日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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再会

 

 エリスとレヴが乗る航宙輸送艦は、かつて地球連邦政府の宇宙軍でも採用されていた優秀な艦種だ。払い下げられた艦をミコ経由で調達した。

 外宇宙での活動を前提としている艦のため、通常巡航速度に優れ、MTやACといった10メートル級の機動兵器の母艦として運用可能だ。

 

 作戦開始を、集結したクロムバウ反乱軍の行軍開始に合わせるため、通常推進で航行している。火星までの往路で、今回のミッションに合わせたイクリプスのアセンブルを行っていた。工廠艦ツクヨミから、大量の兵装を運び込んであるのだ。

 

 深紅のナノスキンスーツ姿で、神薙エリスは様変わりした愛機を見上げていた。

 

 背部には今回の戦闘の要となる兵装コンテナ、ミサイルポッド、追加ブースターを兼ねた大型複合ユニットが装備されている。《再構築戦争》当時の乗機に装備していた高火力・高機動オプション"ヤークト・ユニット"をネクストに合わせて再設計した代物だ。

 

 オーバードレールガン"ファイアフライ"は既に右腕部に装備され、左腕部には近接防御用に突撃ライフル"04-MARVE"を装備してある。兵装コンテナには新たに開発したオーバードウェポンを始め、殲滅戦向けの兵装が満載だ。

 これらはコンテナ内部のアームによって保持され、手持ち武器と交換できる上に、アームに保持して使用することもできる。

 

 機体自体にも大きな変化がある。情報封鎖が弛み、世間的な知名度を得てきた深紅のネクストは純白に塗り替えられていた。

 大気圏突入とその後のエネルギー兵器による対空砲火に備えた耐熱塗装の白だ。

 

「色が不満かな?」

「別に。白もいいなって思ってる」

「そうか。なら良かった」

 

 機体にしても飲食物にしても、レヴはエリスの好みには意外と気を使う。

 

「安心したよ」

 

 ドレスの長いスカートを抑える嫋やかな仕草で、白金髪の少女の姿をしたオートマタは空間を流れていく。格納庫内は無重力だ。

 

「そろそろランデブーポイントか」

 

 クロムバウ所属のネクストもエリスの艦に載って、火星に向かう。これは本来のミッションプランには存在しない、クロムバウのネクスト運用部門の要望によるものだ。

 

「あちらさんの姿も確認してる。今回の作戦のために相当気合入れてるみたいだ」

 

 レヴはインプラントを介して船外の映像をエリスに見せる。

 

 カメラアイを赤く光らせる漆黒のネクストACが着艦コースを取っている。

 重厚な装甲を備え、両手で巨大な複合火砲を抱えた機体。AC用の両手持ち武器。見たことのない武装だ。

 

 機体色を変えた上に他企業製のパーツを加えてアセンブルされているが、紛れもなく"ウルティマ・ラティオ"だ。エリスの僚機とはクロムバウ最強のリンクス、アンヘラ・アール・アルパなのだ。

 クロムバウは反乱を隠蔽し、演習のため集結していた部隊が所属不明ネクストと悪名高きイレギュラーネクスト、イクリプスに奇襲を受けてあえなく全滅した、というカバーストーリーで誤魔化すつもりでいた。極めて苦しい言い訳だが、反乱を表沙汰にするよりは遥かにマシだと判断していた。

 

「ナイスランディング」

 

 エリスは離着艦管制室からアンヘラに告げた。長身かつ胸と尻が豊かに育った美少女がエアロックを抜けて通路に出てきた。ぴったりと体に張り付く、漆黒のスキンタイトスーツに砂色のハードシェルで構成されたパイロットスーツだ。互いの戦装束を見るのは初めてだった。

 小麦色の健康的な美貌が満面の笑みを浮かべた。

 

「エリス! また逢えたね!」

 

 無重力という環境を活かして、猛烈な勢いで飛びついてくる。エリスの動体視力からすれば、止まって見えるようなタックルなのだが、なんとも言えないプレッシャーで赤髪の戦乙女ともあろう者が射竦められていた。

 

「んぶっ!」

 

 エリスは、艶やかな漆黒のスキンタイト生地にラッピングされた巨大な胸と腕でホールドされた。

 甘やかな香りに、微かに汗の匂いが混じっていた。

 

「その紅いパイロットスーツ、とっても素敵だね! なんだろう、見た事ない素材だ。すべすべしていて肌触りが凄く良い!」

 

 エリスの存在を五感で堪能する金髪小麦肌のデカ娘。

 柔らかな胸の谷間に挟まれ、パイロットスーツの生地で顔面を擦られる責め苦は不意に止まった。

 

「やあ、初めまして。約束通り、追跡装置の類は外してあるようだね」

 

