日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
赤髪の美少女、神薙エリスは自分の取り皿に乗った肉を見つめていた。豪快に喰らいつきたいところだが、ここは我慢。
聖オルベリア教導学園において、エリスはお嬢様だ。ここがバーベキュー会場で串に刺さった肉を食べるにも、今の偽装に相応しい食べ方というものがある。
「夏の屋外でわざわざ集まって肉を焼いて食う。
それだけで楽しめるというのだから人間というのは、実におめでたい生き物だね。羨ましい限りだ」
何やら嫌味なコトを言いながら串に刺した肉を齧ってる、ゴシックドレスの白金髪少女。贔屓目に見ても中等部の生徒だが、一応戸籍上は成人扱いだし、肩書きはカウンセラー。
その実態は人間でさえないし、カウンセラーの資格も限りなく怪しい。白金髪のゴシック娘、神薙レヴはナノマシンによって構築された少女型ボディに宿った機械知性体だ。
「大人気ないぞレヴ。臨時のカウンセラーが生徒に悪影響を与えるんじゃない」
周りに人がいるのも忘れて、思わず素のヤンキーギャルが出てしまうエリスだった。
「さっきの発言のことか?」
「違うわ! その喰い方だよ」
レヴは獣のように喰らいついて肉を貪っていた。
まったくもってはしたない。しかし、ゴシック人形のような美少女がそんな食べ方をしていることに、妖しい魅力があるのは事実だった。
「うむ。実に美味い」
夏でも黒タイツ装備で露出を抑えたゴシック娘はわざとやっている。お上品に食べているエリスへの嫌がらせだ。
「君もやればいいだろうに。お嬢様が開放的な空気に当てられてつい、とかそういう理由で誤魔化せるだろ」
言いながら、皿から三本も串を取り、肉を鮫のように頬張るゴシックオートマタ。あまりにもヨクバリだ。
「楽しんでいるようだな」
「バーベキューなんて久しぶりだけど、やっぱりいいね。皆ガードが緩くなるし」
金髪ツインテールを颯爽と靡かせ、エリス達のテーブルにササラがやってきた。その相棒の蠱惑的なリゼは、やや危険な発言をしていた。
「アンヘラはこの機会を使って友人を増やしているようだな」
「そのようですね。迷惑になっていなければ良いですけど」
「心配しなくていいと思うな~、話しかけられた子皆嬉しそうだし。男の子はなんかドキドキして落ち着かなくなってるみたいだけどね」
アンヘラの行動力に感心している金髪ツインテールのササラ。いつでもクールな美少女で、裏の顔はACを駆る傭兵。
しかし、他者を拒むような性格ではなく、むしろ親切で優しい。
だが、超然としているので近寄り難く、当人も積極的に他人に絡まない気質だった。だから、アンヘラのことが少し羨ましい様子。
アンヘラは誰彼構わず好奇心いっぱいに話しかけている。しかし、話した相手を不快にさせることなく、むしろ好印象を与えているのは流石のコミュ力である。
健康的な小麦色の長身は男子にも負けないし、目立つ。でっかい胸を弾ませながら気儘に歩くストリートファッション風な私服の小麦肌少女。
ひとしきり話すと、小柄な少女のところに大股で歩み寄る金髪小麦肌のデカ娘。
「チトセも来てたんだ」
「アンヘラさん! 今日のお洋服も素敵ですね!」
今日の集まりにはサヤの妹である黒髪ショートカットの眼鏡少女、チトセも呼ばれていた。
コスプレ撮影を好む彼女は聖オルベリア教導学園中等部の生徒なのだ。避難生活中の住まいとなっている寮の部屋も姉妹一緒だ。
ちなみにチトセの部活は航宙部。中高一体の部活であり、一年生でありながら部長のヤトからの評価は高い。
「何か硬くなっているけど、どうかしたの?」
「なっなんでもありません!」
話している最中、チトセの様子が気になって金髪褐色のデカ娘は訊く。
眼鏡の少女の返事は何か悪いことでも隠すかのよう。アンヘラの豊かな
「ならいいけど。具合が悪くなったらすぐに言ってね」
チトセの反応にそれ以上踏み込まず納得するアンヘラであった。
ACバトル同好会の面々は同じテーブルを囲んでいる。教官役であるササラとオペレーター担当リゼはエリスに声をかけるために外していた。
「少し散歩してくる」
それだけ言い残し、傭兵一族生まれの銀髪褐色のアズも突如として席を立った。そして、しばらくすると怯える片目隠れの少女を連れてやってきた。
「隅のほうに居たから誘ってきた」
クィナが逃げられないよう手を握りながら、アズが無感情に言う。
