日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
任務を終えたエリスはACバトル同好会に同行した。
同好会は日本本土、横浜市にて親善試合を行うことになっている。上位リーグの有力チーム"ブウラリヒト"との対戦から始まった一件で延期になっていた試合の日取りがついに決まったのだ。
試合までの数日間の猶予は調整と訓練に費やす。自分やアンヘラが手伝えることもあるだろう。
同好会が滞在しているのは海辺にあるACガレージだ。
スポンサーになったミサカ系列企業から提供――要するに櫛名田ヤトが用意してくれた施設だ。
その居住棟の一室。
赤髪のヤンキー娘、神薙エリスは白色のスポーツショーツだけ穿いた、限りなく全裸に近い恰好で眠っていた。
身体に馴染んでいない、しかし抜群に寝心地のいいベッドで横になっている。
「うぅん」
身を起こして、エリスは大きく伸びをした。その動きに呼応して、二つの膨らみが揺れる。まだ眠くて意識がぼんやりする。隣のベッドにアンヘラの気配はない。
代わりに室内に別の人間の気配があり、赤髪ヤンキーギャルの意識は一気に覚醒した。
「おはようエリス」
人を惑わす妖しい声が楽し気に自分の名を呼ぶ。エリスは視線を窓際に立つ背の高い少女に向けた。
声の主は黒識リゼだ。
黒い髪はきっちり上品に纏めているが、リサーチャー兼レイヴンの彼女は素っ裸である。
こっちはエリスと違って限りなく裸に近い、どころではない。ショーツさえ穿いていないのに胸も局部も隠さず平然としており、立ち方も自然体だ。
「なんでリゼが?」
エリスは首を傾げた。
アンヘラとの相部屋で一緒に寝ていた。リゼは本来、パートナーである金髪ツインテ、ササラ・レイフィールドと隣の部屋を使っていたはずである。
「ごめんね、アンヘラと共謀しちゃった♪」
どうやら、エリスとササラが寝静まったのを確認すると互いに部屋を移ったらしい。無防備な寝姿を堪能しつつ、エリスが目を覚ますかもしれないスリルを楽しんだそうな。
大人っぽくJKどころか大学生に見えるリゼだが、こうした子供みたいな悪戯を好む。そして、小麦肌の南米娘、アンヘラも「面白そう!」と乗っかる性格なのだ。
「不覚だった。全然気付かなかった」
「疲れてたんでしょ、昨日は大立ち回りだったし」
リゼはそう言うが、頼れる仲間が何人も出来て気が緩んだのかもしれない。部屋のなかの異変を察知できないとは。
とにかく、自分の体を眺めるリゼの視線がちょっと恥ずかしいので、素早く衣服を身に着けることにした。
ショートパンツに足を通し、白色のTシャツを直に着る。エリスもエリスで羞恥心が薄いので、ブラなど付けず、ちょっとばかり先端が透けたり浮いても気にしない。
「警戒モードだったろうに。なんで黙って見てた?」
エリスが抗議の声を浴びせた相手は、椅子に美しい姿勢で座っている人形に見えた。黒一色のゴシックドレスで着飾った白金色の髪の少女を模した精巧な細工のドールだ。
それは人間ではないし生命でもない。しかし、自律している。機械知性体を宿す自動人形であった。
「このまま眺めているのも良い、そう判断したのさ」
「薄情者~」
静謐な無表情から一転、ニヤニヤ笑いを浮かべるレヴ。白金髪のゴシックオートマタは律動的に立ち上がる。
「僕はアンヘラの様子を見てくるよ。万が一にもササラに迷惑かけていたらいけないからね」
エリスの怒りを軽やかに受け流すと一方的に告げて、ゴシック娘は部屋を出ていった。隣の部屋の二人がどうなっているのか楽しみなご様子。相変わらず、いい性格をしている電脳サメである。
