日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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ランブルリングⅢ

 

 二機の第四世代機(ネクスト)が耳を劈くような轟音を伴い頭上を通り過ぎると、地上でバトルロワイアルを繰り広げていたACドライバー達は恐慌状態に陥った。

 

「なっなんだぁ!?」

 

「コジマ粒子反応、ネクストだと!?」

 

「さっきの迎撃を潜り抜けてきたヤツらか! どっかの企業が送り込んできたに違いねえ!」

 

 等々、好き勝手に騒いでいるAC乗りどもを後目に、エリスは救出対象であるクィナの元に向かっている。

 

灰色の幽鬼(グレイスケイル)いや、ストライヴの現在地は工業ブロック、中央セクションに移動中だ」

 

 レヴはクラッシュ・アームズの運営システムをハックして、参加ACのリアルタイム位置を把握していた。

 

 このメガフロートは元々製造プラントとして設計されたものだ。クィナはその居住区にあたる市街地での交戦をどうにか切り抜け、基幹となる工業ブロックに逃げ込んでいた。

 

「ルール変更か。この様子だと他にまともな戦力は残ってないみたいだな」

 

 エリスは視界に表示された布告を一瞥しながら呟く。

 

 予想外の襲撃に対して、運営は迅速なルール変更で対処しようとしていた。侵入者である二機のネクストACのうち一機でも撃墜した者に法外な報酬と即時離脱の権利を与えるというものだ。

 

「アンヘラ、頼め――――」

『まっかせて、ボクが足止めするよ!』

 

 赤髪のヤンキーギャルが相談を持ち掛ける前に、漆黒の僚機を駆る小麦肌の南米娘は動いた。

 

 VOBをパージしたウルティマ・ラティオは四角く武骨な脚部(GAN01-SS-L)で超高層ビルの屋上に降り立ち、満月をバックに両手持ちの複合砲ガンボックスを構えて見せる。

 

 既に四機のACに囲まれ、さらに三機が高速で接近中。

 だが、報酬に吊られてやってきたAC乗りの誰もが漆黒のネクストACを目にすると恐怖を覚えた。直前までいきり立たせていた戦意は消え失せている。

 

「さあ、踊ろうか!」

 

 一方のアンヘラは胸躍らせていた。GAN02-NSS-Hのアイカメラが輝く――死神の笑みの如く。

 

「命はともかく機体のほうは覚悟してね♪」

 

 強烈な加速G。クイックブーストで飛び立ったウルティマ・ラティオ。

 

 亜音速に迫る瞬間加速から、別方向への急加速で敵機のFCSを混乱させ、ミサイルの追尾を振り切る。仮に被弾してもプライマルアーマーが容易く防ぐ。

 

 アンヘラは上空から全身の兵装をぶっ放し、奔放な気質を危険な暴力に変えながら敵機を蹂躙していく。

 この中継は同好会の面々も観ているので、不殺を貫く所存のアンヘラだった。不測の事態さえ予測して全ての敵機を無力化してみせている。

 

『その調子なら一人でやれそうだな』

 

 僚機が交戦を始め、周辺で派手な爆発が起こるのを眺め、エリスは通信を入れた。通信ウィンドウに映る陽気な南米娘の笑顔がさらに明るくなる。

 

『もちろん! いつも気を遣ってくれてありがとう。さあ、エリスはクィナを助けに行って!』

 

 アンヘラに背中を押され、エリスは愛機を駆り立てる。

 

 既にアーモリー・ユニットの大型ブースターはパージしている。イクリプスは兵装コンテナの残りを消費しつつ、補助ブースターと本体のオーバードブーストで飛行中だ。

 

「ここまで抱えてくるのにゃ苦労したんだ。役に立ってくれよな!」

 

 赤髪の戦乙女は祈りつつ、下方コンテナに抱えていた四発の大型ミサイルを発射――目標地点に達すると九十度回転して、ミサイルはまっしぐらに地表に突っ込む。

 イクリプスが発射した地中貫通弾(バンカーバスター)は、その運動エネルギーをもって地中まで到達して炸裂した。

 

