円卓の少女達   作:山梨明石

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コーヒーショップ・ウォー1

 ペン先が紙面を走る小気味良い音と、オセロの駒がひっくり返る軽い音。それ以外はさしたる物音も立たない、まったりとした雰囲気の円卓。

 コーヒー、紅茶、緑茶の香りが混ざり合うその空間。

 後はもう流れるままに解散しベッドで横になる頃合か、というタイミングで場の空気をぶった切るように帳簿を円卓に叩き付けた少女が居た。

 皆がのっそりとその人物に目をやる。

 

「……駄目。駄目駄目駄目駄目駄目! やっぱり、駄目っ! ぜんっぜん上手くいくビジョンが浮かばれへん!」

 

 その人物とは、えちごやみるくだった。

 頭を振り回し喚く彼女に普段の飄々とした余裕は無い。

 

「どうしたんですか、えちごやさん」

 

 そんなえちごやに、実に面倒臭そうに山吹が声をかけた。

 口を開かないものの、他の面子も山吹と似たような表情である。

 その理由は至極簡単で。

 

「どうしたもこうしたもあるかい―――おほん、ありますか! 新しく始めた喫茶店の売れ行きが、事もあろうに赤字続き! オーナーとして見過ごせない事態なんです!」

 

 バン。と円卓を叩いたえちごやが叫ぶ。

 ―――つまり、金絡みの案件である事が殆どだったからだ。

 この時のえちごやに関わると大抵碌な目に遭わないので、殆ど誰も同情していないのである。

 

「はぁ、また金策が上手く行っていないと、そういうわけですか」

「そうです! 新規開拓の為に投じた投資金額は……ゴニョゴニョ……ぐらいかかっているのに、現在の売り上げ状況から計算するに十年掛かっても投資額を取り戻す事はおろか、店を早期に畳んだほうが被害が少ないかもという結論さえ出ている始末でして!」

「そうか、それは残念だな。博打が外れたと思って早々に諦めるがいい、えちごやよ」

 

 御剣が淡々と言った。山吹を除く他の面子は最早興味も失せてしまったのか、各自やりたい事をやりに戻っている。

 

「ぬむむむむ……! 人がこんな危機的状況下にあるにも関わらず、なんて塩対応っぷりですか! 私泣いちゃいますよ!? いいんですか!? 大の大人がわき目も振らずわんわんと泣いちゃいますよ!?」

 

 皆の薄情っぷりに苦言を呈すえちごやだが、このようなやり取りはもう幾度繰り返したか分からないぐらいなので誰も真面目に取り合おうとはしない。

 

「はぁ、さいですか。それよりえちごやさん、またポーションの材料を卸しに来て頂けませんか。ヒールとスタミナ用のが少し心許ないのでそれらを多めに持ってきて欲しいです」

「おっと了解です。えーとミドナの葉を百束と、錬金油を三壷ほど追加しておきますね―――じゃなくてっ! 普通にさらっと流さないで下さいよぅ山吹さん! 助けてくださいプリーズヘルプミー!」

「えぇ……。嫌ですよ……。それに私達が何かせずとも、最終的にはなんとかなる(・・・・・・)んですからいいじゃないですか……」

 

 嫌そうな顔をする山吹にえちごやを除く皆が心中で同意する。

 初めの頃は親切心から真面目にえちごやに救いの手を差し伸べていたものだが、その回数も度を越えると流石に自分でなんとかしろという気持ちになってくる。

 一人、また一人とえちごやを助ける人数が減り、やがて最終的に誰も手を貸さなくなったが、その時にえちごやがえちごやたる由縁となったとある事件が発生した。

 それは後に"LUK()極振り実は最強説"を御剣にすら提唱させた、実に度し難いインチキも大概にしろと叫びたくなるような事件だったのだが、ここでは割愛させて頂く。

 

