日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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アンタクティカ・ヴァイオレンス・セッションⅡ

 海中から飛び出した巨大MTの全長は約60メートル。大質量の機体が海水を跳ね上げ、水柱が高く立つ。

 MTは人型形態に変形した。上半身に被さっていた円盤型のウェポンユニットはパックパックに。

 

 重厚な脚部で氷の大地に降り立つと思いきや、脚部と背部からブースト噴射しながらホバリング。ACのフロート型脚部と同じく、擬似反重力で巨体を支えている。

 

「あの脚は飾りかぁ!?」

 

 低空で浮遊しながら旋回機動を始めるMTにエリスは思わず叫んだ。

 

「足場が悪いときは浮くんだろう。あれだけデカいと氷床を踏み抜いてしまう――――っと敵機射撃開始」

 

 レヴが警告する。エリスの視界にフォーカス表示。MT脚部に装備されたCIWS――ガトリングレーザーが掃射される。

 

「おっとっとっ!」

 

 サイドステップでレーザーの弾雨を躱す。

 

「それに地に足付けるのが基本のAC相手には上から攻撃したほうが効果的だ」

 

 イクリプスのバックブースターからプラズマ噴射が弾ける。後方にクイックブーストしながら跳ねた。

 イェーガーユニットの推力を側面に集中させ、左にクイックブースト。一気に射線を振り切る。

 

「続けてミサイル」

「あいよっ!」

 

 後ろのゴシックドレスな人形少女に応える。MTのバックウェポンコンテナから射出されたミサイルは数百発に及び、複数の群れを成して殺到する。

 三機に狙いが分散しているとは、ACを圧殺するには十分な弾数だ。

 

 空中へ躍り出て、イクリプスは回避運動。

 急上昇と急降下を高速で繰り返せるのは、高機動空戦用のアセンブルが施されているおかげだ。

 

 三度目の急降下と同時に右手の大型レールガンをミサイルの群れの一つに向けて発射。

 レーザーCIWSを辛うじて凌いだ大筒丸を狙ったミサイル群に撃ち込んでいた。

 電磁加速砲弾に射抜かれたミサイルの壁は、生じた衝撃波に煽られて誘爆。連鎖爆発で全滅していた。

 

『一応礼は言ってやるよ山猫!』

 

 四柳の対抗心剥き出しな物言いを可愛らしく思いつつ、エリスはさらにレールガンを発射。今度はMT本体を狙った。

 しかし、着弾する前に薄緑色の光に遮られる。敵もプライマルアーマーを装備しているのだ。

 巨躯相応の巨大なコジマジェネレーターを搭載しているので粒子装甲の防御力はネクストより格段に上だ。

 

「まったく信じられないな。コジマ汚染警告が出ているぞ」

「もう二度と見たくなかったよこの警告」

 

 ニヤニヤするレヴ。赤髪の戦乙女はため息一つ。圧倒的な火力が鏖殺せんと迫ってきても、エリスは平然としており、実際攻撃をいなしている。

 問題はMTが放出するコジマ粒子そのものにあった。

 この粒子は膨大なエネルギーを創り出す反面、環境と生物の双方に有害で長期的な汚染を引き起こす。

 

 第零世代アーマードコアと共に、異星AIとの戦争における人類の反抗、そして勝利の原動力となったコジマ兵器。それは惑星アリシアを徹底的に破壊し、現在も致命的な汚染が地表を覆い尽くしている。

 

 現行の軍用コジマジェネレーターは再構築戦争後に発見されたコジマ粒子の汚染性質を中和するレアメタルを併せて使用している。

 汚染によって生存圏が失われるのを恐れているのは企業も地球政府も同じであり、有害なコジマ粒子を放出する旧型ジェネレーターの軍事利用は禁忌とされてきた。

 

 その禁忌をディハーニエ連盟国は破ったのだ。何故かと、エリスは一瞬だけ考えてみた。

 ノルン一帯を汚染して制圧後の奪還を困難するだとか、クリーンなコジマジェネレーターを造るためのレアメタルが足りなかったとか理由が思いつく。

 

 そんなことよりっと意識側でレヴがつついてくる。

 

「アイツのデータが取れたよ。あの二機とも共有しようか?」

 

 レヴは戦闘支援と並行しながらネットワーク上から敵MTの情報を取得していたのだ。

 

「そうしてくれ」

 

 エリスが答えるとAMSを通じて敵機の情報が直接送り込まれた。頭痛を感じながらも赤髪の少女はその情報を咀嚼する。

 なるほどヨトゥンをベースに建造したMTね。ペットネームは"ツィルニトラ"か。武装が把握できたのはデカい。

 これなら回避して一気に接近戦に持ち込める。

 

 言われた通り、大筒丸とダイヤウルフの戦術COMにレヴはデータを送った。

 

