日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
エリスはアンヘラを伴って、次の依頼のためにすぐに地球への帰還を始めた。
クロムバウからの離脱を決意した、ネクスト部門関係者のフォート・ノアキスへの亡命を支援するのが次のミッションだ。
ネクスト技術者や本部付きではないリンクス二名までも含めた大規模な亡命だった。
水面下で進んでいた第二の反乱を鎮める余力は、アームズフォート艦隊の蜂起という一大事の収拾に全力を傾けているクロムバウには残っていなかった。
地球政府と企業の圧力に対抗し、独立を護るため、フォート・ノアキスはネクスト戦力を欲している。
この亡命の申し出は願ってもないことだった。
発射場で打ち上げを待つ航宙艇を防衛するべく、エリス達は再び大気圏突入からの高速戦闘を敢行。
敵は亡命の情報を掴んだトリニティの部隊で服従か死か、という社の方針に則った作戦を展開していた。
イクリプスとウルティマ・ラティオは地球への帰路で修理を済ませ万全であった。
赤髪と金髪の戦乙女にとって、プライマルアーマー搭載型の空中要塞を含めた部隊は容易く蹴散らせる相手でしかなかった。
フォート・ノアキス軍のステルス巡洋艦が軌道上で亡命者達を回収し、火星への進路を取った。
ネクストの実機は持ち出せなかったが、フォート・ノアキスはその工業力を活用してネクストのパーツを製造するつもりだった。
アンヘラは亡命には加わらなかった。
金髪小麦肌の陽気な美少女リンクスは愛機ウルティマ・ラティオのコクピットから大気圏を離脱していく航宙艇を見送ったのだ。
アンヘラ・アール・アルパは傭兵として、エリスの仲間になる道を選んだ。
幼少期から企業の兵士として育てられてきたアンヘラの人生には、選択の自由というものがなかった。
これは初めて与えられた選択肢だった。
こうしてアンヘラは工廠艦ツクヨミの二人目の乗員となり、ついでに聖オルベリア教導学園への編入を果たした。
学園では神薙アンヘラと名乗っており、エリスの遠い親戚ということになっている。それらしい、偽のプロフィールをレヴが用意してくれた。
夏休み直前に入ってきた金髪小麦肌の陽気な長身美少女は、すぐに注目と噂の的になったが、あっという間にアンヘラはクラスに馴染んだ。
エリスとクラスが違うことは残念がっていたが、友人もしっかり作っていた。
クロムバウはアンヘラの拉致や暗殺を企てたが、学園で得た友人達の手も借りて防いだ。
数回に渡り、先手を打って相手の動きを潰して大損害を与え、トドメにレヴが個人的に集めていた、クロムバウの首脳陣の個人的なスキャンダルで脅迫して手を引かせた。
「ウルティマ・ラティオはいい奴だからね。だから僕も一緒にいたい」というのがゴシックなオートマタ少女の言である。
クロムバウの主力アームズフォート、地球政府特務艦隊のネクスト、そしてネクスト以上のスペックを持ったディソーダー"プレディカドール"。
実に半月を要したミッションでの刺激的な戦いを回想していると、強い風が赤髪を揺らした。
短いスカートからインナーが覗かないよう、お嬢様らしい仕草で抑える。
隣のアンヘラの様子を横目で窺うと、エリス以上に際どい丈のスカートから白い逆三角形が覗いていた。
その白さは小麦色の肌によく映えている。
「はしたないですよ、アンヘラ」
「えへへ、ごめんごめん」
優しく微笑みながら、エリスよりさらに長身な金髪小麦肌の美少女に注意する。
常に朗らかで優しいエリスお嬢様だが、アンヘラに対しては少し厳しめだ。それが二人の関係性に様々な憶測を呼んでいた。
今は放課後で、エリス達の目的地はACバトル同好会の部室であるガレージだ。広大な学園の敷地の外れにある建物である。
既に部員達は集まっており、制服からお揃いのハイレグパイロットスーツに着替えて活動中だった。
教官であるササラと補佐役のリゼも、レイヴンとしてのパイロットスーツではなく同好会のユニフォーム姿だ。
灰色基調のハイレグスーツに、白色のハードシェルを装着したデザインで統一された女子高生達の姿は、清純さと華やかさを両立している。
「あっ! エリスさん、アンヘラちゃん!」
エリス達に気付き、黒髪をセミロングにした、快活な美少女が手を振ってくれた。
エリスのクラスメイトである黒羽サヤだ。ACドライバー志望だったが定員オーバーで入れず、残念がっていた所にACバトル同好会の勧誘を受けて、飛びつくように入部した。
サヤの母親は元レイヴンであり、今は医療系NGOで働いている。当人に実戦経験はないが、その耐G能力はエリスが驚くほどだった。
体力作りのためのトレーニングを終えたばかりで、同好会の部員達は汗濡れだった。
「御機嫌よう」
「遊びに来ちゃった」