 メガフロート構造体を揺るがすほどの爆発を起こすが、完全な崩落は起きていない。

 

 そこに全ての兵装コンテナを使い切り、コジマレーザーキャノンとシールドも投棄したイクリプスが急降下していく。元型であるHD-HOGIREの面影を色濃く残す頭部パーツのアイカメラをバイザーが覆う。

 

 純白のネクストACを包むプライマルアーマーが眩く輝き、爆光を放った。

 

 アサルトアーマー――プライマルアーマーとして展開したコジマ粒子を炸裂させる極めて強力な対AF、拠点用の全方位攻撃が脆くなった地中構造物を完全崩壊させ、地下空間への直通シャフトを造り上げた。

 

 アサルトアーマーで生じた無数の残骸に混じってシャフトを降下しつつ、エリスはメガフロート工業ブロックのマップを呼び出し、クィナとの合流地点を計算する。

 

総残弾数(トータル・ブレットレベル)赤黒(レッドブラック)。残ってるのは格納のハンドガン(LARE)レーザーブレード(EB-O600)のみ」

 

「とは言っても慎重に行動できる状況じゃないな」

 

 ストライヴは市街地で交戦していたスキッソルにしつこく追いかけられているので、急ぎたいエリスだった。

 突入作戦でイクリプスは武装の大半を消費している。残されているのはAC戦には心許ない予備武器だけだ。

 

「その通り、時間との勝負だ」

「嬉しそうに言うなっつーの」

 

 だというのに、後ろに座っているゴシック娘な電脳サメは愉し気。レヴはこういうピンチで面白がる厄介な性格のAIなのだ。

 

 自由落下からブースト噴射をかけ、イクリプスの降下速度を上げる。

 レヴは赤髪の相棒の意図を汲んで機体制御を最適化。純白のネクストACは、落下する残骸の間を潜り抜け、着地直前でオーバードブーストを点火する。

 

「仕掛けてくるか。大人しく通してくれると楽なんだけども」

 

 通路を突き進んでいると、前方の隔壁に熱源反応。急激に白熱し、膨張した隔壁が射抜かれ、高出力のレーザーがエリスに迫ってきた。

 イクリプスは既に回避運動を始める。狭い通路だが、それでも砲撃を避けるくらいはどうってことない。

 

 

 

 衣服を脱ぎ捨てた櫛名田ヤトは、唯一指元に残ったチョーカーを外した。

 

「んっ――――」

 

 その瞬間、艶やかな息が漏れるほどの快感を感じたのは、抑え込んでいた暴力性や暗い衝動が解放されるのを実感したからだ。

 

 ヤトは、この感覚を赤い髪の少女や陽気な金髪の南米娘も感じているのかと想いを馳せた。

 更衣室に一人きりとはいえ、一糸纏わぬ姿。だというのに、艶やかな少女は不安も恥じらいも抱いておらず、白い裸身で優雅に佇んでいる。

 

「――っと、ボーっとしてちゃあかんな」

 

 僅かな時間、物思いに耽ってから、ヤトは新しい衣服を身に纏い始める。

 

 それは文字通り、素肌に纏うと言っていい薄衣だった。

 全裸同然の黒いボディスーツの首の穴に、足先を通して身に着けていく妖狐めいた黒髪の美少女。長い黒髪はポニーテールに結い上げて、動きやすいようにする。

 

 ヤトの貴い身分からすれば、着替えを手伝う従者がいるのが普通である。だが、戦支度に際してそれを拒み、従者を外に待たせていた。

 

 外で待っているのは櫛名田家、ひいてはヤト個人に仕える従者だけではない。

 

 ここは日本本土にあるミサカの軍事基地の一つであり、コジマ技術を扱うため、殊更に機密度も高い。だが、ヤトの権限で部外者を招いていた。

 

「おお! 素敵な姿だ、良く似合っているよ!」

 

「ありがとなミコちゃん。恰好付いてるか不安やったから褒められて嬉しいわぁ」

 

