日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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アンタクティカ・ヴァイオレンス・セッションⅠ

 ディハーニエの侵攻は片道切符だ。大型潜水母艦数隻に満載した機動兵器でノルンに攻め込んでいた。

 

 頭部と胴体が一体化した流線形のボディが特徴的な水陸両用型MT"ヴォジャニク"は強敵で、重装甲で守備隊の攻撃を弾きながら暴れていた。

 ヴォジャニクの後に続き、汎用タイプのノーマルやMTが押し入る。防衛ラインを食い破り、コジマ発電施設"ノルン"に迫ろうとしていた。

 

 押されつつある守備隊側にあって、タンク型と逆関節型のACは次々に敵機を撃墜していた。

 

『数ばっかり揃えても無駄なんだよ!』

 

 暗緑色のタンク型"大筒丸"が両手のガトリングガンをぶっ放し、インサイドのナパームロケットでヴォジャニクを火達磨にする。

 オレンジ色の髪の少女レイヴン、四柳はコクピットで暴れるように勢いで愛機を操っていた。

 

 年下の相棒を護るように飛び回るのは、メリッサ・ロングファングが操る軽逆関節ACのダイヤウルフ。

 レーザーブレードの武器腕による斬撃で瞬く間に三機を切り捨て、敵の銃撃とミサイルを跳躍で振り切る。

 瞬間的には高機動型ネクストACに匹敵する、恐るべき機動性であった。

 

『四柳、落ち着いて。そろそろ私達も危ない、下がろう』

 

 絶え間なく動き続け、慣性荷重の負担を受けているが、メリッサの声は静かに四柳を嗜めていた。

 

 この二人のレイヴンは、連邦政府と共同でノルンを運営する企業体の一つであるトリニティの仲介で守備隊に加わっている。

 

『まだやれる! それにどっちにせよ誰かが残らなきゃ。敵を野放しにはできない』

『けど、ここでベイルアウトしたら寒いよ?』

 

「うっ」という声が四柳、本名はクロエというオレンジ色の髪の少女から漏れた。

 フトモモが剥き出しになるレオタード型のスーツで両サイドはメッシュ。忍者をモチーフにした日本製のパイロットスーツは実際、軽快で着心地も良い。

 しかし、布面積が少ないため、寒冷地では寒さから身を守ることはできない。

 

 以前の敗北で味わった東欧の冷たい空気がフラッシュバックし、太股をこすり合わせるクロエであった。

 パイロットスーツの上に羽織る防寒着の一着でも持ってくるか、メリッサの全身を包むスーツの予備を借りれば良かったと後悔する。

 

 相棒である灰髪眼帯の女レイヴンは生身での戦闘にも対応したボディスーツに身を包んでいる。

 股間部分の装甲を取り払い、ぴちっとした極薄の特殊保護膜で覆っただけの、際どい外観だが保温性は十分にある。

 

『アタシはもう二度と負けない! この恰好は覚悟の現れなんだ!』

 

 誤魔化すように勇ましく咆える四柳だった。会話しながらも大筒丸をドリフト走行させ、飛行型MTのプラズマキャノンを避け、逆にグレネードキャノンで対空砲火。榴弾の大爆発で編隊を纏めて撃墜する。

 

 大筒丸は新型タンク脚部の積載量を使って、ネクスト用の普及型グレネードキャノンを転用している。日系企業製のキャノンは普及型というにはあまりにも高威力の剛毅な代物であった。

 

『なら、いいけど――――新手の反応』

 

 メリッサはレーダーを見た。音速を超えたスピードで接近しており、コジマ粒子反応もある。

 それは紛れもなく一騎当千の第四世代アーマードコア・ネクストだ。識別信号は友軍を示している。データリンクがただちに繋がった。

 

 メリッサは敵味方識別信号に表示された機体コードを一瞥する。なるほど念には念を、ね。

 

『頼もしい味方が来たね』

 

 接近してくる援軍の正体に気付いた四柳はコクピットでプルプルと怒りに震えた。そして、叫んだ。

 

『なんでお前が来るんだ山猫(イクリプス)っ!』

 

 南極に響いたオレンジ色の髪の少女の叫びはエリスにも届いていたかもしれない。

 

 

「よし、なんとか間に合った!」

「吹雪が止んできたね。こっちの姿も丸見えになるけど、狙い撃つには都合がいい」

 

 イクリプスは最初のターゲットに向けて"ドラゴンハウル"のトリガーを引く。レールガンから青い稲妻が迸った。

 三基のレールで電磁加速された砲弾が放れ、守備隊のノーマルをクローアームで刺し貫こうとしたヴォジャニクを真横から撃ち抜いた。

 

「たっ助かった……!?」

 

 ノーマルのドライバーは反射的にブーストで後退しながら、たった一発の砲撃で胴体の大部分を失った敵機に目を丸くしていた。

 

 ノーマルの頭上をイクリプスがパスする。

 

『ぼさっとしない! まだ敵はいるんだ、後退して建て直せ!』

 

 ボイスチェンジャーをかけた上で、エリスは通信で怒鳴った。

 

『はっはいぃ!』

 

