日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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エピローグ

 女子高生としての休日に、傭兵としての仕事を終えたエリスはイクリプスを海鵬市のガレージに戻そうとしていた。

 海底で待機している工廠艦ツクヨミとメガフロートを行き来するのが面倒なので、大掛かりな整備や改修のとき以外はガレージに置いている。

 

 直にガレージまで飛んで行くわけではない。

 エネルギーをバカ食いするが、ほぼ完璧に姿を消せるステルス・エクステンションを装備していない今、そんなことをすれば大騒ぎになる。

 

 事前に目星をつけておいた着陸地点に機体を降ろし、待機させたトレーラーにACを積み込んでガレージまで運ぶ。

 時間と手間のかかるやり方だが仕方がない。

 

 仰向けに寝かせたイクリプスの中では居心地が悪いので、赤髪ヤンキー娘はトレーラーの運転席に移っていた。

 

 エリスは戦闘装備である赤と黒のナノスキンスーツをぴっちりと纏った姿のままである。元々着ていた私服はガレージに転がっている。

 

 赤い髪に真っ赤なぴっちりスーツの美少女がありふれたトレーラーの運転席に座っている――そんな姿では当然滅茶苦茶目立つ。

 なので、トレーラーの窓は外から見えないようスモークしてあった。

 

「よし、出発進行……ん、なんで動かないんだ?」

「シートベルトをしてくれよ」

「はいはい、そういう所マメなんだから――REV、ニュース出して」

 

 サメAIに言われた通りに、エリスはシートベルトを締めた。ガレージまでの運転はREVに任せつつ、ついでに暇つぶしになるよう視界にニュース番組を投影してもらう。

 こういう時、インプラントは便利だ。

 

「さてと、どんな騒ぎになってるかな」

 

 ソラリスの墜落はさっそく報じられていた。暴走事故を起こしたトリニティに対して日本政府と御坂グループは連名で抗議している。

 

 アームズフォートが海上で墜落したことで津波が発生したが物的、人的被害はゼロ。完璧な戦果だ。

 

 ニュース番組や主要なニュースサイトではアームズフォートの墜落を繰り返し映しており、AC二機と繰り広げた戦闘そのものへの言及は不自然なほど避けている。

 墜落原因も「AIのエラー」だとか「詳細不明な事故」と印象付けるよう言葉を選んで報道していた。

 

(あれだけ生中継で映してからじゃ遅いだろうに)

 

 撃墜された今になって始まった報道管制にエリスは思った。

 

 REVは命じられるまでもなく、SNSでの反応を抽出して新たに表示してくれた。

 SNSではソラリスを沈めたアークセイバー、そしてイレギュラーネクストであるイクリプスの名が盛んに叫ばれている。

 

 

「これで今日の予定は一つ消化っと」

 

 ガレージに着き、トレーラーから降りると、赤髪の美少女は大きく伸びをしながら呟く。その動作で肉感的で綺麗なお尻が、きゅっと引き締まる。

 

 自分と相棒しかいないパーソナルな空間にいると、リラックスできる。 

 

 ガレージには、REVの手で万全のセキュリティが整えられている。さらにエリスお手製のトラップも至るところに設置済み。

 

 恐らくササラとリゼのガレージも似たようなモノだと思う。

 

 電脳サメが赤髪の長身ヤンキー娘の周りを泳ぎながら告げる。

 

「次は桐島ミコとの親睦会だね。予定の時間まで昼寝してもいいよ、僕が起こしてあげるからさ」

 

「やめとく。ギリギリで起こされたらたまらん」

 

 今回のアームズフォート撃墜作戦を持ちかけてきた桐嶋ミコのお屋敷にお邪魔させてもらう。今後はフィクサーとして仕事を回してもらうことになっている。

 

 ミコに会う前にエリスはリフレッシュも兼ねてシャワーを浴びることにした。

 ガレージの更衣室には少し狭いがシャワールームが設けられている。体を洗って次の予定に備えのだ。

 

 ナノスキンスーツの手首にあるフィッティングスイッチを押せば、すぐに被膜が伸びて肌から剥がれる。

 

 スーツと肌の隙間に一気に空気が入り込む。それを媒介に汗の匂いと熱気が一緒になって首の穴から広がってきた。

 

「うっ」

 

 匂いと熱の濃さにエリスは顔を顰めつつ、スーツを足元に降ろして真っ裸に。

 

 煌めくような汗を纏った白い裸身だ。

 無駄がなく、筋肉質気味。腹筋など綺麗に割れている。それでいて赤髪のヤンキー娘は大きめな胸と豊かなヒップを備えており、とてつもなく魅惑的だった。

 

 そんな全裸の赤髪美少女が羞恥の欠片もない大股な歩みでシャワー室に入り、熱いお湯を汗を流す。

 

(シャンプーとボディソープ買っておいて正解だった♪)

