日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
模擬戦を勝利で飾ったAC同好会はガレージに帰還した。
機体の擱座や破損はなかったため、回収作業は不要であり、演習区画からの撤収はスムーズだった。
ガレージに戻ったサヤ達を出迎えたのは、エリスとアンヘラだった。
ミーティング用の広いテーブルに、お手製のチェリーパイと紅茶を用意していくエリス。
レオタード状のパイロットスーツ姿でパイを味わい、上質な茶葉を使った紅茶の香りを楽しむ同好会の一同。
「配信で試合を観ましたが、見事な戦い振りでした。皆さんますます上達していますね」
口調はお嬢様として偽っているが、評価は本心からのもの。
「うんうん! 本当に見事だったよ! 特にサヤの動き、とてもACに乗り始めたばかりとは思えないな」
チェリーパイを口に運ぶアンヘラも大絶賛だ。
「にしてもAC科の連中、大したことなかったな! 思った通りだぜ!」
豊かな胸を張り、威勢の良いヤンキー女子高生イリヤ。パイロットスーツに縁取られ、突き出た乳房が揺れていた。
「これから親善試合が二試合も控えてる。気を抜いたりしないでね」
パイの最後の一切れを片付け、引き締まった肢体にハイレグスーツが似合う、銀髪褐色の美少女が言い放った。
アズとイリヤは寮暮らしで、ルームメイトでもあった。
「判ってるって。イリヤ様ナメんなよ。今回の試合は慣らしだ慣らし」
「この調子なら大丈夫そうだね」
ミコは上品に紅茶を口にしてから一言。
「部長、イリヤをあまり甘やかさないで。すぐに調子に乗るんだから」
「おうおう、アズ。テメェ、随分オレの事にお詳しいなオイ」
純白の髪の令嬢がそこで口を挟んだ。
「お二人はまるで姉妹のようですね」
静かな口調だが、リリィは羨ましそうだった。
「アズとオレが姉妹ぃ? よしてくれよリリィ、こんな不愛想で狂暴なヤツとなんてゴメンだぜ」
「どっちもボクと変わらない、と思うけどな?」
「なんだと~~~!」
視線で激しく火花を散らし合う、火星と外宇宙生まれの女子高生。
「本当に仲がいいなぁ二人とも」
感慨深げなサヤの視線は、純白の髪の令嬢へと移った。
「ねえリリィ」
呼びかける活発な黒髪女子高生の視線は情熱的だ。
「なんですか、サヤ?」
「リリィってやっぱり狙撃がすっごく上手だよね! 私は苦手だから教えて欲しいな」
「私などでよろしければ」
「ううん、私はリリィが良いんだ!」
澄んだ瞳と見つめ合うとリリィの胸は高鳴ってしまう。それを確かめるように己の胸に手を置く純白の髪の少女。
「それがいいだろう。まったく、リリィは大したものだよ。教えたことをすぐに理解して応用するのだから」
教官役の金髪ツインテール、ササラは涼やかに評しつつ、自分のカップの紅茶の残りを奪い取ろうとしたリゼの手を軽くはたいた。
「あいたっ――――パートナーなんだから、これくらいは許してよ」
「ダメだ。後で髪を触らせてやるから今は我慢しろ」
「やった、ササラ大好き!」
異性、同性問わず拒めない魔性の魅力を持つ少女の抱擁を片手で制する金髪ツインテールの教官。
青銀髪のサムライメイドが入室してくる。ミコ部長に仕える村雨レネは繰り広げられる、少女達の賑やかなやり取りに口元を綻ばせていた。
「AC各機の点検と整備は拙の方で全て済ませておきました」
「ありがとうございましたレネ先生! 本当なら私達がやるべき事なのに」
「お気になさらないでくださいサヤ様。拙も顧問としてこの程度の務めは果たしませんとね」
整備科にほぼ丸投げなパイロット科とは違い、同好会では部員自ら乗機の整備を行っているが、試合があった今日はレネがその仕事を買って出ていた。
ACの操縦こそ素人だが、レネは手先が器用で機械の修理も得意であった。
「それにしても――――」
不意にサヤは疑問を口にした。
「AC科の人達、本当に手伝わなくて良かったのかな?」
十二機、一個中隊という大所帯で敗北したACドライバー科側は擱座した機体が多く、撤収作業は大掛かりなものになっていた。
同好会側から手伝いを申し出たが、率いている三年生達から強い口調で拒まれた。
「彼らが不要だ、というのですから、手出しは無用でしょう。
手を差し伸べることが誇りを傷つけることもあります」
リリィはきっぱりと言った。イギリスからやってきたこの少女は、相手の誇りや尊厳といったものを気に掛ける性分であった。
シャワーで汗を流して制服に着替え、今日は解散だ。シャワーを浴びている間にエリスとアンヘラは食器を片付け、退散していた。
「気を付けて帰るのだよ~!」
遠くなっていく部員達の背中を見送るミコの隣で、懸念が現実の物になった。黒髪シニヨンの美少女が傍に寄ってくる。
「今夜仕掛けてくるつもりみたい。二年生が三人。年の指示ではなく独断で」
リサーチャーでもあるリゼの情報網は学園内でも幅広く、ACドライバー科の生徒の中にも情報源がある。
「そうか、では悪いが頼むよ三人とも」