 凛々しい女の声に弾かれたように返事をして、ドライバーはACを操った。

 

 エリスはオーバードブーストをオフにして、通常ブースト推進に切り替える。

 イェーガー・ユニットを背負ったイクリプスは、それだけでも高速型ノーマルのオーバードブースト並みの速度で飛び回れる。

 しかも今は巡航中に稼いだスピードが乗っている。粒子装甲(プライマルアーマー)の空気抵抗軽減効果と相まって減速をかけない限り、高速がキープされる。

 

 赤髪の乙女は攻撃的な琥珀色の視線を躍らせ、敵機をロック。レールガン・ドラゴンハウルを連射する。砲身の給電、冷却、照準に問題なし。

 

(当然だ。この僕が手伝ってやったのだから)

 

 レヴの尊大な独りごとが意識の海を介してエリスに伝わった。

 

 装甲の厚さで守備隊を苦戦させているヴォジォニクを優先的に撃破している。エリスお手製レールガンにうってつけのターゲットだった。

 

 ロックオンアラート。天翔けるイクリプスに四方八方から砲弾とミサイルが殺到してくる。

 

「いいぞ、纏めてこっちに夢中になってくれた!」

 

 友軍の後退を助けたいエリスにとっては好都合だ。恐れ知らずの赤髪の戦乙女は愉し気。まっしぐらに戦場を突っ切っていたイクリプスは、まずはズーム上昇で砲撃を回避。

 

 続いて迫るミサイルの大瀑布にエクステンションのチャフ・フレアをリリースして、シーカーを狂わせる。

 自ら放った熱源体を置き去りに、イクリプスはクイックブーストを連打。イェーガー・ユニットのブースターもそれに連動して噴射している。

 

 瞬間移動染みた動きで、執拗な集中砲火を躱しつつイクリプスは氷山に接近した。

 背中のフレームを折り畳み、急旋回時の激突に備える。ちりちりと肌に感じるレーダー照射にスリルを感じつつ、急旋回しつつ降下。

 

「んぅっ! まがっれぇ!」

 

 ナノスキンスーツを素肌に纏ったエリスは、横殴りの慣性荷重に踏ん張って耐え、操縦桿を強く握る。

 空中をドリフトするような回避で分厚い氷山を盾にして、高出力レーザーとミサイルを防ぐ。

 

 直後、再び氷山から身を晒すとドラゴンハウルを連射して一気に敵を減らす。

 高速機動中でありながら、一射他殺の射撃である。

 

 高度を落とし、地表スレスレを翔ける純白のネクストAC。コジマ粒子の防壁は、残った敵の迎撃を容易く防いでいた。

 背部で瞬く、コジマ粒子を僅かに含んだ白いプラズマの炸裂。クイックブーストで急加速をかけつつ、四脚のノーマルACに左腕のシールドを叩きつける。

 

「そこ、邪魔ぁ!」

 

 猛々しく叫ぶエリスに呼応して振るわれた左腕が強烈な打撃で複合装甲をぶち抜く。

 シールドバッシュで粉砕された敵機のジェネレーターが弾け、爆散。

 

 戦闘の形勢は一瞬で逆転した。再編成を終え次第反転攻勢に移ると守備隊より通達。たった一機で戦局を覆すのは神薙エリスの十八番であった。

 

 レーダー上に、いまだ多数の敵に囲まれる友軍ノーマル二機。大筒丸とダイヤウルフ、以前エリスが対戦した手強いコンビだ。

 

「突出しているレイヴンの二機、援護にいったほうがいいよな!?」

「わざわざ訊くなよ。会いたいんだろう?」

「当然! あの二機は今やユーロの二位と八位なんだぜ」

 

 エリスが駆けつける頃には、二機のACは周りの敵を片付けていた。

 

「ひゃーやっぱ上位ランカーは違うなぁ」

 

 二機の損傷は戦力比からすれば驚くほど少ない。一流のレイヴンの実力を物語っていた。

 逆関節のダイヤウルフが相棒を抑えるように着地したイクリプスと相対する。

 

『援護しようと思ったんだけど、不要だったな』

『そうでもない。四柳があなたに張り合って疲れちゃった。少なくとも補給が終わるまで一緒にいてくれると心強い』

『OK、こっちの弾には余裕がある。態勢を立て直すまでしっかりガードさせてもらう』

 

『べっ別に疲れてねえよ! だいたい山猫の助けなんざいらないし!』

 

 四柳がキャンキャン怒鳴る。

 

「喧しいヤツだなぁ」

 

 レヴは不快そうだったが、エリスはこういう娘が嫌いではない。

 

『残弾数、もう厳しいよね?』

『それは…そうなんだけど……』

 

 灰髪眼帯の凍れる美女の指摘にオレンジ髪の勝気な小娘は苦い顔に。

 ダイヤウルフと大筒丸はデータリンクで互いの損傷や残弾数を共有している。主武器のガトリングガンをバラまくスタイルの大筒丸は大群を片付けた後なので、残弾が既に心許ない。

 

