日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
開戦の号砲はプレディカドールが担った。
高空にポジションを取ったディソーダーは、鋏状の両腕から巨大なレーザーを照射しながら薙ぎ払ってきた。
その攻撃は戦場にいる全ての存在を目標としていた。
特務部隊の鋼色で統一されたLC機体の編隊が丸ごと一つ薙ぎ払われる。無事な隊も散開して編隊を崩さなけばならなかった。
戦闘機めいた、前傾姿勢のフォルムが特徴的な"TYPE-LAHIRE"で構成されたネクスト部隊は、編隊を維持しながら整然とレーザー照射を切り抜けている。
ネクストと同期している特務艦隊中枢AIが最適な回避パターンを導き出したのだ。
後方では強襲艦が一隻、直撃を受けて撃沈していた。
プレディカドールが、こちらにレーザーを向けようとした時、ほんの一瞬だけ躊躇う素振りするのをエリスは見て取った。
しかし、弾かれたように腕部が稼働して正確に狙いを定めてきた。
「凄い出力――――だが予想通り!
――――ってアンヘラ大丈夫か!?」
機体越しにその威力を肌に感じつつエリスは叫んだ。
イクリプスは攻撃を躱したが、ウルティマ・ラティオが避け損ねたのだ。
クイックブーストで逃れたので一瞬だけだったが、コジマ粒子による粒子装甲を容易く貫いた白光が黒い装甲を灼いていた。
「ごめんしくじった。被弾箇所の耐レーザー塗装がダメになっただけ、問題ないよ」
アンヘラの表情と声に焦りはない。本当のようだ。
「ならいいけど。けど本当にヤバくなったら後退しろよな!」
「ありがとエリス。やっぱり君って優しいんだね」
ウルティマ・ラティオは高度を落としながら、レーザーの射線から逃れ出た。
そこに二機のTYPE-LAHIREが猛禽の如く襲い掛かる。レーザーバズーカに注意しながら、アンヘラは迎え撃つ。
白と青に彩られたAC、アークセイバーはLCと強襲艦が繰り出すレーザーとミサイルによる弾幕に飛び込む。
「こちらへの攻撃は手薄だ。このまま艦を落とす」
全身にかかる重力加速度の圧力を、ハイレグパイロットスーツに覆われた白い肢体が跳ねのける。
金髪ツインテールの美少女レイヴン、ササラ・レイフィールドの肉体は見た目から推し量れないほど強靭だ。
「悪いけどネクストとあの未確認機の相手はよろしく!」
黒髪シニヨンの蠱惑的な黒識リゼも、全力で重力加速度の苦痛に耐えながら、ECMを起動する。
相棒の手前、醜態を晒せない。
バレルロールで空戦能力を誇示しながら、アークセイバーが強襲艦めがけて突っ込む。
オーバードブーストは第六世代の標準機能であるアサルトブースト機構を応用することで以前より格段に低燃費になっている。
起動に時間がかかる欠点は残っているが、エクステンションの追加ブースターと組み合わせた高速度の突進を長時間維持できる。
クイックブーストによる急加速も使って迎撃を易々と避けた。反撃の背部ハイレーザーキャノンで数機のLCを纏めて撃墜する。
軽量なネクスト用のレーザーキャノンを改造して仕上げたハンドメイドは、総弾数は極めて少ないが強力だ。
「よっしゃ、燃えてきた!」
今日一番の気合を漲らせ、赤と黒のナノスキンスーツで覆った、しなやかな肢体がコクピットに躍る。
迫ってきた特務部隊ネクストの一機とプレディカドールの攻撃を躱しているが、激しい動きのために、強烈なGが瞬間的に向きを変えながら襲い掛かっている。
ネクストの右背部では緑色の光が眩く輝きながら集っている。コジマキャノンのチャージが進んでいた。
エリスは対抗してイクリプスが右手に握っているインサニティフォースをチャージする。
左腕部の武装はシールド付きのレーザーブレードからオートキャノンに持ち替えた。
「軌道上の艦隊が砲撃を再開する。奴らの中枢AIが血も涙ないってのは本当だね。
墜落した味方が巻き添えになるよ」
エリスの背後で黒一色のゴシックドレスで着飾ったオートマタ美少女が告げる。
忌々し気だ。レヴは不快感を感じている。
地球政府の特務艦隊を仕切っているAIのやり方が《再構築戦争》時の終末思想漬け異星AI群にそっくりだからだ。
異星AIの生き残りを疑っていたが、通信プロトコルを分析するに別物である可能性が高かった。
「着弾予測地点を表示する」
イクリプスだけでなく、ウルティマ・ラティオとアークセイバーにも共有する。
イレギュラーAIによる予測的中率は100%だ。戦乙女達は軌道上から降り注ぐレールキャノンの雨を避けながら戦闘を続けた。
