日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
格納庫での撮影を終えると、同好会の少女たちはACに搭乗。練習風景の撮影に取り掛かった。
ガレージには市街地を模した演習場が併設されている。都市を模した戦場での試合は戦術性があり、観客ウケが良い。そのため、アサルトスクワッド競技では定番の戦場となっている。
「みんな、お疲れ様!」
同好会のエースであり、今時珍しいほど清純で元気に溢れる女子高生、黒羽サヤはコクピットを開放して潮風を浴びていた。
黒髪を靡かせながら、通信用ヘッドセットで仲間たちに呼びかける。
漆黒のTYPE-69"リトルクロウ"の周囲には、純白の狙撃機ホワイトバレルなど同好会所属のACも待機している。
コクピットからは本物さながらに見えていた市街地だが、肉眼で視ると簡易的な建物や道路が敷かれているだけだった。
コクピット・ディスプレイ上では拡張現実オブジェクトが重ねられていた。
実機がなくともデータ上で普及している大抵の機種を再現、戦闘することができるシミュレーション・プログラムだ。
武装パージや被弾による損傷までも駆動系への調整で疑似的に反映することができる。
『おうよ。にしても、見栄えが良いように動くってのは試合とは勝手が違うもんだな』
チームの随一の火力を有する深青色の四脚、キマイラを駆る薄金髪のヤンキー娘、イリヤが言った。
今日の練習の序盤は宣伝映像の撮影も兼ねていた。
演習場を飛び交うドローンが様々な角度から撮っている。操作しているのは、やはりサヤの妹の黒羽チトセだ。
カメラだけでなく、ドローン撮影もお手の物。メガネの女子中学生は管制室からタブレットで複数機を同時に操っていた。
同好会の対戦相手は仮想敵機ではなく実機である。ガレージの警備用ACだ。搭乗者はミコのメイドたち、それに
『皆さん、華麗な戦いぶりでしたよ』
『うん、これなら絶対に良いPVになるよ!』
神薙エリスとアンヘラである。
格納庫での収録を見物した後、実は制服の下に着ていた同好会のレオタードスーツにハードシェルを装着して、ACに乗り込んでいた。
撮影してくれているチトセへのサービスのつもりで、彼女の前で脱いでみせた。
サプライズということもあり、メガネのJCはレオタードスーツで露わになったエリスとアンヘラの肉体に興奮しまくりで、個人的な映像を大事に撮影していた。
エリス達が使っているのは、警備用とはいえれっきとした軍用機だ。
量産タイプのアーマード・コア、いわゆるノーマルを使っている。
ミサカ重工の主力製品である
同好会が使っているハイエンド仕様に比べると量産性重視だけあってスペックはまずまず。
レイヴンや特殊部隊向けのハイエンドモデルのシェア上位に入る企業、ミラージュ社製の中量二脚を簡素にしたようなシルエットだ。
実際、参考元なので機体特性も似ていた。
普段から乗り回しているイクリプスや元々の乗機だった第零世代機クルーシブルに比べれば、非力なACではある。
だがレスポンスが良く、剛性に優れているので意外と無茶が効く。エリスとしては気に入った。
スナイパーキャノンを担いだ狙撃仕様の火陣が一機いる。これにアンヘラが搭乗して、リリィのホワイトバレルと手に汗握るスナイパー戦を演じた。
『外向けの撮影はこれくらいで良いだろう。クィナくんはさっそく、良い働きをしてくれたね』
ミコ部長の乗機、"風花"は焦げ茶色、アンテナ頭の軽量二脚だ。
『ありがとうございます部長! お褒めにあずかり光栄です!』
『はっはっは、そう固くならないでくれたまえよ』
片目隠れのクィナは、全力で撮影に取り組んだ。
ただ効率的に戦うのではなく、動画映えするマニューバを演じるのは、新鮮で面白く感じていた。
見た目こそゴテゴテと装甲を張っていて鈍重そうなプラクティスだが、