『こっちで敵のスペックを調べておいた。共有するので役立ててくれ。あーまだ挨拶してなかったな。僕はイクリプスのサブドライバー兼リサーチャーみたいなコトをしているものだ』

『なんだ山猫、こんな小さいガキと一緒に乗ってるのか!? つーか調べただと!? 今の今にか!?』

『そうだとも』

 

 四柳は目を丸くしながら、困惑した。そもそも二人乗りのネクストACなど聞いたことがない。

 

 送った情報はすぐに役立った。ツィルニトラの各部から高出力レーザーが照射される。

 しかも砲身を可動させて射角を変えて追い込んでくる。

 

 二機の戦術COMは提供された敵機のスペックに従い、弾道予測と警告を出し、四柳たちはそれに従って回避した。

 

 大筒丸は回避運動の最後に氷塊の後ろに飛び込み、盾にする。急制動。

 

「ぐぁっ……!」

 

 慣性がかかり、四柳の身体はシートから弾き飛ばされそうになる。

 布面積の少ないレオタードスーツを身に着けた少女レイヴンは踏ん張って堪える。

 怒気が籠った吐息を吐く。腹立たしいが機動性に乏しいタンクには厳しい敵だ。そもそも残弾が僅かしかない。

 

「メリッサ! それに山猫は……!?」

 

 氷塊から僅かに身を乗り出し、様子を窺う。逆関節機の相棒はネクストACと共に蒼天を翔けている。

 

 ツィルニトラは二機に攻撃を集中しており、それにも関わらず撃墜できないことに業を煮やしているようでもあった。

 四柳とて上位ランクに位置するレイヴンだが、二人がどうやってあれほど濃密な弾幕を掻い潜っているのか皆目健闘がつかない。

 

『クロエは援護よろしく』

 

 戦闘の負担を物語る苦しそうなメリッサの吐息。アイスブルーの瞳が秘める闘志に触発された四柳は氷塊を飛び出した。

 

『分かった! 必ず上手くやる!』

 

 年相応の明るい素直な声が出ていた。

 

 イクリプスとダイヤウルフに向けられたツィルニトラの両腕が分離。ブースト噴射で自律飛行する。腕部自体が自律可動する砲台なのだ。

 五指から発射されるのは大口径の機関砲。プライマルアーマーを貫き、ネクスト本体に大ダメージを与えられる威力がある。

 

 

 機動性に全振りしたダイヤウルフにとっては一発の被弾が致命傷、さらにはドライバーの死に繋がる。

 並大抵の神経なら緊張や恐怖で操縦ミスする状況である。だが、メリッサ・ロングファングには関係ない。

 

 魅力的な長身の肢体を包む極薄のボディスーツに滲むのは運動による汗のみであり、それ以外の体液は一切分泌されていない。その肉体の反応が、メリッサの氷のように研ぎ澄まされた精神を示していた。

 

 それは自律砲台が目の前にきて、砲弾を撃ち込んで機体ごと彼女を粉砕しようとしても変わらない。

 直前にイクリプスのレールガンが浮遊砲台を貫通。ツィルニトラが張っている粒子装甲の内側にいる間はともかく、これ自体にはプライマルアーマーは発生していない。

 

 爆散して飛び散る破片に薄い装甲を叩かれながら、墜落する腕を蹴る。ブースターは切っており、滑空による機動だった。

 逆関節で力強く跳ね、オーバードブーストを再点火。ツィルニトラ本体の砲撃はバレルロールで掻い潜る。 

 

「うん、邪魔臭い……」

 

 コクピットが激しく揺れ、メリッサの突き出るような豊満な乳房が弾んだ。魅力的な大きな胸は、高速戦闘を好む彼女にとっては邪魔で目障りな重りだった。

 

 ダイヤウルフよりさらに高速で飛ぶイクリプスは、既に片方の腕部を振り切っている。しかし、振り向き様にレールガンで援護射撃を行ったエリスに追いついてきた自律砲台が砲口を向けてくる。

 

 そこを大筒丸がフォローした。

 氷塊から飛び出し、オーバードブーストで加速をかけたグレネードキャノンの砲撃で残った腕部を撃墜したのである。

 

『ありがとクロエ! この借りは必ず返す!』

『ばっ……! 本名で呼ぶな! メリッサだけだ呼んでいいのは! 殺すぞ!』

 

 敵機に肉薄されているツィルニトラが大袈裟な動きをしないのは巨体ゆえの鈍重さだけでなく、強固な粒子装甲に守られているからだ。

 しかし、ちょうど背後から飛んできたミサイルが小規模なコジマ粒子爆発を起こし、巨大MTを覆っていた薄緑色の防護膜を減衰させ切った。

 