「シャワー浴びてさっぱりしてくる。リゼはどうする?」
「私はいいかな。もう少しのんびりするよ」
手を振って赤い髪のヤンキー娘を送り出すリゼ。結局、着替えずにずっと裸のままだった。
しばらく居座るつもりらしい。
「私もササラと寝てみようかな」
部屋を出る前に挑発するような笑顔を向けて言い放つ。この発言は予想外だったらしく、ニコニコ笑顔から一転、「ええ!?」と狼狽えるリゼであった。
(へへーん、タダでやられるエリス様じゃないんだよ)
エリスは勝ち誇りながらドアを閉め、歩き出す。
廊下の窓の外を見れば、メイド服を着た若い女性たちが警備していた。
桐嶋ミコ部長に仕えるメイド隊だ。二十四時間体制で少女たちとガレージの双方をガードしてくれている。
朝から訓練に励んでいるメイドたちもいる。
この集団は、メイド服の下に着ている戦闘服である黒いレオタードスーツになって動きやすくしていた。
トレーニング中も従者の誇りを示すホワイトブリムを付けてる。
美貌のメイドさんたちだが、服の下には実戦的な筋肉が備わっている。軍歴を感じさせる冷厳なメイドだけでなく、華やかな雰囲気やおっとりした佇まいのメイドでも例外なく、レオタードに割れた腹筋が浮き出ていた。
汗を散らし、力強く大股を開いてレオタードが股間に食い込むのも厭わずスクワットを繰り返すメイド達。その一人が廊下のエリスに気付いて、手を振ってくれた。金髪ロングヘアが特徴的な燈火アリアという名の陽気な少女メイドだ。
赤髪のヤンキーギャルは訓練に混じりたい気持ちを堪えながら応じた。
シャワーはトレーニングルームに併設されたシャワールームを使う。昨日も同好会の少女たちと一緒に汗を流していた。
深夜に数時間に渡る待機を行うだけでなく、ドローンを処理するだけとはいえ実弾をぶっ放す戦闘に参加した同好会のJK達は、船から降ろしたACの運搬にも立ち会っている。
体力、精神力ともに優れていなければできない真似だ。
サヤ達の持久力や集中力は、教官であるササラや顧問という立場になっているサムライメイドのレネを驚かせていた。
しかも、休息するとすっかり元気になり、夕方には活動を再開。
試合までの貴重な時間を無駄にできないと、鍛えて割れた腹筋が露わになるセパレートのウェアに着替え、夕食までトレーニングに打ち込んだのだ。
サヤ達のやる気に触発されエリスも気合を入れた。赤い髪のヤンキーギャルとして、金髪ツインテの教官殿、ササラと競い合うように筋肉を鍛え込んだのだ。
筋トレの様子は姉である黒羽サヤに同伴したチトセが、プロモーションの素材として撮影している。
聖オルベリア学園中等部に通う黒髪ショートカットのメガネ少女は、コスプレ好きであり撮影や動画編集が得意なのだ。航宙船の運用を実践する航宙部でも活躍している。
ストライヴに搭乗していた遊間クィナもこのガレージにいる。
とはいっても昨日は顔を合わせていない。クィナは検査やカウンセリング、今後についてヤトと相談するなど忙しかったのだ。
「よっ、調子はどう?」
「エッエリスさん!?」
そのクィナはちょうどシャワーを浴びようとしているところだった。既に服を脱いで裸になっている。華奢な体だが、リンクスとして鍛錬され筋肉が付いている。
昨日はイクリプスのドライバーとして正体を明かしたエリスにパニックになり、「エリスちゃん」と気安い呼び方をしてしまったのを後悔しているクィナてある。相手は自分の恩人なので、間違ってもタメ口は利かないつもりでいた。
「エリスちゃんおはよう!」
