日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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ア・ガールズ・インサイトⅠ

 海上都市、海鵬市。聖オルベリア教導学園の中庭。

 

 真昼の日差しと人込みから逃れるように木陰のベンチに座っている、ひどく緊張した面持ちの少女の姿があった。

 片目隠れの金髪、気弱で大人しい印象の小柄な少女だ。タブレット端末を手にしている。

 

「あなたのために特別な教材を用意したの。トリニティの連中を納得させるのは骨が折れたけど、大切な娘のためだから平気。よく学びなさいね」

 

 遊間クィナは母の優しい笑顔を想い返しながら、タブレット端末に送られている映像を見つめている。少女の動体視力は信じられないほどの速度で機動する純白の機体の動きを捉えていた。

 

 警戒心が強く、目指す進路もあって常に周囲の動きを把握しているのがクィナという少女なのだが、この時ばかりは周囲をまるで意識していなかった。

 

「何見てるのかな?」

 

「ひゃぁぁぁぁぁっ!? なっ何でもありません!」

 

 好奇心旺盛な明るい声に驚き、文字通り跳び跳ねてしまう金髪片目隠れ。

 

「えーとごめん、クィナちゃん」

 

 声をかけた黒羽サヤは驚かせてしまったことを謝る。黒髪セミロングの活発な女子高生は、今では世界的にちょっとした有名人になったACバトル同好会のエース選手である。

 

 

 純白のネクスト、イクリプスが空中を駆ける。逞しい体躯に攻撃的な鋭角を帯びたマシンだ。

 

 エリス達がやってくる前に綺麗に片付けられ、今や残骸が転がるだけの基地を舞台に、二対三の超高速戦闘が繰り広げていた。

 

「ちぃ、喰らった!」と毒づきながら、衝撃で揺れるコクピットのなかで機体のバランスを取るようイメージする赤髪の戦乙女。

 

 エリスは遠方の山に陣取る狙撃タイプのネクストに撃たれた。高速徹甲弾は厚い粒子装甲に阻まれ、運動エネルギーを拡散させていたが、十分な威力を残したままコアに命中した。

 

「今のは迂闊だったぞ、エリス」

「わーてるっ!」

 

 後ろの狭苦しいサブシートから、ゴシックドレスに身を包む白金髪の美少女が窘める。レヴは統合制御体としてエリスの意志をイクリプスに反映し、駆動系を緻密に操っている。

 

 被弾したといっても深刻なダメージではない。

 

 バインダーフレームを動かし、イェーガーユニットのブースターが上方に向くようにして、高速急降下していた。

 

 その間にもオールドガーデンの二機は攻撃を仕掛けてくる。サイドブーストで位置をズラし、イクリプスは続く狙撃を避ける。

 ランセルのチェインガンが見事な予測射撃で迫るが、プライマルアーマーで受け止めた。

 

「上達が速い。それに叱られたら素直に聞くタイプか」

 

 通信を傍受したわけではないが、狙撃型を操るリンクスに窘められたのだろう。オレンジ色のランセルは僚機の射線を意識して立ち回るようになっていた。

 

 技量そのものも戦闘中に高まっている。エリスは右手のパルスライフルでオレンジ色の敵機を追い払おうとするが、素早いクイックブーストで避けられる。

 

「あのオレンジのヤツ。野放しにすると厄介だぞ。僕はこの場で始末することを進言するね」

 

「今日はそういうのは無しって最初に決めたろ」

 

「冗談だ。君の決意を確かめただけだ」

 

 イクリプスが基地に着地する。背後には高出力エネルギー兵器で融解した大型兵器の残骸。

 

 ランセルがオーバードブーストを点火して、音速で突っ込んでくる。

 イクリプスに対して、オレンジ色の白兵戦型機はセオリー通り、上空から仕掛けてきた。追加ブースターの大推力で逃げられないよう、狙撃タイプと連携してエリスを地上近くに縫い留めてくる。

 

 

「オーバードブースト、最大戦速で――――いっくよ!」

 

 ウルティマ・ラティオを駆る陽気な南米娘、アンヘラが楽し気に叫ぶ。

 中距離での撃ち合いでは埒が明かない。危険を冒しても突撃して距離を詰めて、必殺の攻撃を叩き込む――――と見せかける。

 

 減速し、正確に照準する蒼い重装ネクスト。両手で巨大な砲を抱えたウルティマ・ラティオのコアにぴったりとレールガンで狙いをつける。

 

 コジマ粒子の性質上、殆ど軽減できないハイレーザーキャノンは再チャージ中。

 背中の反対側にマウントしたASミサイルは撃ち尽くしてパージ済み。右腕に握ったレーザーライフルは予想外の動きに備えておく必要がある。

 

――――思い通りに動いてくれた、ありがとね!

 

 アンヘラはクイックブーストを炸裂させ、大きく軌道偏向。

 

「ぬぅぅぅ……!」

 

 横からの慣性荷重に歯を食いしばって耐える長身爆乳娘。戦闘機動で激しく揺さ振られる自分の大きな胸が邪魔で仕方ないアンヘラだった。

 漆黒のウルティマ・ラティオは構えていた巨大な複合砲を一発も撃たず、蒼い敵機を通過した。

 

 アンヘラの狙いに気付いた蒼い重装機は、すぐさまクイックターン。チャージが終わったハイレーザーキャノンを解き放とうとする。

 

 しかし、爆炎がその動きを遮る。ウルティマ・ラティオは去り際に背部の垂直ミサイルを発射していたのだ。

 空力特性で劣る重量級にとって高速機動に必須な粒子が大幅に減衰した上に、射撃タイミングを逃してしまう蒼いネクスト。

 

「絶好の位置につけてくれた! やっぱエリスは凄いや!」

 

 本当に大好き、君を殺すのはボクだからね!絶対だよ!

