日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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ウルティマ・ラティオ

 

 軌道上から投下された物体を、最も近い位置にいるイクリプスのレーダーが捕捉、レーダー情報を共有しているアークセイバーと輸送機にも光点が表示された。

 

 コジマ粒子反応を示すそれは、機体のサイズから推測しても、アーマードコア・ネクストであることは間違いなかった。

 イーハトーブ・エアサービスの超大型輸送機とその護衛である少女達に緊張が走っていた。

 

 降下してくるネクストはオープン回線で呼びかけてきた。

 

「こちら、クロムバウ所属、"ウルティマ・ラティオ"! そっちの輸送機とノーマルを傷つける気はない、悪党退治を手伝うよ!」

 

 少女の陽気な声だった。

 

 急速降下して姿を現したウルティマ・ラティオは洗練されたレイアウトの重装甲を備えた中量二脚タイプのネクストだった。

 

 新鋭機"GAN02-NEW-SUNSHINE"のフルフレーム、砂色のカラーリング。

 散弾と大型のバズーカによるダブルトリガー。右背部に大型グレネードキャノン、左背部にはミサイルポッド、エクステンションにはECMユニットを装備、クロムバウのネクストらしい破壊の化身だ。

 

(クロムバウの最上位ネクスト! こいつは超大物だね!)

 

 REVがエリスに呼びかける。

 あのネクストとリンクスの情報は入手してある。

 

 リンクスはアンヘラ・アール・アルパ。複数のネクストを撃墜している、クロムバウ最強リンクスは十代後半の美少女であった。

 情報によれば幼少期にクロムバウの専門機関に見出され、リンクスとしての英才教育を施された生粋のネクスト・ドライバーだ。

 

「んーと、あのリンクスの言葉は信用していい、かな」

 

 エリスはREVとササラに告げた。

 

「了解した。輸送機は任せてくれ――――機長、イクリプスから通信があった。クロムバウのネクストの言葉は信用していいそうだ」

 

 金髪ツインテールの美少女レイヴンは異論は挟まない。ササラが操るアークセイバーは二丁のスナイパーライフルを油断なく構え、輸送機を守る。

 エリスの仕事は輸送機が日本の領空に入れば終わりだが、ササラとリゼは空港に着陸するまでの護衛が仕事だ。

 

(流石はミコだね。退屈しない仕事を回してくれる)

「桐嶋先輩もこれは想定外だろ。けど退屈しないってのは同感!」

 

 エリスはクロムバウの重装ネクストの動きに注視しながらイクリプスを操った。

 

 

「さあ、ゲームの時間だウルティマ・ラティオ! ボクらの力をイクリプスに見せてやろう!」

 

 ウルティマ・ラティオのドライバーシートに座するアンヘラは待機任務からの解放に昂り、愛機に語り掛ける。

 

 アンヘラは百八十cm近い長身だ。金髪で健康的な小麦色の肌をしている。引き締まった肉体美をしていながら胸と尻は巨大であり、魅惑的だ。

 

 自由奔放な気質をそのまま反映したような肢体を包むのは高G機動に耐えられるリンクス専用パイロットスーツ。

 

 小麦色の肌に直接着用しているそれは漆黒のソフトスキンと、首元と四肢を保護する砂色のハードシェルで構成されている。

 

 肌に隙間なく張り付き、趣味の一つでもある筋トレで鍛え上げた腹筋や官能的なヘソが浮かんだ、ソフトスキンの黒い艶は裸よりもよほど煽情的だ。

 

 形に沿ってラッピングされた巨乳が重力加速度で暴力的なまでに揺れ弾む。

 

 アンヘラはストレスや違和感を一切感じることなくネクストと繋がっている。最高クラスのAMS適正によるものだ。

 

 二機目のネクストが参戦したことで、流石に反転し始めたトルベリ飛行MT部隊に向けて、上空から火砲を解き放つ。

 

 右手の拡散バズーカと背部ミサイルのトリガーを一回引くだけでMT部隊は全滅した。

 バズーカから発射された散弾の大半が命中。生き残りと墜落中のMTを纏めてミサイルの雨が呑み込んだ。

 

 この戦果はFCSの性能によるものではない、搭乗者の技量によるものだ。

 アンヘラにとってはMTもネクストもそれほど差のない的だった。もはや溜め息さえ出ない。

 

 戦闘で少しでも興奮を感じられたのはレイヴンが操るACとの戦いだけだった。

 上位のレイヴンを一ダースは葬っている。皆、機体性能差に臆することも、絶望することもなく全力でウルティマ・ラティオに挑んでくれたし、時には機体を傷つけられた。

 