プレディカドールに撃墜された強襲艦のすぐ傍にも砲撃が着弾し、攻撃中止を懇願する生存者を全滅させていた。
砲撃を回避するのは容易。が、こちら側の攻撃の妨げになっていた。
エリスはイクリプスに高速機動をさせて反撃の準備を整えつつ、戦友達の方へ視線をやる。
「くっ!」
アークセイバーはクイックブーストにより左へ急加速。金髪のツインテールを靡かせ、ササラが息を吐く。強襲艦が艦首から放つレーザー弾幕を避けた。
「惜しい! あと少しだったのに!」
攻撃チャンスを逃したことをリゼは悔しがった。
「口を閉じろ、リゼ! 舌を噛むぞ!」
ササラが叫ぶ。白と青のノーマルACはその場で宙返りして軌道からの砲撃を回避。
高速飛行中の反転であったため、強烈な慣性がかかる。ササラとリゼの身体がドライバーシートから弾き出されそうになる。
肉感的なお尻をシートに押し付け、ハイレグが股間に食い込むのも厭わず大股を開いて踏ん張っていた。
責め苦は続く。反転中にブーストをかけて、LCのレーザーとミサイルを回避した。
全弾回避できたのは、リゼがECMを的確に操作して攪乱したからだ。
「はあっ――――!」
息を吐いてからササラは、後ろにあるサブシートの様子を確かめた。
「へっ平気。戦闘に集中して」
リゼは荒い呼吸をしながら、笑顔を作っていた。
いくらアークセイバーが強化され耐G性能も高まっているいえ、敵の攻撃は熾烈を極めている。体力の消費が激しい。
第六世代に改修されたアークセイバーのコクピット周辺は耐Gジェルに覆われているが、タイト過ぎる設計のためにコクピットスペースが以前より狭くなっていた。
熱気が籠り、戦乙女としても恥ずかしい、互いの汗の匂いが漂う。
そこにアドレナリンの匂いが加わり、ササラとリゼが収まったコクピット内部は壮絶な様相を呈していた。
愛用の高出力レーザーブレードは左背部のハンガーに架けていたアサルトライフルに持ち替えている。
リニアライフルとのダブルトリガーでLCを撃墜しながら、ササラとリゼは持ち堪えていた。
不用意に近寄り、ガンボックスの砲火を浴びて怯んだ敵ネクストの一機にウルティマ・ラティオがトドメを指そうとする。
その時、現在位置が砲撃予測地点として表示された。
「ああクソ!」
思わずアンヘラは悪態をつき、機体を後方にクイックブーストさせた。黒く艶光るスキンタイト生地に包まれた巨乳が弾む。
レールキャノンの砲撃で乾いた大地にクレーターが出来上がる。
「調子には乗らせない!」
背面のミサイルを放つ。回り込んでパルスガンとマシンガンを撃ってくる二機目の敵ネクストを追い払う。複数の爆発が粒子装甲を弱めた。
一瞬の隙をつき、軌道砲撃の合間を縫ってハイレーザーキャノンの狙撃がウルティマ・ラティオに当たりそうになった。
アンヘラはギリギリで位置をずらしたが、攻撃の機会を損ない、高度も下がってしまった。
「これは結構ハードかも。けど楽しいな!」
中枢AIの統制による連携は極めて厄介だった。
一方で二機でウルティマ・ラティオに襲い掛かっている特務部隊からすれば、重装型のネクストで高速戦をやってのけるアンヘラの技量は脅威でしかなかった。
絶対の預言であるはずの中枢AIの行動予測もまるで当たらない。
「諦めろ、神薙エリス。オーダーはイレギュラーを必ず排除する」
その航空機然としてフォルムに見合う超音速のスピードで、インメルマンターンを繰り返すネクストから通信が入った。オーダーは特務艦隊中枢AIの名だ。
「へえ、私の事知ってんだ」
エリスは自分の存在が把握されているとは思わなかった。
「カレヴ・ナイヴスの二度目の反乱は、奴の死と共に失敗に終わった。
後は貴様達とディソーダーを排除すれば、イレギュラーは消え去り、地球圏の秩序は回復する」
カレヴ・ナイヴス。聞き覚えのないその人物がどうやらエリスを目覚めさせた張本人のようだ。
「ナイヴス――――ネクストの開発者の一人だ。詳しいことは今持ってるデータでは分からないけど」
後ろでレヴが検索を終えた。カレヴ・ナイヴスの名は入手してあった、幾つかの巨大企業の機密情報に少々言及があった。
「はあ。いきなり答えがきちゃったか」
唐突な展開に溜め息をつく赤髪の戦乙女。
尻尾を掴んでやると息巻いていたが、本格的な調査を始める前に名前が出てきた上に既に殺されているとは。
何故ファンなどと名乗ったのか。ツクヨミを浮上させイクリプスを納めた補給カーゴを受け入れさせた方法は。
さらに言えば、エリス達を目覚めさせた目的、そして二度目の反乱とは?