褐色少女は感情が読めないし、十数人を相手に一方的に勝つくらい喧嘩も強いので、臆病なクィナのような少女にとっては、恐ろしい存在だった。
「クィナちゃん! よかったらここ座ってよ」
そう言って、セミロングヘアの元気溌剌なJK、サヤは自分のお尻を退かせて、リリィのほうに寄ることでクィナが座るスペースを作った。
ちなみにサヤのお尻は元々大きめだし、同好会での筋トレで鍛えられたことで、ボリュームと形にさらに磨きがかかっている。
ACに搭乗する際のユニフォームがレオタードスーツで、試合や練習風景の動画も上げているので、同好会の少女たちの個性的かつ魅力的なボディラインは学園の内外に知られていた。
親友と肌が触れ合うほどの距離になったことに、満更でもない感じの白い髪の令嬢である。
しかし、クィナはその場に立ち尽くし、動こうとしない。
「けっけどわたしが居たら邪魔になるのでは」
と、遠慮する片目隠れの少女。
「そんなことはないよ。クィナくんは我が同好会を手伝ってくれているし、貴重な対戦相手にもなってくれたからね。大歓迎さ」
「部長の言う通りだぜ、座んな。うちのバカアズが手荒に扱ったことを詫びなきゃならねえしな」
「手荒にはしていない」
和風ビスクドールといった趣の背の低いミコ部長が言った。
薄金髪のヤンキー娘、火星生まれのイリヤ・フレアテイルが食べ終わった串を片手に笑いかける。
「でもわたしはACに乗れるのに警備に加わらず、ずっと引き篭もって……」
「クィナさんにはクィナさんの事情があります。怒る人などいませんよ」
己がこの場に相応しくない理由を捻り出そうとする片目隠れの少女。
シミュレーターで同好会のメンバーと勝負できるほど、クィナはACの操縦に慣れていた。だが、AC乗りを集めた際に名乗りを上げることはなかった。
氷を思わせるリリィの声だが、優しい響きがあった。
「失礼します」
この場にいる同好会全員に言われ、クィナは観念した。サヤが空けたスペースに慎重に、おっかなびっくりな様子で腰を下ろす。
赤い髪のお嬢様がしゃなりしゃなりと歩む。その両隣には金髪ツインテールと黒髪シニヨンの美少女。
三人とも背が高く、見事なスタイルをしている。自信に満ち、かつ隙のない歩み方は、圧倒的な存在感と生き物としての格の違いを感じさせた。
チャラついた男子生徒達は恐れ戦き、声をかけられなかった。
エリスはササラ達と一緒に、同好会の元に向かっていた。
電脳サメ入りのゴシックなオートマタ、レヴの奴はカウンセラーとしての務めを果たしてくると言って別行動している
そこにやってくる着物姿の女子生徒。この場で真っ向からエリスに相対できるだけの威厳と身長がある長い黒髪の少女だった。
「三人お揃いだと、ますます眩しいわぁ。エリスちゃんも同好会の皆さんのところに御用なん?」
航宙部部長にして、バーベキューパーティーの主催者である櫛名田ヤトである。
「ええ。櫛名田部長はミコ部長と例の件の打ち合わせですか?」
「流石。耳が速いんやねぇ。それもあるけど、単純にあの娘たちとお話したいんよ。綺麗な娘しかおらんさかいな、ついつい手を出したくなるわぁ」
「わかります。その気持ち――ってゴメンゴメン。冗談だってば、そんなに怖い顔で睨まないでよ二人とも」
「リゼさん。それは少々悪戯が過ぎますよ」
「まったく、お前という奴は。やらないと誓ったろうに」
などとリゼが言うものなので、金髪と赤髪は揃ってジト目に。
「それにしても、なんや面白いことになっとるなぁ。ほら、三人とも見てみて」
京風艶女な三年生に促され、エリス達はACバトル同好会の同好会のテーブルに目を向けた。
もう少しでキスしそうなほど距離で黒髪セミロングと金髪片目隠れの少女が向かい合っている。セミロングのほう――サヤは困惑しているようで、いつも明るく活発な少女の珍しい表情だった。珍しい表情なのは片目隠れのクィナも同じく。
意志の強い眼差しで、サヤを見つめている。距離が遠くて声は聞き取れないが、「負けませんから」とクィナの唇が動くのは見て取れた。
「
謎めいた言葉を口にして、妖しく笑うヤト。
見た目は第五世代にアップデートされた第三世代以前のパーツで組まれたハイエンドノーマルACだ。
しかし、クイックブーストやコジマ粒子添加型のオーバードブーストなど、明らかに偽装された
この場に無関係に思える物騒な名前をヤトが口にした意味。それはエリスにも分かっている。
ササラと一緒に、今や逆にサヤに押し返されてドギマギしているクィナを静かに見つめた。