日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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デュエルⅡ

 その夜、聖オルベリア学園の至るところに、タブレットや携帯端末を見つめる生徒の姿があった。

 

 執り行われるのは、五機でチームを組む対戦競技アサルトスクワッドの選手として実力を証明したサヤの試合。

 対戦相手が実力のほど不明な少女であっても、期待は高まるというものだ。

 

 しかし、中には冷めた見方をする者たちも当然いるわけで。

 

「こんなの所詮ママゴトだよ。クラッシュ・アームズとかのアングラ試合に比べたらさ」

 

 三人組の男子生徒の一人が、いかにも事情通ですという顔で評する。

 

 クラッシュ・アームズ。各地で催されるACを使った非合法の賭け試合のことだ。

 

 試合といっても実弾を用いた実戦と変わらない戦闘が繰り広げられ、死傷者が出るのも当たり前の荒っぽい競技である。

 現役レイヴンがランカーとして鎬を削るアリーナ以上の過激さと暴力性が売りであった。

 

「模擬弾を拡張現実でいくら本物っぽく見せても、実弾で撃ち合うには負けるよな実際」

 

「けど、試合に出る一年のサヤって子可愛いよな~。ユニフォームもレオタードでフトモモ丸見えでエロいし。もう一人のクィナって子も胸は貧相だけど顔は整ってるよな」

 

「どっちもちょっと筋肉があり過ぎるよ。腹筋が割れるほど鍛えてる女子は好みじゃない」

 

 そんな軽薄な会話する男子生徒三人組だった。しかし、いざ試合が始まると、その壮絶さに度肝を抜かれることになる。

 

 

 《再構築戦争》――異星AIとの戦争後、人類間の紛争が各地で続いた動乱期を収めた英雄たる聖乙女の名を冠する学園はACドライバー科を擁しており、地下には模擬戦用のアリーナが設けられている。

 

 このアリーナが黒羽サヤ対遊間クィナの対決の舞台だ。

 

 本来はACドライバー科が専有している設備だが、櫛名田ヤトの一声で使用許可が下りた。

 

 既に二機のACはガレージから直通のリフトでアリーナに昇っている。

 

 リトルクロウのコクピットで、サヤは通信に応じた。通信ウィンドウに映っているのは同好会の仲間。

 

『調子は如何ですか、サヤ?』

 

「絶好調! やるからには負けられないよ!」

 

 白雪のような髪の令嬢リリィに、大袈裟な身振りを交えてやる気を示すレオタードスーツの女子高生、黒羽サヤ。

 

『その様子なら安心だな』

 

『うむ。サヤなら勝てる』

 

 火星生まれのヤンキーJKのイリヤと銀髪褐色のアズもサヤの士気旺盛な姿に満足気だ。

 

 何度か同好会のガレージを訪れたクィナとシミュレーターで対戦したことがあり、片目隠れの少女の実力を良く知っている。

 

『武運を祈る』

 

『応援してるからね』

 

 プロのレイヴンである金髪ツインテの教官殿とその相棒のシニヨンヘアの蠱惑的な美少女。

 背が高く、成熟した身体の二人は涼やかなオトナの笑みでエールを送った。

 

『この勝負はサヤ君にとっても、クィナ君にとっても良い経験になるだろう。楽しんで闘りたまえ!』

 

 トリを務めるのは一番小柄な部長のミコ。

 腕を組み、意気揚々とした態度で黒髪セミロングのエースドライバーを激励する。

 

「はい部長! 全力でいきます!」

 

 リフトが止まり、アリーナに続くゲートが開く。

 仲間たちの声援に応え、サヤは漆黒の旧式ACをアリーナに前進させた。

 

 同好会の仲間達と話したことで、緊張はすっかり解れている。

 

『黒羽サヤさんの乗機はリトルクロウ。同好会の目覚ましい活躍でご存じの方も多いかと思いますが、旧式のTYPE-69を現行の第五世代規格にチューンナップした機体です。

 サヤさんがお母様から贈られたものだとか。素敵ですね』

 

 リトルクロウが円形のアリーナに入場すると解説席のエリスが紹介してくれた。

 

(素敵なんて言われたら照れるよエリスちゃん)

 

 エリスの紹介に、なんだか気恥ずかしい気分になるサヤだった。

 

 反対側のゲートからぴったり同じタイミングで、クィナが乗る逆関節のACが進み出てくる。カラーリングはミリタリー調のオリーブグリーン。

 

