、胆力を高めるのだ」

 

 露骨にはぐらかされた返答。しかし、そこには真摯に他者を気遣う思いやりの心もあった。

 《ホスティリティ・センス》にも反応はない。

 ……いったい、このユニコーン達は何者なんだろう。

 果たして、ただのモンスターのくくりで済ませていい存在なのだろうか。

 

「……名前を。名前を、聞いていませんでしたね。今の今まで」

「おお。言われてみればそうであったな!」

「もし、あるのでしたら、教えて頂けますか」

「うむ。で、あらば我が誇り高き名をしかと聞きその身に刻むが良い! 我が名はシュフト! 輝ける聖獣ユニコーンである!」

 

 ボスユニコーン―――シュフトは高らかに我が名を叫ぶと、より増したスピードで王都を疾走していった。

 

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