日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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エピローグⅠ

 

 イーハトーブの超大型輸送機の着陸は滑らかで、機長の高い技量を物語っていた。

 大量の貨物を抱えた、巨大な白い鉄鳥がタキシングしていく。

 

 ぴったりとしたパイロットスーツに対照的な肢体を包んだ機長と副機長は、非武装の輸送機で紛争地帯を潜り抜けた経験もあり、戦闘の光景は見慣れている。

 

 初めて垣間見たアーマードコア・ネクストの戦闘は衝撃的ではあったが、普段と変わりなく機体を降りている。

 

 イクリプスはクロムバウが寄越したネクストと戦闘に突入したようだが、大丈夫だろうという確信めいたものがあった。

 

 駐機場を後にする時、ふと副機長が振り返った。

 

「アークセイバー、やっぱりカッコいいなぁ」

 

 可愛らしいピンク髪の副機長は目を輝かせる。

 ササラ・レイフィールドと黒識リゼの駆るアーマードコア"アークセイバー"の活躍は、戦闘映像が動画サイトなどに時折アップロードされており、比較的知名度は高い。

 

 直接の護衛を担ってくれたレイヴンの白と青のACは貨物室から降り、迎えのトレーラーに移っていく。

 日本の領空を傭兵の機体が飛び回ることも、道路を我が物顔で闊歩することも当然許されていない。

 

 魅惑的な声をした、黒髪のサブパイロットが、カメラで捉えた自分を見て手を振っているような気がした。

 

「置いていきますよ、副機長」

 

 突っ立って美しいACを眺める副機長に言葉をかける機長は歩みは足早だ。

 

「あっ待ってくださいよ先輩~」

 

 慌てて駆け出し、機長の修道服めいた黒いスーツの大きなお尻を追いかける副機長であった。

 並んだ輸送機乗りのお尻はリズミカルに弾み、デュエットを踊った。

 

 

 メインシステムを通常モードに切り替え、火器管制システムをロックしたアークセイバーはAC用トレーラーに運ばれ、ガレージに帰還する手筈だ。

 本土の空港からメガフロートのガレージに運ぶため、一度チャーターした輸送船に乗せる必要がある。

 

 空港から直接帰還できる輸送機を手配できなかったのが痛かった

 ササラとリゼは女子高生にとって貴重な日曜日の大半をコクピットで過ごすことになる。

 

 今回の任務と日本国内という場所柄もあるが、ACの帰還というものは手間と時間がかかる。

 それを差し引いても、レイヴンが得ることができる報酬は莫大なものだった。

 

「エリスから通信!――――良かったぁ無事に勝ったって!」

 

 イクリプスからの連絡だ。リゼは喜びに声が弾み、思わず身を乗り出してササラに伝えた。

 

 クールな金髪ツインテ美少女の反応は「そうか」という言葉一つと静かな微笑みだけ。

 互いの実力を確かめるためにぶつかり合った間柄故に、エリスの強さは良く知っている。

 相手がクロムバウ最強のリンクスであっても、負けることないと信じていた。

 

 リゼはシートに深く身を預ける。蠱惑的な少女は友人としてエリスを心配していた。

 

「これで気兼ねなくシャワーが浴びられるわ。ねえ、ササラ」

「なんだ?」

 

 妖しく微笑みながら、金髪ツインテールの相棒に呼びかける。

 並みの相手ならこの声音だけで堕とせるリゼであるが、ササラにはまるで通じない。

 

「ガレージに戻ったら一緒にシャワー浴びない? 髪、洗ってあげる」

「私達は水道光熱費を切り詰めるほど困窮していないぞ。一人で好きなだけ浴びればいい」

 

 リゼの誘惑を拒んだのか、あるいは誘惑されていることに気付いていなかったのか。

 孤高の聖騎士然とした金髪ツインテールの美少女レイヴンは素っ気無かった。

 

「もう、つれないんだから。私一人で寂しくお風呂に入るからね! 入りたくなっても入れてあげないよ!」

 

 腕を組み、ぷいっと不機嫌そうにそっぽを向くリゼであったが、相棒の反応は心地よく嬉し気だった。

 

 

 巨艦が浮上、イクリプスは華麗に着艦する。

 艦の主が操る深紅のACを収容した工廠艦ツクヨミは直ちに潜航した。

 

「うーし、風呂風呂」

 

 ツクヨミに帰還したエリスはシャワールームに直行。

 今日のミッションの爽快な戦いを反芻して、ご満悦である。深紅のナノスキンスーツで覆った、安産型の尻は軽快に揺れている。

 

 ナノスキンによる洗浄はまだ間に合っていないので、筋肉で引き締まった乙女の裸体は汗で蒸れている。

 

