日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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エピローグ

 ディハーニエ連盟国が秘匿していた異星兵器を基に建造したツィルニトラ。地球上の最重要インフラたる南極のコジマ発電施設制圧の要であったこの巨大兵器が墜ちてすぐに戦闘は収束に向かっていった。

 

『それじゃわたし達は先に戻るよ、お二人さん』

『一緒に飛べて楽しかったよ大筒丸! あっそうだ、名乗ってなかったね! ボクのことはウルって呼んでよ!』

 

 タンクと逆関節のACにラフに敬礼する赤髪ヤンキーギャル。一方、今更になって他所向けの名がないことに気付き、テキトーに名乗る金髪小麦肌の陽気娘は手を振ってお別れする。

 

『今回は助かったって言ってやるよ。特別サービスだぞ山猫ども!』

 

 尊大に腕を組んで言い放つオレンジ髪の少女レイヴン、四柳であった。露出度が高い忍者風レオタードスーツで露わになった素肌は汗でびっしょり。

 纏わりついた汗が気持ち悪くて、もじもじしている。エリス達が見えているバストアップまでの通信ウィンドウでもその仕草が判った。

 

(言うなよレヴ。絶対あの娘は怒るから)

 

 エリスは後ろのシートで意地悪そうに笑うゴシックコスの相棒が余計なことを口走らないよう、制止する。

 統合制御体であるレヴとAMSでリンクしているのでこうして、考えるだけでお互いの意志を伝えられる。

 

『素直じゃないね、クロエは。次も味方だと嬉しい』

『ちょっとメリッサ! それじゃアタシ達いつまでもこいつらに勝てないよ!』

 

 灰髪眼帯の長身お姉さんなメリッサは静かにネクストの操縦者(リンクス)達に向けて言う。こちらも激しい戦闘で汗濡れである。

 

 白と黒、対照的なカラーの二機はホバリングからネクストACならではの大推力と繊細な機体制御で飛翔。

 最後に周辺警戒をして敵影がないことを改めて確認してから帰還する。

 

 空は蒼く、吹雪く気配はない。

 

「飲るか、レヴ?」

「ああ、貰おう」

 

 ミネラルウォーターを取り出し、ボトルを手渡す。ゴシックなオートマタの要望で買った値段が張る高級な飲料水だ。飲食の必要がないナノマシンの躯体を持つサメAIだが、飲み食いを愉しむのである。

 

 エリスもミネラルウォーターを取り出して水分補給。緩やかに旋回しつつ、索敵用レーダー、センサーの出力を最大にした走査モードで飛ぶ。投棄したレールガン・ドラゴンハウルに替わる右腕の武装はイェーガー・ユニットのコンテナから取り出してある。

 "MR-R102"アサルトライフルを独自にカスタムしたものだ。

 

 ドラゴンハウルは海中でアンヘラが遠隔操作するアンダイン・ユニットが回収してある。

 初投入した武装を早速ダメにするのは絶対に避けたいエリスであった。

 

『こっちには敵影なし。今回の仕事はおしまいかな?』

HQ(司令部)に報告する――――帰ってよしだってさ』

 

 ウルティマ・ラティオと連携して区域を隈なく調べ尽くして、ノルン守備隊の司令部に報告。ミッション完了となればさっさと立ち去るのがレイヴンの倣いだ。

 

 それに、こう視られていると落ち着かない。ノルン守備隊の観測機器はイクリプスとウルティマ・ラティオの一挙手一投足を観察していた。ネクストを駆るレイヴン、しかも巨大企業を上回る技術を保有するとあれば大きな脅威である。

 

 次はノルンの襲撃を請け負うかもしれない人類圏で最も危険な二機のあらゆる情報を収集するのは、当たり前の行動だ。それはエリスだって自覚している。しかし、後を追けられるのは良い気がしない。

 

『ちょっくら驚かせてやるか。アンヘラ、先に潜ってくれ』

『OK!』

 

 ニヤりと悪戯っぽく笑う赤髪の美少女。エリスの意図を察したアンヘラは海中に向かって急降下。水柱を派手に立てて潜っていく。

 それに続きエリスもイェーガー・ユニットのブースターが上に向くよう可動させてから下降。

 

『ネクストが水中に潜ったぞ! 奴ら泳いで南極海を出る気なのか!?』

 

『目標二機の追跡を続行――――ジャミング!? なんだこれ、強力過ぎる! どこが発信源なんだ!』

 

『こちらでもロストしました! 追跡不能です!』

 

 二機のネクストが海に飛び込むと、ノルンの戦闘司令部やノーマルなどのコクピットからどよめきが漏れた。

 追跡を試みるが、海中での索敵に用いるソナーやセンサーは強力なジャマーで妨害され使い物にならない。それはエリスの根城である工廠艦ツクヨミによる電子支援であった。

 

