日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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DesodersⅡ

 

 軌道上の艦隊がイクリプスのレーザーライフルから放たれた巨光により殲滅されても、特務艦隊の兵士達の動揺は最小限だった。

 

 中枢AIの指令に人間が忠実に従うという構造は、命令に盲目的に従うことで心理面でのパフォーマンス低下を防いでいる。

 戦力を大きく削がれながらも、粛清命令に従っていた。

 

 だが、戦況は三機のACとそれを駆る最強戦乙女達の勝利に傾き始めていた。

 軌道上からのレールキャノン砲撃という妨害が排除され、アークセイバーとウルティマ・ラティオは縦横無尽に飛び回っていた。

 

「仕留めさせてもらうぞ」

「やっちゃってササラ!」

 

 最高出力のECMでセンサーを潰されたLCと強襲艦による攻撃の隙間を易々とすり抜け、白と青のノーマルACは最高速で飛ぶ。

 ミサイルとCIWSによる最後の抵抗をかわし、ついでにダブルトリガーでLCを叩き落しつつ、ハイレーザーキャノンの射線に二隻の動力炉を収めようとする。

 

 縦方向に反転して頭から急速降下していくアークセイバー。

 

 すれ違う一瞬でトリガーを引き、右背部のハイレーザーが戦闘艦二隻の分厚い装甲を撃ち抜き、動力炉を誘爆させた。

 稲妻めいたエネルギーを放ちつつ、墜落していく二隻の強襲艦。

 

 艦を沈めたアークセイバーはすぐに機体を起こして残敵の掃討にかかった。

 通常ブースター、エクステンションブースター、クイックブースターの三種を使いこなして機体を飛び回らせることで攻撃をいなし、オーバードブーストで距離を取るLC編隊に対して間合いを詰める。

 

「ここからはECMのエネルギーはブースターに回す! それでいいよね!?」

「頼む!」

 

 リゼは素早くコンソールを操作する。

 ECMは最高出力で使用したためチャージに入ったが、エネルギーは再チャージに用いるより他に回すべきだと判断した。

 

 左手のアサルトライフルを的確に着弾させ、残り四機にまで減ったLCを爆散させる。

 

 金髪ツインテールの美少女レイヴン、ササラ・レイフィールドが見据える敵は指揮官機だ。

 

 LC部隊の指揮官機は、特別仕立ての重装タイプだった。

 "AA22:HEAVY CAVALRY"。HCと略称されるそれは第六世代ACと比較しても高い性能を誇る高級機である。

 

「このぉ! 独立傭兵如きが! どうしてこうも!」

 

 艦隊への貢献と忠誠、何よりも能力をオーダーに認められHCを与えられたメレット・パージ特務少佐は苛立ちながらも、フルチャージしたレーザーライフルを放つ。艦砲クラスの威力は、ACを一撃で撃破できる。直撃せずとも掠りさえすれば、大きなダメージを与えられる。

 

 爆発が起こった。

 

――――やった!と歓喜の声を漏らしそうになったが、彼女はすぐにそれが、囮として投げ捨てられたアサルトライフルの爆発だと理解した。

 

 急加速で視界から消えたアークセイバーのリニアライフルによる攻撃が次々に着弾し、慌てて向け直したパルスシールドによる防御で手一杯になる。

 

「特務少佐殿、ここは自分が!」

 

 横から割って入った部下のLC、数多くいた編隊の唯一の生き残りがアークセイバーに蹴りを入れようとする。

 だが、アークセイバーの左腕から放たれた蒼い輝きが一閃して、切り捨てられる。

"WL-MOONLIGHT"、それは月光の系譜。

 遺失技術の産物たるAC用レーザーブレードによる攻撃だった。

 

 部下の死を悼むより先に、メレットはオーダーからの指令を再確認した。

 

「くっ!」

 

 できる事ならコンソールを殴って八つ当たりしていた。

 部隊が自分を残して文字通り全滅。特務部隊のネクストは一機撃墜され、残り二機もクロムバウのネクストに追い立てられている。

 認めたくないが、敗北が現実になろうとしている。だというのに、応戦の命令が継続されている。

 如何なる犠牲を払ってでもイレギュラーを排除せよとのこと。

 

 これまで植民惑星への弾圧や粛清に対して疑問を持ったことはない。この時、初めて特務少佐はオーダーの判断に疑問を、そして怒りを抱いた。

 このメレット・パージのような、高価値な人材を犠牲にしてまで達成すべき任務なのか?