「うぅ~~~」

「潤んだ目で見つめられても駄目です」

「御剣さん~~」

「断る、他をあたれ」

「タタコさん~~」

「嫌だね。俺はまだあの時の恨みを忘れたわけじゃねえんだぞ」

「か、会長~~」

「天にましますエミル神に誓ってお断り致します。どうか神の試練と思い、精進なさって下さいませ」

「……ルドネスさん~」

「残念ですが、明日はマジシャンギルドの代表と会食の予定がありますので」

「…………むぅー、皆さん酷いですよ。こんないたいけな少女が悩み苦しんでいるとゆーのに、誰も手を差し伸べようとしない。私泣いちゃいますよぅ、くすん」

 

 泣き真似を始めたえちごやに、霧が突っ込みを入れる。

 

「…………私は、スルー?」

「だって霧さんはすぐ殺人で解決しようとするじゃないですか。えちごやグループに黒い噂が立ったら困りますし」

「……あっ、そ」

「…………」

 

 そして場が沈黙した。

 

「さて……四十対二十四で私の勝ちですわね」

「あら、まぁ……。―――ルドネス、オセロ強いんだな。俺も基本は抑えてるつもりだったんだけどなぁ」

「角を押さえるのは定石ですが、盤面によってはあえて角を取らないほうが有利となる場合もありますから。セラフ様は積極的に角を狙いに行ってしまったが為に、その実手損を繰り返してしまい、最終的には不利となってしまったのですわ」

「はー……成る程なぁ、思ったより奥が深いんだな、オセロって。また来週暇だったらやろうぜ、ルドネス。次はリベンジだ!」

「えぇ! セラフ様がよろしければ! 是非!」

 

 あらあらうふふと微笑みあうルドネスにセラフ。二人の様子に丁度良い頃合だと判断したのか、御剣が拍手を打つ。

 

「さぁもう良い時間だ、仕舞いにするか」

「そうだね。皆お休み、また来週ね」

「そっ、そんなぁっ! 助けてくれないんですかぁっ!?」

 

 泡を食ったえちごやを捨て置き、「お疲れー」と皆がぞろぞろと席を立って円卓の魔法陣に向かい始める。

 これにて本日もつつがなく終了……する筈だったのだが。

 

「ええぃこうなったら―――こほん。そう言えば、最近半犬人(ハーフドッグ)向けの郷土料理を出す高級レストランが王都に出来たらしいんですけど、偶然そこの優待ペアチケットを手に入れちゃったんですよねー。王都の夜景が一望できる素敵なデートスポットらしいですけど、私には使う予定が無いんですよねぇ、残念な事に」

 

 ぴくり。と山吹の歩みが止まる。

 

「あと、ジャポから来た商人さんが珍しい刀を持ち込んだそうで、なんでも刀身が常に水で滴っているらしく、その美しさから芸術品の類として購入してはどうかと話を持ちかけられているのですが、私には刀なんて扱えないし刀剣好きのお客さんも少ないから返答を保留しているんですよねぇ。ですから早くしないと他に買い手が付いちゃうかもしれません、悲しい事に」

 

 ぴくり。と御剣の歩みが止まる。

 

「そうそう。こんな話もありました。なんでも"どれだけ熱しても溶けない"不気味な鉱石が発見されたそうで、その鉱石は王都の研究機関に回されましたが予算不足で研究が回らずに埃を被りつつあるそうです。ですので心づけをしてあげれば、鉱石そのものの提供は難しいにしてもどの鉱脈からその鉱石が採れたのかこっそり教えて貰えるかもしれませんねぇ、度し難い事に」

 

 ぴくり。とタタコの歩みが止まる。

 

「おっと! 南方から"砂糖"の名を冠する貴重な紙巻タバコが大量に輸入されたそうですよ? たゆたう香りはまさしく砂糖の如く甘いそのタバコは貴族の女性方の間で大変に人気でして、私の見立てですと早々に纏め買いをしないと品切れは確実。次は何時入荷するかも分からないでしょうねぇ、難しい事に」

 

 ぴくり。とセラフの歩みが止まる。

 そんな四人を前にしてやったりと口角を歪めたえちごやは、さも白々しくうそぶく。

 

「……おや? どうされました皆々様? そんなところで立ち止まったりして、何か面白い話でもありましたか?」

 

 立ち止まり、そして振り返った四人はえちごやに歩み寄る。

 