 

 好意と殺意が入り混じったカオスな感情――アンヘラは陽気さの裏に潜んだ危うさを剥き出しにしながら、左背部の垂直ミサイルを撃つ。

 ターゲットはレーザーブレードを抜いて、上空からエリスに斬りかかるオレンジ色のランセル。

 

 側面からのレーダーロックと飛来するミサイルに反応したランセルが回避しようとするところを狙い、さらにガンボックスのグレネードキャノンを三連射する。

 

 アンヘラの動きに合わせて、エリスは飛び退く。狙撃されるリスクのある危険な垂直上昇をかける純白のイクリプス。

 

 エリスは三発の榴弾が爆ぜ、紅蓮の華を咲かせるのを見た。オレンジ色のランセルはグレネードの爆風に包まれ、突進の勢いを失ってしまう。

 

「そりゃっ!」

 

 気合の雄叫びを上げながら、エリスは機体とイェーガー・ユニットの推力を併せて強引な最小半径旋回。

 予想外の横槍に焦りながら四脚が狙撃する頃には、イクリプスは優美な曲面で構成された蒼い重量級ネクストに襲い掛かっていた。

 

 ウルティマ・ラティオを追いかけて前進していた目標とヘッドオンする。かと、思えば再び急旋回で翻弄。

 

 蒼いネクストを上空からロックオンしたイクリプスは左腕の長銃を突き出す。

 装備しているのは本来背部にマウントする散弾砲を手持ち武器に改造した"ヴァルキリーアーム"、エリスの自信作だ。

 

 武骨な長砲身から解き放たれる散弾の連射レートはマシンガン並み。理不尽な速度で大口径砲弾の雨が降り注ぐ。

 

 回復したばかりの蒼いネクストのプライマルアーマーが撃ち抜かれる。

 装甲は無惨に砕け、関節が撃ち抜かれる。一瞬にして、トリニティのネクストは全損した。

 

「よし仕留めた!」

 

「コクピットブロックへの被弾はゼロ。まったく、勇士をヴァルハラに誘うことなく戦いを終えるなんて、ヴァルキリーの名が泣くね」

 

 敵機が黒煙を吹きながら片膝をつくのを見下ろし、エリスは反転する。敵機のコクピットに損傷がないことは、すぐにレヴが確認してくれた。

 

 驚くべきことに、赤髪のヤンキー娘は散弾の弾道を制御して、リンクスを殺さないようにしつつ敵機を撃破したのである。

 

 

 爆炎を忌々し気に振り払ったランセルも真横から強烈な打撃を受け、地面を派手に転がった。

 

「横から失礼!」

 

 基地の構造物を蹴って猛烈に加速したウルティマ・ラティオが、ブーストチャージを叩き込んだのだ。

 

 倒れ込んだランセルは力を振り絞って起き上がろとするが、深刻な損傷を負ったアクチュエーター複雑系はリンクスの意志に応えることができない。

 

 敵機を巧みに誘導。アンヘラが割り込める最適な位置に誘い出し、一瞬で決着をつけた。

 

 高速で機動し、クイックブーストで瞬間的に位置を変えて撃ち合うネクスト同士の戦闘において、僚機との連携には高度な技術が求められる。

 だが、エリスとアンヘラはそれをやってのけた。

 

 

 ウルティマ・ラティオをクイックターンさせたアンヘラは、張り詰めるような緊張感を四脚の狙撃タイプから感じてた。

 ガンボックスを下ろして攻撃用レーダーを止めると、その緊張が和らぐ。

 

「良い勝負ができた。次は普通に依頼してくれると嬉しいな」

 

 エリスはイクリプスを滞空させながら、四脚に呼びかけた。

 

 それが最後の一押しになったのか、四脚も武器を降ろした。オーバードブーストをかけ、近寄ってくる。

 唯一無事な狙撃タイプのネクストは回収部隊が到着するまで、行動不能になった二機を護らなければならない。

 

 

「出歯亀は後でとっちめてやらないとな」

 

 ツクヨミに帰還するイクリプスのコクピットで、白金髪の黒ゴス人形は意地悪そうに笑う。隠れたつもりで戦闘を監視していた眼に気付いていた。エリスとアンヘラも同じく。

 

 戦闘を監視していたステルスUAVが翼を翻し、映像の送信を停止する。

 

 

「強い」

 

 クィナと、その隣でタブレットの画面を覗き込んでいたサヤの声が綺麗にハモった。本当は他人に見せてはいけない映像だが、気の弱いクィナはそれさえ言えなかったのである。

 

「クィナちゃんってこういうの好きなんだ」

 

 映像が途切れると、サヤはクィナの横顔を見つめた。

 

「これはその……後学のためにと言いますか、そのですね……」

 

 戦闘の映像など眺めている、暗くて危ないヤツだと思われてしまったかも。あたふたして、何やら誤魔化そうとする金髪片目隠れ。

 クィナはサヤと同じ一年生だが、中等部に通う妹のチトセと変わらない背丈で可愛らしく思う。

 

「見せてくれてありがとう。何かお礼させて欲しいな」

「おっお礼ですか……?」

 

 黒髪セミロングの活発な同級生の申し出はクィナにとって、全くの予想外。目をぱちくりさせていた。

 

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