 

 しばらくお湯の気持ち良さを堪能してからボディソープを塗りたくり、エリスは隅々まで丁寧に洗う。

 

(好きなだけ風呂に入れるってのがこの時代の良いトコロだな)

 

 二百年前、エリスが駆け抜けた大戦は現在では再構築戦争と名付けられてるらしい。

 地球全土の破壊と人類の過半数の抹殺。その後の再生を目論んだ惑星アリシアの異星文明起源AIとの戦争である。

 

 最終的にエリスを含めた傭兵部隊(レイヴンズ)が完成したばかりの航宙戦艦で特攻を仕掛け、コジマ兵器の無制限使用で異星AIを殲滅。

 

 戦争は地球人類の勝利に終わったが、異星AIの目的の半分も達成されていた。

 地球の生態系は破壊され、人口は戦争前の三十%を割ったのである。

 

 そして、惑星アリシアから生還したACはただ一機。"クルーシブル"。赤髪の少女が駆る機体であった。

 

 月の裏側に開いた超空間ゲートから訪れた地球人類に友好的であり、絶滅した創造者の代わりとして奉仕してきた異星AIがこのような暴挙に出たのは、彼らが人類の歴史と創造者の歴史を重ね合わせ、妄想的な終末思想に陥ったことが原因であった。

 

 あの頃は仲間達や養父と共にACを駆っての戦闘に明け暮れた。強大な異星兵器を相手に勝利を重ねたものだ。

 充実していたが、シャワーを浴びたりのんびりできる時間は殆どなかった。

 

 異星AIを殲滅し戦争を終結させた後、倦んで海底でコールドスリープしていたエリスだけが、この世界を生きている。

 

 

 正確には隣で漂ってる電脳サメも一緒だが。

 エリスと身体感覚を同期しているわけでもないので、電脳サメにとってお風呂は退屈な時間だ。

 

 身体は十分洗ったし、ヨシ。

 

「そろそろ上がるとしますか」

 

 エリスはシャワーを止め、タオルで身体を拭った。学園での姿ではなく、本性を曝け出してミコの家にお邪魔する。

 

 

 

 数時間後。ジャケットを羽織り、ヒップラインや太股が艶めかしいホットパンツ姿の赤髪ヤンキーギャルは迎えの車を待つ。

 

 予定時間の十五分前に着いていた。ジャケットに両手を突っ込んだ恰好で辺りを見渡し、それらしい車を探す。

 

(あれだな)

 

「うん、間違いないね」

 

 REVが肯定する。やってきた車の運転者はメイド服を身に着けていたので、すぐにミコが手配した者だと分かった。

 

「お待たせいたしましたエリス様」

「今着いたところだから大丈夫。それより迎えありがと」

 

 メイドと話しながらエリスは後部座席に座った。

 シートにお尻を乗せ「おおっ?」と思わず声を漏らす赤髪ヤンキー娘。驚くほど上質なシートだった。

 

 車が向かった先は高い丘の上にある屋敷だ。日本国内最大の海上都市(メガフロート)、海鵬市の本島は広大であり、緑地が整えられ、地形には起伏がある。

 

 ミコはメイド達と一緒にこの屋敷で暮らしている。両親は不在。一応ビジネスパートナーになる相手なので調べておいたが、中々に複雑な家庭らしい。

 

 左右に整列したメイドたちに出迎えられる――――下はエリスと同年代から上は三十代前半までが恭しく礼をする。

 

 車から降りたエリスは圧倒される思いであった。

 視線を落として自分の服装を見つめると、「ちょっとラフ過ぎたかな?」と今更になって呟く赤髪ヤンキー娘であった。

 

 

「お招きありがとうせんぱ…ミコ」

 

 はじめて会ったときに頼まれたように呼び捨てにして、この館の主の名を呼んだ。

 

「遠慮なく寛いでくれたまえよ神薙くん!」

 

 通されたラウンジで桐嶋ミコ自ら出迎えてくれた。背は低く、まだ中学生に見えるが高校二年生である。

 

 隣には青銀髪ポニーテールのメイドが油断なく立っている。メイドは刀のように鋭い眼差しを柔和さの鞘に収めていた。

 他のメイド達とは違い、ロングスカートにスリットを深く入れており、両脚が露わになった艶やかな装いである。

 このサムライ風メイドはミコの直属の護衛であるレネだ。

 

「んっ? どうかしたのかね神薙くん?」

「いや-その。服装をちゃんとしてくればよかったかなと」

 

 ミコの前に立って、小柄な先輩の服装を見てから、エリスはやはり普段着で来るべきじゃなかったと軽く後悔した。ミコは正装していた。

 

 深い青色の旗袍(チャイナドレス)。細身で繊細な身体のラインを首まで縁取っている。

 ミコの旗袍はツーピースになっている。ボトムはスカートではなく、ショートパンツ状にアレンジされているので、正確には旗袍風の衣装と言うべきかもしれない。

 