エリスとアンヘラは少女達に挨拶する。エリスだけでなく、アンヘラも同好会の手伝いに参加しているのだ。
「今からシミュレーターですか?」
「ううん、今日は実機演習! フォーミュラフロント部の人達が譲ってくれたんだ!」
サヤは嬉しそうに応えた。
メガフロート内に演習場が設けられているのだが、放課後もパイロット科の自主訓練や正式な部活であるフォーミュラフロント部の活動で使われている。
ACバトル同好会はその隙間を縫って演習場を使わせてもらう立場なので、練習は専らシミュレーターで行っている。整っているとは言えない練習環境で、アマチュア大会優勝を果たした事は驚くべき成果であり、ミコはこの事実を宣伝に積極的に使っていた。
ガレージには部員達の愛機であるノーマルACが駐機している。
教官であるササラのACも並んでいるが、アークセイバーではなく同好会活動用に用意した別の機体だ。
演習場までの移動には学園と各種実習施設を結ぶ地下レール網を使う。
これから同好会の少女達はACを歩かせてプラットフォームに向かうのだが、エリスとアンヘラの足はというと。
「エリスさんは私の"リトルクロウ"に乗って!」
「ええ、喜んで」
サヤはエリスの手を取り、愛機のコクピットへと誘う。行動力の塊のような女子高生だった。
柔らかな手の感触に、心まで温められながらエリスは漆黒に塗装された中量二脚ACに導かれていく。
リトルクロウの構成パーツは大部分が69式の愛称で知られる無骨な旧式パーツだ。
AC同好会が使用しているパーツは、ミコがポケットマネーで買い集めた中古品だが、このリトルクロウはサヤが母から贈られたものだった。
サヤが慣れた手つきで、コクピットハッチを解放して乗り込む。
そのまま、レオタード状のパイロットスーツからはみ出たお尻を外に向かって突き出す姿勢になりつつ、緊急用の簡易シートを用意した。
「これでよし、どうぞ!」
「失礼します」
晴れやかな笑顔と大仰な仕草に出迎えられ、シートにお尻を下ろす。
「いい匂いですね」
コクピット内に漂うサヤの汗やアドレナリンの残り香を嗅ぎ、微笑むエリスであった。
「そうかな? 汗の匂いとか、少し恥ずかしいんだけど」
「サヤさんが頑張っている証ですよ。だから心地良く感じるんです」
「なんだか照れるなぁ。けどありがとう」
会話しながらも、サヤは乗機のチェックを所定通りに完了した。ハッチの解放といい、手慣れたものだ。
アンヘラも同じように部員の機体のシートを借りている。自ら同好会の門戸を叩いた、英国の名家出身の美少女が操る機体だ。
リリィコード・オルドリッジ、愛称はリリィ。
搭乗している機動狙撃型のACと同じくらいに白く美しい髪の少女だ。繊細な体付きだが、ハードなトレーニングについていける力強さを秘めている。
リリィは幼い頃に家族を救ってくれたレイヴンに憧れを抱き、ACドライバーの道を志したという変わり種だ。
アンヘラは簡易シートがある空間に体を押し込んでいる。
我侭放題に育った胸とお尻が狭いスペースを圧迫していた。
「大丈夫ですか、アンヘラさん?」
振り向いて、心配するリリィ。
感情を表に出さない性質のため、一見すると冷たい印象だが、リリィはとても優しい娘だとアンヘラは直感していた。
「平気、平気」とサムズアップして明るい笑顔を向ける。
「キマイラ、準備完了だぜ!」
オープン回線で目つきの鋭い、ヤンキー風美少女の声が響く。
火星からの留学生イリヤ・フレアテイルだ。薄金髪の長身ボディは荒事慣れしており、威圧的だった。
イリヤはACドライバー科に入ったものの、入学から一週間でトラブルを起こして退学処分を受けそうになった。
そこにミコが割って入り、転科で処分を済ませつつACバトル同好会にスカウトしたのだ。
「イリヤ、声が無駄に大きい」
「あ゛ぁ゛!?」
銀髪褐色、神秘的な美貌の少女アズは、植民惑星からの留学生で同じく元ACドライバー科であった。
大企業重役の御曹司からの差別と侮辱をクールに受け流していた所にイリヤが口を挟み、御曹司の取り巻きを交えた大喧嘩に発展。
イリヤと仲良く無傷で十人近くの屈強な軍人志望の男子生徒を叩きのめしたが、それが原因で転科を余儀なくされた。
現在は二人とも舞台芸術科でダンスの才能を発揮しつつ、元々の希望だったACの操縦を学んでいる。
イリヤとアズの関係は喧嘩友達が妥当な表現だろう。
「では先導を頼むよ、ササラ君」
アンテナ頭の高機動偵察機"風花"を駆るミコの合図で、ササラとリゼの乗る教官用ACが移動を開始する。
ちなみに風花の簡易シートには外部顧問に捻じ込まれた直属のサムライメイド、村雨レネがクールに腰掛けている。
六機のACは一列になり、機動兵器用の通路を進んでいく。
シートに揺られるエリスとアンヘラの気持ちは穏やかだった。