円卓の少女達   作:山梨明石

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 沢山の非常食をアイテム・バッグがパンパンになるまで買い占めてきたタタコさんと合流した私達は宿をチェックアウトし、フントの街へ繰り出した。

 

「うわ……綺麗だなぁ……」

 

 春のぽかぽかとした陽気と心地よい風が私達を包む。

 風光明媚な観光地。という謳い文句は伊達ではないらしく、海岸線を囲むようにずらりと並ぶ白色の家屋と雲一つない青空がとても美しい。恐らく記憶に間違いが無ければ、建材は石灰なのだろう。その有様はスペイン南部の……なんだったか、エーゲ海だったか、それを思わせる雰囲気だった。

 そして街を歩む人々はその殆どが半犬人(ハーフドッグ)だ。当然と言えば当然だが、何の変哲もない人間(ヒューマン)が建国した国々を廻っていた私からすれば、この光景は中々に珍しく新鮮味を覚える。

 なにせ誰も彼もが犬耳で、尻尾つき。その有り様は殆ど人間と同じだとしても、こんな姿なりをした人々が普通に生活しているここは、やはり「悠久の大地」の世界なのだという事をまざまざと感じさせる。

 

「なかなかいい街じゃないか」

 

 気分の良さそうな御剣が、その赤い長髪を右手でかきあげながら言った。

 まるで何某の美女のような―――という流れはもう既にやったので省略しよう。そう描写した、という事は最早言うまでもなく、彼女の左手には屋台で購入したケバブじみた郷土料理が握られている。それもビッグサイズのやつが、だ。

 一体全体どれだけ食べれば気が済むのか。ジャイアン属性に続き大食い属性まで獲得しよう腹積もりなのだろうか。だとしたら実に欲張りな話である。

 今なら私の"羞恥""いじられ"属性と交換してあげても良い。

 いや本当に。

 

「だなー。気候も穏やかだし、治安も悪くない。老後はこういうトコで穏やかに過ごしてえもんだ」

 

 タタコさんがやけに感慨深くそう続く中、タタコさんはタタコさんで露店で購入したバニラソフトアイスをちびちびと舐めている。

 

「あはは、確かにこの街で老後を過ごす方も多いらしいですよ? でもタタコさん、何も今からそんな先の事を心配しなくても……」

 

 苦笑したラミーはラミーで、ディフォルメされた骨の形をしたアイスキャンディを舐めていた。

 

「そうですよ。人生まだまだ先は長いんですから」

 

 食べ歩きをしていないのは私だけだ。

 ……そう思うと、こう、なんとなく口のあたりが寂しくなってくるような、ならないような。

 買い食いは少々はしたないとしても、街歩きの醍醐味であるからして、ううむ。

 

「……?」

 

 そんな風に少し悶々としていると、私の隣を歩くラミーが首をかしげてきて。

 

「……!」

 

 何を思いついたのか。

 

「よかったら師匠も舐めてみますか? ほねっこアイス! 冷たくて美味しいですよ!」

 

 私の前に、ついさっきまでラミーの舌先が触れていた氷菓子を差し出してきたのだった。

 

「…………」

 

 ――― 一体全体どうしたことだろう。ここ数日のラミーの積極的な行動は、その、少々度が過ぎてはいないだろうか。

 いや、いや、いや! 嫌じゃない! 嬉しい! とても嬉しいんだ!

 ただその、なんだ! こう、人目のあるような場所ではですね! こうもべったべたに蕩けるような甘いムーブをされるとですね!

 お隣さんの約二名の目線とかがですね! はい! わかりますかラミーさん!

 このアイコンタクトで伝わりますか!?

 

「はい、どうぞ!」

 

 全然伝わってはいなかった。

 

「こらこら山吹よ。大事な弟子の殊勝な心掛けを無下にするものじゃないぞ?」

「そうだぜー? ここの食いモンは中々悪くないし、このアイスだって美味い。きっとそのラミーのアイスだって、頬っぺたが落ちる程美味いと思うけどなー?」

 

 口だけは達者に回るお二人さんの姿は見ない。

 見なくてもどんな表情を浮かべているかなぞ察するに余りある!

