箱庭世界《キャンバス》に描く十五ノ夜の流血姫 作:ヨシオ、あん摩師から令嬢へ
全てが終わって、家に帰れたのは深夜4時過ぎだった。
どうにか両親を起こさずに家に入らなきゃな、なんて考えていたけど、両親は寝ずに私の帰りを待っていてくれた。
改めて、愛されていることを感じた。
今までも愛されていたけど、自分を多少好きになれた今、愛をしっかり受け止められるようになったのを感じる。
眠たいからとなるべく早く会話を切り上げて自分の部屋に戻る。両親には悪いが、いますぐ確かめなきゃいけない事があるのだ。
ベッドに潜り込み、懐から1枚の紙を開く。
モノクロの瞳と目が合った。
私が描いた、黒衣さんの
「……ねぇ。聞こえる?」
『うん、聞こえるよメルテっち』
描いたイラストの口が動き、レスポンスが帰ってくる。
よかった、この状態でも会話できるみたい。
「尋ねたいことがあるんだけど」
『何?』
「
ヤルダバオトは魂の輝きが一緒だなんて言ったけど、私から見れば少し違和感があった。
話し方の違い、笑い方の違い、歩き方の違い。些細な違和感も積み重なれば疑惑に変わる。
数秒の時間が流れた。絵の中の黒衣さんは無表情でこちらを見つめている。
……少しマズったかな。
もしこの子の正体が全てを裏で操っていた黒幕だったりしたら、私の命、危ないんじゃあ……??
少し軽率だったかもしれない。みんながいる場所で尋ねた方がよかったかな。
『……気づいたか。
声が明確に変わった。
聞き覚えのある、感情を伴わない声。
私がバニーガールに襲われた時助けてくれた、あの幻聴だ。
『誰、と問われても私に名前はない。至高の存在、神の血など呼び名は色々有るが、これは私の名前ではない。……そうだな、
黒衣さんの青く染められている髪の内側の部分が、ウサギの目のような赤に染まる。
自分の存在が黒衣さんじゃないとわかりやすく示してくれてるのだろう。
この時点で、彼女が凶悪な存在ではないことが察せる。少なくとも、気遣いをしてくれる存在ではある。
「目的は何? あなたは何者なんですか?」
『神を止めることだ。とはいえ、些細なことしかできなかったが。キミはよくやってくれた。……何者、と尋ねられると弱い。そうだな、1から説明しよう。キミは神と呼ばれる存在の定義を知っているか? 私の存在を知覚できる存在のことだ。私を知覚できる存在は、私の体を使って世界の法則を定義できる。ヤルダバオトは目で私の在り方を捉え、キミは耳で私の声を聞いてくれた』
レッドは話を続ける。
『私はヤルダバオトの手助けをしようとこの体を世界を描く
「つまり、黒衣さんはあなたが操作していたってこと………?」
『違う。イデアの影……わかりやすくいえば、彼女は私のクローンだ。私と思想を同じくする存在がいれば、神の暴走を止めてくれると思った。私は彼女に炎を与えさえしたが、基本的に彼女は彼女の意思で行動している』
「............そうですか............」
私はほぅっと一息をつく。
とりあえず安心した。
とりあえず黒衣さんが黒衣さんであることが知れればそれでよかった。大事なのはそこだった。
「わざわざ私の絵に宿ったってことは、あんまり物理的なことはできない感じですかね?」
『そうだ。
………世界に干渉できない。
それに、私やヤルダバオトさんみたいな存在じゃなければ知覚すらして貰えない。
黒衣さんはレッドさんのクローンってことは、黒衣さんが嫌なことはレッドさんも嫌なんじゃないだろうか。
少なくとも黒衣さんは、1人は苦手なタイプだ。
「……美術部に、来ませんか? 私の
『魅力的なお誘いだが、断らせてもらう。ヤルダバオトがもっと広い視野を持てそうなのだ、邪魔をしたくはない』
「じゃあ、ヤルダバオトさんがもっと広い視野を身につけたら来てくれるんですか?」
『…………キミはなんというか、積極的になったな』
それはきっと、黒衣さんの影響だ。
私が笑うと、レッドさんも笑った。黒衣さんとは少し違うけれど、素敵な笑顔だった。
『では、いつか』
私は紙を折りたたむと、大事に机の中にしまい込んだ。
この机を開ける日が早くくるように念じながら。
「……そういえば、話を聞いていると、ヤルダバオトの前から無言で姿を消したレッドさんにも責任あるっぽいですよね」
『……………………』
「もし再会したら、ちゃんとごめんなさいをするんですよ」