片目隠れの少女が怯えるような反応をする一方、隣の黒羽サヤはヤンキーギャルモードのエリスに臆さず挨拶した。黒髪セミロングのいつでも元気いっぱいな美少女だ。同好会のエースで、かつての東京アリーナのトップランカーを母に持つ。
「そんなにビビらなくても。取って食ったりはしないぜ?」
「ごっごめんなさい。なんというか迫力があるから、圧倒されちゃって」
クィナの左隣で着たばかりの服を脱ぎ、寝汗を吸ったスポーツショーツを降ろしてロッカーに放り込む。これからシャワーを浴びるし、自分だけ服を着ていて二人が裸なのはフェアじゃない。
「昨日レヴに変なこと言われなかった? あいつどうしてもお前を看るって言いだしてさ」
先日、カウンセリングを担当したのは他ならぬレヴであった。
各分野のプロフェッショナル揃いのメイド隊にはメンタルケアに長ける者もいたが、レヴは自分がやると言い出して聞かなかった。
当人は上手くやったと宣っていたのだが、クィナ本人から聞くまで安心できなかった。
「いいえ、とっても優しかったです」
「そっそうか。なら良いけど」
優しいレヴなんてエリスには想像できないが、本当みたいだ。
自分を引き取ってくれた母親が何年も前に暗殺されており、その死に気付くことなく偽物を慕っていた。そんな過酷な事実に圧し潰されていないのなら何よりだ。
「ところで」と前置きしながら声音を変える。こっちのほうがクィナは話しやすいだろう。
お淑やかな口調に、柔らかな微笑み。
一瞬にして学園で通している良いところのお嬢様に切り替わったエリスにクィナは目を丸くし、後ろで見ているサヤも変わり様に驚く。
同じ髪と貌なのに別人に見えるほどの豹変具合なのだ。
しかし、大雑把で細かいことを気にしない本性は変わっておらず、タオルなり腕で覆っておくべき部分は開放したまま。気にする素振りもない。
「これからは何あったら是非私を頼ってください。力になります。私だけでなく、レヴやアンヘラも」
胸や股座を隠すのも忘れて、困惑気味に見上げる金髪片目隠れの少女だった。エリスの背丈が170cm近いのに対してクィナの身長は150cm前半しかない。身長差に気圧されている。
「わたしのことも頼ってね! 友達だしこれからは同好会の仲間でもあるんだから!」
「ええっ!? ちょっとサヤちゃん!?」
サヤは素早くクィナに抱き着いた。背中に押し付けられた、元気溌剌な同級生の胸の柔らかさや健康的な肉体の感触に、女同士とはいえ顔を赤くする。
クィナはACバトル同好会に加わることになった。
ヤトの働きかけでミサカのテストリンクスとして正式に登録されることにもなった。ストライヴと離れ離れになることはない。
「えい! ぎゅぅぅぅってしちゃう!」
「あわわわわ! 恥ずかしいよぉ! エリスさん、助けて!」
しかし、エリスはその助けを妖しくも優し気な微笑みで受け流す。長い脚で踏み出し、クィナに近寄っていく。
「さんよりもちゃんのほうが私としては嬉しいです。呼び捨てでも構いませんよ?」
「~~~~っっ!?」
エリスは正面からクィナを抱き締める。
腹筋が目立つお腹や局部もお構いなしでくっつけて完全密着である。小動物的な可愛さのある片目隠れの容姿と性格がエリスにしては大胆なスキンシップをさせる原因にもなっていた……かもしれない。
優しくて頼もしい友人の美少女に前後から挟まれ、クィナはその柔肌の感触と体温に完全に包まれてしまった。恥ずかしいのに、息苦しいのに、溢れるほど嬉しくて安心している。
天国のような心地に抵抗する力は瞬く間に弱くなる。
「もう限界…許してえ……」
赤髪と黒髪の美少女による全裸のサンドイッチから解放される頃には、すっかりへなへなになっていた。立つこともできず、床に小振りなお尻を降ろしてしまう。