日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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開戦

 

 訓練、訓練ひたすら訓練。聖オルベリア教導学園ACバトル同好会はブラウリヒトとの対決に向けて猛特訓に励んだ。

 

 そして、試合前日の晩である。黒羽サヤはテーブルに並んだ料理の数々とそれを一人で用意した赤髪の美少女と見比べた。

 

「いやっすっごいなぁエリスさ…ちゃん」

「戦に臨む勇士を送り出すには少し物足りないかもしれませんが」

 

 嫋やかに微笑むエリス。サメAI内蔵のゴシック娘が聞いたら大爆笑のお嬢様セリフである。

 今日は赤髪をポニーテールにしており、活動的なホットパンツは相変わらずだがトップスは白でレースの入った上品なものを選んであった。

 

 神薙を名乗る三人娘は明日、試合に臨むサヤの家に上がり込んでいた。

 

 娘達にも多くを明かせない立場の公務員であるサヤの父は、先日から珍しく泊まり込みで仕事している。

 家にはサヤと妹のチトセの二人きりなので、自宅が近所ということもあり夕食の支度を担うことにしたわけだ。

 

「サヤさんのお父様も大変ですね」

「うん。なんだか本当に忙しいみたい。連絡も取れないくらいで」

 

 サヤの父親が泊まり込むことになったのは、日本とミサカ重工に急接近してきたトリニティが原因だった。父が防諜関係の仕事をしている、というのはなんとなく察していた。

 

「それじゃ、チトセを呼んでくるね」

 

「いえ、私が行きましょう。サヤさんはそのまま掛けていてください」

 

 そう言って、階段を上がりエリスは部屋のドアを開けた。

 

 そこにいるのはまず、中学生である黒髪ショートヘアのチトセ。

 ちょっと小生意気そうな顔立ち。サヤにはない狡猾さと姉に匹敵する突進力を持つ手強い少女である。

 

 共同生活している二人の美少女は見慣れない格好をしている。

 

 レヴは普段より遥かに脚を露出させた白ゴスロリに眼帯付き。

 アンヘラに至っては、小麦色の肌に似合う、白い競泳水着だ。ハイレグでパツパツというか透ける寸前の。

 

 前者は恥ずかしそうに、後者は楽し気にエリスにコスプレ姿を披露してきた。

 思わず似合ってんじゃん二人とも、と素の口調が出そうになるのを呑み込む。

 

「レヴとアンヘラは迷惑を掛けませんでしたか、チトセさん?」 

 

「いいえそんな迷惑だなんて。さいっこうの被写体でしたよお二人とも! それにリリィさんも!」

 

「こっ光栄です、チトセさん」

 

 そこにはもう一人、華やかに仮装した白髪の令嬢の姿があった。

 体のラインが剥き出しな純白に金ラインのトップスとミニスカートをぴったり纏った、リリィコード・オルドリッジである。

 恐れ知らずにも、チトセは英国が誇る名高い名家の令嬢に煽情的なコスチュームを着せていた。

 サヤの僚機を務めるリリィもまた、夕食に誘われて、そのまま親友の妹のコスプレの餌食となかった。

 

「夕食が出来上がりましたよ」

 

 エリスの報せに、少女達はいそいそと元々の衣服に着替え始めた。

 

 

 

 こうして神薙を名乗る三人娘と黒羽姉妹にリリィの六人で夕食の席を囲んだわけだが、

 

(ふーん、二人とも意外と緊張してないな。これなら安心安心)

 

 サヤの様子を観察して内心で呟くエリスだ。表情や食欲から全く緊張していないのが見て取れた。

 リリィの方も箸を手に、サヤに対抗するように旺盛な食欲で料理を平らげている。

 

「エリスちゃん一つだけ、いい?」

「何か?」

 

 箸を置き、真剣な表情になったサヤに思わず身構えるエリス。

 

「明日の試合、攻略法とかとっておきの戦法とかあります?」

 

 黒髪の女子高生の問いかけは、あまりにも大真面目なものだった。

 

 よろしい。深呼吸してから赤髪の戦乙女は答えた。

 

「では不肖神薙エリスのとっておきを伝授いたしましょう」

「ありがとう! おっ願いします!」

 

 背筋を正し、真面目な表情で赤髪の戦乙女の言葉を待つ黒髪の元気娘と白髪の令嬢。

 姉の殊勝な態度に吊られて、チトセまで背筋をぴんと。

 おまけに、アンヘラとレヴもじっとエリスを見つめて言葉を待っていた。

 

「格上を倒すのなら油断と増長につけ込め! 動揺したのなら即座に叩き潰せ!――――です」

 

 右手の拳を固く握りながら、エリスは告げた。

 一瞬、食卓に沈黙が流れた。それから、黒髪の元気溌剌な女子高生は口元を抑えて笑った。

 この親友の行動には白髪の令嬢も困惑だ。

 

