日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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レスキュー・ストライク

 

 アークセイバーが振るった月光の刃は光の奔流となった。

 

 剣閃が奔り、それに伴うプラズマの超高温が飛行要塞型アームズフォートの頑強な装甲を溶断する。

 月光の刃はジェネレーターから供給されたエネルギーにより、ACが通り抜けられるほどの損傷をたった一振りの斬撃で与えるに至った。

 

 超高出力レーザーブレードで道を拓くと、ササラとリゼ、女子校生二人が駆る第五世代ノーマルACは最新型アームズフォートの内部に飛び込んだ。

 

「よし、タッチダウン!」

 

 黒髪艶やかなリゼの歓喜の声。

 強引な突入でアークセイバーのコクピットは激しく揺れたが態勢は崩れていない。

 

 側面の無人戦闘機ハンガーに乗り込んだ白と青の人型兵器、アークセイバーは着地するとブースターをカット。慣性で滑る。

 

 戦闘機の他、ACやMTなど陸戦兵器を搭載する格納庫でもある。十メートル級の人型兵器にとっても余裕のある空間だ。

 床との摩擦で火花を散らしつつ減速するが完全停止はしない。出力を絞ったレーザーブレードで再び一閃して防壁を切り裂く。

 

 ササラの操縦に合わせたリゼの出力制御は完璧。まさに阿吽の呼吸だ。

 

「"抗体"はもう立ち上がったか」

 

「だね――とにかく動力炉までのナビ出すよ」

 

 動力炉のターゲットマーカーがモニターに表示され、方位計にも緑色でマークされる。

 併せて表示された3Dマップの指示を頼りにアークセイバーは前進する。ブースト速度は常に300km/hをオーバーしていて、カーブを曲がる際の減速も最小限。

 

 金髪ツインテールのクールな戦乙女が口にした"抗体"とはソラリス内部に侵入した敵機を排除する無人兵器のこと。

 

「さーて、今日もササラのカッコいい所をたくさん見せてね」

「善処しよう――行くぞ、舌を噛むなよ!」

 

 ガードメカなどの雑魚ではなく、重武装の戦闘MTやノーマルACの熱源反応を示していた。ササラはブースト圧をさらに高め、機体を跳躍させる。

 アームズフォートの通路は天井が高く、ジャンプによる立体機動ができる。

 

 マシンガンとレーザーブレードだけで、迫ってくる敵機を次々に蹴散らしていく。

 

 四脚MTが両腕部からプラズマキャノンを吐き出した時には既に飛び上がり、レーザーライフルを手にしたノーマルがそれを予期して銃撃すれば、アークセイバーはエクステンションブースターの加速で火線を振り切る。

 

「ひとつ!」

 

 レーザーブレードの斬撃でMTを切り捨て、爆発するよりも早くターン。

 

「ふたつ!」

 

 強烈な横Gに金髪のツインテールを靡かせながらマシンガンの掃射でノーマルの頭部からコアにかけて風穴を開け、沈黙させる。

 急加速。ササラはオーバードブーストを点火。レーザーブレード振りかざしてきたノーマルに向かって、アークセイバーは一気に突っ込み、右足を蹴り出す。

 

 ブーストチャージ。鋼の巨人同士が激突して轟音が響き、ノーマルACは壁に叩きつけられ、白煙を吹いて動かなくなる。

 

「みっつ!」

 

 ササラは涼やかな表情で叫ぶ。残骸をフロアに残し、アークセイバーは転進した。

 

 

 一方、ソラリスの外部でも砲火が絶え間なく轟いていた。

 ソラリスを翻弄するのは真紅のイクリプス。

 AMSでリンクした赤髪のヤンキー美少女の意志が統合制御体を通じて、ネクストに伝わり、戦闘機動する。

 

 ブースト全開。無数のミサイルを振り切り、下部の主砲レーザーの照射をクイックブーストによる高速変移で躱す。

 対艦クラスの超高出力レーザーはプライマルアーマーを掠めることなく通り過ぎている。

 

 海面スレスレを飛ぶイクリプスの後ろでレーザーが海を裂く。

 海水の急激な蒸発によって生じた爆発的な空気圧を使い、エリスはイクリプスを急上昇させた。

 蒸気の濃霧を海面に置き去りにして、真紅のネクストが天翔る。

 

『どうだ神薙君、やれそうか?』

 

 通信はオンラインになっており、今回のクライアントである桐嶋ミコと繋がっている。

 この和風ビスクドールといった趣の小柄な少女は昼休みにエリスを訪ね、フィクサーという裏の顔を明かすとアークセイバーとの協同ミッションを持ちかけてきた。

 

 エリスがイクリプスを駆るリンクスであることは見破られていた。ミコ曰く、「わたしは人より勘がいいんだ」とのこと。

 

 激しい戦闘はデータリンクを通して、ミコがいるオペレーションルームに伝わっており、金髪のフィクサーな先輩は心配そうな表情。

 

「当然っ! こんな面白い仕事回してくれてありがと、先輩!」

 