 

 怒りと不満を胸中に渦巻かせながらHCを機動させる。

 HCの大出力推力偏向ブースターによる戦闘機動は戦闘機に匹敵するものだ。ミサイルとレーザーライフルを絶え間なく浴びせているが、どれも躱されている。

 

 ACの攻撃はパルスシールドを翳せば防ぐことができた。おかげで地球政府軍が威信を以って建造した高価な機体が被っているダメージは小破程度だった。

 しかし、反撃のチャンスが奪われている上、被弾の繰り返しでパルス防壁が破れないよう、滅多にやらない高Gマニューバーを行う必要があった。

 

 たった一機のノーマルACが敵だというのに、追い詰められ続けている。

 

(何故この私がこんな目に逢う!)

 

 地球政府の官僚一族に生まれ、軍人としてエリート街道を歩み続けてきたメレットは、己に生涯に渡る栄光が確約されているという妄想を抱くようになっていた。

 

「いい加減に墜ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 レイヴンなどという下賤な秩序の敵に己の人生を滅茶苦茶にされるわけにはいかない。メレットは好機と判断して、最大出力のレーザーを発射した。

 大出力のレーザーは彼女のお気に入りの武器であり、その破壊力で脆弱な植民惑星のテロリスト達を消滅させてきた。

 

 その光もイクリプスが艦隊を消滅させた、規格外のハイレーザーライフルの威力を前にすれば、遥かに見劣りした。

 

 電磁パルスによる眩い緑色の光がアークセイバーをHCのレーザーから守っていた。

 

「パルスアーマー!? ACにも搭載できるというのか!」

 

 球形に展開された第六世代ACのエネルギー防壁は短時間のみ展開可能だが、出力は極めて高い。

 強度面では、ネクストACのプライマルアーマーを大きく上回っていた。

 

 メレットは上流階級出のエリートらしく磨き抜かれたボディラインにぴったり張り付いたパイロットスーツの下で、冷や汗を滲ませた。

 ブースターを爆発的に動作させたアークセイバーは一瞬で距離を詰めてきた。

 

 HCはパルスシールドを翳す。

 

「馬鹿め!」

 

 メレットは下賤な傭兵の判断を嗤った。シールドで防いでから反撃でACを叩き落とせる。

 

 しかし、アークセイバーの左手から放たれた閃光は、電磁パルス防壁を貫通した。

 

 先ほどメレットのHCが放ったハイレーザーを凌駕する出力のエネルギーが蒼い輝きをもって鋼色の重装機を粉砕したのだ。

 "WL-MOONLIGHT"はエネルギーの過供給によりブレードの刀身と熱量を大きく増大させられる。

 

 リゼの操作により、ジェネレーターのエネルギーを集中させて突き出した刀身はもはや巨大な槍めいたもので、強固な防壁と重厚な装甲を紙のように貫いてみせた。

 

 断末魔を口にすることさえできず、メレット特務少佐は蒼色の奔流に焼き尽くされた。

 

 

「HCの撃墜を確認。艦載機もこれで全滅だよ」

 

 アークセイバーのサブシートでリゼが報告する。

 

「不要な手助けかもしれないが、やらせてもらう」

 

 ササラはHCの最期を見届けることなく機体をターンさせ、ハイレーザーキャノンの最後の一発を発射した。

 

 その一撃はウルティマ・ラティオに対して反撃を開始しようとした二機のネクストACに襲い掛かった。ハイレーザーを背負ったネクストのプライマルアーマーを貫き、半壊させる。予想外の不意打ちによる損壊で、機体を立て直さなければならなかった。

 

「これで墜ちる。バイバイ二人とも!」

 

 アンヘラはガンボックスから砲撃を浴びせて、マシンガンとパルスガンでの近距離戦を志向していたもう一機を空中で釘付けにすると、アンダーバレルのコジマミサイルを解き放った。

 ほぼ一直線に進んだ大型ミサイルは、特務部隊のネクストが離脱する前に炸裂。

 破滅的な緑色の輝きで塵一つ残らず地球政府のネクスト二機を消滅させた。

 

「援護ありがとうアークセイバー! 助かったよ!」

 

 アンヘラは明るい声でササラとリゼに礼を言っていた。

 

 

 その頃、螺旋を描くような機動で火星の大地に降り、イクリプスとプレディカドールは睨み合っていた。

 朱と銀の装甲に覆われた火星の生命体、ディソーダーは操り人形のように片腕を向けている。

 "ハート・オブ・マルス"で施された排除命令に抗っているのだ。

 

「まだ目が覚めないか。なら、闘ってやんよ!」

 

 闘争心に溢れた笑みを見せるエリス。

 

「エリス、さっさと終わらせてやりなよ。いい加減、向こうも苦しそうだ」

 

 赤髪の戦乙女の背後で、ゴシックオートマタ少女は愉し気に言った。

 

 そのつもり!という返答と同時にイクリプスが背後に背負った大型ブースターからプラズマ噴射が弾け、オーバードブーストの速力と合わさる。

 

 引かれ合うようにして、一直線に標的に向かう破壊天使と火星のエイリアン。

 オーバードハイレーザーライフルに替わり、イクリプスの右手には大太刀が握られていた。

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