日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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公開練習Ⅱ

 

 公開練習開始の十五分前。オルタシア専門学院が誇るアサルトスクワッドチーム『ブラウリヒト』の少女達は、機密フロアとして仕切られた一画でパイロットスーツの装着を開始した。

 基地の区画を貸している日本政府とミサカ重工に対して絶対侵入禁止を通達するレベルの最先端技術を持ち込んでいるのだ。

 間借りしている基地に機密機器を運び込み、侵入禁止を要請する。友好関係を築こうとしている相手に対しても、傲慢さを隠さないのがトリニティグループらしさだ。

 

 区画内の侵入制限はもう一種類あり、男性の侵入を固く禁じていた。それは、アニエス・ミッドホルンが率いるブラウリヒトがテストを任されたスーツの着用方式によるものだった。

 シャワーで全身を洗浄したブラウリヒトの少女達は五つの台座が等間隔に並んだ一室に入った。首から下に一糸纏わぬ姿で、髪の長い者は後頭部に纏めていた。

 

 湧き上がる羞恥心をつとめて強い心で振り払う。ヌードまでエリート女軍人風に鍛え抜かれたアニエスが率先して着用台に乗った。

 続けてサブリーダーであるフレドリカが隣の台座の上に乗る。

 心頭滅却しながら、長身の侍風女子高生ナツメが、お尻を少し後ろに突き出す姿勢で怯えながらピンク髪のピノが、面倒臭そうにシグリルが台座に乗った。

 

 全裸なので、少女達の胸や尻が動きに合わせ隠しようもなく揺れる様子が曝け出されていた。

 横一列で並び、まるで全裸で身体検査を受けるかのような格好になったブラウリヒトの少女達。

 テスト中の最先端パイロットスーツの着用は何度も行っているが、この着用手順にはまだ慣れていない。

 

 隣のモニター室でオペレーター担当の女子生徒がコンソールを操作して、パイロットスーツの装着開始を宣言する。

 台座の前後から四角形のフレームで固定された青い膜状のナノマシンがスライドしてくる。

 

「うっ……!」

「ひゃ……!」

「くぅ……!」

「やぁ……!」

「んっ……!」

 

 ナノマシンの膜が前後からアニエス達の裸体に張り付いた瞬間、ぞっとする冷たさに思わず声が漏れる。

 肢体が青い膜に縁取られた姿で、体を固定してナノマシンの最適化を待つこと五分、突如として膜が蠢き、変形を始めた。

 適応を完了したナノマシンは、首元から足先までを覆う被膜状の青いスキンタイトスーツと、胴側面や四肢を保護する黒色のハードシェルスキンに分化する。

 

 股間部分はスキンタイトが形成されてから、ハードシェルがI字型に防護する、厳重な二重保護を施された。

 装甲板はお尻の間にまで伸びており、尻の間を綺麗に割るように食い込んでいた。

 

 ナノシェルスーツと名付けられた、このスーツはトリニティの進んだナノマシン工学が生み出した新世代の防護装備だ。

 ナノマシンにより形成されたスーツは、単純に体にフィットして快適かつ頑丈なだけではない。通信機能や生命維持装置さえ形成している。

 

 現状では装着の度に最低五分の時間を要するなど、様々な欠点があるが、高度な耐G性能を有した優秀なパイロットスーツだ。

 美貌と魅力的な肢体を兼ね備えるブラウリヒトはナノシェルスーツの最適な広告塔であり、テスターだった。

 

 開発したトリニティの技術者達は、これを今までにない斬新なものだと考えているが、既に同一のコンセプトで遥かに高性能なナノスキンスーツという遺失技術が存在している。

 再発明でこそあれ、人類の技術が《再構築戦争》当時に一歩一歩近づきつつあることも示していた。

 

 前に進み出てると、形成されたナノシェルスーツがナノマシン膜から千切れる。五人が台座から降り、ブーツが硬質な靴音を立てた。

 

「うむ、いい感じだな」

 

 アニエスは掲げた右手を握って開き、スーツのフィット感を確かめる。

 着用する手順は恥ずかしいと感じるが、スーツの性能やデザインは嫌いではない。

 

 髪の長いメンバーは膜の内側に髪が垂れないための髪留めを外して、元の髪型に戻してあった。

 要らなくなった髪留めは肩のハードシェルを開いて収納する。小物が入る収納スペースがあるので、こういう時に助かる。

 

 

 軍隊のようなブラウリヒトの気風にあっては、部下と呼んだほうが適切な関係にあるチームメイト達がリーダーたるアニエスの前で整列する。

 

「各員の士気は十分ですよ」

 

 青い被膜に包まれた豊かな胸を身動ぎで揺らしつつ、片目を瞑り笑顔のフレドリカ。

 金髪のおっとりした少女は、聞きたいことを察して応じてくれる優秀な副官だった。

 

 腰に片手を当てて威風堂々としたナツメ、弱気な態度を見せながらも、頑張りますと口に出してやる気を見せるピノ、頭の後ろで手を組みながらも普段より戦意を感じさせるシグリル。

 

 その姿にアニエスは満足気に頷いた。

 

「では、オルベリアのヒヨッコ達に見せてつけてやるか。私達を、ブラウリヒトを!」

 