 

「……うん。……じゃあ、ちょっとだけ」

 

 結局逃げ場を無くしてしまった私は、おずおずと手を伸ばしラミーのアイスを受け取る。

 ラミーが舐めていた、骨の形が崩れかけているアイスを。

 

「……うぅ」

 

 ちろり。とおっかなびっくり舐めてみれば。

 わざとらしいソーダの味と。

 ラミーの味がした。

 気がした。

 

 ……本当にラミーはどうしてしまったのだろう。

 

 

 

 

 豪華客船タイターン・ニック号は、その名に恥じぬ威容と絢爛さで私達を出迎えてくれた。

 船の側面から除く合計()()()門の砲台が多少物々しいものの、常日頃からモンスターという災害に見舞われる可能性のあるこの世界では、むしろその威容は乗船する客に対して確実で安心な旅行を約束するアピールとしてプラスに働いている。

 

 不吉すぎるその名と砲台の合計数さえなければ、私達にとってもそうであったろうに。

 

「乗船券を拝見致します……。確かに。ようこそタイターン・ニック号へ。ジャポまでの数日間、どうぞごゆっくりお楽しみ下さいませ」

 

 乗船許可を受けた私達は長いタラップをゆっくりと上る。先頭をラミー、次いで私、御剣、タタコさんといった順番で、だ。

 周囲をぐるりと見渡せば私達と同じように乗船する客たちは皆とても身なりが良い。一見してすぐに貴族か金持ちと分かるような人ばかりだ。

 そんな中私達のような小娘四人組がタイターン・ニック号へと乗船していくのだから、それなりに人目を集める事となった。

 見物に来た人々の羨望と嫉妬の視線を集める中―――突如私の感覚に稲妻のように走るものがあった。

 

 発動の必要が無いパッシブ・スキル《ホスティリティ・センス》が作動したのだ。

 

「っ!!」

 

 前を進むラミーの手を咄嗟に握りしめる。

 何が起きても、彼女の身だけは絶対に守り切る為に。

 

「御剣!」

「わかっている。悟られるからあまり動くな」

「ん? なんだ? 進まねーのか?」

 

 私と同じように《ホスティリティ・センス》か、あるいは単純に生物的な感のどちらかで敵を察知した御剣は打てば響く鐘のように私の意図を察知してくれる。

 対して鍛冶系に特化したタタコさんは、私達が持つような戦闘系スキルに乏しい為に今何が起きているかは理解できていない。

 緊張感が高まる中、何も知らないラミーは私へと振り返って。

 

「師匠? あの、一体どうしたんです……」

 

 なにか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな、悲壮な表情を浮かべた。

 

「こらこら、いちゃつくのはいいがな。そろそろ先に進まねば後がつっかえるぞ」

 

 自然体の御剣がそううそぶいて、ごく自然に私の横を抜きラミーの前へと進む。

 手は腰のベルトに添えたままだ。

 

「そうだね。確かに人の迷惑になるのはよくないね。ささっと船にあがっちゃって、内装でも見て回ろうか」

 

 私も御剣に続き、自然体を装いながらラミーに密着する。

 ラミーは悲壮な表情をしたまま、彫像のように固まっている。

 その視線の先は、港で私達の姿を見つめる衆人の中へ注がれたまま。

 戦慄く彼女は、

 

「うそ……」

 

 泣き出しそうな声で、ぽつりと呟いた。

 

「ん? ん? ……おいおい、なんか尋常じゃなさそうだな。ともあれ先に船に上がろうぜ、ここじゃ足場が悪いだろ?」

 

 遅まきながら事態を察知したタタコさんが御剣程ではないにしろ剣呑な雰囲気を漂わせる。

 

「ラミー、行こう」

「………………は、い」

 

 急転して弱弱しくなってしまった彼女の手からは怯えが伝わってくる。

 私はそんな彼女の手を引き、前後を御剣とタタコさんに守られながらタイターン・ニック号へ乗船を果たす。

 そしてそのままずんずんと、私達にあてがわれた個室の一つを一直線に目指す。

 

 何が、どうして、誰が、何故なのか。

 そういった是非は問わない。

 今、私達に敵意を抱く何者かが居て、そいつはラミーを怯えさせている。

 理由なんてそれだけで十分だ。

 

 十中八九"教団"の輩だろう。―――まあ、そうでないとしても、だ。

 既に私の中では撃鉄が跳ね上がり、発射の時を今か今かと待っている。

 もう、私は()()だ。

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