日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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青とのコンタクトⅠ

 

 からんからんという心地よいベルの音が店内に響く。

 

 ウェイトレスの制服に身を包み、ミニスカートを颯爽と翻し来客に応対するのは、赤髪で背の高い美少女。

 間違いなく良いトコのお嬢様だと判る気品ある顔立ちに物腰である。

 

 それでいてかなり短い制服のスカートを恥ずかしがることなく、露わにしている白い肌の生脚は長くてよく鍛えられている。

 

「いらっしゃいませ。お席にご案内しますね――――まあ」

 

 そんな赤髪のウェイトレスに驚くのは客である四人の女子高生であった。

 

「神薙さん?」

「エリスちゃん!? バイトしてたんだ!?」

「あっ姉御!? お仕事お疲れ様です! その制服よく似合ってますぜ!」

「うむ。スカートも短くて動きやすそうでいい」

 

 白雪のように綺麗な髪の英国令嬢、リリィコード・オルドリッジ。

 快活な黒髪JKの黒羽サヤ。

 火星からきた薄金髪のヤンキー娘のイリヤ・フレアテイル。

 そして植民惑星からの留学生である銀髪褐色のアズ・ライル。

 

 オルベリア学園ACバトル同好会の面々である。

 

 四人は日曜日に集まって水族館などに繰り出し、お昼を空港付近にある評判のカフェで楽しむことに。

 そして、バイト中の神薙エリスと遭遇したわけだ。

 

「ええ。まだ入ったばかりですけどね。アンヘラも一緒ですよ」

「アンヘラちゃんも!」

 

 大袈裟に反応するサヤ。

 きっと素敵だろうなぁ~っと驚くほど長身で胸とお尻も良く育った陽気な少女のウェイトレス姿を思い描いている。

 

 何故カフェでバイトしているのかといえばアンヘラが切欠だった。

 レヴと三人で訪れたこのカフェを気に入り、バイトすると言い出して、エリスもそれに付き合うことになったのである。

 

 本業があるので出られる日は少ない。

 それでも抜群に仕事ができて、コミュ力もあり、厄介な客の対処にもなぜか手慣れたカンペキな女子高生二人組にカフェの店長は大喜びだった。

 

「では改めてお席に案内しますね」

「おっ願いします姉御!」

「そんなに畏まらないでくださいイリヤさん」

 

 入学してすぐに乱闘沙汰を起こしてACドライバー科を追放されたイリヤ。

 鋭い目つきのおっかない喧嘩上等のヤンキー娘なのだが、エリスの真の姿を知っており、深く恐れ敬っている。

 

 颯爽と歩み出すエリス。

 赤髪のウェイトレスは背が高く、途轍もない美少女。しかも客の四人娘もハイレベルな容姿で、華やかな雰囲気。

 

 必然、店内の注目を集めまくる。大切な学園の友人である同好会の少女たちを護るような、騎士的な身のこなしでエリスは四人を先導していた。

 

 サヤ達が案内された席は二階。

 航空機の離着陸が眺められる特等席だ。

 オーダーを伺いにやってきたのは夏の空気が良く似合う、長身ではち切れそうな巨乳の小麦肌少女であった。

 

「にしても暑いな。火星とは違うしんどい暑さだ。

 地球は再構築戦争の後に綺麗さっぱり元通りにしたんだろ? なんでこんな暑さにしてるんだよ、人が死ぬぜ」

 

「これが日本の季節というものなのですよ。戦後の環境再生プロジェクトは人間に都合の良い環境ではなく、本来あるべき姿を目指したモノだったんです」

 

「自然とは人間のためにあるものじゃない。それはイリヤでも分かるはず」

 

 イリヤにリリィが語る。そこに付け加えるのは砂漠地帯が大半を占める植民惑星生まれのアズ。

 

 後から反省したが、リリィはつい講釈を垂れてしまった。

 

 異星起源の人工知能との星間戦争以前の世界については、限られた資料しか残っていない。

 だが、当時から際限のない環境破壊が進んでおり、それが惑星アリシアへの入植を熱狂的なまでに加速させたという事実は広く知られていた。

 