『お待たせエリス! コジマミサイルのデリバリーは間に合ったかな!?』

 

 音速超えのオーバードブーストにクイックブーストでさらに増速してアンヘラが駆け付けたのである。

 漆黒の重装ネクスト"ウルティマ・ラティオ"の背部ミサイルランチャーにはコジマ弾頭が満載されている。破壊力よりも対プライルアーマー減衰効果を重視した武装が、ぴったり嵌る敵だった。

 

『ナイスタイミングだアンヘラ! このまま片付ける!』

『OK、遅れちゃったけどギグに加わるよ!』

 

 戦場に突っ込みながら、アンヘラはバズーカやガトリングを連射。砲撃はツィルニトラの円盤状のバックパックに着弾。制圧後に長距離砲として艦隊などに猛威を振るうはずだった二門のコジマキャノンを含めた武装を失い、巨大MTは今更になって胸部の拡散レーザーキャノンを発射しようとする。

 

「チャージなんかさせっかよ!」

 

 ドラゴンハウルのコンデンサに過剰給電して三連射。胸部が撃ち抜かれ、爆発が起こったが巨大MTはまだ倒れない。

 

 苦し紛れの弾幕を置き去りにする速さで、赤髪のヤンキーギャルが駆るイクリプスは突っ込んだ。

 左手のシールド複合武装、レヴが名付けたところの"矛盾ある騎士"のブースターを点火。右腕のドラゴンハウルを放り捨て、余剰エネルギーを左腕に集中――――

 

「そっりゃっ!」

 

 一瞬で間合いを詰めたイクリプスの長大なレーザーブレードがツィルニトラの頭部を真横から貫く。粒子装甲を纏ったヒト型の機体そのものが質量弾となり、頭部を千切り飛ばす。イェーガー・ユニットのブースターを前方に向け、バック・クイックブーストの推力と併せて急速後退。

 さらに旋回し、往生際の悪い首無し巨人と化したツィルニトラの弾幕を掻い潜っていく。

 

『合わせられる!?』

『当然』

『よっしゃ!なら、いくぞ――――ッ!!』

 

 オーバードブーストを全開で吹かす逆関節AC"ダイヤウルフ"とともに側面からツィルニトラの膝を叩き切る。交差する一瞬、エリスはダイヤウルフがレーザーCIWSで損傷しているのを垣間見たが、流石軽量高機動機乗りだけある。メリッサは被弾を最小限に済ませ、傷つきながらも問題なく飛行していた。

 膝から下が落着し、バランスを崩した巨大MTそのものも墜落していく。海中に没したツィルニトラから漏れる眩い緑色の光。

 

「コジマ爆発観測。悪いね、今回はクラックして何とかすることはできなかった」

 

 レヴが後ろで詫びてきた。が、ゴシック娘なサメAIは嗤っている。

 

「愉しんでるんじゃない!」と相棒に叫んでから、エリスは警告。全帯域に向かって咆える赤髪の戦乙女。

 

『総員離脱! コジマ爆発だ!』

 

 後方で戦闘を見守っていた守備隊のノーマルが大急ぎで退避していく。爆発半径は既にレヴが計算して全員に共有してある。

 

 海中での爆発とはいえ、中規模以上のコジマ汚染は確定だ。

 

『大筒丸はボクの後ろに! そっちのほうが速いでしょ!?』

『すまん! 使わせてもらうぞ山猫その二!』

 

 自分でも意外なほど素直に四柳は突如現れたイクリプスの僚機に礼を言っていた。

 その素性はレイヴンをやっている四柳のような者にはバレバレなのだが、あえてウルティマ・ラティオの名は言わなかった。

 

 ウルティマ・ラティオは大筒丸を先導するようにオーバードブーストしながら離脱している。オーバードブースト型のコアを使っているとはいえタンク型ACはその重量のために速度が劣る。

 なのでプライマルアーマーを張ったネクストが前方を飛ぶことで空気抵抗を軽減し、少しでも速度を稼がせていた。

 

 地球上では数十年ぶり、南極にて初となる汚染作用付きコジマ粒子の臨界爆発。

 分子単位で物質を崩壊させながら一帯を呑み干す光の勢いをエリスはナノスキンスーツ越しの素肌に感じた。コクピットが激しく揺さぶれる。

 

「んにゃろぉ! こんな程度の揺れで墜ちるかよ!」

 

 強烈な衝撃波を浴びてもイクリプスの飛行が乱れることはなく、汚染粒子の届かない安全圏に着地した。

 

「はぁっ――――!」

 

 思わず熱い吐息を吐くエリス。スリルを乗り越えた快感や生の実感が全身を駆け巡り、昂ってしまう。

 同時にレヴとの同期を保つ冷静な戦乙女の側面が戦場を把握するべく動いた。敵影、なし。

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