 わざわざ地球まで降りるだけの価値がある娘達だった。だからこそ、格の違いを教え込み、先へと導いてやらなければならない。

 

 全裸の心許ない姿で入室した時と一転、退室していくブラウリヒトの姿は勇ましかった。

 極薄ぴっちりなパイロットスーツを纏った月面の少女達の強い決意は、光沢のある青にくっきり包まれたお尻にも現れており、その意志を示すように凛々しく揺れているのだった。

 

 

 格納庫に向かい、1G環境に合わせて調整さたれ青いACに搭乗するべく、タラップを上がる五人。

 

 素肌にぴったりと張り付くナノシェルスーツは、コクピットのスイッチや機器に引っ掛かることがなく、滑るように機体に搭乗できるのも利点の一つだ。

 

 慣れ親しんだコクピットに乗り込むチーム・ブラウリヒト。ジェネレーターを起動し、コンソールパネルに並んだスイッチをONにして膨大な電力を各部に振り分ける。

 空中機動戦闘に最適化されたアセンブルであるため、エネルギーにかなり余裕を持たせてあった。

 

 ドライバーを迎え入れるべく解放してあったコアの装甲板がスライド。外部とコクピットを隔てて搭乗者を護る。

 アイカメラが灯り、鋼鉄の巨人は目を覚ました。

 

《メインシステム、戦闘モード起動》

 

 コンピューターの合成音声がコクピットに響くと同時に、モニターにカメラからの映像が投影された。

 アニエスは操縦桿を握り、ペダルを軽く踏み込んでACを前進させる。残りの四機はそれに従い、順番に格納庫の外へ出ていく。

 

 誘導管制の元、律動的な歩みで格納庫から姿を見せ、青い装甲に夏の日差しを照り返す五機。

 コクピットに座するエリートドライバー少女達は、揃って不敵な笑みを浮かべていた。

 

 流線形フレームのACで、頭部は『YH15-DRONE』、コアは『C03-HELIOS』。

 そしてACの機動特性を決める脚部は、軽量で高い運動性を備えた中量二脚『LH07-DINGO2』で統一している。

 

 武器の適正を左右する腕部のみ各自の好みで選んでいるが、肩部エクステンションはチームが得意とする空中戦向けの補助ブースターで固定だ。

 

『ブラウリヒト01から05、離陸を許可します』

 

 管制塔から通信が入る。離着陸管制だけは、その重要度から基地本来の要員が担っている。

 

 チームに固有の機体名はなく、01から05までのナンバーで呼び合っている。軍隊然とした在り方と伝達性を重視しているからだ。

 

 メインブースターとエクステンションブースターが同期して噴射炎が噴き出し、中量二脚ACに大気圏を飛翔する推力を与える。

 全長10メートルの鋼鉄の巨人達が舞い上がり、整然と編隊飛行に移行。そのまま、あっという間に高空へ上昇していった。

 

 

 

 管制室に招待された聖オルベリアACバトル同好会の面々の緊張感は、公開練習開始までの残り時間に反比例して高まっていった。

 

 用意された複数の大型モニターに素早く視線を巡らせ、今後対決することになる相手を余さず観察するサヤ。まず、ACの操縦の初歩である歩行に無駄がない。

 試合映像でブラウリヒトなどの上位リーグチームの凄味は思い知ったつもりだったが、やはり生のインパクトは違う。

 

 我知らず、黒髪の元気印な女子高生は拳を強く握っており、それを見つめる親友の視線にも気付かないほど中継映像に集中していた。

 

(サヤのこんな顔、はじめてです)

 

 親友がはじめてみせる真剣な横顔はリリィの胸を高鳴らせた。

 

(いけません! 集中しないと!)

 

 それを自覚すると白い令嬢は慌てて視線をモニターに戻して固定した。

 

 

 

 一方、その頃。

 エリス達は自宅にて公開練習のライブ中継にテレビのチャンネルを合わせていた。テーブルには昼食のタコスが用意されている。

 アンヘラの大好物で、しかもエリスが拵えたタコスとなればもうたまらない。

 

「早く始まらないかな。楽しみだよ」

 

 妖艶な仕草で指についたサルサソースを舐め、ブラウリヒトの公開練習開始を待つ旨のコメントをしている。

 

 だが、エリスはアンヘラがブラウリヒトにそれほど興味を抱いていないことに気付いていた。

 ネクストだけでなく、ノーマルの操縦でも圧倒的な技量を発揮する戦闘の天才ゆえ、エリス未満の相手には強く惹かれないのである。

 それに今は何よりも、大好きなエリスが作った美味しいタコスが最優先事項なのだ。

 

「お代わり作ろうか?」

 

「いいの!? やったーお願い!」

 

 満面の笑みで大喜びするアンヘラについつい笑みが零れるエリスである。料理を美味いと褒められると嬉しい。

 

「なら僕のも頼むよ」

 

 ゴシックドレス姿でタコスを味わい尽くした白金髪のレヴが皿を差し出してきた。

 

「へいへい、りょーかい。ちょっと待ってろよ」

 

 ラフなTシャツにホットパンツ姿の神薙エリスは皿を二枚手にして立ち上がる。

 アーマードコア・ネクストを駆る赤髪の最強戦乙女にしてこの物語の主人公であるはずの美少女は、追加のタコスを作りにキッチンに戻った。

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