 惑星アリシアとの《再構築戦争》の後、人類は動乱を経て地球連邦として一丸になり、壊滅した地球環境の再生に注力した。

 

 アリシアとの戦争で獲得した技術と限られたリソースを最優先で投じ、四半世紀をかけて地球を青い星へと復元したのである。

 

 当時の人類には、生存を脅かすほど環境を荒廃させる無頓着さがあり、ひたすらに破滅の道を進んでいた。

 その意識は《再構築戦争》という大災厄によって、間違いなく変化した。だからこそ今の世界がある。

 

 もしも、月の裏側での超空間ゲート発見に端を発した災厄がなければ今頃人類は――――と。

 

「うーん、リリィが考えていることは難しい」

 

 腕を組み、神妙な表情を浮かべる黒髪女子高生のサヤ。

 

「すみません、つい得意になって変なことを話してしまいました」

「いいって。勉強になったぜ」

「先人の考えに想いを巡らせることは大事」

 

 リリィは表情にこそ出さなかったが、仲間たちの反応に深く感謝した。

 イギリスの名家であり、総合医療メーカーとして財をなしたオルドリッジ家。その家名ではなく、リリィ個人を受け入れてくれる同好会の仲間たちが大好きだった。

 

 同好会の少女たちの姦しいお喋りは、外から響いたエンジン音に遮られた。

 ランディングギアを出した超大型航空機が、滑走路に降下していく。大量の貨物を運べるこうした大型機は、広く普及している。

 

「往還機か。珍しい形だな」

「トリニティ製の軍用機。間違いない」

 

 尊大に腕を組み、窓の外を横切ろうとする航空機を睨むように見つめる薄金髪の火星ヤンキー娘。

 その隣で褐色のアズが断言。傭兵一族の生まれであるため、軍事に詳しいミステリアスな少女である。

 

「ねえ、あれって!」

 

 垂直尾翼のエンブレムに気付いたサヤが声を上げる。

 鋭角な軌道を描く青い光のエンブレム。ACバトル同好会に属する少女達は、その機体の所属を知っていた。

 

「『ブラウリヒト』の輸送機ですね」

「だよね! でもどうしてここに!?」

 

 ブラウリヒト。

 アーマードコアによる模擬戦闘競技ACバトルのうち、三機から五機でチームを組んで行うアサルトスクワッド種目の上位リーグに名を連ねる強豪チームだ。

 

 巨大企業トリニティが月面で運営しているエリート養成校『オルタシア専門学院』の優秀なACドライバー達がチームメンバーを務めている。

 

 その機体は高機動空間戦闘に特化したアセンブルが施されており、美しい流線形のフォルムと鮮やかな青色をトレードマークとする。

 パーツは当然、トリニティ社が提供した最新鋭の物だ。

 

「訓練のためでしょうか? ですが公式ページやSNSには何の情報も出ていませんね」

 

 携帯端末を取り出して調べるリリィだが、ブラウリヒトからの公式な発表は見当らない。

 たった今、SNS上ではサヤ達と同じく、往還機を目撃した人々が画像や動画をアップロードしているくらいだ。

 

「私達に会いに来た――――なんてないよね」

 

 サヤは冗談めかして呟いた。

 ACバトル同好会が大きな話題になっているとはいえ、下位リーグへの挑戦権を得たばかりのチームを強豪が訪ねてくる事はないだろう。

 

 

 

 月曜日。

 夏休み直前は授業が午前中だけなので、午後からは同好会の活動に打ち込んでいる。

 友達と街中を遊び歩くのも楽しい、だけど今はアーマードコアを駆りたいという気持ちが一番なのがACバトル同好会の少女達であった。

 

「アズちゃんとイリヤちゃんだ! 私達も急ごう」

「ええっ!」

 

 蝉時雨が響く中、木立を抜けてガレージに辿り着いたサヤとリリィは、二人が建物に入っていくのを垣間見て、駆け足になった。

 

「あれ? 部長とレネ先生は?」

 