 レヴはエリスに夢中なアンヘラの巨大なお尻を鷲掴みにして体内のインプラントを隈なく探りつつ、不遜な態度で挨拶したのだ。エリスは解放された。

 

 ゴシックドレスを身に纏った、白金髪の美少女を見つめ、アンヘラはお尻に悪戯された事を気にせず笑顔を向けていた。

 

「わっ! こちらこそ初めまして、綺麗な娘! 君はエリスの相棒かな?」

 

 こうした勘の鋭さには、恐ろしささえ感じる。

 

「そう。こいつはレヴ。見た目はこんなだけど、ヒトに似せたナノマシンの塊をAIが動かしてる。性格は最悪だし、口も悪いけど、大事な相棒」

 

 エリスは包み隠さず説明することにした。

 

「もしかして、前の戦いでミサイルに凄い動きをさせた子?」

 

 レヴは前に踏み出して肯定した。

 

「そうだとも。僕はイクリプスの統合制御体も司ってる。出撃の度にエリスと繋がっているのさ」

 

 アンヘラは羨ましそうな顔をした。レヴは羨望の眼差しを気持ち良く浴びている。

 

「いいな~! ウルティマ・ラティオも人間になれたら、一緒に遊んだりできるのに」

 

 ウルティマ・ラティオは機体名であり、統合制御体の名でもある。アンヘラの保護者であり、親友だった。

 

「疲れたろ。大したものじゃないが飲食物は揃えてある。来なよ」

 

 エリスは通路を流れて食堂に案内する。

 

「ありがと! お世話になるね!」

 

 その後について行くアンヘラ。エリスの深紅でラッピングされたお尻に食い込む、黒い装甲板をじっと見つめて、臀部の動きを余さず観察していた。

 

「あんま見つめんな。女同士でもちょっと恥ずかしい」

 

 思わず、エリスは片手でお尻を隠した。

 

 居住設備は簡素な造りで、食堂は気の滅入りそうな殺風景さだ。有重力区画であることが唯一の救いと言える。ジンジャーエールを一気に飲み干した辺り、金髪小麦肌の元気娘は、相当喉が渇いていたようだ。

 

 二杯目を煽り始めたアンヘラを眺めつつ、エリスは彼女がこの艦に乗り込む事になった経緯を思い返す。全てはクロムバウ内の派閥対立によるものだ。

 

 クロムバウの中枢たる本社の主流派閥は、軍の無人化を推し進めている。最終的には戦場から一切の人間を廃する事を理想とした、極端なもので、それはイデオロギーとさえ呼べる。

 

 アンヘラを始めとしたリンクスが操るネクストACは、導入から十年余りでクロムバウに多大な利益と力をもたらしてきたが、強力な有人兵器の最たる例であり、いずれ排除しなければならない存在だった。

 特にエースドライバーという、突出した個は無人兵器を崇める派閥が最も忌み嫌うモノでもあった。

 

 そのため、ネクスト運用部門は、味方であるはずの自社の無人派からの攻撃や妨害を幾度となく受けてきた。

 有人派の一大プロジェクトである、アーセナル・ネクスト計画の試験艦ギガベースがイクリプスによって消滅させられたことは、大きな痛手であった。

 敗北と併せて、責を問われたアンヘラは単機での特攻命令に従わざるを得なくなってしまった。

 

 本社は反乱軍とアンヘラの共倒れを期待しているのだ。厭らしいことにアンヘラとウルティマ・ラティオの戦闘力は、正確に認識していた。

 

「特攻作戦を命じられるとは、トップリンクスってのも楽じゃないな」

「もう慣れたよ。他のリンクスまで参加させられなくて安心しているくらい」

「仲は良いのか?」

「勿論! とは言っても二人だけだけどね。他の四人は本社直属で交流は一切がないんだ」

 

 クロムバウは七人のリンクスを擁しており、保有数はトリニティとのツートップだった。

 しかし、対立している本来のネクスト運用部門とは別に、能力はともかく本社に忠実な人員を集めて、本社付きのネクスト部隊を編制するという運用の混乱が生じていた。ネクストとそれと直結するリンクスという存在を忌み嫌いつつも、その力の必要性を理解しているのだ。

 

 厳しい状況下で、アンヘラを生かすべく、クロムバウのネクスト運用部門が持ち掛けたのはイクリプスとウルティマ・ラティオの二機の連携による強襲作戦だった。二機は本来のミッションプランでは別個に侵攻することになっていた。

 

 企業の技術レベルを超えた兵器を有するイクリプスと行動を共にしたほうが、生存確率は遥かに高いと考えての決断だった。さらに、エリスはこの決断に付随する地球でのミッションを請け負う事になった。

 

「ところでお前の機体の武器だけど、両手で抱えているのは何?」

「いいでしょ! "ガンボックス"って言うんだ。兵装開発部の人達がボクのために造ってくれたんだよ。それに塗料も耐熱性の高い特別製のにしてくれた」

 