「えちごやさん詳しく……」

「説明してくれないか」

「今、俺達は」

「冷静さを欠こうとしていますので」

 

 えちごやを取り囲んだ四人の目にはやる気が満ち満ちていた。

 彼女らはこの瞬間、闘気溢れる乙女アルバイターへと変身したのである。

 

「いやぁ流石皆様話が早いです! つきましては後日、王都十七番地スガワ通りの"メロウ"にてお待ちしておりますので是非ご協力をば! あ、履歴書等は不要ですのであしからず。ではではー!」

 

 ゲスい邪悪な笑みを隠そうともせず、一息に捲くし立てたえちごやは一足先に魔法陣の中へ消えていく。

 

「……どうなっても知りませんわよ。本当に」

「くわばら、くわばら」

 

 呆れた様子のルドネスと霧も続けて魔法陣の中へ。

 

「えちごやさんの事ですし多少の不安は残りますが……皆さん。是非えちごやさんの喫茶店経営を成功に導きましょう、ラミ……おほん、えちごやさんの為にも!」

「そうだな、刀……えちごやの為にも」

「おう、やるぜ! 鉱石の為にも!」

「ええ。まだ見ぬ素敵なタバコにかけても!」

 

 残る物欲に釣られた四人組みは円陣を組み、「ファイトー、オー!」との呼び声を上げて結束を固め、それぞれ順番に元いた場所へと帰っていったのだった。

 

 ―――ああ、なんと哀れな乙女達であろうか。

 この先訪れる乙女の尊厳を地に堕としかねない、羞恥に満ちた地獄のアルバイトがその身を待ち受けているとも知らずに。

 とかく。まこと恐ろしいのは人の物欲に他ならない。それを巧みに刺激し人心を手玉に操るえちごやは、やはりやりての商人なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。王都十七番地スガワ通りの"メロウ"。

 高級志向の店舗がひしめくスガワ通りに建つ"メロウ"の外観はシックで落ち着いたものだ。表通りを一望できる全面張りの曇り一つないガラス窓は、ガラスが高級品である王都の事情からして、高級感を演出するのに一役買っている。

 店の前には黒板つきの立て看板が立ち、『喫茶店メロウ。新規開店! 極上のひと時をあなたに』と繊細なタッチで書かれている。

 周りの店舗と比べても遜色ない出来をしている"メロウ"。これはさぞ繁盛しているものかと思えば、えちごやの愚痴通りそうではない様子。

 道行く人々はオープンしたばかりの"メロウ"に足を止め、興味深そうに一瞥していくが……中に入ろうとはしなかった。

 繫盛はしてない。けれど少なくとも人目を引くことには成功している。であれば、訪れた客が最後の一歩を踏み出さない原因を調べるのが先決。

 そう考えた山吹はドアベルを鳴らしながら"メロウ"へ足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店に入る前にガラス窓越しに山吹を確認していたのだろうか、女性の店員がすぐ近くに待機していた。

 他の店員は見当たらない。

 

「えっと、山吹緋色と申します。えちごやさんから臨時のバイトとして雇われたんですが、話は通っていますでしょうか?」

 

 山吹がそう話すと、店員が表情をほころばせた。

 

「あぁ! あなたがヤマブキさんですか! オーナーからお話は伺っております、私はサリィと申します。ささ、どうぞこちらへ!」

「はい」

 

 山吹は店員に案内されるがまま、店の奥へと進む。

 その間、簡単に内装をチェックする。

 

「(コーヒーの抽出や紅茶を淹れる所が見えるカウンター席。店の窓際には白い綺麗なレースのカーテン。普通の店には置いてない、テーブル席ごとに置かれた砂糖壷。……驚いた、照明から魔力を感じる。空間の魔力を自動で吸い上げ、半永久的に発光する例の発光石を利用した照明かな。これ一つとってもウン十万はするだろうに、えちごやさん奮発したんだね……。ん? うわ! 今気づいたけどBGMが流れてるじゃないか! まさかレコード盤!? 嘘でしょ!? あれ実用化できたの!? ほ、欲しい!)」

 