『わたしの事はミコと気軽に呼んでくれたまえ。そっちのほうが好きだ』

 

「OKっ! お嬢様してない時はそう呼ばせてもらうぜ、ミコ!」

 

 ヤンキー娘全開のぶっきらぼう口調で返事するエリス。

 

「エリス、そろそろあの鬱陶しいACを片付けろよ」

 

 横から口を挟んだ電脳サメがレーザースナイパーライフルを発砲してくるフロート型ACを示す。

 

 自分の狙撃を回避させたところで、ソラリスのレーザーなりミサイルに被弾させるのを意図した攻撃だ。

 しかし、急上昇から機体を錐揉みに入れたイクリプスはレーザーとソラリスの弾幕、双方を潜り抜けている。

 

 騎士めいた真紅の機体はコジマ粒子装甲による空気抵抗の軽減作用によって、圧倒的なスピードで上昇している。

 かと思えば急降下と瞬間移動染みたクイックブーストで敵を翻弄していく。神薙エリスは絶好調。

 

 

「冗談じゃない!」

 

 突如現れたネクストに怯えながらセミラは叫ぶ。

 怯えつつも射撃を止めないのは、流石一端のレイヴンだけある。

 

 蛇行運動で揺れまくるヘムロックのコクピット。機動力を振り絞りながら、ネクストに向かって当たらない狙撃を繰り返している。

 

 アームズフォートの射程内に留まり、ミサイル攻撃を必死で避けながら攻撃してくるだけの胆力がこの女レイヴンにはあった。

 彼女の雇い主はトリニティ・グループのある派閥であった。今回のアームズフォートの暴走を仕組み、対立派閥を陥れることを目論んでいた。

 

 不愉快な勇名を鳴らす小娘二人(アークセイバー)を始末して得た追加報酬と共に愉悦に浸るつもりが、セミラは絶対絶命の窮地に追い込まれている。

 

『格下を虐めて恥ずかしくないのかしら!? 傭兵ならプライドを持ちなさいな!』

 

 オープン回線でイクリプスに呼びかけ、相手の良心や誇りに働きかけて隙を作ろうとするセミラだが、帰ってきた返答は弾丸。

 

「ひぃっ――――!? 私のヘムロックが!」

 

 激しい揺れとアラートが甚大なダメージを毒婦な女傭兵に報せ、絶望的な気分にする。

 

「なんだ、殺さなかったのか? 君はああいうタイプは好かないだろう」

「わざわざ殺すように狙って撃つのも面倒臭かった」

 

 大口径ライフルの砲弾がフロート脚部を穿ち、数発でヘムロックを行動不能に。

 高速機動していても、エリスの腕にかかればコアに直撃させるのは容易い。だが赤髪の少女傭兵は当たるに任せてトリガーを引いていた。

 

「後はあいつ自身の運に任せよう――さてと、それよりアークセイバーだ。邪魔者は片付いたし、せっかくだから援護に行くぞ!」

 

「悪くない。砲台潰しよりは退屈しないだろうからね」

 

 不満げに意識の海を泳ぐREVにエリスは言う。電脳サメも賛成なようで、ソラリスの艦内マップと突入経路を表示する。

 クイックターンでソラリスに向き直り、イクリプスはオーバードブースト。

 

 コア背部から噴出するプラズマが光の翼を形作り、突き進む先はソラリスの艦内。クイックブーストの連打で速度を稼ぎ、アークセイバーと合流するべく、最速で飛ぶ。

 

 ササラとリゼ、同年代らしき二人の少女が駆るACはノーマルでありながら、例外的な戦闘能力を持つ。

 ソラリスに突入するまでの一部始終を見ていたエリスは、その戦いぶりを間近で見たいという想いに駆られていた。

 

「邪魔すんなよー、まったく」

 

 二百年後の世界で得た素敵な出会いに胸躍らせるエリスは、横薙ぎのレーザーにクイックブーストからの旋回で逃れながら呟く。

 

 射撃精度を増して迎撃してくる主砲のレーザーに向けて、鬱陶し気に背部のコジマキャノンを高速モードで発射。収束されたコジマレーザーがソラリスの主砲ユニットを射抜き、爆発が起こる。

 

 

 残されたのはセミラただ独り。

 

「ひぃっひぃぃぃ!? 溺れるぅっ! こっこんな死に方、私に相応しくない!」

 

 フロート脚部が破壊され、ヘムロックは水没していく。大口径砲弾によって下半身を削り取られたACにもはや海上に浮かぶ力はなく水没していく。

 

 毒婦セミラは美しい顔を歪め、情けない悲鳴を上げながら脱出レバーを引く。

 

 海上に叩きつけられる無防備なコクピットブロック。ヘムロックは水没していくが、エアバッグが膨らんだコクピットブロックは波に激しく揺られながら海の上を漂っている。

 

 こうなってしまっては何もできない。ソラリスの攻撃によって蒸発させられるのを恐れて、セミラはガタガタ震えた。

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