 更衣室に入ると、サヤが言った。

 

 多数のメイドを従える資産家で、傭兵に依頼を斡旋するフィクサーでもある、ミステリアスなちびっ子部長と青銀髪のサムライメイドの姿がない。

 普段なら真っ先にガレージに足を運んで、出迎えてくれるはずなのに。

 

 その疑問に答えたのは金髪ツインテールの教官殿だ。

 

「同好会に来客があってな。二人で応対しているよ」

「教えていただき、ありがとうございます教官殿!」

 

 おどけて兵隊みたいな敬礼して見せるサヤ。手振りで敬礼を辞めさせる金髪碧眼の美少女。

 

「よしてくれ。教官と呼ばれる事にも結構気後れしているのだからな」

 

 最強クラスのレイヴンでありながら、ササラ・レイフィールドは人の上に立てるほど自分は立派でないと思っていた。

 

「あはは、ごめんなさい。ところで来客っていうのは?」

「それは見てからのお楽しみだ」と珍しい笑い方をするササラであった。

 

 ロッカーに向き直り、夏服のブラウスとミニスカートを脱ぐ金髪ツインテール。

 ササラのインナーは夏でも涼しい純白のTバックで、お尻が完全に露出している。

 

 隣で脱衣しているリゼの、華美なレースが施された黒く艶やかなインナーとは対照的だった。

 

 早着替えはサヤの特技の一つだ。

 ブラジャーのホックを外しているリリィの隣で、黒髪の女子高生は素っ裸になっている。

 素肌に馴染んだレオタード状のパイロットスーツをロッカーから取り出す。

 

 AC同好会が採用しているハイレグレオタード状のスーツはネックエントリー式だ。

 まずは首の穴に足先から通して引っ張り上げる。そして首元のスイッチを入れるだけで、素肌に密着するのだ。

 

 灰色のレオタードスーツを身に付けたら、四肢を保護する白色のハードシェルを装着して、ブーツの爪先を打ち鳴らす。

 

「ようし、今日こそは!――――って速過ぎるよ、二人とも」

 

 一番乗りで装着できたと思ったサヤであったが、ササラとリゼは先に完了していた。

 

 金髪ツインテールの高身長美少女は片手を腰に当てた、凛々しくカッコいい佇まいだった。黒髪シニヨンの方は落胆するサヤが可愛らしく、口元に手を当てている。

 

 不意にサヤの視線は背中合わせの位置のロッカーを使っているヤンキー娘と銀髪褐色娘に向いた。

 ギリギリ股間を隠せる丈の超ミニスカを脱いだばかりのイリヤとアズ。その股間は白い鋭角に際どく覆われ、逆三角形のラインがブラウスの内側に続いていた。

 

 インナーは決してショーツではない。そして、たくさんの汗を吸っていた。

 

「それってもしかしてレオタード?」

「ああ。ダンスの練習用に使ってるレオタードだぜ」

「今日は二人で朝練していた」

 

 イリヤとアズは白いハイレグレオタードだけの恰好になって並ぶ。

 

 純白のレオタードで、より魅力的に引き立てられた二人の肉体美に、見惚れてしまうサヤであった。

 

 入学直後、ACドライバー科から追放されたヤンキー娘と銀髪褐色娘は、舞台芸術科でダンスを学んでいた。学生の本分においても、デュエットを踊っている。

 

 筋金入りの不良と自由気儘な気性の褐色娘だが、ダンスには熱意を持って真剣に取り組んでいる。

 実際、期末の実技試験では最高評価を得ていた。

 

「旅行までにばっちり仕上げて見せてやるから楽しみにしとけよ!」

 

 レオタードを丁寧に脱ぎながら火星生まれのヤンキー娘は言うのだった。

 

 ミコの発案でACバトル同好会は大会優勝を祝して観光コロニーに旅行に行くことになっていた。

 その時に余興で披露するべく、ダンスの練習に二人は励んでいる。

 

「ええ、楽しみに待っています」

 

