円卓の少女達   作:山梨明石

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 イルドロン。法国を粉砕しようとし、私の暗殺、そしてラミーの誘拐を企てた『教団』の親玉。

 それが、この少女なのか。彼女は口調といい態度といい、かつて見た、『ヴォーパル(首狩り)』の案内人として見せた"みーちゃん"らしい面影は少しも無い。

 まるでまったくの別人だ。

 

「みーちゃん、さん……? さっきから、何を言って……」

 

 ラミーが呆然としてみーちゃん……いや、イルドロンを見やる。

 

「…………ラミー、にげ、て」

 

 私が発言できたのは、辛うじてその程度だった。

 プレイヤーとして高いステータスを持つ私は、腹部にナイフを刺された程度では行動不能にならない。

 しかし、現に私は身動き一つすら取れないでいる。不自然に力が抜け、意思の力でさえ乏しい。

 おまけに魔力も枯渇しているようだった。無詠唱の魔法すら唱えられない。

 

 勘でしかないが、恐らく原因は腹部に突き立つ短剣。

 何がしかのバッドステータス付与か、ドレイン効果か。短剣には相手に負の効果を与える武器が多い。この短剣もその性能を有した一つなのだろう。

 ……だとしても、これは効果を盛りすぎだ(・・・・・・・・)

 最上級のアイテム等級であるレジェンド等級の武器だって、せいぜい追加効果は二つ三つが限度の筈。

 だが腹部に突き立つ短剣は、その限度を軽く飛び越えて最低七つは私にバッドステータス、デバフの類を付与しているようだった。

 

「……哀れな女よ。せめてもの慈悲に、苦痛無き死を与えてやろう」

 

 イルドロンの手には新たな短剣が握られている。

 何の変哲もない、ただの鉄製の短剣だ。だが、人一人殺すにはそれで十分の刃物だ。

 ラミーの視線が、その短剣の鈍い輝きに吸い寄せられる。

 彼女は恐怖に震えていた。

 

「嫌……師匠……」

「や、め……ろ……ラミー、に……手を……出す……な!」

 

 末端から神経が壊死していそうな身体に喝を入れる。必死になって手を動かして、服の左腕の部分に縫い付けたポーションのパッチ―――ウェポンスタッカー―――に触れようとする。

 のろのろとした動きは亀より遅い。たった数センチ動かすだけで、私の寿命が年単位で削れて行くようだ。

 HPが恐ろしい速さで減少しているのを感じる。死の淵へと全力で駆け込んでいる。

 でも、それがどうしたっていうんだ。

 ラミーの為を思えば、死ぬ事なんて、怖くない。

 

「フン……ッ!」

 

 そんな私の決意を嘲笑うかのように、イルドロンが私の腕を踏み折った。

 

「がっ……かはっ……!」

 

 吐血交じりの苦痛の喘ぎが漏れる。もう右腕はひしゃげてしまって、役に立ちそうにもない。

 

「師匠っ!! ……あぐっ」

 

 イルドロンが空いた片腕一本でラミーの首を掴む。

 そして、少女らしい外見に似合わない筋力を発揮し、そのまま宙に持ち上げた。

 

「いやっ……はなし、てっ……!」

 

 ラミーは必死に抵抗しているが、イルドロンは顔面を殴られても、身体を蹴飛ばされてもびくともしない。

 

「……どうだ? 好いた女を目の前で殺される気分というのは。絶望的か? 自らの無力さを嘆いているのか? それとも、ただひたすらに悲しいのか?」

「やめ、ろ」

 

 短剣の切っ先が、ラミーの胸にあてがわれる。

 

「ししょう……うぐ……」

 

 気道を遮られたラミーは、次第に静かになっていく。

 

「あるいはその全てか。……どうでも良い事だな。山吹、"ぷれいやー"たるお前がどう感じた所で、結局は無意味だ。お前もこの女と同様に死に、滅び、無に帰すのだから」

「やめろ…………おねがい、だから、やめて」

 

