「時代は……ギャップ萌えなのかもしれません」
五条悟が元井に言われた一言である。
***
最初に調査協力依頼がきたのは夏油だった。もしかしたらいい呪霊が手に入るかもしれないと、楽しげに教室を出て行ったのは昨日のこと。翌日同じ場所から五条に調査協力依頼がきたことで、あまり進展がなかったのだと知れた。
「あんまり意味なかったからキャッチアンドリリースしたんだよね」
「そんな器用なことできるんだ」
五条、夏油、家入の3人は教室で駄弁りながら昨日の調査内容を聞く。呪術師の手助けになるように調査運営されているスポット箪笥通り。もし呪霊操術で持ち運びができれば、遠い任務地でも利用できるようになる。それを考えての調査だったが、想像以上に縛りが強固だったらしい。あの場所でしか術式の利用ができないことで術式の精度を大幅に上げているようだった。このことから場所を移すことを諦め、よりよくこの呪霊の情報を集めることにシフトした。五条悟はこの術式を防げるのか。防げた場合はどうなるのか。以前バリアを作れる術師が調査をした際は、バリアを貫通して術式を付与されたらしい。
「調査は別にいいけどよ、萌える行動なんてわかんねーぞ。ていうか糞呪霊に品定めされるのがキモい」
「行けば案外なんとでもなるよ。私も昨日よくわからないまま術式付与された。キモいのは我慢しろ」
「私が行く必要ある?めんどくさいんだけど」
「防いだ場合どうなるかわからないから念のためだってさ」
夏油の調査は昨日で終わっていたが、術式ほこたて対決が気になるらしい。結局3人で向かうこととなった。
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「見た目いかつくて近寄り難いヤンキーなのにアイスタワー持ってる!甘いもの好きってこと⁈」
ぽこん。
「カツアゲしてそうな怖い見た目なのに食べ方キレイ!育ちがいいな?」
ぽこん。
「よく見たらとなりの家入さんと歩く速度を合わせている!股下42.195kmありそうなのに!」
ぽこん。
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結論から言うと五条は術式を防げた。のだが、術式付与の音が鳴り止まない。しかも無下限を解除した瞬間相手の術式が発動するのがわかるので、下手に解除もできなかった。
「恐ろしい
「好き勝手言いやがってぶち転がすぞ」
「まぁまぁ落ち着け、物事を判断する際に第三者の客観的な視点は大事なもんだよ…………ふっ」
「そうそう落ち着こう股下フルマラソン」
「ぐぅっ」
「笑うなや長所だろうが」
アイスクリーム屋の店員にオススメされたのがこれだった。13段のアイスタワーはかなりの重量で、筋肉とバランス感覚、強靭な内臓が必要になる食べ物。選ばれし強者のみが挑戦できるメニュー。五条が挑戦しない選択はなかった。味はまずまず。苦もなく残さず食べきったのにドン引きされて解せなかった。
問題はここからである。五条が一歩踏み出した瞬間、突然の強風で小さな箪笥が1つ五条に飛んできた。もちろん無下限で防ぐが、空気がしっかりと変わったのは感じた。
「は?」
「おい、付与された術式はどうなった?」
五条は無表情だった。
「……解除されてない」
「まさか不発だった術式はどんどん溜まっていくのか?」
「おいさっさと無下限解除しろくず。嫌な予感しかしない」
すぐそばのビルについていた看板が五条めがけて落ちてくる。しかしこれも無下限に阻まれる。
「…………あの呪霊祓うか」
「貴重な呪霊なんだからダメに決まってるだろ」
側のマンホールの蓋が飛び、水柱が上がる。
「俺が老衰した後に発動すれば不運もクソもないよな」
「ずっと無下限術式発動するのは無理なんじゃなかったか?」
制御不能になった自動車を軽く避けて横転するのを横目に見る。あ”ー死ぬかと思った〜運転手さん無事ですかー⁈という元井の叫びが響いた。
「周りに被害が出でる、いい加減諦めろ!」
「さっさと箪笥の角に行ってこいくず」
「クズクズうるせぇなぁ!語尾がクズになってんじゃねえか!」
「じゃあカス」
「変わんねぇよ!」
その時だった。ビルの1階にあったテレビから緊急速報が流れ、全員の視線がそこに集中した。周りが喧しくて仕方がなかったのに、何故かニュースキャスターの声が浮いて聞こえる。
『……の軌道が大幅に変わっ………確………れそ…………衝…………隕石が落下する可能性が高………………り……日本の…………近隣住民………………』
テレビにあった全員の視線が五条に集まる。何とは言わないが察した。
「悟のギャップ萌えで世界がヤバい」
「……俺って罪作りな男だな」
「今頃気づいたかカス」
「骨は拾っとく」
「骨はいいから全力で反転術式頼む硝子大明神」
「3箱」
「5箱でも100箱でも買ってやる」
こうしている間にも周りに自動車が積み上がり、煙が周囲を覆っていく。この被害は高専が弁償するのだろうか。五条の脳裏で担任が腹を押さえているのが浮かぶ。仕方がない。担任の胃に免じて五条が引き下がろう。だが今度そんな機会があったら引き下がってはやらない。ずっと無下限術式を発動してられるようにしてやる。
そんなことを考えながら、五条は箪笥に向かって足を踏み出した。