『では、本番に取り掛かろう! 協力に感謝するぞチトセくん!』
『了解! ドローンは退避させて、ここからは応援に徹させてもらいますよ!』
アンテナ頭の軽二、風花に乗ったミコ部長に元気よく応えた黒羽チトセがタブレットを操作する。
整然とした編隊を組んで引き上げていくローター駆動の撮影ドローン群――かと思えば、チトセの巧みな操縦でアクロバットを披露してみせた。
――――
引き続き、というか本格的にエリスの出番がやってきた。ここからは部外秘となる練習本番だ。
「よっと!」
エリスは火陣をリトロクロウに寄せて外に出た。
レオタードスーツを纏った赤い髪の美少女が、軽やかにリトルクロウにコクピットに滑り込む。
「邪魔するぜ」
「どうぞどうぞ」
既にサヤはシートから離れて、座席の後ろに回っている。
筋肉で引き締められた綺麗なお尻を空けてもらったシートに降ろすと、エリスはシートに残ったサヤの体温を感じた。
「よろしくねエリスちゃん――ごめんね、前より汗酷くなってて」
「平気平気。気を使ってくれてありがと」
後ろから恥ずかしそうにサヤが言ってきた。一応、毎日掃除してるだけど……とのこと。
レオタードスーツは太股がむき出しになっている。
お尻も露出控えめとはいえ肌が出ているので、汗がシートに染みてしまう。
特に激しい練習の後はたっぷりと汗を吸って蒸れてしまうので、濃厚な匂いが立ち込める。
あまり気にしないサヤでさえ、コクピットに赤の他人を入れるのを躊躇うほどだ。
全身に完全密着するナノスキンスーツを使っているエリスにとっては、馴染みのない生々しい感触や匂いである。
だが、エリスは人の努力の汗を嫌がるような性格はしていない。むしろ、大切なACを使わせてくれて感謝していた。
『クィナの汗、いい匂いがするね♪』
通信がオンになっているプラクティスのコクピットから、同じく乗り込んだアンヘラの声が響いた。
なんちゅー話をしている、と思わずエリスは心の中で突っ込んでしまう。
アドレナリンの匂いを嗅ぎ取った戦士としての発言なのだが、アンヘラの言い回しはキケンであった。クィナの狼狽える声がかすかに聞こえていた。
これから同好会の少女たちの手本となるべく、アンヘラと二人きりで仮想戦闘に臨む。
チームの要となるサヤとクィナは感覚を直に掴むべく、予備シートで観戦することにしていた。
リトルクロウを元々古いパーツで構成されたACだが、中身は最新型かつ良質の部品でアップデートされている。
サヤの母親、黒羽クレハからの贈り物だ。軽く動かすだけでも、その仕上がり具合が分かる。
先ほど乗った火陣よりも遥かにしっくりくる。
「存分にやらせてもらうぜ」
『構わない。皆に手本を見せてやってくれ』
開始地点に到達してプラクティスと並び立ち、エリスは金髪ツインテールの教官殿に言った。
『頼まれた通り、難易度は最高にしておいたからね』
今は管制室で最愛のササラと離れ離れのリゼが、にこやかに告げてくる。
オーダー通り、コンソールを叩いてエリスたちの敵機を入念に調整していた。
「この布陣をたった二機で?」
ホワイトバレルのコンソールに表示された敵ACのデータに驚愕するリリィ。
白雪髪の令嬢もシミュレーターで模擬戦を繰り返して、エリスとアンヘラの実力はよく知っているつもりだ。
しかし、リゼが用意したのは上位リーグチームをさらに強化したデータなのだ。
仮にチームがフルメンバーの五機で戦ったとしても勝てる可能性は殆どない。そんな相手に二機の
「これに勝つ。うむ、やはりそれくらいできるのか」
銀髪褐色、砂漠の惑星生まれのアズは驚愕よりむしろ納得という表情である。
『では、戦闘開始だ!』
ミコ部長の合図でリトルクロウとプラクティスは動き出す。
早速、ブースト推進で機動戦を開始。同好会の少女たちは一瞬たりとも見逃さないように目を凝らした。