日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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決着

 

 イクリプス、最大稼働。

 上昇しつつクイックブーストによるジグザグ回避で敵射線から逃れようとする。

 同時に両背面分裂ミサイルを連続発射。上空で全砲門を解放しようとするウルティマ・ラティオを狙う。

 

「悪足掻きだよ、そういうのは!」

 

 アンヘラは余裕綽々でウルティマ・ラティオにグレネードキャノンを構えさせる。

 母機から放たれた無数の子弾を爆風で一網打尽にする気だった。

 

 予想外にもミサイル群は三方向に広がった。

 

「なにこの機動!? ミサイルにどうしてこんな動きが!?」

 

 イクリプスが放ったミサイルは一つ一つに意志が宿っているかのように飛翔している。

 悪意さえ感じさせる軌道だった。

 

 流石のアンヘラも、エリスの切り札の一枚には困惑した。

 

「けど、消し飛ばしてしまえば!」

 

 だが、トリガーを引くことは躊躇わない。ウルティマ・ラティオがグレネードキャノンを発射する。

 残りの武装はイクリプスに射かけるために取っておく。

 

 戦艦主砲クラスの徹甲榴弾が炸裂。巨大な爆風と破片が三方向に分かれたミサイル群を纏めて破壊していくが、殲滅には至らない。

 

 プライマルアーマーに大損害を与えられる数が生き残り、ネクストに喰らいつく。

 粒子装甲にぶち当たり、時間差で起爆することでコジマ粒子の安定還流を著しく妨げる。

 

 ウルティマ・ラティオがプライマルアーマーを完全喪失したのは初めてのことだった。

 

 統合制御AIが最大級のアラートを鳴らし、戦乙女としての理性も危機的状況を知らせる。同時にアンヘラは最愛の人に処女を捧げたような多幸感に包まれた。

 

「よし、上手くいった!」

(当然だろ。僕を誰だと思っているのかな)

「ありがとREV! あんたは最悪だけどやっぱり最高の相棒だ!」

 

 少女と電脳サメは笑っていた。今にも踊り出してしまいそうだ。

 

 REVは分裂ミサイルの母機と子機に直接軌道を入力して、複雑怪奇な飛行コースを取らせたのだ。

 空間座標に対する攻撃なので、ECMの影響も受けない。

 

 一度使えば対応されてしまうだろうし、適切な距離と角度にイクリプスを動かす必要があったため、ギリギリまで取っておいた。

 

「さあ、ここからは私達のターン! ついて来られるもんなら来てみろ!」

 

 エリスは快闊に叫び、赤髪を靡かせる。

 今日一番の強烈な重力加速度が、ナノスキンに包まれたしなやかな裸体を責め立てた。

 人体を粉砕するほどの痛みでもエリスから笑顔を奪えない。

 

 オーバードブーストによって光翼状のプラズマ噴射を放ち、太陽フレアめいて噴き出したクイックブーストによってさらに加速。

 

 神速で天空を駆けるイクリプス。

 

 瞬きより速く、ウルティマ・ラティオが近接戦の間合いに囚われる。

 

 全力全開でジョーカーを切っていく深紅の戦乙女であった。

 

「しまっ!」

 

 長時間の戦闘による消耗でアンヘラの対応能力は鈍っていた。

 

「獲ったっ!」

 

 重厚な甲冑を纏った破壊天使に、深紅の破壊天使が上空から蹴りを叩き込む。

 アーマードコアという大質量物による、弾道ミサイルめいた蹴りが堅牢な装甲をひしゃげさせる。

 

「ぐぅ! 痛ぁっ!!」

 

 激しい衝撃。アンヘラはシートに叩きつけられ、アラートがよりけたたましく鳴り響く。

 

 両腕に力を込めて操縦桿を握り、堪える。金髪日焼け肌の美少女の魅力的な巨乳は抑えようもなく揺れ弾んで、煽情的なダンスを踊る。能天気に弾む自分の乳房にアンヘラは怒りを覚えていた。

 

 見惚れるような長い脚は、踏ん張るためにはしたなく開かれている。

 汗と性愛の匂いを色濃く発散する、極薄布越しの股間。

 

 イクリプスはブーストキックの反動で飛び上がっている。右手のオーバード・レールガンの目標は水平線の彼方。

 

「思い切り蹴飛ばしてやったのに。全く、大したやつ」

 

 エリスはアンヘラに賛辞を送った。ギガベースが報復攻撃を仕掛けてきた。ショックから立ち直り、発射指令を送ったのだ。

 

 とは言っても狙いは甘い。クイックブーストで左右に機体を揺さ振れば完全回避できる。レールガンのトリガーを引く。

 

「これは今までのお返し!」

 