 レイヴン達から多くの事を学ばせてもらい、アンヘラはより強くなれた。

 

「イクリプスは……母艦を叩くつもりか」

 

 自分が撃墜したMTの事など眼中になく、アンヘラは深紅の破壊天使の動きを見守った。

 

 輸送機を襲ったMTの出所であるトルベリの母艦を捕捉したエリスはレールガンでこれを撃沈する。

 

 砲口が青い稲妻を迸らせ、放たれた大口径砲弾は対空砲火による悪あがきが始まるよりも速く着弾。

 

 艦載機の搭載可能数だけが売りの旧式航空母艦の船体を真っ二つにした。

 

 

 明らかに既存の技術力を上回る超電磁砲の威力に無邪気に感心するアンヘラ。

 

「キミも凄くいい玩具を持っているね! けどボク達のほうが強い! それを今から教えてあげるね!」

 

 ウルティマ・ラティオはオーバードブーストを起動。数瞬の点火プロセスを経て、甲高い音と共に空気の壁を突き破り音速を超えた。

 

 役目を終え、輸送機を見送っている深紅の破壊天使へと一直線。統合制御AIに頼み、機体のリミッターを外してもらう。

 

 水平線の向こう側で航行中のアームズフォート"ギガベース"との接続を開始。支援砲撃をスタンバイさせる。

 

 同時に決闘状代わりにイクリプスにレーダー照射する。

 

 三十六時間前。ウルティマ・ラティオとアンヘラはクロムバウのネクスト運用拠点の一つである兵装衛星に待機して、出撃命令を待っていた。

 本来の任務はサハラ砂漠で交戦中の自社部隊の掩護であったが、予想に反して敵が後退したことで取り止めになってしまった。

 

 そのまま帰還か別任務への派遣かの協議がアンヘラ抜きで始まり、連絡を待たねばならなくなった。

 

 アンヘラは狭いところが好きではなかったし、暇潰しになる電子メディアの持ち込みは禁止されていた。

 

 最悪だったのは大嫌いなトイレパックを否応なしに使わねばならなかったことだ。

 

 本来なら数時間の待機が三十六時間に延長され、フラストレーションが溜まりに溜まったところに公海で戦闘中のイクリプスを撃墜する指令が下った。

 

 ネクストを保有しヒエラルキーの頂点に立つ地球政府や企業を相手取り、最新鋭の超大型兵器さえ撃破してみせる独立傭兵のイレギュラーネクスト。

 

 クロムバウにとって屈辱的なイクリプスのデビュー戦を初めとした戦闘記録を繰り返し眺めるほど、アンヘラはその神話的なまでの強さに恋をした。

 

 すぐに交戦せず、奇襲攻撃の優位性を放棄するどころかイクリプスの任務を手伝ったのは、万全の状態で勝負するためだった。

 

 既にイーハトーブ・エアサービスの輸送機は安全な日本領空に入っており、アークセイバーも機内に帰還している。

 

「それじゃ後はよろしく!」

「任せてくれ。幸運を祈る」

「無事に還ってきてね、エリス」

 

 ササラは微笑み、リゼは手を振った。

 

「ありがと二人とも!」

 

 エリスは戦友達に向かって勝気な笑いを見せ、通信を切った。

 目を瞑り、息を深く吸って、吐く。

 

「それじゃ、いっちょ決闘と洒落込みますか!」

 

 目を見開いたエリスはナノスキンに覆われた右の拳と左の掌を打ち合わせ、小気味よい音がコクピットに響く。

 

 こちらもウルティマ・ラティオをロックオン。全兵装を重装ネクストに向ける。ウルティマ・ラティオは歓喜した。

 

 深紅のナノスキンスーツに身を包んだ美少女傭兵の胸の鼓動が高鳴るのに合わせ、アーマードコア・ネクスト"イクリプス"のジェネレーターは戦いの詩を奏でる。

 

 普段はお喋りなREVも押し黙り、アシストに徹している。向かってきている相手が途轍もない強敵だと理解していた。

 

 両機はほぼ同時に兵装を一斉発射。直後、イクリプスは右にクイックブースト、ウルティマ・ラティオは左にクイックブースト。

 

 クイックブースターのコジマ粒子供給を直接制御することで、本来の何倍もの推力を叩き出しており、中量二脚としては鈍重なはずのウルティマ・ラティオが高速戦型ネクスト並みに加速している。

 

 互いに完全回避には至らず、爆炎が花開き、粒子装甲が減衰する。振動を感じながら、二人の少女は獰猛に笑っていた。

 

 蒼空にて二機の破壊天使による究極決闘(ハイパーデュエル)が繰り広げられる。

 

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