日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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大物狩り

 赤髪の少女エリスと電脳サメAI型REVの復帰戦。そしてアーマードコア・ネクスト"イクリプス"の初陣。その第二ラウンドとなった首都での戦闘は一方的な展開となっていた。

 

 大隊長自ら率いる二個中隊が全滅し、その襲撃機がネクストACであるとの報せは別動隊に届いており、彼らはできる限りの戦術をその場で講じた。

 

 しかし、戦闘力の差は歴然であった。

 第五世代、最新の量産機で構成された大隊はその威力を発揮することなく残骸に替わっていった。

 

『こっこんな話聞いてねえ!』

 

「他人の土地荒らしにきといて今更怯えてんな!」

 

 逃げるように曲がり角の向こうに飛び込んだ角ばった武骨なノーマルAC、SOLARWINDが真紅のネクストACに切り捨てられる。爆発でジョイントが吹き飛び、五体が四散する様はまるで玩具のよう。

 

 イクリプスのコクピットでエリスは吠え猛る。既に神経直結でACそのものを己の躰として操るAMSに適応しており、戦場の空気を肌で感じることに歓びを見出していた。

 

 真紅のネクストは地を蹴り、垂直ブースト上昇。そこを狙ってミサイルが飛来してきたが、粒子装甲で受け止める。爆炎を振り払うように、クイックブーストで右に大きく動く。

 

 残った敵機は遮蔽となる建造物から飛び出て、ブーストジャンプを繰り返す回避運動に入っていた。エリスはREVに生き残りの始末を任せることに決めた。

 

「REV頼んだ! 全自動管制射撃(オートマチック・スマートファイア)!」

「任された」

 

 射線がクリアになる高度で、イクリプスはライフルを地上に突き付ける。

 残った敵機を囲むターゲットコンテナが一斉に緑から赤に変わる。統合制御体となっているREVは敵機の機動パターンを演算解析。右手に握った大口径ライフルの弾道も計算して、必中の精度で連射する。

 

 機動兵器として高い運動性を持つACの動きであっても電脳サメの演算能力の前では、赤子同然だ。全弾命中。箱を組み合わせような人型機動兵器が路上に倒れ、擱座する。

 

 爆散する機体もあったが、建造物への被害はごく軽微。すべてREVの計算通りだった。

 

「ライブ配信は続いている。反応は上々。勇気ある野次馬に感謝だね」

 

 赤髪の少女の意識に電脳サメの声が木霊する。エリスの視界の片隅に滞空するイクリプスを映したライブ映像が表示された。

 戦闘中だというのに、撮影ドローンを飛ばしたり、あるいは生身でカメラを向けて配信を行っている輩が結構な数いる。

 

 電脳サメAI"REV"は統合制御体としてエリスをサポートしつつ、ネットワーク上の各所で配信されている映像が妨害されないよう、クロムバウの干渉を要撃していた。

 

「いい宣伝になるかな?」

「ノーマル一個大隊の撃破だけでもアピールになるさ」

 

 呼吸を整えながらエリスは相棒に訊いてみた。それにしても――――

 

「ノーマルって呼び方、どうにもしっくりこないなぁ」

「そのうち慣れるよ」

 

 ノーマル――ネクストに対する非AMS搭載型アーマードコアの呼称である。

 第四世代(ネクスト)で確立された技術を基に火力や装甲を強化し、ネクストを超える気概を示した第五世代だが、依然として両者の戦闘力には大きな差があった。

 

 首都から敵影が消えても、イクリプスは戦闘態勢を解かない。予想していなかった第三ラウンドが始まろうとしていた。

 

 

 衛星軌道から投下された二つの物体が市街地に落下するまでのカウントダウンと3Dモデル映像を睨む。

 

「痛っ」

 

 エリスは不意に強まった頭痛で目頭を抑えた。

 

「AMSの負荷がキツくなってきたかな? 僕のほうでもできる限り情報流の負担は減らしたつもりだったんだが」

 

