日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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vsブラウリヒト

 

 制空権を抑えた青色の五機が空からレーザーと実弾の銃火を浴びせる。

 聖オルベリア対オルタシアの二回目の対戦は多くが予想した通りの流れに見えた。

 

「どうした!? 逃げてばかりでは勝利は掴めぬぞ!」

 

 ブラウリヒト03を預かるポニーテールの侍風、乃井原ナツメは空からマシンガンとミサイルを浴びせる。

 ブレードでの接近戦に特化しているようだが、ナツメは射撃もまた武芸の一つと心得て日々鍛錬していた。

 

 レーザーブレードを抜きたい衝動を抑えながら射撃してくる青の三番機に対して、重装四脚キマイラとアンテナ頭の風花が慌てて物陰に引っ込む。

 

『05をリリィちゃんが抑えている間に、アズちゃんは部長とイリヤちゃんの後退を援護! サヤちゃん、01と02には方位165からなら一撃離脱かけてもいける!』

 

 同好会の女子高生達はリゼのオペレートのおかげでどうにか生き延びている。少女達が操るACは絶え間なくブーストを吹かし、地と空を跳ねるように飛んでいた。

 

『そろそろ終わらせようよ』

 

 ACバトル同好会への失望を滲ませながら、五番機のシグリルがあえてオープン回線で聞こえるように言った。

 五機連携での空中からの攻撃で陣形を乱され、ACバトル同好会は防戦一方。ただ敗北を遅らせているだけだ。

 

『ナツメ』

『御意』

 

 青色に黒い装甲のナノシェルスーツで鍛えられた肢体を覆ったアニエスが、冷徹な声音で指示を出す。

 

 レーザーブレードを抜いた三番機が本領を発揮する。破れかぶれになってか道路に躍り出た、黒色の旧式ACリトルクロウにまず狙いを定める。

 チームのエースは良い首級となる。オーバードブーストによる加重の中で、獰猛な笑みを零しながらナツメは斬撃を見舞おうとした。

 

「もう少し引き付けてからっ!」

 

 ブーストで後退しながらライフルと両肩のミサイルを発射するリトルクロウ。

 ミサイルはライフルによる射撃と一緒に振り切られる。そこからオーバードブーストをかけたまま、急速降下してくるブラウリヒトの三番機。

 リトルクロウと三番機の距離がぐんぐんと縮まっていく。

 

「今だっ!」

 

 リトルクロウの動きを注視していたミコ部長が咆え、肩部の装甲板を開いて、ECMポッドの替わりに搭載したミサイルデコイを一気に放出する。

 

「あっしまった!」

 

 ブーストの轟音と共に、ちっこい金髪の部長が駆る軽量AC風花が飛び立つと、ミサイラーである二番機フレドリカの攻撃と視線を引き付ける。

 バラまいたデコイのおかげもあって、易々とミサイルを避けていた。

 

 ブラウリヒトのエリート少女達は、勝利を確信して気を緩めており、この意図をすぐに察せなかった。

 

 シグリルと編隊を組みつつ、ナツメをフォローできる位置にいた四番機のピノは風花の飛翔と同時に猛攻を受けた。

 四脚の重装ACキマイラが脇目もふらず火力を全投射して空中にいる近距離射撃型の四番機を追い払ったのだ。

 

 あくまで追い払っただけだ。

 

 地上からの攻撃であり、すぐに上昇されて有効射程の外に逃げられた。ピンク髪の大人しそうな少女が乗る四番機を睨むイリヤ。

 

「こっち見やがれ!」

 

 薄金髪のヤンキー娘は機体を高く跳躍させて追撃するが、それは無謀だった。

 

「調子に乗らないでください!」

 

 普段は大人しく弱気なピノだが、この瞬間は怒りを露わにしていた。

 オルベリア専門学院のエリートたるブラウリヒトのメンバーとしてプライドがある。

 

 不得手な空中に舞い上がった四脚ACを狙い、ガトリングマシンガン二丁の火力を浴びせようとする。

 だが、そこに地上からビルを蹴って跳躍した逆関節が割り込んだ。

 

 深赤色のアフシャール。銀髪褐色の傭兵一族生まれ、そして今はダンサーという将来の夢を抱くアズの機体だ。

 第四世代AC(ネクスト)に対抗するべく、ヒステリックなまでに性能特化した異形のアーマードコア、第五世代特化型AC(VAC)。その代表的な兵装の一つであるHEATパイルが四番機に迫る。

 

「んっ……!」

 

 操縦桿のトリガーを引く前に身構える、白いハイレグパイスーの褐色美少女。メインブースターがプラズマを一気に噴き放つ。

 ハイブーストの強烈なGがかかり、暴力的なスピードでピノの機体に襲い掛かった。

 

「高度はこちらが上です、接近戦の間合いに入る前に逆関節を仕留める!」

 

 ブラウリヒト四番機、ピノ・サクラスカヤはしかし冷静だった。エクステンション・ブースターの推力を併せて、急上昇していく。ガトリングの標的をアフシャールに向け直してから掃射。

 回転する銃身、排出される薬莢。装填されているのは模擬弾だが、それでも破壊力を感じさせる威容だ。

 

 アフシャールは再びハイブースト。今度は右のブースターを炸裂させた。

 