「今夜は満漢全席かな。僕は着替えたが、エリスはどうする?」

 

 REVが嫌味な調子で囁く。電脳サメのアバターは一瞬にして中華風の衣装を着込んでいた。

 

 不意に奥の扉が開いた。

 メイドに先導されて金髪ツインテールと黒髪を上品に編み込んだ、美少女が姿を見せた。

 

「エリスも来ていたか」

「そっちの姿もワイルドな素敵だね♪」

 

 ササラ・レイフィールドと黒識リゼである。二人とも透き通るような生地の旗袍を身に着けていた。色はササラが白、リゼが黒。

 戦闘用ハイレグスーツと揃えたチャイナドレスは金色の刺繍で華やかに飾られている。

 

 ぴったりと張り付くようにして、瑞々しい肉体を露わにする蠱惑的なドレスと言わざるを得ない。ササラとリゼの巨乳が生地を押し上げ、凶悪なまでにアピールしている。

 

 下半身は素肌の大部分を魅せている。

 サイドスリットが脇腹まで入っており、程よく筋肉質な長い脚は完全に剥き出し。露出しているのは肌だけで、本来見えるはずのパンツの紐が存在していなかった。

 

 動くたびに細長く前垂れが際どく揺れている。

 ササラはクールな表情を維持しているが、下半身の涼しさが気になる様子。一方、リゼは全然平気そう。

 

「やはりお二人とも美人ですから何を着ても似合いますね」

 

 長い金髪のメイドが陽気に言う。

 

「せっかくの宴なので君たちに相応しいドレスを用意しておいたよ。当然、神薙くんの分もある、着るかい?」

 

 ドレスコードだとかマナーだとかあまり気にしないミコなのだが、文句なしの美少女であるエリス達が着てくれたら嬉しいなくらいのつもりで旗袍を調達しておいたのだ。

 

 

「お言葉に甘えて!」

 

 声を弾ませるエリス。大助かりであった。

 Win-Winな結果に終わり、ミコも満足であった。

 

「燈火アリアと申します。よろしければお見知りおきを!」と陽気な金髪メイドさんが近寄ってきてエリスに名乗った。

 

「ではエリス様もあちらの部屋にお願いします。

 赤が似合うと思うのですが好みに合いますでしょうか?」

 

「いいね! 赤大好き!」

「それは良かった」

 

 軽い足取りで更衣室まで向かい、エリスは深紅のチャイナドレスを纏って再び現れた。

 

 二人の着ているものと同じく、薄くてぴっちり。脇腹までのサイドスリットで脚が丸見えだ。赤髪の後ろ髪は纏め上げてある。

 

「お待たせ! それとありがとな、ミコ!」

 

 片手を腰に当てたポージングで堂々と皆の前に姿をみせる。「おー」とミコ、アリア、リゼの三者は拍手して見惚れている。

 

「このドレスはすーすーするので少々落ち着かない。エリスは平気なのか?」

「全然平気。前のスカートがひらひらするのは気になるけど」

 

 ここまで腰回りが心許ない服を着たことがない金髪ツインテであった。

 とは言ってもササラが学園で着ている制服は超ミニだし、下着だってスポーツタイプのTバックを愛用している。

 露出度の高い恰好には人並み以上に耐性があった。

 

 パンツもスリットに合わせたモノが用意されていた。

 

 前と後ろから挟んで固定するいわゆるCストリング。一応、局部はカバーされていて付け心地も良いが、覆う面積は最小限なインナーである。

 

 しかも、見せるわけでもないのに見栄えを意識したデザインになって、それぞれ異なる色のものを貸してもらっている。

 

「前気になるよね~ところで、エリスの下はどんな色かな?」

 

 足早に近寄ると、黒髪シニヨンの妖艶JKはエリスの旗袍の前を摘まんで、当然のように捲ろうとする。

 

 旗袍は布一枚が股間前に垂れているだけなので、指でつまんで捲れば簡単にインナーが露わになる構造だ。

 

「わっちょ! やっぱ油断も隙もないなお前!」

 

 エリスはリゼの手首を掴んでガードする。戯れているだけなので、柔道の技で投げ飛ばしたりはしない。

 

「やめないか。無礼だろう」

 

「ごめん。エリスが可愛いからつい、ね。許して?」

 

「それはまあ。女同士だし、下着くらい言ってくれれば見せるよ」

 

 ササラが割って入り黒髪の相棒を止める。ミコはエリス達の姿を少し離れたところから見守っている。

 

「ははは、上手くやれそうじゃないか」

 

 じゃれ合っていると電脳サメがエリスに呼びかけてきた。

 

「ああ。楽しくなりそうだ」

 

 エリスはREVに返事する。いつ大切な相棒であるREVを紹介しようか、タイミングを考えてもいた。

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