 えちごやがこの喫茶店"メロウ"にかけた天井知らずの金額と、つぎ込まれた技術の結晶を前に山吹は腰を抜かしかける。

 多少の音割れが気になるものの、オーケストラの演奏が静かに流れる店内の雰囲気は今まで山吹が訪れた喫茶店の中で最高のものだ。

 日本で一般的な喫茶店の要素をようやく揃えた程度に思われるかもしれないが、この世界(・・・・)でそれは尋常じゃないのである。

 この世界でごく一般的な喫茶店を例にすれば、テーブルは粗野な出来でティーセットは欠けてる安物。軽食メニューなんてものが当然ある筈もなく、仮にあったとしてもぺちゃんこのサンドイッチと炒めたナッツぐらいしか出ない。それがこの世界の基準でいう"普通"なのだ。

 

「どうしましたかヤマブキさん? 何か気になった事でも?」

「あっいえ……凄いお金が掛かっている店だな、と」

「あはは……ヤマブキさんもそう思われます? 普通喫茶店にこんな大金かけないですよね。雇われた身で言うのもなんですが、とても正気の沙汰とは思えません。……あっ、これオーナーには言わないで下さいね、クビになっちゃいますから」

「ええ……」

 

 軽口を叩く店員の後に続きながら、山吹は"メロウ"の客足が遠い理由に思い至る。

 

「(成る程……。これは逆に高級すぎる(・・・・・)のか。例えば日本ではハンバーガーショップは値段が安いジャンクフードのお店という常識の刷り込み私達にはあって、そこで超高級ハンバーガーショップの噂を聞いたとしても、『でも所詮ハンバーガーでしょ? 高級って言われても……』という意識が私達には働いてしまう。だから私達からすれば喫茶店はそれこそ上から下までピンキリだって知っているけれど、この世界の人からすれば喫茶店は『安い店』っていう常識が根強いんだな、きっと)」

 

 恐らく原因は常識の違いからくる、喫茶店への意識の差。

 これを改革するとなると、一日二日はおろか数年かけて徐々に根気強く取り組まねば実を結びづらいだろう。

 そんな重たい案件を手伝ってくれとえちごやは言っていたのか。

 安請け合いした自分に嫌気が差す山吹だったが、請け負ってしまった以上是非もない。

 

「こちらでお待ちください、後ほどオーナーが詳しい事情をお話するそうですので」

 

 バックヤードを進み従業員向けのエリアに侵入したところで、一室に通される。そこには、

 

「なるほど、では冶金術も鍛聖が持つスキルに含まれ―――来たか」

「ん? ……おっす!」

「御剣。それにタタコさんも」

 

 先に訪れていた御剣とタタコが、それぞれコーヒーと緑茶を手に談笑している姿があった。

 

「もしかして皆さんはお知り合いなんですか?」

「そうですね。まぁ腐れ縁みたいなものです」

「腐れ縁とは失敬なやつめ。私達は仲良しこよしの女子会メンバーだろう?」

「そうでもあるし、そうでもないとも言えるけどな」

 

 そこはどうやら女性用の更衣室をかねた談話室でもあるようだった。

 従業員が使用する木製のロッカーが幾つも壁際に並び、部屋の中央にはテーブルとソファーが幾つか。

 隣に続く部屋を一瞥してみれば、そこにはかまどと流し台がある。かまどには未だ火が燻っていた。

 どうやら湯を沸かした後らしい。サリィが早足でそこに向かい、脇に置いてある焚き木をかまどに入れ始める。

 

「ヤマブキさんは何を飲みますか? コーヒー、紅茶、緑茶、何でも出来ますよ?」

「ああ、ではお言葉に甘えて。……緑茶でお願いします」

「かしこまりました。すぐにご用意しますね」

 

 手際の良いサリィに感心しつつ、山吹もソファに腰掛ける。

 

「うわっ」

 

 深く腰が沈んでいき、思わず声を上げる。

 

「何これふかふかすぎでは……?」

「驚いただろう。従業員向けのソファですらこの有様だ。えちごやめ、金の使いどころを間違っているのではないか?」

「ふかふかすぎて落ちつかねえっつうの。こんなとこ、固めの丸イスで十分だぜ」

 