 嫌だ。

 頼むから、止めてくれ。

 彼女は私の、大事な。

 大好きな女の子なんだ。

 

「やめてえええええええええぇぇぇぇぇぇッッ!!」

 

 心からの慟哭。

 この世に神が居るのなら。どうか私を救って欲しい。

 ……そんな私の切なる祈りが簡単に届くなら、世の中そう簡単に上手くいくものじゃない。

 ラミーは。無慈悲に、死ぬ。それが現実だ。

 

「―――さぁ。死を受け入れろ」

 

 イルドロンの手に、力が込められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなみらいは、のーせんきゅー。DEATH(デス)

「何ッ!? ―――ガハァッ!?」

 

 ラミーが死ぬ。

 そんな現実はクソ食らえとばかりに、イルドロンの背後に漆黒の影が現れた。

 吐血したイルドロンの胸元からはまるで生えるようにして、黒塗りのつや消しされたダガーが二本飛び出していた。

 

「《致命の一撃》……からの。《デッドリー・ポイズン》」

 

 二本のダガーから毒々しい色合いをした液体が滲み出て、イルドロンの体内に染み込んでいく。

 

「があああっ!! お、のれ……何者だっ……!! 貴様、一体何を、した……!」

「あうっ!」

 

 ラミーを手放し、とっさに飛び退いたイルドロンの顔色は悪い。

 あれは恐らく、高位の"アンチ・ドート"ですら解除の出来ない高ランクの猛毒だ。私が知る限りそんな猛毒を取り扱える人物は一人しか居ない。

 

「暗殺、だよ。……あっ、でも、殺してない、ね」

 

 漆黒の影は渦巻くように霧散していき、影の中に隠れていた人物を浮き彫りにしていく。

 

「おま、たせ。ヒーロー……ヒロイン? は、遅れて、参上するもの、らしいね」

 

 そこに居たのは、ショートの金髪で、ルビーに輝く瞳を持つ、全身黒尽くめの少女。

 御剣とは別ベクトルで色々と危険すぎる彼女が。

 円卓No06.イレイサーの霧が居た。

 

「……おそ、すぎだよ。きりの、ばか」

 

 目の前の光景が信じられなくて、笑みと共に涙がこぼれた。

 

「むぅ。助けにきた、のに。酷い」

 

 霧が頬を膨らませて抗議する。

 ごめん、霧。でも私、今本当に嬉しいんだ。身体が無事に動くなら、霧のことを抱きしめてあげたいくらいに。

 

「しっ、師匠! 師匠!」

「……うん……だい、じょうぶ……だから……」

 

 イルドロンの手から開放されたラミーが私に取りすがる。

 首には赤い手形が残っていた。きっとまだ苦しいだろうに、私を気遣ってくれる彼女が愛おしい。

 

「はぁ……はぁ……そうか、貴様も"ぷれいやー"か……? つくづく、邪魔をしてくれるな……」

 

 息の荒いイルドロンが、背に手を回して突き刺さったダガーを抜こうとする。

 霧はその隙を見逃さず、すぐさま太ももの外側―――ウェポンスタッカー―――に手を這わせて新たなダガーを二本取り出し、逆手に持ってイルドロンに切りかかった。

 

「うん。じゃ、死のっか。《キリング・ダンス》」

「かぁッ!! 舐めるなッ《ブランディッシュ》!!」

 

 霧は舞うようにダガーで斬りかかり、イルドロンを攻める。

 対するイルドロンは一本の短剣を凄まじい速度で振り回し、霧の攻撃を弾き飛ばしていく。

 その攻防は高ステータス者特有の、非人間じみた高速機動によるものだ。その証拠にダガーと短剣が触れ合った衝撃音は殆ど連続して聞こえている。

 擬音にして現せばぎぎぎがががぎごがぎがぎん。と言ったところか。

 私はまだ彼女達の動きを目で追えているが、きっとラミーには地下室に黒い双線と銀線が交わり火花を散らす、そんなある種幻想的な光景が目に映っていただろう。

 

