日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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船上にてⅢ

 

 ミコの輸送船で過ごす日々は日常とさほど変わらない。アーマードコアを駆る傭兵であり、華の女子高生であるエリス達は平日になればオンラインで授業に出ており、学業に関しては皆卒なくこなしている。

 

 オンラインネットワークの発達により、今や通勤や通学は必須のモノではなくなっている。

 

 中身の体で登校することが貴ばれるだけでなく、時にはオンライン出席を不可とする授業まであるのは、聖オルベリア教導学園のような古風な名門だけだ。

 

 半月近くリアルで会うことのできない、ACバトル同好会の部員達とは緊密に連絡を取り合っている。

 皆、熱心に訓練やトレーニングに打ち込んでいた。ACを乗り回すことが大好きな娘達だった。

 

 アーキテクトと呼ばれるAI技術者によって高度にカスタマイズされた無人AC同士が対決するフォーミュラフロントや、ACバトルといった興行が人々を楽しませているのは、アーマードコアという戦闘マシンの誕生を目の当たりにし、惑星間戦争を終結させた破壊力の行使者であったエリスにとっては喜ばしい事であった。

 

 夕方。船内の会議室にエリス達は私服姿で集まっていた。

 淹れたての紅茶とクッキーが用意されており、リラックスした空気だった。

 

「では諸君、ミーティングを始めるぞ!」

 

 セーラーワンピース姿の桐嶋ミコが立ち上がって宣言。

 

 エリス達は先月末に南米での依頼を終え、海路で日本に戻っているところだ。

 

 輸送船で目指す先はメガフロートではなく、民間企業が運営する種子島の宇宙船発射場だ。二手に分かれて火星に向かう。

 

「まずササラ君達の方だが、火星のガレージへの運び込みが完了した。改修作業のシミュレーションをしながら到着を気長に待つそうだ」

 

 ササラとリゼはミコに伴い、第四植民惑星"プロメテア"で開発された第六世代フレームを受領し、火星でアークセイバーを改修する。

 第六世代フレームはコジマ粒子を用いたネクストに比べれば低出力ながらクイックブースト機能を有するだけでなく、アサルトブーストと呼ばれる高速突撃モードを筆頭に革新的な機能を標準的に備えた新世代ノーマルACの基幹だ。

 

 現行のノーマルである第五世代ACパーツとのマッチングにも問題なく、簡単な改修でフレームを置き換えられる。

 地球の技術的優位を覆す存在であるとして、地球政府と企業は規制と技術の簒奪に躍起になっていた。

 

 ミコはコネを総動員して第六世代フレームの一セットと予備パーツを調達したのである。ササラに頼んだ幾つかの困難な任務への報酬だった。

 

「それと慣熟訓練用のプログラムを送って貰ったのでアークセイバーにインストールしておくよ」

「それはありがたいな」

 

 ノースリーブシャツにネクタイ、豊かな臀部が引き立つ黒ホットパンツ姿のササラが言う。

 

「それじゃまた明日から特訓だね♪」

 

 フリルの付いた上品なブラウスとコルセットスカートで淫魔めいた肢体を包んだリゼは嬉しそうだ。

 明日は土曜日だ。朝からみっちり訓練ができる。

 

「さて次は、神薙君達の方だが」

 

 エリスとその膝の上に乗ったレヴに向き直ったミコの表情は真剣で口調も少し重苦しい。

 それは、深刻な事態を示していた。

 

「クライアントから現地の最新情報を貰った。クロムバウ火星軍の蜂起は確実みたいだ。十日後には万全の態勢で行軍を開始すると見て間違いない」

「ならなんとか間に合うね」

 

 エリスの膝の上で白金髪のゴシックオートマタが笑う。悪辣な性格が滲んだサメの笑い方だ。

 チューブトップとホットパンツで胸と腰を覆い、ジャケットを羽織っただけのエリスの肌の感触と体温が心地良いようだった。

 

 エリスとレヴはイクリプスを載せた宙間輸送船で火星に向かう。

 依頼人は火星唯一の自由独立都市フォート・ノアキスの行政府だ。火星における流通と工業の要所であるこの都市は、企業と地球政府の干渉を辛うじて防ぎ、火星入植者によって民主的に統治されている。

 

 企業間の対立を利用する積極的な生存戦略のため、優れた諜報機関を有しており、クロムバウの火星派遣部隊が反乱を企てていることを早期に察知していた。

 

 企図されているのは大規模な反乱だ。クロムバウの誇る最大級のアームズフォート、スピリット・オブ・マザーウィル級三番艦"ハート・オブ・マルス"を筆頭に量産型アームズフォートや移動要塞といった火星軍の戦力の中核が動いている。

 

 クロムバウの主流派閥が推し進める極端な無人化により、少数の将官が大戦力を己の意志一つで扱えるようになった弊害であった。

 