 ほんの少しだけ労わるような口調で電脳サメが言った。

 

(意外と思い遣りがあるんだなREVって)

 

 研究所に保護された幼い頃からREVと一緒に育ってきたエリスだが、リンクスと統合制御体という関係になって互いの意識を深くリンクさせたこと初めて電脳サメに他者を気遣う感性があることを識った。

 

「ちょっと頭が痛いだけ。まだまだやれるぜ。上から来てるデカいのを片付けるくらいできる」

 

 AMSを介した神経直結には先天的な適性が必要であり、エリスの適性は辛うじてあるという劣悪なものであった。そのままではレスポンスに難があるため、精神負荷を代償に接続深度を上げている。

 

「臨時ブリーフィングお願い」

 

 おヘソや腹筋が浮き出るくらい薄いナノスキンスーツ姿の美少女は気合を入れ直して操縦桿を握った。

 

「OK。衛星軌道より市街地に降下中の新手はバオフゥ・グループの大型MT。殲滅タイプとして悪名高い轟騎二型だ。既にグループはクロムバウの横暴に対して義勇軍を送り出したと声明を出している。当然ながら公国からの承諾はなし。恩の押し売りで地下資源をせしめるつもりだろう」

 

 電脳サメが資料映像を投射しながら説明する。エリスの意識のなかで意地悪そうな笑顔のサメが泳ぎ、表示されている大型兵器の映像に近寄る。

 

 装甲で覆われた砲を武骨な四脚で支えるというシンプル極まりないフォルムの轟騎は有数の大艦巨砲、大火力主義で知られるバオフゥ・グループの兵器思想の体現の一つだった。

 

「見ての通り、コイツは殲滅特化型だから火力が凄まじい。ネクストのプライマルアーマーではとても耐えられないよ。だが、近接防御に穴がある。制御AIが砲撃特化で判断も鈍い」

 

「懐に飛び込んで、ズバっとやればいいわけね」

「そういうことだね――――っと敵機から熱源反応多数っ!」

 

 イクリプスは瞬発力のある動きで飛翔。エリスはオーバードブーストを起動して、機体を音速まで加速した。

 

 四脚と砲を折り畳んだ降下態勢を解除して戦闘モードになった二機の大型MTは早速膨大な数のミサイルを市街地に放ってきた。

 既に倒すべきクロムバウの部隊は無力化されているが、イクリプスを敵機と認識して攻撃。それどころか首都に展開をはじめたノイシュタイン公国軍までロックオンしていた。

 

 殺到してくるミサイルをプライマルアーマーで防ぎながら、真紅のネクストは敵機に迫る。

 

「なんちゅう雑なAI! そもそも市街戦に投入するようなものじゃないだろうに!?」

「この大雑把さがバオフゥの社風なんだってさ」

「ふざけてやがる」

 

 思わず悪態をつくエリスであった。

 

 マニューバを駆使して被弾によるコジマ粒子の減衰を抑えつつ、大型兵器の一機に肉薄する。ナノスキンスーツに包まれた少女の肉体がシートに強く押し付けられるが、エリスの美貌の勇猛さが陰ることはない。

 

 流れ弾で公国の首都が誇る古風な街並みは大きく損なわれていた。

 市街地を蹂躙する巨大兵器に惑星アリシアの自律兵器を重ね、赤髪の少女は怒りを燃やしている。

 

「いいかエリス。ジェネレーターの一点を突き刺せ。そうすれば墜とせる」

「理解ってるっ!」

 

 轟騎のミサイルを振り切ると、REVが示した腰部ジェネレーターめがけてレーザーブレードを突き込む。武装に回すエネルギーを全て左腕の02-DRAGONSLAYERに回して出力を高めてある。

 

 白く輝くプラズマの刀身が機械の醜悪な怪物めいた殲滅型MTの心臓部をぶち抜く。溢れ出たエネルギーが暴走し、轟騎を飲み込む。

 