「すごいね。猛毒を喰らっても、これだけ渡り合える、なんて。もしかして、あなたも、プレイヤー?」

「―――ッ貴様ら如き汚物と一緒にするなッ!!」

「おっと」

 

 激昂したイルドロンが放つ顔面を狙う直突きを、霧は上体を反らして回避する。その勢いのまま宙返りし、空中でダガーを幾つも放つ。

 イルドロンはその全てを短剣で弾き飛ばして見せた。

 

「……ふーん」

「……っ」

 

 距離が開き互いに様子見となったのか、暫しの間が空く。

 胸から二本のダガーを生やしたままのイルドロンは、鬼のような形相で私達を睨みつけてくる。

 

「ひっ……」

 

 怯えたラミーが私の身体を抱き寄せた。少し腹の短剣が痛むが、ラミーの身体の柔らかさでチャラだ。

 

「どうするの? このまま続けてもいいけど、多分、勝てないよ?」

 

 一瞬の攻防で力量差は判別できたのだろう。霧の言葉には絶対の自信があった。

 対するイルドロンは苦々しげに霧を睨みつけ、ややあって口を開く。

 

「……なるほど。この身体(・・)では不利という事だな。理解したぞ」

 

 吐き捨てるようなその言葉。まるで、自分には本来の身体があるようなその言い方に疑問を覚える間も無く、イルドロンが短剣を自らの喉元にあてがった。

 

「よかろう、此度は引いてやる。……命拾いしたな、エミルの奴隷達。次は無いと思え」

 

 そして、捨て台詞と共に迷い無く短剣を突き立てた。

 

「ごぼっ……がぼぼぼっ…っぼぼぉ、がぶっ……」

 

 鮮血が溢れ、首からぶぴぶぴと血の泡を吹き出したイルドロンが、口から大量の血を吐き出しながら踊り狂う。

 そしてさしたる間も無く倒れ伏して、動かなくなった。

 

「……自殺? 意味、わかんない、んだけど?」

 

 霧が白けた様子でそう言った。

 そして「つまんない」とだけ呟いて、部屋に落ちたダガーを拾い集め始めた。

 私も、イルドロンの行動の意味がさっぱり掴めない。

 だが、あの「この身体では不利」という言葉、それは聞き逃していい言葉じゃない。

 恐らくだが……あまり考えたくない事だが、今死亡したイルドロン以外にも、イルドロンの意思を持つ人間が居るのでは―――。

 

「―――がふっ」

「きゃあああああっっ!? 何してるんですかああああああっ!?」

 

 無意識に咳き込む。よくよく見れば、霧が私の腹からイルドロンの短剣を無造作に引き抜いている所だった。

 いや本当一体何してくれてんの霧さん。せっかく止まってた血がどんどんあふれ出してるんですけど。

 

「血、血が、止まらなっ!」

 

 ラミーも顔を真っ青にしているし。

 

「……ね、山吹。欲しい(・・・)な」

 

 そんな中でも平常運転の霧は傷口から覗く、血溜まりの奥底の××を見つめながら言った。

 ……霧のあまりのブレ無さっぷりにある意味で安心すらするが、流石にちょっとこの状況でそれは洒落にならないので勘弁して欲しい。

 大体深々と短剣がぶっささってたんだからそれは傷モノだろうに。

 

「駄目?」

「……だめ」

「ちぇっ……。はい、"マキシム・ヒールポーション"」

 

 意外と諦めの早かった霧が何処からとも無くポーションを取り出し、その中身を私の腹にぶちまけた。

 すると、見る見るうちに傷口が塞がっていき、失われた血液さえ急速に生産補充されていく。ついでに右腕の骨折も治癒したようだ。

 バッドステータスとデバフは解除されていない為まだ身体が満足に動かせないが、それでも大分楽になった。

 

「……ありがと。九死に一生ってとこかな」

「どういたし、まして」

 

 身体をゆっくりと起こして腹に手を当ててみるが、大事なさそうである。右腕の調子もよさそうだ。

 そんな私を見ていたラミーは、目を点にしてぽかんとした様子だった。

 