まだ、調べるべき事は幾つもある。
「そのためにも勝つ!」
エリスは必殺を意図して放たれたコジマキャノンを最大加速からの急上昇で避けた。
空中でのコジマ爆発の余波で、粒子装甲が減衰していく。
クイックブーストによるジグザグ機動に入る直前、特務部隊のネクストがレーザーバズーカとアサルトライフルを浴びせてくるが、プレディカドールが振るう光刃が阻んだ。
「ありがと、火星人っ!」
強烈なGを物ともせず、エリスはディソーダーに礼を言った。
地球政府特務艦隊の激しい攻撃はイクリプスとブレディカドールに奇妙な共闘関係を成立させた。
互いに砲火を交わしながらも、ネクストを攻撃できるよう援護し合っていた。
そして、プレディカドールの被弾が増えると、援護の割合は増していった。
ディソーダーの身体がぎこちなく動き、イクリプスを狙いから外す事があった。
「インサニティ・フォース、チャージ完了。射程内、ターゲットロック完了。殲滅しなよ、エリス」
レヴが邪悪に嗤って告げる。エリスの美貌から表情が消える。赤髪の戦乙女は死と破壊の化身と化した。
クイックブーストによるプラズマ噴射を連続で炸裂させて強引に飛び回りながら、イクリプスは右腕のオーバードウェポンを解放。
蒼く輝く巨光は一瞬で低軌道まで到達した。
「とおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
視界を閃光に染めながら、エリスは光の剣を振るう。
イクリプスは、交戦中のネクストだけでなく大気圏内の特務部隊からも攻撃を受けるが、プライマルアーマーで身を護りながら切り抜けた。
オーダーによる統制射撃であったが、エリスとレヴの前では、大した脅威ではなかった。
膨大な数のミサイルを残った左腕部オートキャノンの弾を使い切って迎撃。パージする。
純白のネクストがオーバードハイレーザーライフルを光の剣として振るう姿は神話めいていた。
破滅の剣を振るう破壊天使そのもの。
インサニティ・フォースの照射は数十隻の強襲艦で編成された艦隊を呑み込み、消滅させていた。
植民惑星の反乱鎮圧において、無慈悲な威力を発揮してきた艦隊の最期はより破滅的な力に滅ぼされるものとなった。
「馬鹿な! 艦隊が全滅――――っ!? ぐあっ!」
敵ネクストのドライバーは驚愕していた。レヴは機動中にヤークトユニットからミサイルを放っており、動揺している隙を突いて命中させた。
連続爆発でコジマ粒子の輝きを失う。そこにプレディカドールが迫り、レーザーブレードでネクストを切り捨てた。
「―――――イッイレギュラーは――――排除―――――」
墜落していくTYPE-LAHIREだが、オーダーの意志を受けたリンクスは最期まで食らいつく。
レーザーバズーカとライフルの銃口がエリスに向き直ったプレディカドールを狙っている。
「借りは返すぜ」
剣闘士めいたディソーダーに笑いかけ、エリスは左腕部に新たに装備したヘヴィ・ライフルでTYPE-LAHIREを狙撃して完全に破壊した。
赤髪の戦乙女はいつだって反撃の鏑矢だ。
「流石エリスだ! リゼ、もう少しだけ耐えろ!」
「もう、大丈夫だってば! ECM出力を最大にする! ササラなら四秒あればいけるでしょ!」
「流れが変わったね! ここからはボクらとキミ達二人だけの勝負だ!」
軌道上からの妨害がなくなったことで、ウルティマ・ラティオとアークセイバーは勝機を掴んだ。
反撃に転じて、それぞれの敵に猛烈な攻撃を加えていく。