日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
模擬戦Ⅰ
居住及び商業区である中央メガフロートとを結ぶ海底トンネルを走り抜け、輸送列車は市街戦演習場に到着した。
このメガフロートは全域が各種地上戦を想定した演習場になっている。
搭載された大型コンテナが開放され、大地に降り立つアーマードコアが五機。
聖オルベリア教導学園、ACバトル同好会所属の機体だ。
女子高生を乗り手とした、全長10メートルの巨体に、ビル群の間から海風が吹き付ける。
戦場に指定された模擬市街地は海沿いに設けられているのだ。
モニターに広がる戦場に、緊張を感じながらも黒羽サヤは明るい笑みを絶やさなかった。
同好会を束ねる桐嶋ミコ部長がオープン回線で確かめる。
『各機、戦術データリンクに異常はないね? 開始地点までは徒歩で移動するよ』
異常なし、と異口同音で返事をする部員達。満足気に頷く部長。
ミコは唯一の二年生なのだが、見た目は一番幼い。可愛らしくて、少しミステリアスな中学生に見える。
とにかく、部長の合図で五機のACは指定された試合開始地点まで行進する。
三機と二機に分かれている。サヤの駆る中量二脚AC"リトルクロウ"は後者の組だ。
リトルクロウは漆黒に塗装され、カメラアイを蒼く輝かせる旧式ACであった。
『少し緊張しますね』
白雪のような長い髪の美少女、リリィが操る軽量二脚"ホワイトバレル"から通信が入った。
「そうだね、だけど私達なら大丈夫だよ! 対多数戦の稽古はササラ教官にみっちりつけてもらったし!」
五人でアマチュア大会優勝まで果たしたリリィの緊張の理由は、今回の模擬戦が試合と異なり変則的で同好会側が数的不利に立っていることにあった。
試合開始地点に到達する。
鼻持ちならない感じのACドライバー科の連中、三年生から一年生まで。総勢十二名も同じく開始地点に到達。模擬戦が開始される。
『それじゃ手筈通りにやろうか。
私はイリヤ君とアズ君を伴って前衛を叩くので、頼むよサヤ君、リリィ君』
「「はい、ミコ部長!」」
ミコ部長に気合の入った返事をするサヤとリリィだった。やる気満々でブースターのスロットルを最大に。
ブースト飛行で空を舞う白と黒のAC。
焦げ茶色を基調とするアンテナ頭の軽量二脚"風花"に、四脚重装機と必殺の近接兵装ヒートパイルを装備した軽量逆関節機が続く。
『作戦、ちゃんと覚えているよねイリヤ?』
『馬鹿にすんなアズ! このまま真っ直ぐ突っ込んでいって、ボンクラどもの頭が見えたら即ぶっ飛ばす!だろ?』
『部長、イリヤはやっぱりダメそう』
『なんだぁ!? 文句あんのか!』
『ははは……。こりゃ参ったな』
深青色で彩られた四脚ACの"キマイラ"は火星生まれ、喧嘩無双の不良少女イリヤ・フレアテイルの機体だ。
薄金髪の火星ヤンキーの機体はガトリングガン、グレネードライフル、レーザーキャノン、連装ロケットというチーム屈指の重火力アセン。
アズは植民惑星の傭兵一族の生まれ。銀髪褐色肌でエキゾチックな魅力の美少女だった。
高校一年生にして既に高度な操縦技術を体得しているだけでなく、実戦経験者でもある。
乗機"アフシャール"は極端な性能のため、扱いが難しく、本職のレイヴンにさえ使い手の少ない第五世代ACパーツで組まれた機体。所謂"VAC"であった。
少女達の機体は個性豊かにアセンブルされていて、カラーリングもそもぞれ異なる。
しかし、パイロットスーツはお揃いのユニフォームだ。軽やかなレオタードスーツの四肢が重厚なハードシェルで保護されている。
灰色と白のカラーリングは名門校の女子生徒に相応しい気品と清純さを兼ね備えている。
股座の角度が鋭角で、高い運動性を誇るパイロットスーツは、吸水性と速乾性にも優れていた。
そんなハイレグな姿で女子高生ACドライバー達は大胆に脚を広げ、シートに腰掛けている。
一方、対戦相手であるACドライバー科は使用機体は科で採用されている汎用AC"TYPE-DULAKE"で統一されており、パイロットスーツも、華やかさを欠いた重厚な全身スーツだ。
TYPE-DULAKEはコストパフォーマンスに優れた量産機で、世間におけるノーマルACの典型的なイメージの一つだ。
中世の甲冑のように見えなくもないデザインだが、同一メーカーが開発した第四世代決戦型AC、いわゆるネクストAC"TYPE-HOGIRE"やその後継"TYPE-LANCEL"の際立った象徴性に比べるとあまりにも没個性的な外観だった。
『では私は強行偵察と攪乱に移る』
風花は随伴機を追い越して、単独行動を始めた。
背部の広域レーダーで敵AC四機の小隊を捉えると、高層ビルに沿って機体を上昇させる。
和風の西洋人形という印象な部長は急上昇による重圧に抗い、ビルを飛び越え、射程に捉えた眼下の目標をロックオン。
総弾数を重視したタイプのマシンガンとレーザーライフルを構え、ダブルトリガーで発砲する。
高度を高く取って地上に撃ち降ろすことで、マシンガンの弾をより遠くへ送り込んでいた。
小隊単位で行動している四機のTYPE-DULAKEは左腕部シールドで防御しながらライフルで応戦していた。
風花が射出したイクシードオービット、コアに搭載された無人攻撃ドローンが発射した実体弾がシールドからはみ出たノーマルAC本体に命中。怯んだ所に背部ランチャーから発射された垂直ミサイルが降り注いだ。
『うわぁ!』
これにより、早速一機が脱落した。
模擬戦であるため、安全性重視な弱装弾と低出力設定されたレーザーを使用しているが、それでも被弾の衝撃はかなりのものだ。
自分の戦果に自惚れるほど初心ではないミコは、生き残りの対空砲火を横に滑るような回避機動で躱す。
「おっとっと」
軽量機に被弾は禁物だ。今度は昇りと逆方向のGに耐えながらミコは降下。
大きく跳び跳ねるようにブーストを吹かし、ビルを盾にしながら、敵を中心に円を描くように飛ぶ。その間も攻撃は絶やさない。
「くぅぅぅ……!」
縦横無尽に飛び回る高速機故に、Gによる負担もきついが、鍛錬の成果もあって耐え凌いでいる。
右背部レーダーと頭部アンテナを駆使して敵側の位置情報を集め、傍受した阿鼻叫喚の通信に苦笑いしている。
頃合を見計らうとイクシードオービットを回収して、肩部装甲を開き、ECMメーカーの置き土産を残して、その場を離脱した。
『くそう、追いかけるぞ!』
『先輩達にどやされる!』
『ECMが邪魔だ! 当たれよ! この! この!』
必死で追いかける三機のTYPE-DULAKEは、その間も攻撃を継続。弾を浪費していた。