日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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Dragon DiveⅢ

 

 ハート・オブ・マルスの区画一つが丸ごと爆破された。費やされた炸薬の膨大さを物語る振動が艦内に響き渡る。

 

 二機のネクストACの攻撃ではなく、迎撃作戦の一環だ。依然として高速の動体反応とコジマ粒子反応が二つある。CICのオペレーターの一人が「化け物め」と毒づいていた。少しでも損傷していることを祈ってもいた。

 

 次の迎撃が本命だ。無人自爆兵器の大群を起爆させたことで、崩落していく機動兵器用の通路を駆け抜けた侵入者達を曲がり角の先で待ち構えるのは、ノーマルACの小隊だ。

 

 屋内戦向けに背面垂直ミサイルランチャーをチェインガンに換装したタンク型ノーマル"ZENIGAME"が二機。

 その後方、タンク型ノーマルを盾にするように、スナイパーキャノンを構えた"044AC"二機が陣取る。

 

 イクリプスとウルティマ・ラティオの迎撃に当たる四機のノーマルは有人機であり、任務に自ら志願した。

 

 戦力の大半を撃破されたことでクロムバウ本社に対する反乱と火星の支配者として君臨する野望は潰えた。

 

投降しないのは下される処断の惨さを知っているからだ。クロムバウ私設軍に身を置き、加害者という立場で嫌というほど目の当たりにしてきたのだから。

 

 それにAC乗りの意地があった。これからどんな最悪の未来が待っているにせよ、ネクストを討ち取ることができれば、少しは気が紛れる。差し違えて地獄に堕ちるのは、火星を這いずり続けるより楽かもしれない。

 

「来てみろ、ネクストめ。コアに風穴空けてやる」

 

 小隊長機の隣で044ACのドライバーは、操縦桿のトリガーに意識を集中させる。小隊のFCSは同期しており、戦術COMによる統制射撃モードが実行されている。ドライバーの役目は最終安全装置であるトリガーを引くことだった。

 

 ネクスト二機のブースト速度から割り出した接敵時刻が迫る。二機は通路の崩落から逃れるとオーバードブーストから通常ブーストに切り替えていた。過剰な加速で壁面に激突することを恐れているのだろう。

 

 しかし、集音センサーが独特の甲高い吸気音を拾った。ACドライバー達に戦慄が走る。オーバードブーストの起動を示す音だ。

 二つの赤い光点は急加速し、音速を超えた。死神達がやってきた。

 

「コンタク――――」

 

 前衛、ZENIGAMEのドライバーは接敵を意味する符丁を発しきれなかった。速度を落とさずカーブしてきた純白のネクストが右手に構えた兵装から放たれたパルスエネルギー弾により、重厚な装甲を削られ撃破されたからだ。

 

「ごめんね、思いっ切り蹴るよっ!」

 

 漆黒の塗装と他社のパーツで偽装された、クロムバウのネクストAC、ウルティマ・ラティオがブーストチャージでもう一機を蹴り飛ばし、後ろの小隊機を巻き添えにした。タンク型ノーマルの重量が超音速の蹴りで打ち出されて激突したことで小隊長機は圧壊。そして爆散した。

 

 漆黒のネクストACは炎上する二機を飛び越え、通路の奥を駆けている。機動兵器用の通路の天井には余裕があった。

 

 ペアを組んだ盾役のタンクは前方で機能停止。もう一機のタンクと小隊長は盛大に吹っ飛ばされ、仲良く爆発炎上中。

 

 たった一機になった044ACのドライバーは純白のネクストACを睨みつけた。レイヴンでありながら、世界の支配者達だけが保有できる最強の兵器アーマードコア・ネクストを操り、あまつさえ既知の技術水準を超えたオーバーテクノロジーを有するイレギュラー。

 深紅から装いを変えても、その左肩には"日蝕の下を飛ぶ鴉"のエンブレムが描かれている。

 

 彼はイクリプスの全てが気に入らなかった。自由で、途方もない力を持ち、如何なる敵をも叩きのめすレイヴン。

 

 それは、火星開拓者であった両親が困窮する原因となった、クロムバウという強欲な巨人の一部となることでしかACドライバーになれなかった己の惨めの対極だったから。

 

「ふざけるなよ」

 

 世界全てに憎悪を吐きつつ、狙撃姿勢を解除して後方にブースト。スナイパーキャノンの重量のせいで鈍足だ。ライフルを構え、純白のネクストを狙う。トリガーを絞る。

 

 イクリプスが構えている武器は見たことのないものだ。一見レーザーライフルに見えるが銃身は短く、パルス弾を猛烈な発射レートで連射してくる。左手には大型の盾を構えており、粒子装甲に阻まれて減速しきった砲弾を易々と弾いてる。

 

「くそっ」

 

 回り込んでくるイクリプスに合わせて、機体を旋回させる。操縦桿とペダルを駆使して、重心を移動させることで高速旋回を成し遂げた。

 

 懸命な努力の甲斐あって、ライフルの銃口はネクストを追っていた。無駄と分かっているが、トリガーを引き続けてありったけの呪詛を叩きつける。

 それを払うように、パルスライフルの閃光が幾度となく瞬き、メインモニターをホワイトアウトさせた。

 