「ああ、ACや備品には指一本触れさせない」
足手纏いにならないよう、ミコは屋敷に戻る。既にレネの代わりとなる傍仕えのメイドが姿を見せていた。
実のところも同好会の部員にも護衛のメイドを配してある。
こうして、ササラ、リゼ、レネの三人チームで、夜にもう一仕事することになった。
エリスに協力を要請することもできたが、あくまで同行会の問題なので頼ることはしなかった。
今回、同好会に勝負を挑んできたACドライバー科の面々の動機は主に嫉妬であった。
ACバトルの選手としてはアマチュアとはいえ、企業私設軍の現役ドライバーやレイヴンなども参加していた大会で優勝を果たしたことで、ACバトル同好会は内外で注目を集めることになった。
ACドライバー科の多くは、お遊戯と見做しているACバトルの同好会が注目を集めたことが気に入らなかった。少女達に思い知らせてやるという意図で対戦を挑んできたのである。
五対十二という圧倒的に有利な勝負で惨敗する結果となったが、それを潔く認める度量がある者ばかりではなく、今後の活動を妨害する、端的に言って備品の損壊などの嫌がらせに打って出たわけだ。
相手の気質をよく理解していたミコ達はこれを最初から警戒しており、準備は万端であった。
ガレージに隠しておいた装備を取り出すと、それらを纏うべく三人は全裸になった。
高性能な隠密装備が今夜の装いだ。三人は漆黒のボディスーツを身に纏っていた。厚さ0.01mm未満、超極薄のステルススーツである。
「裸でいるみたいに軽い!」
四肢などを保護するハードシェルがないので、本当に生まれたままの姿でいるような感覚だ。それでいて外気から保護され快適な温度に保たれている。
「気に入っていただけましたかリゼ様」
「うん! いつもはハイレグスーツだから全身を包まれるのって新鮮だしクセになるかも」
「私も気に入った、良いなこのスーツは」
視線を送ってきたリゼに同意するササラだった。
極薄スーツのため、長身で鍛え抜かれた肢体が裸同然に露わになっていて、腹筋の形がくっきり出ている。
胸や尻のラインはそのまま縁取られており、お尻の間に、サランラップのような質感の被膜が食い込んでいた。
髪を纏め、ササラ達はフルフェイスのヘルムを被ると、スイッチを入れた。バイザーが黒く染まり、美貌を隠した。
頑丈なヘルムで顔が覆われているのに対して、黒で染められた裸体が曝け出されているギャップは極めて煽情的だった。
時刻は深夜。漆黒を素肌に纏った戦乙女達は屋上で見張りを続けていた。
ヘルムの暗視機能で接近してくる二年生の集団がはっきりと見える。
「情報通り、三人だね」
静かな口調のリゼ。
「こんな時間にやってくるとは、ご苦労なことだ」
少し呆れた様子のササラ。
ガレージにやってきた三人の一人、眼鏡の男子生徒はハッキングツールを取り出し、電子ロックを解除してドアを開けようとする。
自信があったようだが、軍用セキュリティの前にあえなく敗退。警報が鳴り響いた。
「やっべえ逃げろ!」
「なにやってんだよドジ!」
「だっだってプロテクトが硬すぎるんだよ! まるで軍用みたいで!」
慌てて退散する三人。彼らは予め監視カメラの有無を確かめていたが、幾つも設置してある巧妙な隠しカメラには気付いていなかった。
犯行の一部始終が記録されており、決定的な証拠になっていた。学園に処分を下させるには十分だ。
「なんと他愛のない」
もう少し派手なトラブルが起きて刀を振るう機会を、密かに切望していたサムライメイドは不満気。
「どうする、悪戯の一つでもしておく?」
ヘルムの下で微笑みリゼはササラに訊く。
「余計な事をする必要はない。念のためしばらく警戒しておくぞ」
「はーい。じゃあ私は下で監視カメラ見てるね」
「頼む。私は周辺を警備しているので、異常があったら無線で知らせてくれ」
「了解」
ササラは屋上から直に飛び降り、着地。一度リゼ達の方に振り向いてから、軽やかに歩いていった。
「では、拙はあの不届きものどもが学園を出ていくまで監視しておきます」
「お願いします」
同じく、レネも姿を消す。そのまま疾風のように夜の構内を駆けていく。漆黒のスーツを纏ったサムライメイドの姿は闇に溶けている。
「必要ない、というササラ様の言はもっともですが――――」
音を立てず不法侵入を試みた男子三人組を追跡するレネ。その手にはスーツと同じく黒く塗られた一振りの刀。
「大人気ない拙としては、脅かしの一つでもしておかねば気が晴れませぬ」
何十メートルもの距離が開いているが、レネは抜刀。裸体に色を塗ったような極薄スーツ姿なので、全身の筋肉の動きがはっきりと出ている。
レネは刀を横薙ぎに一度振るう。
「ひぃ!」
「なんだ!」
「しっ尻が!」
サムライメイドの斬撃は真空の刃を生じさせ、男子生徒達の服の尻の布だけを切り裂いた。
攻撃を受けた彼らからすれば、超常現象でしかない。怯えきった悲鳴を上げながら走って逃げていく。
「まあ、こんなモノでしょう」
鮮やかな仕草で納刀し、ヘルムの下で微笑むレネであった。