 手首のスイッチ一つでナノスキンスーツの密着は緩む。蒸れた熱気が勢いよくスーツの首穴から溢れ、エリスは思わず顔を顰めた。

 美麗な裸体を露わにして立つエリス。空調が効いて、赤髪の戦乙女の体を冷やしてくれる。

 

 ふと思いつき、スーツの首穴に顔を近づけ、匂いを嗅いでみる。

 

 魅惑的な乙女の香りと、濃厚な汗の匂いに、アドレナリンがブレンドされている。

 性愛の香りはしない。エリスが感じていた興奮は純粋な歓喜なのだ。

 

 「あはは、やっぱりくっせ! REVも嗅いでみなよ!」

 

 ナノスキンスーツの中の蒸れた匂いを吸い込み、エリスはバカ笑い。深紅のスーツを視界に浮かぶREVのアバターに突き付けた。

 

「いいや、ゴメンだね」

「なんでよ~嗅げって」

「はぁ。いいから、はやくシャワー浴びなよ。というか、僕に人間のような嗅覚はないって知っているだろう。あーそれと、スーツはメンテナンスに入れるから調整ユニットに収納しておいてくれよ」

「はいはい。おふざけはこれくらいにしますよっと」

 

 素っ裸のまま、REVと問答を繰り広げるエリスだった。

 

 シャワーで汗を流し、迷彩柄のハーフトップとパンツ姿になったエリス。

 言われた通りナノスキンスーツを調整ユニットに仕舞い込んでから、自室のベッドで寝転んだ。

 

「そっちも無事帰還中か。なんか悪いね、こっちだけ先に寛いじゃって」

 

 タブレット端末を手に取り、移動中のためコクピットに缶詰になっているササラとリゼにコールして、お喋りする。

 

 二人の暇潰しになるよう、ウルティマ・ラティオとの戦闘を語って聞かせ、戦闘ログも渡している。

 

「それでさ、向こうがドガガガガっと撃ってくるもんだから、私はオーバードブーストでもってさ、もうビューンっとかっ飛んでやったわけ」

「なるほど、なるほど」

「砲撃から逃れるためにOBで離脱して、廃棄フロートでビルを遮蔽に撃ち合ったんだ~ログを見させてもらってるけどこのマニューバは――――」

 

 戦闘を語る時、エリスはさほど優れた語り手ではないが、金髪と黒髪の女子高生傭兵は良い聞き手だ。

 話を最後まで聞いてから、エリスが答えたくなる質問をぶつけている。

 

 終わり頃には、AC同好会の皆も交えて遊びに行く話など女子高生らしい会話をしていた。

 

「それじゃまた明日学園で!」

 

 通話を切ると、そのままエリスは寝入った。たくさん遊んで疲れた子供そのものだ。

 

 すやすやと寝息を立てている。その寝顔は清らかな乙女のもの。

 時折、寝返りを打って迷彩柄の股間が大股開きになるのが玉に瑕であった。

 

 駆動音が深海のロストテクノロジー工廠艦に響く、主要な音になる。

 

 REVはやれやれと思いつつ、今や利用者はエリス一人となった食堂の厨房、自動調理機に接続し、明日の弁当まで含めて食事を作っておく。

 腹を空かせたエリスは面倒臭いので事前に手を打っておく必要があるのだ。

 

 本日の赤髪の小娘の気分や最近摂取した食事の記録、栄養バランスなどを考慮してメニューを組み立てていく。特にエリスの気分は最重要要素だ。

 食材そのものは豊富なので、気にする必要はない。

 

 AIであるため、REVに味覚はないが、料理とは科学でありコンピューターが計算で弾き出せるものだ。

 端的に言って電脳サメは料理上手だ。

 

 ぐっすり寝入ったエリスは夕食の時間に起こしてやろう。

 ネクスト戦初勝利と企業のトップリンクス、アームズフォートの同時撃破を祝って豪勢にしよう。

 メインディッシュはビーフストロガノフにして、付け合わせのマッシュポテトもたっぷりにするか。

 

 異星人工知性群を殲滅するべく、あらゆる倫理的束縛を課さずに構築されたイレギュラーAI、人類悪意の結晶にして、戦闘破壊を権能とする己が今や料理当番とは!

 十歳のエリスと引き合わせられ、その野生児ぶりに振り回された時から、REVは己が本来の在り方から逸れていったのだと思っていた。

 

(エリスが機能を拡張するのは歓迎すべきことだ。だけど、僕の役割が奪われるのは困るなぁ。しかし三日坊主で終わる可能性も高くあり、その時に煽れば僕は愉快になれる。うーん悩ましいな)

 

 調理を続けながら物思いに耽る電脳サメ。エリスも近頃料理を覚えようとしている。なんだかんだ、あの娘は飲み込みが早いのでマトモな料理ができるにようになる日はすぐだろう。やる気が続けばだが。

 

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