 反乱軍の第一目標が平原を横断してのフォート・ノアキスの制圧と拠点化である可能性は極めて高かった。

 未曾有の危機を乗り切るべく、ミコの仲介を通してイクリプスに依頼したわけだ。

 

 状況は時間と共に変化していった。依頼人の交渉もあって、反乱の事実を認めたクロムバウ本社の作戦に相乗りする形となった。

 イクリプスとクロムバウのネクストで反乱軍を撃滅する。とにかく高速で吶喊して大暴れするエリス好みの作戦だった。

 

 

「状況がリアルタイムで進行しているから急な作戦変更があるかもしれない」

「どんな作戦にも対応してやんよ」

 

 エリスは余裕綽々だ。

 

「それと、依頼人からの相談で、クロムバウのネクスト運用部門が直接君と作戦について交渉したいそうだ。受けるかい?」

「直接私に?」

「ああ。本社には絶対に漏らせない内容だそうだ」

 

 妙な感じだったが、エリスは引き受けた。

 

「問題ないよ。私の相棒は密談と悪巧みも大得意だから」

「まっそれほどでもないけどね」

 

 膝の上のレヴを指し示す。当人は誇らしげだった。

 

 

 種子島を目指す船旅は穏やかに終わらなかった。

 

「ふん、ふんっふんぅぅぅぅぅぅっっ!!」

 

 輸送船内のトレーニングルームにて、お人形さんめいた可愛らしい美貌を真っ赤に染めて、母親譲りの金髪を振り乱しながら懸垂するミコの姿があった。

 トレーニングウェア代わりに、ハイレグレオタード様式のパイロットスーツを装着している。

 

「その意気ですよ、ミコ様。ほら、あとたった十回です」

「ふぅぅぅぅぅ~~~っっ!!」

 

 傍らには直属の護衛メイドである村雨レネが立っている。長身で青みがかった銀髪をポニーテールにしている。外見は二十代前半。口元には余裕ある笑み。

 

 改造メイド服を纏っている。ロングスカートの両サイドにチャイナドレスのようにスリットが走っており、脇腹まで大胆に覗いている。

 サムライめいた印象の通り、帯刀している。前後の垂れ布の捲れを防止するように巻いたベルトに一振りの刀を吊っているのだ。

 

「「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」」

 

 その横ではパイロットスーツを纏ったエリスとササラが懸垂している。二人は千回をどちらが先に終えるか競っていた。

 凄まじいペースでの懸垂運動を休むことなく繰り返している。

 

 エリスはトレーニングの実感を高めるために、ナノスキンスーツの機能をオフにしており、遺失技術で造られた強化スーツは、ただの極薄のボディスーツと化している。

 荒い呼吸を吐きながら、熱気を放って懸垂するエリスとササラの足元には多量の汗が溜まっていた。

 胸も尻も運動に合わせて、上下に揺れていた。

 

 リゼはベンチに腰掛け仲間達の様子を眺めながら、水分補給している。ペットボトルの水を飲み切った直後。警報が鳴り響いた。

 

「なになになにっ!?」

「何事だ!?」

「敵襲か!」

 

 即座に戦闘態勢を取る戦乙女達。

 

「はーはー死ぬぅ――――何が起きてる?」

 

 残り五回で限界に達して、ミコはぶら下がったまま動かなくなり、警報を幸いに手を離した。

 

「大丈夫ですかミコ様。立てますか? ほら拙の手に掴まって」

 

 自分の汗が滴った床に大の字になっている主人を助け起こすサムライメイドのレネ。立ち上がる時、ミコは膝を震わせていた。

 

「近辺を航行している民間の貨物船が海賊のMTに襲撃されてる。助けるか見捨てるか、ミコの判断を仰ぎたい」

 

 青銀髪のサムライメイドの持つ通信端末にレヴが呼びかける。サメAIが宿る白金髪のゴシックオートマタは、管制室のメイド達に混じっていた。

 

 水上を時速300km以上で滑走できる機動兵器の普及と企業間紛争の影響によるブラックマーケットへの大量流出は武装勢力の行動範囲を大幅に広めていた。

 レヴが続けて詳細を述べた。バオフゥ製のフロートMT数機がイギリスに本社を置く大手海運会社の船を襲撃しているらしい。

 既にミサイルによって進路上への威嚇射撃が行われ、救難信号が出ている。

 

「恩を売るには良さそうだね。ようし、頼めるかい皆!?」

 

 エリス達の答えは当然のように肯定であった。

 

 くたくた汗濡れの体に気合を入れ、どうにかレイヴン達のフィクサーとしての、先輩としての威厳を保ちながら発令する。

 

「メイド隊、第一種戦闘配置だ!」

「御意」

 