「ふんっぬぅっ――――!」

 

 ナノスキンスーツの性能とコクピットの周囲に注入した耐Gジェルでも打ち消しきれない強烈な荷重がかかる機動でエリスは雄々しく呻いていた。

 サイドブースターでクイックターンをかけてイクリプスは既に反転。最後の目標に向かってパワーダイブで突撃する。

 

 もう一機の轟騎との距離はかなり開いている。

 敵MTは既に着地していた。四脚で地を踏み締め、搭載している火器を出鱈目に乱射して、都市が炎に包まれていく。

 強固なシェルターに市民は避難しており、生身で戦闘地帯に出ている野次馬たちも奇跡的に無事ではあった。

 

 しかし、時間をかけるのは人命に関わる。エリスは一気呵成に敵を打ち倒すべく、無茶をすることを決意した。

 

「もっと寄こせREV! 遠慮なんかするな!」

 

 砲弾や爆発を防ぐことで生じたプライマルアーマーの輝きに包まれながら、エリスはAMS接続の深度を最大にするよう電脳サメに要求。エリスの操縦にイクリプスは追従し切れておらず、被弾している。それが腹立たしい。

 

「なら接続深度は最大にしようじゃないか」

 

 REVは躊躇なく要求に従った。常人であれば数千回発狂するほどの情報流が赤い髪の戦乙女に叩き込まれるが、理不尽なほど頑丈な身体と精神力を持つエリスはこれを飲み干す。

 

「これだ! これでいいっ! さあ、ぶっ飛ばしてやんよっ!」

 

 肉体と精神にかかる極限の激痛さえ闘争の歓びに変え、アーマードコア・ネクスト"イクリプス"に最大以上の性能を発揮させる。

 

 轟騎は主砲であるリニアキャノンをイクリプスに向けて発射した直後、敵機をロストした。巨大な砲弾がビル群を粉砕したときに巻き添えにしたのではない。

 

 完全に機体と合一したエリスはブースターを自身の意志のみで制御して、通常よりも高い出力でクイックブーストを連打。ビルを蹴って跳び跳ねる動きも織り交ぜ、オーバードブーストを点火して最終加速。轟騎の懐に潜り込む。

 

 02-DRAGONSLAYERの白刃はその名の如く、竜殺しの聖剣さながらに輝いて灼熱を放つ。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 美少女が出してはいけない雄叫びと共に繰り出される一撃必殺の斬撃。

 

 レーザーブレードはMTの腰部を紙のように切り裂いた。勢いが殺しきれず、低い姿勢で路上を滑走する真紅のネクストAC。

 戦闘の熱狂からエリスを醒ましたのは、進路上にある建物だった。

 

「やっやばいっ!」

 

 バックブーストで減速をかけ、建物を取り囲む高い壁に触れる直前でイクリプスは停止した。

 

 ネットワークの極度の発達で二世紀前から生身での通学や通勤という概念は廃れつつあった。そんな時代にあって、数少ない学び舎がエリスの足元にある。

 

「ふぅ危なかった」

 

 額の汗を拭う赤髪の美少女。綺麗な建物を壊さずに済んで良かったと心の底から思っている。

 

「なんだエリス? 学校に興味があるのかい? やけにセンサーが反応しているぞ」

 

 接続レベルが最大に高まったイクリプスのセンサーはリンクスの無意識に反応して学園の各所をフォーカスしていたのである。

 

「そういうつもりはないけど。多分、敏感になってるだけ」

 

 と言ってみたがREVの指摘通りであった。

 研究所で一通りの教育を受けた出自のため、エリスには学校に通った経験がない。今更になって抱いていた憧れを自覚していた。

 

「とにかく、新手はもう来ないよな。ズラかるぞ!」

 

 ノイシュタイン公国軍の部隊に後を引き継ぎ、イクリプスは退散した。

 

 

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