 こうして、イクリプスとウルティマ・ラティオは追跡を振り切り、帰還していく。

 

 コジマ粒子装甲は水に触れるだけで減衰していく。

 ツクヨミへの帰投航路を進む間にイクリプスのプライマルアーマーは剥がれてしまったが、機体本体で耐えられる水深にいるので問題はない。

 

 フレームから内装に至るまで、艦内工廠で製造した遺失技術入りの新造パーツになっているイクリプスは、海中を航行するツクヨミへの帰還も想定して高い耐圧強度と水中運動能力を兼ね備えている。

 

 サメのアバター通り、泳ぐことに長けたレヴは気持ち良さそうに純白のネクストACを操っていた。振り返って顔色を見なくても、レヴの気持ちは伝わってくる。

 

 そしてアンダイン・ユニットを再び着込んだウルティマ・ラティオにとって、深海での行動そのものがなんてことはない。

 

『戻ったら除染とメディカルチェックだよね?』

『そうなるな。気密もシールドも完璧にしてあるけど、一応念のためにな。機体だって海水被ってもいるし、どっちにせよ洗い落とさないと』

 

 本来、莫大なエネルギーを生み出す一方、環境を汚染し、生命を蝕むのがコジマ粒子の性質である。

 その影響は長期に渡り、生物への除染技術が確立されている現在であっても有害性はおおいに恐れられている。

 

 ツィルニトラの動力は汚染特性が除去されていない旧型かつ高出力の大型コジマジェネレータであり、爆心地に深刻な汚染が残ってしまった。

 ノルンでも戦場に出ていた機体やそのパイロットの除染が行われることになるだろう。

 

 

 エリス達の帰還から一時間も経たないうちに、四柳ことクロエとメリッサ・ロングファングは除染処置を受けることができた。

 

 レイヴンという部外者の立場ながら厚遇を受けることができたのは、今回の依頼を斡旋したトリニティの口利きがあったからだ。

 大筒丸とダイヤウルフは隔離ハンガーにて付着した有害なコジマ粒子を洗浄されている。そのドライバーである二人の女レイヴンもノルンの医療区画に通されていた。

 

 人体の除染はメディカルポッドで行う。薄暗く、冷たい空気が漂う室内でオレンジ色の髪の四柳はポッドを見上げている。

 

「ねえメリッサ。これ本当にやる必要あるの? ACのコクピットは厳重にシールドされてるだろ? コジマ汚染されてるとしても体に影響がないごく微量の暴露で済んでるはず」

「クライアントのご厚意。受けておかないと」

 

 傍らに立つ灰髪、長身で年上の相棒が静かに諭すように言う。

 

「恥ずかしいよ。このポッドに入っている間、全部モニタリングされるんでしょ…しかも裸だし」

 

 赤面しており、両腕で胸や股間といった部分を隠すポーズになっている四柳は生まれたままの姿。

 流石に素っ裸では普段の勝気さも鳴りを潜める。

 

 対するメリッサは鍛えられた肉体美を誇る肢体を平然と晒している。

 北米の巨大企業クロムバウによって強化手術を施され、AC戦と生身の戦闘の双方をこなす暗殺者として訓練されていた灰髪の眼帯美女は他者に素肌を晒すことに抵抗を持たない。

 

「皆やってるから恥ずかしくない。それにコジマ汚染を洗い出すだけでなく、体の調子も整えてくれるし、何より爽快だよ」

 

 同じく最優先された女性達がポッドに入って治療を受けている。

 ACやMTなどを駆って戦場に出ていたドライバーであり、穏やかな表情で眠りながら治療を受けていた。その一糸纏わぬ姿は透明なカバーで丸見えだ。おまけに暗い室内で明るく光るポッドに裸身が照らされている。

 

 今から自分もそうなると思うとオレンジ髪の強気な少女は身震いしてしまう。メッシュ生地で側面が殆ど裸なレオタード型スーツを着ている癖に、四柳は羞恥心が強かった。

 

「メリッサがそこまで言うなら」

 

 観念して裸足で冷たい床を歩いてポッドに近づく。

 少し間を置き、意を決してポッドに入ると、すぐにカバーが閉じ、好戦的に振る舞いながらも実はビビりな性格の四柳はすっかり怯え顔。

 

「やっぱ怖い! 水が入り切るまで見ていてよメリッサ!」

 

 注水が始まって足元に液体が溜まり始めると露骨に怖がり、メリッサを縋るように見る。

 メリッサは「大丈夫」と一言だけ告げた。氷雪のような美貌に微かな笑みを浮かべると隣のポッドに入り、静かに目を瞑った。

 

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