日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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公開練習Ⅲ

 

 沖合の訓練エリアに、青く彩られた五機の二脚ACが制然たる編隊飛行で侵入する。

 アサルトスクワッド上位リーグチームの中でも、特にチームプレイに長けていると評されるのがブラウリヒトだ。

 

 飛行訓練では無重力さながらの飛び方を見せて人々の度肝を抜き、早々に無人標的機を使った射撃訓練に移行した。

 

『これより射撃訓練に移行する』

 

 黒みがかった灰髪の部隊長、アニエスが宣言すれば「了解」と美しい少女達が唱和する。

 

 ブラウリヒトは無人標的機が飛び交うなかでターゲットを重ねることなく、次々に目標を射抜いていく。

 特にアニエスの駆る一番機の右腕部兵装はその銃口から放たれる閃光と発射音で強烈な印象を与えた。

 弾速を重視したレーザーライフルCR-WR98Lには、着弾時にエネルギーを球状に炸裂させる独特な性質があった。

 

 遺失技術が用いられ製造者すら不明なKARASAWAシリーズを再現する目的で造られたレーザーライフルは当初の目的こそ果たせなかったが、ACドライバーに高く評価される武装の一つだった。

 ジェネレータ負荷の大きいレーザー兵器のダブルトリガーをこなしながら部下よりも激しい動きをしているアニエスは、流石リーダーでありエースであった。それは卓越したエネルギー管理能力を持っているということだ。

 

 アニエスに次ぎ、なおかつ他のメンバーを大きく引き離す撃墜数を稼いでいるのは、五番機のシグリル・ナレンだ。

 気怠げなボーイッシュ美少女は実弾ライフルによる正確な射撃を宙返りのようなアクロバット飛行と同時に行うことで技量を誇示していた。

 

 飛行訓練や無人標的機を使った射撃訓練といった基本が終わると、次は日防軍とミサカの軍事部門MSFの合同部隊を相手にした模擬戦が行われる。

 ここにきてネットでの視聴者数も激増し始めていた。

 

 ブラウリヒトの相手となる合同部隊の機体は背部に大型ブースターを装備したアンテナ頭のTYPE-ARGINE。

 定番と呼べるほど普及した空戦型ノーマルACは優秀な機体だ。

 

 ヘッドオンの位置でブラウリヒトと日防軍MSF混成チームは交戦。決着にかかった時間は一分程度だった。

 

 

 基地管制室の一角で見学させてもらっている聖オルベリアの女子高生達は模擬戦でブラウリヒトが見せた強さに圧倒された。

 試合映像とは比べ物にならない圧力がそこにはあった。

 

「マジものの軍人相手でもこれかよ」

 

 火星生まれの薄金髪ヤンキー娘イリヤが呻くように呟いている。

 

 巡航速度と航続距離に優れるが旋回能力に難のあるTYPE-ARGINEの機体特性を突き、高機動戦を展開。

 高度にアセンブルされた空間機動特化型ACは縦横無尽に蒼空を飛び回り、一方的に対戦相手を撃破したのだ。

 それは複雑な機動に耐え抜く体力と相手の初動を見抜いて潰す洞察力がなければできない戦い方だった。

 

「少し期待外れでしたね」

 

 両手両背部にミサイルを積み込んだ二番機のフレドリカ・タルテは水分補給をしながら微笑み、仲間達に向かって言った。

 アサルトスクワッドに則った五機同士での試合とはいえ、自分達より搭乗時間が長い熟練ドライバーがこれほど容易い相手とは想像していなかった。

 

『あの程度であれば、我らなら三倍の数でも相手取れる。少々嘆かわしいな』

 

 ブラウリヒト三番機。ストイックな女侍風の乃井原ナツメは国を守護する軍の体たらくに思うところあった。

 海鵬市に下りてから様々な部隊と模擬戦をさせてもらったが、猛者と呼べるほどのドライバーはいなかった。

 

『油断は禁物だと思いますナツメさん! 二倍とちょっとくらいが限度です!』

 

 ピンク髪の気弱そうな美少女ピノ・サクラスカヤが口を挟む。

 

『意外と言うよねピノって。まっボクも同感だけど』

 

 青いナノマシンで素肌を覆ったぴっちりスーツ姿の美少女達はリラックスした雰囲気で通信している。

 普段から軍隊然とした態度で訓練に臨んでいる相手がチョロ過ぎて気が弛んでいた。

 

『お喋りはそこまでだ。対地攻撃訓練に移るぞ』

 