 

「まあ悪くなかったぜ、あんた」

 

 敵機を撃破したエリスは、ウルティマ・ラティオの背中を追いかけ、クイックブーストで加速。邪魔なノーマル二機の残骸を飛び越えた。背後で最後の一機が爆散する。

 

 動力炉に到達するまでの道のりで幾度となく反乱軍の迎撃を踏み越えていた。区画を爆破するなどの策は弄してきたが、戦力は外と比べて明らかに減っている。

 ヤークトユニットの兵装コンテナにはまだ十分な武器があり、戦闘継続に支障はない。

 

「アンヘラ、そっちの弾の残りは?」

「ガンボックスはまだ余裕があるよ。コジマミサイルも一発キープしてる。けど背中のミサイルは結構使っちゃった」

「なら問題なさそうだね」と後ろのシートに座るレヴが言った。「ところで」と続ける性格最悪鮫AI内蔵ゴシックオートマタ。

 

「僕は侵入当初からドローンを飛ばして、この艦のメインフレームをハックしていたわけだ。そして、たった今、最高機密指定ファイルを覗いたんだけど、こいつらが抱えてる切り札は面白いよ」

 

 レヴは可憐な少女の貌に似つかわしくない邪悪なニヤケ面をしている。ヤークトユニットの一部であるミサイルランチャーには、偵察ドローン群を内蔵した弾頭もある。レヴはそれを使ってハッキングを行ったのである。

 

「地球外生命体だよ。火星の原住民」

「どういうことだよ、それ」

 

 二百年前の《再構築戦争》では地球人類と生物学的に完全に一致した異星人が遺したAI群と交戦し、最終的に惑星アリシアごと戦略コジマ兵器とREVのクラッキングで殲滅した。

 実際に地球外生命体とコンタクトするのは初めてだ。

 

「反乱軍は火星の地下で発掘した機械生命体にディソーダーって呼称を与えている。うーむ、確かにこれは常識外れが過ぎて混乱の元だね。《再構築戦争》の直後に行われた第一次火星テラフォーミング計画で送り込まれた無人機が自己改良の末に進化を遂げたものって仮説も併記されているが、火星由来の生命であるから可能性のほうが遥かに高いってさ」

 

 エリスとアンヘラは話に聞き入っていた。少女達にとっても衝撃的だ。視界に表示された資料には、機械とも生命ともつかない、昆虫に似たモノたちが映っている。

 

「それで反乱軍はそのディソーダーを手懐けたってわけ?」

「そう。一匹ね。回収したサンプルはどれも機能停止していたけど、この"プレディカドール"だけは休眠状態だった」

 

 カマキリを意味する単語が当てられた、そのディソーダーはACより二回りほど大きく、洗練された体躯をしていた。

 流線形のシルエットはどこかACを彷彿とさせる。両腕はハサミのようなレーザーブレード発振ユニットになっており、明らかに戦闘を主目的とした存在だ。朱色と銀色の体色。

 

 エリスはイクリプスを操縦しながら、意識に投射された資料を読み進める。

 

 クロムバウ火星軍の一派は極秘裏に"プレディカドール"を回収。研究の末、ディソーダーを蘇生させるだけでなく、AI技術を応用して命令信号を送ることに成功した。

 

 プレディカドール個体の戦闘能力は常軌を逸しており、ネクストのカタログスペックを上回っていた。

 プライマルアーマーの代替となる超高出力のエネルギーフィールド展開能力を持ち、超音速での巡航が可能。さらに自己修復能力を持ち、半永久的な継戦能力を有するとまである。

 

 確かに一体だけでも極めて強力だ。ネクストと同じく究極的な強襲兵器なのだ。奇襲を受ければ他の巨大企業の軍や地球政府軍は一たまりもない。

 

「アームズフォート艦隊とプレディカドールで火星の広域を制圧して、他の稼働可能なディソーダーを探し出して戦力をさらに増強する予定だったみたいだ」

 

 レヴはそう締めくくった。

 

「それでそのプレディカドールは起動してんのか?」

 

 エリスは肝心なことを聞いた。

 

「今は研究区画でエネルギーを分け与えて起こしている最中。命令信号に対する反応に不安があるから、信号の改良で解消されるまでは必要時以外エネルギーを抜いて休眠させている」

 

 レヴは短時間でハート・オブ・マルスのシステムのかなりの範囲を掌握していた。覗き見ならばし放題だ。

 

「自慢のクラッキングで止められないの?」

「残念だけど間に合わない。次の区画にある動力炉を壊すしかないね」

「なら急ぐか! オーバードブーストだアンヘラ!」

 

 エリスは僚機に呼び掛けた。

 

「うん!」

 

 元気良く返事をしながら、アンヘラは内心「火星人かぁ。友達になれる子もいるかな」などとファンシーな事を想っていた。

 

 一方、エリスは嫌な予感がしていた。こうした場合、確実に敵の切り札が起動して交戦するハメになる。《再構築戦争》当時からずっとそうだった。

 

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