 エリスが興味を示すと、アンヘラの表情がいっそう明るくなった。

 

 アームズフォートに対する攻撃力と継戦能力を高めるために急造されたガンボックスは、クロムバウ製の大型砲とネクストの武装を組み合わせた複合砲システムだ。コジマ兵器さえ搭載したその破壊力は宇宙戦艦に匹敵する。

 

 アーセナル・ネクスト計画を応用した遠隔AMS制御に対応しており、命中精度と取り回しの問題をクリアしている。さらに各部に取り付けられた姿勢制御用のブースターをネクスト本体と同期させ、超高速のクイックブーストが行える。

アンヘラのみが扱うことのできる、彼女のための武器だった。

 

 機体そのものも、偽装のために他企業のネクストパーツでアセンブルするだけでなく、フルチューンが施してある。おかげでプライマルアーマーの出力は高まっている。

 

 これらの動きは完全な独断であり、いわばもう一つの反乱だ。ネクスト運用部門の関係者達は皆、覚悟を決めていた。

 

「イクリプスもすっかり変わったね。白も似合ってるよ。それにあのバックパックには、凄い玩具が満載なんでしょ」

「ああ。見惚れて墜とされるなよ?」

「ボクはそれほど間抜けじゃないよ」

 

 二人で話しているとレヴが食堂にやってきた。

 

「機体を調べさせてもらうついでに、ウルティマ・ラティオと話してきたがいいヤツだね。偉大な先人に対する敬意というものがある」

 

 白金髪のゴシックドレス美少女はAI同士の対話で、敬意を示されてご機嫌だった。

 何としても金髪の陽気なデカ娘を生き延びさせてやろうという気になっていた。

 

 

 往路の残り少ない日数は、殆どドライバーシートで過ごしている。クロムバウ火星軍が反乱の兆候を示して以来、火星宙域で地球政府特務艦隊に不審な動きがあり、念のため即座に出撃できる態勢を取っていた。食事の支度はレヴの制御する自動調理機に任せ、ドローンでコクピットまで運んでいた。

 

 ドライバーシートを離れるのは、スチームバスでの入浴とトイレを使う時だけで、どちらも最短時間で済ませている。トイレパック嫌いのアンヘラにとっては、有重力ブロックのトイレは大助かりだった。

 

 エリスは持ち込んだタブレット端末で静かに読書をしていた。時々姿勢を変えたり、しなやかな肢体を動かしてストレッチをする。文庫本を読み終えると、大きく伸びをしてから、深紅に覆われた豊満なお尻を浮かせて、座り直した。

 

「メルヴィルの白鯨にはもう飽きたの」

 

 後ろからレヴが話し掛けた。

 

「読み終えただけですわ」学園に戻った時のため、お嬢様モードを忘れないよう、エリスは口調を切り替えている。

「エイハブ船長をどう思う?」

「好きになれる部分と好きなれない部分の両方がある人物でしたわ」

「ふーん、月並みの感想だね」レヴは意地悪に笑う。

「喧しいわ」

 

 ついうっかり、お嬢様口調を忘れるエリスであった。

 

 ウルティマ・ラティオで待機しているアンヘラの方は、音楽を聴いたりゲームをしたり、エリス達とお喋りをしたりと気ままに過ごしている。AMSのコネクタはジャックに刺したままで、感覚を統合制御体と共有している。抜群のAMS適正のおかげで一切ストレスを感じない。

 

 逆にエリスは出撃まではイクリプスと繋がっていなかった。常人ならば瞬時に発狂する負荷に何十日でも耐えられるが、それでもストレスは感じてしまう。

 

 シミュレーションで作戦と連携の確認を行い準備は万端だ。エリス達は出撃前に最後の食事を摂っているところだった。

 

 無重力で脂が散らないよう、ゼリーに包まれた分厚いステーキを切り分け、口に運ぶアンヘラ。噛み締めると肉汁が広がる。

 自動調理機によるものとは思えない、絶妙な焼き加減と塩加減に大満足だった。プレートのボリュームはたっぷりでアンヘラに十分なエネルギーを供給してくれる。

 

「地球に戻ったらアンヘラに料理を振る舞ってやれよ。これから長い付き合いになるわけだしさ」

 

 パウチ入りのトマトスープを飲み干してシュートに放り込むと、レヴは上品にナプキンで口元を拭う。

 

 赤髪の戦乙女は料理を覚えた。それも人に振舞えるレベルのものを。当初はその極端な味覚で味見したレヴに青い顔をさせ、オートマタに宿ったことを後悔させていたが、上達は速かった。

 

「そのつもり。後で好物を聞いておかないと」

 

 エリスは相棒に応えた。たった二機のネクストでアームズフォートの大群に挑む、絶望的に見える作戦を前にしても戦乙女達は平常運転だった。

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