円卓の少女達   作:山梨明石

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第三章
3-1


 ―――いやいや、確かに俺は鍛冶師だぜ? ……まぁ、確かにお前の言う通り正規の鍛冶師じゃない、モグリだけどな。ともあれ自分で言うのもなんだが腕は保証するぜ。

 だから緑の嬢ちゃん。お前の依頼だってお茶の子さいさいってもんだ。確実にオーダー通りのブツを用意してみせらあよ。

 ただよお……なんつーか……気に食わねえんだよな。

 ん? 何が気に食わねえってそりゃあ作るものが()って所だ。

 おまけにお前が指定したサイズはどう見繕った所で、矢というよりも()()()()()って言った方がしっくりくる所もな。

 いや……マジでなんだこりゃ。まったく意味がわからん。ともあれ矢じりはあるから矢なんだろうけどよ。

 それに、なんだ、この、矢と同じくらいデカい寸法のハンマーは。

 しかも矢もハンマーも純ヒヒイロカネ製を希望、だぁ? 言うのは簡単だが材料はもってき―――お、おおう、確かに揃ってるな。どこから持ってきたんだ全く……。

 

 ……おいおい本気かよ。性質の悪い冗談じゃねえのか?

 

 ―――はぁ? 

 おい、嬢ちゃん、もういっぺん言ってみな? 俺がなんだって?

 いやぁ悪いな、歳のせいか良く聞こえなかったなぁ。なんだっけか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、だって?

 ふざけんじゃねえ! できらぁ!

 おーし! やってやろうじゃねえか! おと……違ぇ、女一世一代! このタタラベタタコ様がどーんと一発ぶっとくてガチガチなのを仕込んでやるぜ!

 そーらそうと決まれば嬢ちゃんは邪魔だ邪魔だ! 鍛冶の邪魔になるからさっさと出てってくれ!

 あ? 値段? きっちりしてんなぁ。……あー……見積もりは大体これくらいだな、おう、いいのか?

 

 うんうん?

 

 え!? 同じ値段でもう二セットを!?

 

 素材もある!?

 

 しかも二週間で!?

 

 

 

 

 ……で…………できらぁ!

 

 ――――――絶対氷極領域ノースプリズン突入二週間前、とある街外れの掘立小屋にて。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 朝。窓辺から降り注ぐ陽光が私の意識を夢の淵から引き揚げていく。時刻は朝の七時過ぎといった所だろうか。緩やかな覚醒と共に瞼を開く。

 

「…………」

 

 隣を見れば、そこにはラミーがいた。穏やかな寝息を立て、幸せそうな表情を浮かべている。

 私にそっと寄り添うようにして眠る彼女の頭を優しく撫でてやる。

 

「んっ……」

 

 刺激に反応して微かに震えた彼女を見つめながら、私は何度も彼女を撫でる。

 手入れの行き届いた栗色の髪の感触が心地いい。彼女の体温が伝わってくる。ぱたぱたと閉じたり開いたりする犬耳が可愛らしい。

 すべてが、ただただ愛おしかった。

 

「……ふふ」

 

 思わず口から私自身の声とはとても思えないような、幸せな吐息が漏れた。

 二週間程前に彼女に私の思いの丈を告げて以来、こうして私とラミーは寝食を共にするようになった。文字通りの意味で。

 それ以来私の幸福度は生涯最高値を毎日更新し続けている。幸せ株価ストップ高もいい所だ。

 愛する人と共に一日を過ごすと言う事がいかに幸せであるか、それはとてもじゃないが一言では語り切れないが、とにかく幸せであるという事だけはご理解頂きたい。

 

「(ああ! 「教団」の輩を除くこの世の遍く全てに幸あれ! †ゆうすけ†さん万歳! エミル神万歳!)」

 

 ―――などと、つい無駄に神様に祈りを捧げてしまう程度には。

 

「さて、と。そろそろ開店の準備をしなきゃいけないし、名残惜しいけど……」

 

 まだまだ彼女の隣で微睡んでいたいという抗いがたい欲求を何とか跳ね除け、彼女を起こさないようにベッドから出る。

 手早く身なりを整えた後。

 

「また後でね、ラミー」

 

 彼女の額に口づけした私は静かに音を立てないようにして部屋を出て、開店の準備へと向かった。

 

 

 あれから、二週間が経った。

 「教団」の連中どもが王都をさんざ荒らして回った例の事件以来、私達円卓勢に対する「教団」らしき連中の接触は全くと言っていいほど無かった。

 というより、皆無だった。以前からの奴らの活動具合を見て思えば、不気味な程静かである。

 ともあれ。警戒しているのか、単にグラン・アトルガム王国の敷いた対「教団」政策が功を成しているのかは不明だが、いずれにせよ奴らからの接触が無い事は素直にありがたかった。

 

 何せ私達の対「教団」情報収集活動は遅々として進んでいなかったからだ。

 当初は捕縛され収監されている「教団」の構成員をこっそり二、三名攫って色々と()()をするつもりだったのだが、王国側がもう張り切りに張り切りすぎてしまって、何が何でも情報を吐かせようと躍起になってしまい私達が潜り込める余地が一切無くなってしまった事が原因の一つとしてある。