 隙なくスーツを着込んだリリィがアズ達に微笑んだ。

 かつて家族と共にレイヴンに救われ、同じ道を目指している令嬢にとって、同好会のハイレグスーツは、どんな華美なドレスよりも魅力的な衣装であった。

 

「皆、スーツの装着は完了したか?」

「おう! 今日も完璧だぜ教官!」

 

 ガサツな印象のイリヤだが、衣装はきっちりと着込む性分だった。

 

 日々の厳しいトレーニングで少女達の肉体は鍛え上げられていた。くっきりと割れた腹筋が、密着したレオタードスーツに浮き出ている。

 

 入部当初は腹筋が割れていなかったリリィとミコ。

 その二人も一か月経つ頃には腹筋が鍛えられ、同好会の美少女達は揃っての腹筋割れを完了した。

 

 宣伝のための集合写真や動画でもハイレグカットの深い、魅惑的なパイロットスーツで着飾った美少女達の鍛え抜かれた腹筋は印象的だった。

 見る者を魅了すると同時に、ACドライバーとして真剣に取り組んでいることをアピールしていた。

 

 再び蝉時雨の中に飛び出し、真夏の日差しを浴びる少女達。

 

「いつも通り、ストレッチの後にランニングだ」

「「「「はいっ!」」」」

 

 金髪ツインテールの教官に元気よく返事をする部員達。構内に設けられた一周1.5kmのランニングコースを走るのだ。

 

 大胆な恰好だとか凄い恰好だとか、クラスメイトには言われているが、サヤ本人にとっては恥ずかしくない。

 ハイレグレオタード状のスーツを純粋にカッコいいと思っている。

 

 教官役のササラが金髪のツインテールを靡かせながら駆ける姿は、まさに颯爽という感じだ。

 その背中を追いかけていると、自然とペースが上がる。

 

「この暑さであんま気合入れてペース上げてると後がキツいぜ」

「平気だよ、これくらい」

「なら、いいけどよ」

 

 野性的な笑顔を向けるイリヤにサヤは挑戦的な笑顔で応じた。

 

「はぁっ……! はぁっ……!」

 

 リリィはひたむきに走っている。

 アズはマイペースで、イリヤの豊満な臀部をじっと見つめ、滴る汗を観察している。いつも喧嘩ばかりしているアズだが、イリヤの肉体の躍動を見つめ、共に舞い踊ることは大好きだった。

 

 最後尾ではリゼが部員達を見守っていた。

 

 レオタードスーツのお尻部分はハーフバックにカットされており、走っていると露出した尻肉が弾むし、食い込んでくる。

 

 時折食い込みを直しながら、十五kmを走り切ったACバトル同好会の少女達。

 

 息を整えながら、陽炎立つアスファルトを歩き、ガレージに戻った。

 

「やっぱり夏のランニングはきつかった」

「無理はしないでくださいね」

 

 バテ気味になりながらも、仲睦まじく言葉を交わし合う黒髪と白髪の女子高生。

 

 一方、過酷な環境で育ってきた、火星生まれのヤンキーと植民惑星生まれの銀髪褐色は、余裕そうだ。

 

 ガレージの一角にはトレーニング用のマットが敷いてある。次は筋トレだ。

 

 定番のスクワット、腕立て伏せ、上体起こしを中心としたものだが、回数は多く、ハードなトレーニングである。

 だが、ACバトル同好会の少女達は音を上げることなく、毎日こなしていた。

 

 筋トレが終われば、シミュレーターでの練習になる。

 

 ちょうど、来客に応対していたレネとミコが、他校の制服を着た五人組の美少女と、スーツ姿の中年男性を案内しながら戻って来た。

 

 少女達の汗一つ掻いていない姿は、ボディライン剥き出しのレオタードスーツを汗濡れにして、熱と匂いを発散させているサヤ達とは対照的だ。少し、恥ずかしい気持ちになる。

 

 訪問者の制服の胸に輝く、誇らしげなエンブレムは『ブラウリヒト』のものであった。

 

「まさか本当に私達の所に来るなんて」

 

 サヤは驚きを隠せないでいた。

 

 

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