「えっ、えっ、うそっ、あんなに深い傷だったのに……師匠、ほ、本当に大丈夫なんですか!?」

「うん、もう平気。すっかり直ったよ、だから大丈夫」

「で、でも、"マキシム・ヒールポーション"だなんて、そんなポーションの名前聞いた事無いのに……」

「あー……」

 

 そういえばラミーにはマキシム系ポーションの話はしていなかった。

 この世界で通常知られるポーションの最高等級はエクス系だが、私達の間ではそれはマキシム系である。

 ラミーにそれを知らせていなかったのは、単に知る必要の無い知識だったからだ。

 むしろ知ってしまえば、不要なトラブルを招きかねない。だから教えていなかったのだが……。

 

「……えーと、秘密?」

 

 苦笑いでそう言うと、ラミーは大粒の涙を流しながら私に抱きついてきた。

 

「―――秘密でもなんでもいいです。師匠が死なずに、生きている。それだけで、十分です」

 

 そしてぽかぽかと私を叩く。

 

「ばか、ししょうのばか。だいたい、この人、だれですか。すっごく怖いんですけど、えぐっ、ひぐっ」

「あはは……ごめん。ラミー」

「うーん、モテる女は、つらいね、ひゅーひゅー」

 

 霧が無表情で下手な口笛を吹く。

 

「ほんとに、ほんとに生きててよかったっ」

「うん……そうだね。生きてるって、いいことだ」

 

 ラミーを抱きしめて子供をあやす様に背中を撫でてやると、彼女は声を押し殺すようにして泣き始める。

 

「ぐすっ……ぐすっ……」

「よしよし……」

「……じゃ、あと三分したら、上にきてね」

 

 霧が空気を読んだのか、それだけ言って地下室から出て行く。

 本当は言葉にしないで欲しかったのだが、霧にしては上出来だろう。

 

「帰ろう。ラミー」

「……はい」

 

 後は交わす言葉も無い。

 私達はそれからきっかり三分経過するまで、地下室でお互いの無事を喜び合った。

 

 

 

 

 

 

 

 ひとまずイルドロンこと"みーちゃん"の死体はその場に捨て置く。

 調べたい事は山ほどあったが、今はそうしている時間が無い。

 地下室を出ると、そこにはシュフトを含めたユニコーン四匹が勢ぞろいしていた。霧の姿は無い。仕事は済んだという事で、どこかに消えてしまったのだろうか。

 

「シュフト、霧はどこへ?」

「かの黒き処女か。彼女は何処へなりとも消えてしまった。……それにしても遅かったではないか、ヤマブキよ」

「う、馬がしゃべったっ!?」

「馬ではない、ユニコーンだ。聖獣だぞ、我らが妻の妻にして野花の如き素朴な美しさの処女よ」

「…………」

 

 初見のラミーが驚くのも最早テンプレだが、開口一番またも失礼千万な口を利くユニコーンズに怒りを覚えるも、ふと思い至る事があった。

 

「ちょっと、シュフト。なんでさっきは助けに来なかったんですか。あなた一番すぐ近くに居た筈でしょうに」

「助けに? はて、どういう事だ? 助勢を求めるような事態に陥っていたのか?」

「そうですよ! 霧の助けが無ければ今頃死んでたんですからね!?」

「……待て、かの漆黒の処女をここに連れてきたのは確かに我が同胞だが、我らはおろか彼女ですらも、そなたがそのような危機に晒されていたとは知らなかったのだぞ?」

 

 ……まて、それは一体どういうことだ。

 ユニコーン達は"原初の幼角"というアイテムで、私の私生活を覗き見ていた旨の発言をしていた筈なのだが。

 

「ぬ? ……ぬぬ? ……おおおおっ!? な、なんという事だ!!」

 

 と、突然急にシュフトが興奮しだす。

 

「どうされた長殿!?」

「み、見よ! ヤマブキに託した筈の"原初の幼角"が無い!」

「何たる事だ! 我らがとうちょう―――婚姻の証たるアレが無いなどと!」

 