 しかし、気を引き締め直すようなアニエスの言葉でお喋りを中断し、青色の五機は進路をメガフロートの一つに取った。

 

 

「あれ? 演習島に向かっていく。そんな訓練するなんて書いてあったっけ?」

 

 疑問符を浮かべる黒髪の元気一杯なサヤである。

 演習島はACバトル同好会も使っている演習用の環境が設けられたメガフロートの俗称だ。

 

「いえ、公開練習は先ほどの模擬戦で終了のはずです」

 

 同じく訝しむリリィコード・オルドリッジ。純白の髪の令嬢であった。

 

「あれ、まさか、ウチの学園の――――うわぁ、拙いことになりそう」

 

 銀髪褐色のHEATパイル使い、アズはUAVからの空撮映像に映った聖オルベリア教導学園ACドライバー科の機体に気付いた。

 サプライズである。ブラウリヒトはACドライバー科との模擬戦もセッティングしていたのだ。

 

「こりゃ不味い。虐殺になるぞ」

 

 ちんまく可愛い二年生にして闇のフィクサーたるミコ部長は、やる気だけは漲らせている地上のノーマルAC五機を見て顔を引き攣らせた。

 隣で金髪ツインテールの教官ササラも静かに頷く。

 

「ごめん部長、私の方で情報を掴めてなかった」

 

「いいさ。私達にはどうすることもできないことだ」

 

 リサーチャーとしての失敗を詫びるリゼであった。

 ACバトル同好会を敵視する者が多いACドライバー科の妨害に備え、複数の内通者を獲得しているが、この模擬戦の情報は拾えなかった。

 

 

 ACドライバー科はパイロット養成科の中でも特別視されている。

 そもそもACそのものがパイロットをドライバーと呼称するほど強力なマシンなのだ。

 

 科の生徒は大抵親の属する企業ごとに分かれてグループを形成しており、その対立は本物の企業間抗争さながらだ。

 ブラウリヒトがこれから対戦するのはACバトル同好会が以前対戦したグループとは、異なるが腕前ではどっこいのグループである。

 

 配信映像では対戦するACドライバー科の生徒が紹介され、通信回線を開いて当人の口から意気込みが語られている。

 生徒達の口振りは高い技量を見せつけたばかりのブラウリヒトを舐めており、その認識力の低さはある意味幸せだった。

 

 飛来したブラウリヒトは機体を地上に付けない。低空でホバリングを続けて試合開始の合図を待っている。

 

 そうして始まった学園同士の模擬戦の結果は散々なものだった。

 

『うわ、動きおっそ。ていうかあれで遮蔽取ってるつもりなの?』

 

『待ってください、何かの作戦かもしれません!』

 

『軽く突いてみましょうか。私がミサイルで牽制するのでその後、ECM展開しつつ03を先頭として04、05でアローフォーメション。よろしいですよねアニエス?』

 

『ああ。私も同じ考えだ』

 

 振り子のような戦闘機動で攪乱してからブラウリヒトは攻め始め、上空からのミサイル弾幕に続く突進攻撃で陣形を乱されたACドライバー科が一方的に殲滅される流れになった。

 有力企業の子女が大半を占めるACドライバー科のカリキュラムは保護者のクレームと訓練中の事故を恐れた学園の意向で年々実戦的なものから遠退いており、それがはっきりと出る形になった試合である。

 

『ここはオーディエンスを沸かせてやろう。ナツメ、この対地攻撃訓練の締めは任せる』

 

『はっ――――参るぞ雑兵ども!』

 

 最悪なのは三番機のナツメにレーザーブレードで全機が切り捨てられたことだ。

 オーバードブーストで疾走しながらブラウリヒト三番機は流れるようにACドライバー科のノーマルを切り裂いていた。

 ブラウリヒトからすれば華麗なる勝利だが、聖オルベリアの完全なる恥であった。

 

 

 こうしてブラウリヒトの公開練習は大盛況で終わり、帰投したACから降りたアニエスらはナノシェルスーツ姿のままインタビューを受けていた。

 

 ナノマシン被膜と装甲に覆われた少女達は、ある意味裸よりも恥ずかしいぴっちりスーツ姿だが堂々と振る舞い、張り付いた装甲板で強調される股間に視線を感じても凛然とした態度で質問に答えていた。

 

「数日後に催されるACバトル同好会との親善試合も今日と同じくらい実りあるものにしたいと思います」

 

 カメラを見つめインタビューに答えるアニエスの視線が実際に見据えているのは五人の少女達。

 特に旧式機体で驚くべき戦闘力を発揮する黒羽サヤであった。

 

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