 山吹はソファを手で何度も叩きその感触を確かめる。

 仕事で疲れた時にこのソファにダイブすれば、そのまま寝てしまえそうだ。

 人を駄目にしそうな魔力を持つソファに恐れ慄きつつも、山吹は改めてえちごやが"メロウ"にかける投資額の異常さに首を捻らざるを得なかった。

 

「……こんなので、どうして元が取れると思ったのかなえちごやさん」

「うむ。控えめに評して銭ゲバのえちごやが、こんな有様で無計画に喫茶店を経営するとは考えづらい。何か考えがあっての事だろうが、正直良い予感はしないな」

「ほんとになー。つうか遅せーぞえちごやの奴、どこで油売ってんだ」

「オ、オーナーの事凄い言われようですね……。どうぞ、緑茶です」

「ああ、どうもありがとうございます」

 

 サリィの淹れた緑茶を山吹が受け取り、一服いれる。

 丁度その時だ。人の噂をすればなんとやら。件のえちごやが扉を開けてその場に姿を現した。

 サリィが慌てて席を立ち頭を下げる。

 

「あっ、お帰りなさいませ、オーナー!」

「ただいまサリィちゃん! ―――あわわもうおそろいでしたか! お待たせしました! せっかくお越しくださったのに遅刻してしまい申し訳ありません! 彼女(・・)を連れてくるのに苦労しまして!」

「遅いぞえちごやよ。……うん? その人は……?」

 

 御剣が目を細める。えちごやさんの後ろにはもう一人女性が居た。

 顔を隠すフードの下には純白のドレス。首から下がるロザリオは、サリィを除くその場の四人にとっては非常に見覚えのあるアイテムである。

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 タタコが信じられない様子で目を覆う。

 

「えぇ……? えちごやさんを手伝うとは言いましたが、まさかご本人登場とは……」

 

 山吹も目を点にした。この先、もし彼女の存在が明るみに出てしまえばトラブルに巻き込まれるのは確実であるという意味を悟って。

 

「……色々と聞きたい事があるにせよ、まぁ、今は不問とするか」

 

 御剣はほんの少し面白そうに、淡々と言う。

 そんな中、えちごやは嬉しそうに身を避けて大げさに彼女を皆に紹介した。

 

「はい! と言うわけでこの方にもおいで頂きました! 我らがスーパーアイドルの―――」

「―――セーラ、と申します。わけあって家出をしてお屋敷から抜け出した所えちごやさんに拾って頂きました。ほんの数日、もしかしたら一日だけのお手伝いとなるかもしれませんが、どうかよろしくお願いいたしますね?」

 

 フードを取ったセーラと名乗る可憐な女性―――言うまでもなく、円卓No.01たるセラフ=キャット会長が、優雅に礼を披露する。

 

「……すっごく綺麗な人。あの、もしかして……王族……の方だったりします? あ、いやいや、やっぱりないよね、でも、貴族の方って線は大いにアリのような……?」

 

 事情を知らないサリィだけが微妙に惜しいラインをかすりつつも、セーラの気品溢れる仕草に目を奪われていた。

 山吹は内心、胃が締め付けられるような痛みを味わいつつ深く後悔する。

 

「(……会長なんでそんなノリノリなの!? 確か今日は王都で王族の方たちと会合を開く予定じゃなかったの!? なのに何で本人がここに居るの!? 会合は!? しかも抜け出してきた!? バレたらどうすんの国の一大事でしょ!? 私達一歩間違えれば聖女誘拐犯でしょうに!!)」

 

 波乱万丈の幕開けとなりそうな、此度の臨時バイト。

 

「(ラミーの為を思ったばかりに……! そりゃあ確かにまだ出会って二週間もしてないから、好感度を上げたいなって思ったのは事実だけど、それにしたって迂闊すぎた……! えちごやさんめ、よくも図ってくれたな……!)」

 

 山吹。ひいては御剣、タタコ、セラフに降りかかる災厄は未だその姿を見せず潜んでいる。

 事態が本番を迎えるのは、これから先、約二時間後の事であった。

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