「ごめんごめん。それ、昨日の晩お母さんも言っていたよ。偶然ってあるものなんだね」

 

 昨晩、某国で活動中で母クレハとのオンラインでのやり取りで、まったく同じ教えを受けたサヤであった。

 彼女の母親は元トップクラスのレイヴンでありながら、医療系NGOで働いているのだ。

 直接応援には来れないが、試合は観戦できるとのこと。親善試合は全世界に配信されるのだ。

 

 下位リーグの参加権を得ただけのチームが、上位の強豪との戦闘を生配信される。

 並みの神経だったら、それだけで潰れてしまうほどプレッシャーがある事態だった。

 

「これは失礼しました。私から言えるのはそれだけです、健闘を祈っていますよ」

 

 予想外だったので面喰らったが、平静を保ちエリスは穏やかに笑ってお茶を一口。 

 

「ボクもそれでエリスに初めてを奪われたからなぁ。有効性は保証するよ」

 

 長身に見合う巨乳巨尻を誇る小麦肌の金髪が、能天気に誤解を招く爆弾発言。

 エリスのイクリプスと砲火を交えた時は調子に乗り過ぎだったと反省している。

 

「あんまり気にするなよ、アンヘラ。言ってるエリスだってかなりヘマするんだぜ。

 この僕がフォローしてやらなきゃ何度死んでいたか」

「えっエリスさんって失敗することもあるんですか!?」

 

 レヴの発言に食いつくのがコスプレ大好き妹、黒羽チトセであった。エリスの事を理想の完璧お姉さんだと思っている。

 

「ああ。日々、取返しのつかないミスをしてる今日だって――――」

「レヴ」

「はいはい。お姉様の名誉を守るためにも黙りますよ」

 

 サメAIが余計な事を言う前にぴしゃりと制する赤髪だった。

 

 決戦を前に少女達が和やかな時を過ごす夜。

 空には流星が一つ流れ、後に日本領海ギリギリに落下したとニュースで報じられた。

 

 

 そして、当日。今回は特別に飛行許可が降り、ACバトル同好会の五機のACはガレージから直接演習島に向かうことになった。

 演出の一環であるため、編隊飛行を行う。ある程度、練習してあるので形にはなる。

 

『これより離陸するので、悪いがギャラリーは下がってくれたまえ!』

 

 見送りの教師及び生徒達に下がってもらい、ミコ部長を先頭とした編隊でブースト飛行。

 焦げ茶、深青、深赤、漆黒、白とカラーも脚部も機体コンセプトも見事にバラバラなACが模擬市街に降り立った。

 

 

 ササラ達は先に輸送列車で演習島に到着しており、管制室にて顧問のサムライメイドと妖艶な黒髪シニヨンの美少女がシートに着いている。

 

『今の皆ならばこの試合を楽しんでいける、行ってくるといい』

 

『了解です、教官殿!』

 

 試合開始直前。ササラは涼やかな笑顔で女子高生達を送り出した。元気よくおどけた返事ができるほど、今の少女達には余裕がある。

 

 

 サヤは母から譲られた漆黒の二脚ACのコクピットで胸を高鳴らせている。レオタード状のパイロットスーツが妙に体に張り付くように感じた。

 

「少し温度下げよう」

 

 滑らかなグローブに包まれた手で空調を調整する。本番になったら、緊張してきた。目を瞑り、深く息を吸う。

 

(今日だけは楽しむ、だけじゃ終わらせられないな)

 

 優しくて大好きな両親には秘密が多い。特にトップクラスのレイヴンであった過去を持つ母クレハは謎だらけだ。

 母がかつて感じたものをACを通して少しでも感じ取りたい。サヤの想いはリトルクロウを譲られたことでより強まっていた。

 それこそが黒羽サヤがACを駆り、アサルトスクワッドに出場する理由であり、勝敗への拘りはそれほどなかった。

 

 だが、今日は違う。ブラウリヒトに、オルタシアのエリート少女達に勝ちたいのだ。

 こちらの実力を認めながらも挑発的なアニエス達に触発されただけではない、目の前に現れた高い壁を超えたいという母譲りの鴉の本能だった。

 

「行こう、リトルクロウ」

 

 静かに愛機に呼び掛ける。

 視線を動かす。HUDの隅に映る仲間達のバストアップ。ミコ、イリヤ、アズ、そしてリリィの表情を見渡す。皆、凛々しい顔をしている。

 

『私達で勝とう! 援護よろしくリリィ!』

 

 試合開始と同時に各機は最大出力でブースト噴射。無人の市街を縫うように駆け抜ける。既に戦闘機動を開始しているのだ。

 オペレーターを担当する黒識リゼにサポートされながら、戦場の有利なポジションを抑えるべく突き進んだ。

 

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