 ギガベースに向けて放った砲弾は対巨大兵器を想定した必殺のコジマ粒子弾頭。

 狙いを過たず、ギガベースのレールキャノンに着弾する。

 

 即座に臨界に達したコジマ粒子の爆発が球形に広がり、アームズフォートを欠片も残さず消滅させ、なおも広がっていく。

 

 クロムバウにとって幸いだったのは、この艦がAMSによる遠隔操縦実証のため無人艦であり、人的被害はゼロだということだ。

 

 遥か彼方で上がる、終末的なコジマ爆発を眺めて勝利に浸っている暇はない。

 横にスライドするように飛翔するイクリプスの粒子装甲が大口径散弾と徹甲弾を受け止める。

 

 機体を立て直し、ウルティマ・ラティオが反撃してきたのだ。

 

 二発被弾。青緑色の光が散り、巨大な砲弾が深紅の装甲を叩いた。

 コクピットが大きく揺さ振られるなか、エリスは終幕に歩みを進める。

 

「ははっ! ボクらを足蹴にして、ギガベースを吹っ飛ばすなんて! もう言葉も出ないよ!」

 

 窮地に熱狂し、吼え猛りながら、アンヘラは逆襲する。

 

 イクリプスが応戦して、コアにライフル弾が当たるが気にしない。ウルティマ・ラティオの装甲を信じているから。

 

 ECMが厄介な分裂ミサイルを惑してくれたので、ウルティマ・ラティオは砲撃に専念できた。

 

 再びウルティマ・ラティオを近接戦の間合いに捉える前にイクリプスのヘヴィ・ライフルの大半が吹き飛ばされた。

 レールガンの冷却には時間がかかる。この戦闘で使える残りの武器はミサイルと格納ブレードだけだ。

 

 イクリプスは被弾の衝撃を活かしてクイックターン。

 

 回転で勢いをつけながら、破損したライフルを放棄。エリスの意志が奔り、コアに格納された左腕部用のブレードが射出される。

 左腕を振るって、ハードポイントに装着。接続を合図にレーザーブレードの火器管制プログラムが起動した。

 

 刀身は短いが高出力。ダガータイプの通称で呼ばれるレーザーブレードだ。

 ネクストであっても直撃すれば超高温の刀身からの熱伝導も加わり致命傷を受ける武装だ。

 

 死神の精度で光刃を振るう直前、エリスの美貌から表情が消える。

 

「終わりだ」

 

 冷たい声音で言葉を手向けた。

 温存しておいた殺気という切り札をアンヘラにぶつける。

 

「あっ――――」

 

 アンヘラは突如放たれた純粋な殺意に竦み、一瞬だけ思考を停止させてしまう。

 

 接近戦において、イクリプスの高速駆動系は絶対的な威力を発揮した。

 

 閃鋭が奔った。

 

 機体の損傷は激痛としてアンヘラに反映される。

 

「い゛い゛い゛ッ!?」

 

 アンヘラは絶叫しながら四肢を振り乱して暴れる、反射的な行動を取ってしまう。

 

 墜ちていく。ウルティマ・ラティオの上半身と下半身は分断されていた。

 

 ウルティマ・ラティオの統合制御AIは自己判断により、アンヘラを苦しめる痛覚へのフィートバックをカット。

 残りのエネルギーを注ぎ込んで姿勢制御を行い、コクピットブロックを射出した。

 

「そんな、やだよ」

 

 正気を取り戻したアンヘラは、遠くなっていく愛機に向けて右腕を差し出した。手が空しく宙を泳ぐ。

 頬を一筋の涙が伝う。海面に叩きつけられ、コクピット全体が激しく揺さ振られた。

 

 

(ネクスト"ウルティマ・ラティオ"及びアームズフォート"ギガベース"の撃破を確認)

 

 REVが戦闘終了を宣言。静かな声だ。

 

 エリスは呼吸を整え、エアバッグを作動させて海面に浮かぶコクピットブロックに視線をやった。

 救難信号は正常に発されている。クロムバウは大急ぎで自社のナンバーワンリンクスを救助しに来るだろう。

 

「よっしゃ! 対戦ありがとうございました! 帰ろう、REV」

 

 アンヘラに礼を述べ、相棒に告げるエリスの表情は晴れやかだ。ゲームの対戦に勝った気分だ。

 神薙エリスはどこまでも小学生男子メンタルな戦乙女であった。

 

 イクリプスがオーバードブーストで空域を離脱する。

 

「また、遊ぼうね。ボクもウルティマ・ラティオも、もっともっと強くなるから」

 

 コクピットハッチを解放したアンヘラは涙を拭い、遠くなっていく深紅の破壊天使に笑顔で手を振った。

 空は青くて、綺麗で、太陽は汗に塗れた躰に眩しく降り注いでくれた。

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