『対するはイミディエット。フォーミュラフロント部より提供いただいたACです。

 搭乗者(ドライバー)はサヤさんと同じく普通科一年の遊間クィナさん。今回の試合は彼女がサヤさんに勝負を申し込み、セッティングされました』

 

『クィナちゃんは同好会のエースに勝てる自信があるってことやな。どんなもんか、楽しみやわぁ』

 

 こちらも赤髪の令嬢が紹介して、黒髪を長く伸ばした京風なヤトが相槌を打つ。

 

 イミディエットはサヤの乗るTYPE-69を製造した企業と対立関係にある企業のフレームで組まれている。

 流線形の美しくも精悍なフォルムのACだった。

 

 学生ながら各地の大会で上位入賞の実績あるフォーミュラフロント部の予算は潤沢であり、高性能パーツが多数使われている。

 

 AI制御のACを戦わせるのがフォーミュラフロントという競技だが、既製品を流用しているのでコクピットと操縦系が残されている。

 クィナはシミュレーターでの訓練もなしにすぐさま実機を乗りこなしてみせ、フォーミュラフロント部を驚かせていた。

 

(ガチなアセンだ)

 

 予想していたことではある。

 

 イミディエットのアセンブルは実弾防御に優れるが、エネルギー兵器に弱いというリトルクロウの弱点を突いていた。

 

 右腕、左腕にそれぞれレーザーライフルとプラズマライフル。背部武装は左右ともマイクロミサイル。

 肩部エクステンションの装備はターンブースターだった。これはクィナの要望で本来の装備から交換されたパーツだ。

 

 向かい合っているだけで、サヤは強いプレッシャーを感じた。

 白色のハードシェルグローブに覆われた手が操縦桿を握る力が強まるが、気圧されているワケではない。

 

 緊張は元気溌剌の少女の感覚を研ぎ澄まし、戦意を高めている。

 レイヴンとしての正しい資質(ライトスタッフ)が黒髪セミロングの女子高生の中に息衝いていた。

 

『試合前に二人の意気込みを聞かせてもらってええ?』

 

エリスの隣の席に座るヤトから突然のお願い。京風艶女な三年生はミステリアスで艶やかな笑みを浮かべている。

 

(ええ!? そんなの聞いてないよヤト先輩!)

 

 突然の頼みにサヤは狼狽えた。

 

「えっえーと、意気込み…ですね――――そのー……あの、えっと……!」

 

 それは対戦相手のクィナも同じのようで、動揺ぶりはサヤを遥かに上回っている。

 

「負けないからね!」

 

 率先するつもりで、サヤは意気込みを叫んだ。それは、挑戦してきた時のクィナのセリフをそっくりそのまま返すものでもあった。

 

『わっわたしだって!』

 

 クィナも声を張り上げる。こんなに大きな声を出すのは始めてだった。

 バーベキューの日以来、二人ははじめて言葉を交わしている。

 

 ジェネレータを戦闘出力に引き上げ、二機のACは戦闘開始を待ちながら武器を構えた。

 

 READY――――GO!!

 

 モニターに試合開始の合図が躍り、漆黒のリトルクロウと橄欖(かんらん)色のイミデュエットは同時にブーストダッシュ。

 

 轟く噴射音と十メートル級の人型機動兵器の躍動する勇姿に歓声が上がる。

 

 惹かれ合うかのように距離を詰め、弧を描くように旋回。銃撃を躱し合うと、今度は逆に相手から離れていく。

 

 逆関節の跳躍力で天井近くまで舞い上がったイミディエット。

 

 だが、サヤは的確なサイティングで相手を捉えている。

 敵を捕捉することに夢中になって被弾するようなヘマはしていない。降り注ぐレーザーを小ジャンプ機動で躱している。

 

 リトルクロウは右手の"WR07M-PIXIE3"マシンガンを連射。長期戦を想定した装弾数1000発の前モデルから装弾数を削り、軽量化と集弾率の安定を図った改良型だ。

 高速で吐き出される砲弾。排莢された薬莢がアリーナの床に転がる。

 天井際に位置取ったイミディエットには殆ど命中していない。あくまで牽制射撃だ。

 

――――よーし、そのままそのまま。

 

 マシンガンの射撃管制と並列処理している右背部のWB12M-EMPUSA――高機動(ハイアクト)ミサイルのロックが終わるまで、クィナの動きを制限するのが目的だ。

 ミサイルのロック数が電子音と共に増えていく。

 