 大袈裟なほど感心して、ラバーのような質感のボディスーツに着替えてきたヤトを見上げる桐嶋ミコ。長身な黒髪の美少女と小柄な金髪の美少女――ヤトとミコは対照的だった。

 

 ミコは見た目だけなら金髪のお人形さんのような、可愛らしい女子高生だ。

 しかし裏の顔はトップクラスの傭兵(レイヴン)に依頼を斡旋する凄腕フィクサーであった。

 張り詰めた空気が漂う格納庫で、あえてひょうきんな態度を装っている――のではなく、彼女の自然体である。

 

 ヤトが着ているのはACドライバー向けのパイロットスーツの一種。ミサカ製の試作モデルで、市場に出るにはもう数年かかる。

 雅やかな美少女の大きな胸やお尻の形がそのまま出ているだけでなく、おヘソや胸の先端まで丸分かりだが、れっきとした戦闘仕様の全身スーツだ。

 

 他メーカーの女性向けパイロットスーツにも言えることだが、高性能ではあるがスタイルによほどの自信がなければ着用できないデザインである。

 

「それじゃ、また後でな」

 

「くれぐれも気を付けて。うちの潜入チームがサポートするが、突入するAC戦力は君一人。孤立無援の戦いになるぞ」

 

 金髪ツインテと黒髪シニヨンの美少女レイヴンが駆る"アークセイバー"は別件で出られない。本来ならばヤトに随伴させたかった。

 

「分かっとるよ。ここまで丁寧に舞台を整えてもらったんや、下手は打たへんよ」

 

 断言して、ヤトは待っているACに歩き出した。

 

 靴音が響くと整備員がさっと身を引いた。スキンタイトなスーツのブーツはハイヒール状で、優美な長身をさらに引き立てている。

 

 体の線が裸同然に浮き彫りになるボディスーツを着ているため、ヤトの御姿を目に入れることは不敬と思い、整備員たちは深く深く頭を垂れていた。

 

 直視しているのは、余所者であるミコだけだ。

 ポニーテールを靡かせ堂々と歩むヤトは、背後から注がれる視線に応え、自信満々に豊かなヒップを揺らしてみせた。後ろ姿で「心配せんといて」と語っている。

 

 雅やかな少女が用意させた機体は黒と赤の二色を纏っている。血のような赤だ。

 

 細身のシルエットは、極限まで研ぎ澄まされ、鋭く直線的。ステルス戦闘機やF1マシンを連想させる。

 洗練された美と戦闘兵器の険呑さを併せ持つ人型機動兵器は、特異的な形状から第四世代(ネクストAC)の象徴的とも見做されている03-AALIYAH、その逆関節仕様だった。

 

 ドライバーシートに座ると、ヤトはすぐに首筋のAMSコネクタとケーブルを繋いだ。甘美な感覚と共に、ネクストの統合制御体と精神を一体化させる。

 

「征こうか"ナハツェーラー"」

 

 災いと呪いで数多の死をもたらす吸血鬼の名を、ヤトは自らの機体に与えていた。

 律動的な歩みでナハツェーラーをカタパルトまで進ませる。

 

 スラスト・ディフレクターが立ち上がり、ヤトはナハツェーラーに射出姿勢を取らせた。

 操縦桿を強く握り、長い脚を広げて踏ん張り射出の衝撃に備える。普段なら絶対にしない姿勢だが、ヤトは恥ずかしさよりも新鮮さと開放的な感覚を覚えていた。

 

 離陸の瞬間、強烈な衝撃で荷重でシートに叩きつけられた。大きな胸が弾んだが、ヤトは苦痛を殆ど感じていない。

 

「堪忍な。エリスちゃん、アンヘラちゃん」

 

 空中でブースト噴射をかけつつバランスを取りながら、自分が戦場に送り出した友人達への謝罪を静かに呟いた。

 

 プライマルアーマー展開――オーバードブーストでさらに加速していく。

 

 ナハツェーラーは、夜明けが近付きつつある空を突っ切り、敵対派閥の基地に侵攻する。道具として利用されている哀れな少女を救うという独善を果たすために。

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