 何せ奴らは文字通り四六時中監視されているのだ。霧の報告だから間違いない。

 見回りの隙さえあればよかったのだが、本当に一瞬たりとも監視の目が緩んでいないのだから大したものだ。

 なので現場で質問するには時間が足りず、攫うにもそれは不可能。とくれば、後は王国の拷問官の腕前に期待する他無かったのだった。

 

「師匠、お茶が入りましたよ」

「……ああ、ありがとう、ラミー」

 

 思索に耽っていると、どうやらラミーがお茶を淹れてくれたようだった。

 熱い緑茶を冷ましてから啜る。

 ……うん。相変わらずラミーが入れてくれた緑茶は美味い。玉露もかくや、である。

 

「ふふ、ラミーが淹れてくれる緑茶は間違いなく世界一だね」

「えへへ……。ありがとうございます、師匠」

 

 朝方の客である冒険者達のラッシュを捌き切った私たちは、茶請けのブロッククッキーをかじりながら緩やかなティータイム中。

 「教団」の連中の動向が不気味ではあるものの、今日も今日とてつつがなく薬屋ヤマブキはいたって平和そのもの。

 先日の一件のせいで今月の帳簿に"特別出費・1300万"という腰の抜けるような赤字が記載されてしまったという点以外では、だが。

 ……絶対にいつか賠償させてやるぞ、「教団」め。

 

「あっ、師匠。口元にクッキーの欠片がついてますよ?」

 

 などと、胸中で確固たる決意を固めているとラミーが向かい側の席を立った。

 どうやら「教団」への悪意のあまり口元が疎かになってしまっていたようだ。

 

「ああ、ごめん、ありがと―――」

「ぺろっ」

 

 と。口角の辺りに温かな感触が。

 

「えへへ、頂いちゃいました。美味しいですよね、このクッキー」

 

 ぺろり。といつの間に近寄ったのか私の口元を舐めたラミーが悪戯っぽく笑っていた。

 舐められるまで全く気が付かなかった。神業だった。

 

「…………そ、そうだね」

 

 慌てず騒がず、それでいてクールに緑茶を一啜りして、ほぅ、とため息をひとつ。

 何事もなかったかのように席に戻ったラミーを前にして、私はといえばこんな事を考えていました。

 

 

 

 

 

 

「(――――――はあああああああ~~~~~~~????? もーーーーーこの子はどーしてこー私の事一瞬で顔まっかっかにするような事平気でするかのな~~~~????? 今朝なんてようやくラミーが隣で寝てても赤面もせずテンパりもせず穏やかでいられたから、「よっし今日はラミーの前で師匠らしくクールに決められるぞ!」ってなってたのにさ~~~~も~~~~! 瞬間! 湯沸し器か! 私は!  ああもうそれもこれも()()()のが大好きなラミーが悪いよラミーが!

 

 だって聞いて下さいよ奥さん! 何せ彼女ったら毎夜毎夜とにかく私の事を舐めるんだもの! 犬か!? 半分犬だからか!? だからなのか!? もうとにかく舐めてくる! 色んな所を! 夜でなくても! 昼でも! 朝でも! 隙あらば舐めてくる! ぺろぺろぺろぺろぺろぺろと、ペロリストか本当に!

 

 …………あぁでも、そういうとこも、好きなんだよなぁ。これが惚れた弱みって奴なのか、くそう。ラミー可愛すぎか。可愛いは正義か。うう、つまりラミーは正義って事なのか。すごいぞ、大発見だ、この世の正義はなんとも近い場所にあったのである。つまりはラミー万歳! 正義万歳! ペロリスト万歳! それが正義! いわゆるジャスティスって事なんでしょうラミーさん!?)」

 

 

 

 

 

 ―――などと、茹った脳みそで考えられる事なんて上記の通り、程度が知れているのである。

 そして、そんな脳みそが緩み切った人間が突然の来客にまともな対応が出来よう筈も無いのである。

 

「―――邪魔をするぞ」

 

 控えめなドアベルの音と共に、ずんずんと無遠慮な足音がひとつ。

 

「ひゃらっしゃいまひぇ!?」

 

 いらっしゃいませ。と口にしたつもりの私の口からは、素っ頓狂な何かが零れ落ちていた。

 

「しっ、師匠!?」

「……なんだそれは、新種の挨拶か何かか? 何語だ?」

 

 私たちの目の前には、私の事を胡乱げな様子で見つめる円卓№02・御剣がいた。

 

「まあいい。ともあれ、息災だな、ラミーよ」

「あっ、はい! ミツルギさんもお元気そうで! 一か月ぶりぐらいでしょうか?」

「うむ。以前ポーションを買い取りに来て以来になるな」

 

 全身赤一色の。円卓随一のトラブルメーカー。

 

「それでミツルギさん、本日は一体どのようなご用件でこちらに?」

「それなんだがな……おい、山吹、いつまでも呆けているな。()()()()()()()()()

「ひゃひ。で、でかけるぅ?」

「うむ」

「出かけるってどこに……? それに、私もですか?」

 

 いつだって風雲急を告げるような彼女の到来は、つまり。

 

「そうだ。と言うか、今回のメインはラミーだ。……ふふふ。聞いて驚け見て驚け! 『極東の島国ジャポ行豪華客船三名招待チケット(半犬人同伴なら更に一名追加!):提供・半犬人国家ドーガスタ』だ! 商店街の福引での一等だぞ! どうだ!? 凄いだろう! だから行くぞ! ジャポへ!」

 

 何かが起きる。という事に他ならなかったのであった。

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