 主人である女子高生の命令で一斉にメイド達が動き出す。メイド服をばさりと脱ぎ捨て、その下に着込んでいた戦闘装備を露わにする。

 瑞々しい肢体から成熟した肢体まで個性豊かなメイド達の肢体が纏うのは、黒色のハイレグレオタードスーツだ。戦闘装備のレオタードとなっても、ホワイトブリムは誇らし気に装着している。

 

 皆に尊敬される銀髪のメイド長から新人の少女メイドまでお揃いのハイレグメイドスーツ姿だが、唯一直属のレネだけはスリット入りのメイド服のまま、ミコの傍に仕えている。

 

 エリス達も揃って格納庫に駆け出す。途中で管制室から飛び出てきたレヴと合流した。

 極薄のパイロットスーツを素肌に張り付けた戦乙女達は、激しい運動をしたばかりなので蒸れた熱気を放っていた。

 

「出撃はイクリプスからお願いします」

「了解っ!」

 

 安産型のお尻をシートに乗せたメガネのオペレーターメイドからの通信に応え、相棒のAIと共に深紅のアーマードコア・ネクストと直結したエリスは機体を前進させる。

 

「ネクストが突っ込んできたら貨物船の船員も海賊もひっくり返るだろうな。しかもそれが世間では極悪テロリストと名高いイクリプスともなれば」

 

 後部のサブシートで、レヴはその様を想像して楽しそうにしていた。

 

 整備担当のメイド達により、機体は既に完全武装されている。右手にレーザーライフル、左手に突撃ライフル。背面にはミサイルポッドとグレネードキャノン。

 

 格納庫上部ハッチが開放され、青空が見えた。

 

「イクリプス、発艦どうぞ!」

 

 ハイレグスーツ姿で合図を送る発艦要員は金髪の朗らかなメイド美少女、燈火アリアだった。

 エリスは《再構築戦争》当時のコジマ兵器運用においては、甲板要員はコジマ汚染を防ぐために分厚い防護服を着込む必要があったことを、不意に思い出した。

 

 垂直上昇で発艦すると、イクリプスは通常ブーストで海面スレスレを飛ぶ。コジマ粒子が全身の整波装置によって安定還流すると稲妻が瞬いた。

 ネクストの全周を守る粒子装甲が展開され、空気抵抗が大きく軽減される。エリスはオーバードブーストを起動し、超音速へと突入する。

 

 続けてアークセイバーが発艦。

 

「御武運をっす!」

 

 格納庫で見送る銀髪片目隠れメイドの水凪ラキであった。

 多くのメイド達がACやMTなどの操縦技能を持っているが船に積んであるのは出撃した二機と自衛用の一機だけだ。

 

 そのドライバーはサイドテールにした金髪を靡かせながら、気怠そうな表情で機体に走っていた。

 当然、ハイレグメイドスーツ姿で、密着した布地のためモデル体型の肢体がくっきりと出ている。

 

「遅いっすよアーシャ!」

「はいはい。反省していますよ」

 

 優秀だが面倒くさがりで怠惰なのが玉に瑕な金髪サイドテールのメイドは洋上迷彩のフロートACに飛び乗った。

 マシンガンをダブルトリガーにした汎用型の機体だ。海上に降りると、海面を滑るように駆け、船を抜け目なく護衛する。

 

 戦闘は一方的な形で終わった。

 二方向から貨物船を襲い、積み荷と船員の双方を狙っていた海賊のMTはオーバードブーストで奇襲を仕掛けてきたネクストとノーマルにあっさり撃墜。相手がネクストだと認識したのは撃墜されてからだ。

 

 命からがら脱出したMTのパイロットはイクリプスの姿に震えあがって降伏した。

 

 アークセイバーの方は貨物コンテナを背負ったMTから船内の制圧要員が往生際悪く抵抗してきた。機体から飛び降りてササラは直接無力化することにした。

 ツインテールを靡かせながら銃撃を掻い潜り、白兵戦に持ち込んだのである。

 

 軍隊崩れのサイボーグ化された巨漢が一人いたが、ササラは隠し持った単分子ワイヤーで膝を切断してから、蹴りを喰らわせてノックアウトした。

 金髪ツインテールの女子高生の蹴りで大男が壁まで吹っ飛ばされるのを目の当たりにして、海賊達は戦意を失っていた。

 

 武装解除させた海賊は拘束して助けた貨物船に処遇を任せた。

 

 パイロットスーツから私服に着替えたミコは、貨物船の船長や海運会社の代表者と連絡を取り、幾つかの約束を取り付けた。自らの利益になるよう事を運ぶのは流石の手際で、エリスは感心するばかりだった。

 

 それから船は無事に種子島に到着し、打ち上げ作業は万事順調に進んだ。少女達は宇宙へ上がり、火星を目指す。

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