 思わず私の服を見下ろす。すると胸の辺りにひっ付いていた"原初の幼角"がいつの間にか消えてなくなっていた。

 ハサミで布ごと切り取ろうにも不思議な力場のせいで取れなかった"原初の幼角"だ、何かの拍子にぽろり、という可能性は無いだろう。

 考え付くのは、あの時。イルドロンが私を刺した時だ。

 あの時にイルドロンが発した何らかの妨害魔法かスキルか何かによって、"原初の幼角"が破壊、あるいは消滅でもさせられたのだろう。

 

「肝心な時に役に立たない……。つーか盗聴って言いましたねオイ。聞こえましたよ聞いてましたよ去勢しますか?」

「ああいやあれは物の弾みで―――ノー! やめ、取れる! ノー! オーッ、オオーッ!!」

「止めてくれヤマブキ! せめて無痛処置機の適用を望む! そのやり方はあまりに惨い! 動物虐待である!」

「し、師匠? あの、目が怖いですよ? ししょう?」

「うん? 大丈夫だよラミー? ただ人のプライバシーの何たるかをまるで理解していない駄馬に、教育をしてあげてるだけだから。あっ、調教かな?」

 

 泡を吹き始めたシュフトを尻目にニコニコ笑顔でラミーに微笑む。

 目が笑っていなかったとしてもこれは仕方の無い事なのである。

 

「―――で、街の方はどうなってます?」

 

 暫しの調教の後、シュフトはぜいぜいと息を荒げながら答えた。

 

「お、大方、作戦の通りだ。ゴーレムは適度に暴れた後、適度に敗北し、適度に『教団』とやらの情報をばら撒いた」

「結構です。では帰りましょう、もう王都に用はありませんから」

 

 どうやら作戦は上手く行ったようだ。さんざん街を破壊して回った『教団』のゴーレムに対する住民のヘイトはかなり高まったと思われる。これなら後日、王都の世論は反『教団』に向けて動いていくだろう。

 私はシュフトに颯爽と飛び乗り、ラミーに手を差し伸べた。

 

「さあラミー、乗って?」

「え? 乗るんですか? ……お、お邪魔します」

「それと一応、これも被って」

 

 ラミーに黒いフード付のポンチョを手渡して着させる。帰り道で彼女も顔を見られてしまうわけにはいかないからだ。

 

「……恐悦至極。一度に二人の処女を乗せる日が来ようとはな」

「長殿ばかりずるいぞ!」

「そうだ! 我らにも後で騎乗するよう要求する!」

 

 興奮するユニコーン達の前にクロスボウの矢を一本放つ。

 これ以上ラミーの前で変態発言をすれば去勢するという無言のメッセージだ。

 足元が氷結し危機感を覚えたユニコーン達は悲しく嘶いて大人しくなる。

 

「―――さあ、帰りますよ」

「うむ」

「了解した」

 

 シュフトの嘶きと共に、ユニコーン達が足並みを揃えて駆け出した。

 

「きゃっ! は、早いっ!」

「ラミー、腰に手を回して!」

「は、はいっ!」

 

 力強く抱きしめてきたラミーの腕に空いた手を這わせる。

 

「さぁ退け退け人の子らよ! 我らが妻の花道であるぞ!」

 

 シュフト達が王都の人々を避けながら疾走していく最中、私は思った。

 イルドロン。

 奴とは必ず、決着をつけねばならない。

 ラミーの為にも。私の為にも。そして、円卓の皆の為にも。

 やる事、調べる事は山積みだろう。だが、それよりも先にやるべき事が一つだけある。

 

「ラミー」

「は、はいっ!」

「家に帰ったら、ラミーに伝えたい事があるんだ」

「伝えたい、事ですか?」

「うん。とても、とっても大事な事を、ね―――」

 

 きちんと伝えられるかどうか自身はないが、それでもきっと私は伝えるだろう。

 自分自身に嘘をついてまで隠していた、大事な気持ちを。

 

 

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