 敵機の背後に集まるプラズマ、激しい吸気音が轟く。

 避けられる、直感に従い、サヤはミサイルを発射した。後退して適正距離に入るリトルクロウのランチャーから放たれたのは四発のミサイル。

 

 イミディエットのコアであるYC08-ICURUSのオーバード・ブーストが起動。オリーブグリーンの逆関節ACは急加速しつつ降下。

 

 時速700kmオーバーのスピードでハイアクトミサイルの追尾を振り切る。辛うじて喰らいついた一発が起爆して、爆風を浴びるが物ともせずターンブースターを点火することで急旋回。

 

 視界から消えた敵機を追跡してこちらも旋回中のリトルクロウに向け、プラズマライフルが放たれ、時間差でレーザーライフルが連射される。

 

「やっるぅっ!」

 

 クィナの動きに舌を巻くサヤだが、負けてはいない。こちらもオーバードブーストでイミディエットの火線から離脱する。

 

 一見乱暴で無謀に見える動きだ。

 だが、メイン、サイド、バックのブースターによる瞬間的な加減速と機動偏向――暴れ狂うようなスピードを制御する高度な操縦テクだ。被弾を抑えてエネルギー兵器の弾雨を切り抜ける。

 

「――――! せいやっ!」

 

 さらに、執拗に襲い掛かるマイクロミサイルをアリーナの壁を蹴って躱す。

 

 全身にかかる慣性荷重に圧されるサヤだが、操縦への悪影響はない。動体視力、運動神経ともに抜群、というだけでなく対G能力も人並み外れていた。

 

 立体的なブーストジャンプ機動で素早く動き回る橄欖色のACだが、僅かに狼狽えている。リトルクロウの動きが予想以上に速いからだ。

 同好会を訪ねてきたクィナとシミュレーターで何度か対戦したことがあるので、お互いの手の内はある程度分かっている。

 

(同好会の皆だけじゃなく、エリスちゃんやアニエスさんにも協力してもらったんだ! そう簡単にはやられないよ!)

 

 だからこそ、サヤはこの決闘までの間にみっちり特訓していた。

 

 月のオルタシア専門学院の生徒で、アサルトスクワッド上位リーグの有力チーム、ブラウリヒトのリーダーでもあるアニエス・ミッドホルンとは以前の親善試合以降も交流が続いている。

 クィナとの試合のことを話すとアニエスはシミュレーターでのスパーリングに付き合ってくれた。

 

 マガジン交換を終えたマシンガンを浴びせる。

 あえて空中戦を演じてライバルの懐に飛び込もうとするリトルクロウの蒼いカメラアイが敵機を睨んだ。

 

 

『リトルクロウがミサイルを発射。今度は八発、フルロックです。しかし、振り切られました――今のは惜しいですね。オーバードブーストを使ったイミディエットの切り返しが一瞬速い』

 

 第四世代機(ネクスト)さながらの高速戦闘に騒然となる観客。

 

――――やっぱりアンヘラの動きだ。

 

 穏やかな口調で実況しつつ、エリスはクィナの動きを分析していた。

 

 先日の「騙して悪いが…」な依頼でアンヘラが取った機動を取り入れている。

 能天気な南米娘であるが、実は戦闘機動は理論的(しかし、直感や思い付きを唐突に組み込むので、エリスをして非常に厄介だった)。

 

 クィナは優勢な火力を活かして、サヤのリトルクロウを追い込もうとしている。

 

 だが、それが功を奏しているとはいえず、時折サヤが披露する強引でありながら確実な回避運動で避けられ、反撃への対処に苦慮していた。

 

 一方、サヤとリトルクロウのマニューバはエリス仕込みのモノ。アンヘラの理詰めの部分だけ模倣したクィナの戦い方に対して、優位に立てる動き方だった。

 

 物凄く体力を消費するので、優位をキープできるかはサヤの体力次第。それだけに試合の結末は赤髪の戦乙女でも読めなかった。

 

 クィナが自分たちの戦闘映像を観ていたという話はサヤから聞かされている。

 

(確かに相当な教育ママみたいだな)

 

 娘に学ばせるために、他社を動かして偽の依頼を出させるほどだ。

 隣の席で赤い瞳を細めて試合を見守っているヤトは、それが気に入らなくて、クィナにちょっかいを掛けようとしているのだろう。

 

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