『とりあえず長居は無用だろ? 下がろう』

『同意する。護衛よろしく』

『うっさい! 山猫が指図すんな! メリッサもこんな奴と仲良くしないでよ!』

 

 憎っくきイクリプスと戦士として通じ合ってる感のあるメリッサに、かなり悲痛なトーンでお願いするクロエであった。

 

 

 一方、エリスに先じて出撃したアンヘラは別働隊に奇襲を仕掛けていた。

 

 ACの行動領域を水中に広げるアンダイン・ユニットはウルティマ・ラティオを取り込むような形になっている。

 鋭い機首のフェアリングとユニット本体が、漆黒の重装ネクストを密閉格納しているのだ。

 

 黒一色のアンダイン・ユニットには巨大な深海の魔物さながらの威容があった。

 極めて強固な耐圧外殻に囲まれているおかげで、潜水艦でも潜れない深度で待ち伏せできる。

 

「よぅし、頑張るぞ~!」

 

 アンヘラはまず一気に垂直上昇した。水中用に調整されたブースト噴射による加速は、スクリュー推進とは比べ物にならないほど速い。

 

 ユニット側面を開き、射出したロケット推進式高速魚雷で水陸両用タイプの特殊MTを沈めていく。

 

 敵の数は多い。

 一斉発射された魚雷から生き残ったMTが内蔵型の機関砲や魚雷などを浴びせるが、アンダイン・ユニットは巨体ながら機敏に動いて躱し、お返しのオートキャノンをぶっ放す。

 水中では抵抗のため減速し、着弾が遅れているがリンクしている金髪日焼け娘は的確な偏差射撃で命中させる。

 

 サイズも機動特性も全く異なる機体を操りながら、アンヘラははじめての水中戦をこなしている。

 爆散して散った残骸が深海に沈んでいくのを後目に、ウルティマ・ラティオは上昇していく。

 

 抜きん出た高身長のお気楽な日焼け娘はエリスと同じデザインのナノスキンスーツを装着している。

 ナノマシンがネクスト仕様に自己最適化したアンヘラ専用軽装スーツは艶やかな黒色だった。

 

 ウルティマ・ラティオが至近距離で爆ぜた魚雷の水圧に強く圧された。その流れに逆らわず、アンヘラは機体をロールさせる。

 アンダイン・ユニットの推力ならば流れに逆らうことは容易いが、続いて迫る攻撃を直感で察して動いていた。

 

「よいしょ!」

 

 機体が逆さまになったタイミングでサイドクイックブースト。特異的なAMS適性があるアンヘラはアンダイン・ユニットをネクスト同様に操れる。

 ロールの軌道を突き刺すように高集束レーザーが拡散照射されていた。クイックブーストで大きく動かなければ直撃だった。

 

 

 レーザーを照射してきたのは、アンダイン・ユニットよりもさらに巨大な大型MTだった。大型キャノンを背負った円盤状のフォルム。MTのモノアイがアンヘラを睨んでいる。

 

「やっとボクのほうを見てくれた!」

 

 攻撃されたことに歓声を上げるアンヘラ。編隊の先頭にいたこの巨大MTがウルティマ・ラティオのことを無視して直進し続けていたからだ。

 

 ディハーニエ連盟国の切り札らしい巨大兵器は一斉に魚雷を発射。さらに、もう一度拡散レーザーを放ってくる。弾速の異なる回避が難しい攻撃だ。アンダイン・ユニットに被弾してしまうが、許容範囲内。

 

「あはっいいね! どんどん撃ち合おう!」

 

 ダメージで揺れるコクピットで突き出る巨大な双丘を弾ませ、嬉し気に応戦するアンヘラであった。しかし、爆発に煽られたり、レーザーを避けるために前進がままならない。

 

 大型MTは追手の動きを遅らせると、反転して急速に離脱し始める。MTには以前交戦した異星兵器ヨトゥンに似た脚があり、今の形態は体を横にした水中形態なのだとアンヘラは推測した。

 

「わわっ!? ちょっと! 逃げないでよ!」

 

 一人で大物を倒してエリスとレヴに褒めてもらう気でいたアンヘラは慌ててブースト全開。追いかけるがMTは海面にどんどん近づいていく。

 

『ごめんエリス、ボスキャラだけ抑えられなかった! ちょうどキミの近くに出るよ!』

『りょーかい! 他の敵は片付いたなら上出来! アンヘラもウルティマ・ラティオでこっち来い!』

『うんっ! すぐ行くよ!』

 

 アンヘラはコクピットの右側にあるスイッチを素早く押した。誤作動防止のため、ユニットのパージは物理スイッチで操作するようになっている。

 

 アンダイン・ユニットのフェアリングが前方にスライド。

 武骨な漆黒の重装ネクストAC"ウルティマ・ラティオの姿が露わになる。背部のジョイントが外れ、自由になるとブーストをかけて浮上していく。

 

 水中ではプライマルアーマーを展開できないので、加速性能は大幅に低下している。それがどうにももどかしい。

 

 ウルティマ・ラティオは海面から飛び出すと、安定還流したコジマ粒子の稲妻が粒子装甲の表面で起こると同時にオーバードブーストで一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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