「嘘!? これを避けるなんて!」

「まだまだ、だね」

 

 アズは身を捻るような機動で被弾を抑え、軽量機としては破格の実弾防御力を持つ装甲で攻撃に耐え抜く。しかし、代償としてピノ機との距離が広がった。

 

 アフシャールが高度を下げていく。その足元には滞空中の四脚AC。イリヤとアズは呼吸を合わせ、次の一手をすぐさま打った。

 

 激しい衝撃が薄金髪のヤンキー娘が収まっているコクピットに響き、機体が急降下する。

 アラートが鳴り響く中、懸命にキマイラの機体を立て直すが間に合わない。所謂"ドッスン着地"をやってしまうイリヤだった。

 

『このオレを蹴って跳んだんだ、ちゃんとキメろよ』

 

 急速かつ鋭角に上昇して獲物に食らいつくアフシャールを見上げながらイリヤは言った。

 

『わかってる』

 

 頷きながらアズはブラウリヒト04に向かってHEATパイルの狙いをつける。

 

「そんな、味方を踏み台にして!?」

 

 こんな乱暴な戦い方は上位リーグでも見た事がない。

 動揺しながら全武装をアフシャールに集中するピノだが、抑えきれない。コクピットに衝撃が響き、その激しさに身を竦ませることとなった。

 

 アフシャールが叩き込んだHEATパイルは模擬戦仕様なので杭が実際に貫通することも榴弾が炸裂することもない。

 ただピンク髪の少女がいるコクピットに激しい衝撃が響いた後、モニターに撃墜判定が表示されただけだ。

 

『うぅ、ごめんなさいみんな』

 

 エリアからの退去指示に従い、後退する四番機。その中でピノ・サクラスカヤは涙を浮かべて全力で謝罪した。

 

 黒髪の元気一杯なJK、黒羽サヤは周囲で起こっている仲間達の奮闘を肌で感じながら、相対する敵に一直線だった。

 遠くから飛んできたレーザーなどの攻撃をステップで躱し、レーザーブレードでの袈裟斬りを狙うナツメが今のサヤの唯一の敵だ。

 

「今なら、行ける!」

 

 エネルギー残量を綿密に計算した上で、サヤはリトルクロウのオーバードブーストを起動した。

 スタイルの良い両脚で踏ん張って加速に耐えながら、迫ってくる敵機に怯むことなく愛機を操る。先にナツメに斬らせ、レーザーブレードを辛うじて躱す。滑り込んだ位置からブレードを振るうが、青色の三番機に与えた傷は浅く、撃墜判定には持ち込めない。

 

 漆黒の旧式ACと青い最新型のACが交差する。次の攻撃はサヤからの、一方的なものになった。

 

『甘いな!』

『それはどう――――かな!?』

 

 勝気な笑みでナツメに応え、コクピットから弾かれそうなほどの急速ターンをする。猛烈なGがかかったが、サヤの視界ははっきりしており、体は何倍にも増した重さに打ち勝つ。

 

 リリィに仕込んでもらった狙撃の技で決着をつける。

 

 リトルクロウのライフルの銃口は、まだ回頭していないナツメ機の背部、メインブースターに着弾する位置にぴったりと合わせられており、発射された砲弾が次々にブースターに当たっていく。

 それは、使い込んだライフルの弾道と敵の動きを直感で弾き出しての狙撃だった。

 

『ばっ馬鹿なっ! メインブースターに被弾だと!?』

 

 低威力の模擬弾のため、不調を起こす程度だが連続した被弾に焦り、ナツメは敵に背を向けたまま上昇してしまう。

 

「ナツメさんにはここで落ちてもらいます! だから絶対に逃さない!」

 

 だが、そこにミサイルの追撃が加わり、女武者風エリート少女が駆る三番機は撃墜判定を下され、己の恥ずべき実態をナツメは痛感することとなった。

 

 

 

『クソ、バカピノ!』

 

 シグリルは一瞬の間に起こった味方の撃墜に激しく憤りながらライフルの引き金を引いていた。

 流石に上位リーグで鳴らすチームだけあり、反撃の切欠になったアフシャールの隙をついて撃墜していた。

 

『ボクは、ここまで。後は、頼むね』

 

 撃墜されはしたが、アズはやり遂げた顔である。銀髪褐色のミステリアスなボク娘はエリアから退避していく。

 

『勢いに任せるのは危険です、ここは下がりましょう。リゼさん、退避可能な地点は?』

『そこから南に三ブロック下がれば、防御に向いたエリアに出るよ』

 

 スナイパーライフルを装備したACホワイトバレルが動き回りながらの狙撃でブラウリヒトを抑え込み、ACバトル同好会は一度後退する。

 

『油断していた――――後退して態勢を立て直すぞ』

 

 アニエスも同じく後退して残る二機と合流した。

 

(ナツメとピノが落とされるなんて――――彼女達を舐めていた。これは私の失態だ!)

 

 油断が招いた損害を苦々しく噛み締めながら、アニエスは冷静に隊を指揮する。

 

 管制室から見守る金髪ツインテと黒髪シニヨンのコンビと青銀髪のサムライメイドは流れを注視する。

 他方、中継を眺める人々も番狂わせに揃って奮い立っている。試合の視聴者数は急速なペースで伸びていた。

 

 

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