日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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エピローグⅣ

「メインシステム、戦闘モード起動!」

 

 ボイスコマンドでリトルクロウを戦闘モードに切り替え、エリスはフットペダルを一気に踏み込んだ。

 

 リトルクロウ、漆黒のクレスト69式はブーストアップ。

 

 フレームこそ旧式だが内装には高性能なパーツをふんだんに使っており、さらにチューンナップも施してある。

 キサラギ製ジェネレータが造り出すエネルギーが、ミラージュ社製の大推力ブースターに供給され、推進剤が一気に点火。ノズルからプラズマとなって放たれている。

 

 全長10mの鋼の巨人は、加速からただちに時速300kmを超えるスピードに達する。

 

「このスピード! 自分で動かしているときとはちょっと違うね!」

 

 嬉しそうなサヤの声。サブシートにお尻を押し付け、安全ハーネスで全身をしっかり固定している。

 フルスロットルの加速Gはこの少女にとって慣れっこだ。身体能力が高く、凶悪な慣性荷重に耐えられる頑強さと我慢強さを兼ね備えている稀有な女子高生であった。

 

 エリスはサブシートに座っているサヤの様子を確かめながら操縦している。

 直接、振り返る余裕はないので気配で、だ。

 

「まだ余裕か。よーし――――」

 

 なら、キツいのを試してもいいな。ちょうど、敵さんも来ているし。

 

 相手も同じAC、その動きは目まぐるしい。

 レーダー上に映る赤い輝点が素早くリトルクロウとその僚機、プラクティスに接近してくる。

 レーダーには時折ノイズが走っている。それはECMポッドが射出され、電子戦が開始されているのを示していた。

 

「こっからはぶん回すぞ! ぶっ壊れないように気張ってくれ!」

「OK――――、ってエリスちゃん、いきなり激しすぎるよ!」

「だから言ったろ! 踏ん張って耐えろ!」

 

 三機からレーダーロックされている。リトルクロウはブーストジャンプ。

 

 左右に切り替えして際どくスナイパーライフルの狙撃を掠らせながら、道路の左側のビルを蹴った――直後、エリスは操縦桿のトリガの一つを引く。

 

 その意図を座席超しに悟ってサヤは耐G姿勢を取る。

 

 コア背面の大型ブースターが開放され、激しく唸りを上げた。

 爆発的なプラズマの炸裂が推進力を生みだす。リトルクロウはオーバードブーストで一気に亜音速まで加速した。

 リトルクロウはコアのみオーバードブースト機構を搭載したCCM-00-STOに換装してあった。

 

 亜音速を叩き出すオーバードブーストとはいえ、直進するだけでは撃たれ放題だ。

 壁を蹴り、各部のブーストを推力偏向まで使い尽くして機動を変え、敵機を翻弄する。

 

「ちっと緩めるか!?」

「んぅぅぅぅうっっ! まだっまだぁっ!」

「上等! なら、着いてこい!」

 

 無茶な機動をするといわれるサヤだが、今のエリスの飛ばし方はそれを遥かに上回る。殴りつけるようなショックが秒単位で四方八方から襲い掛かってくる。

 それでも、荒っぽい口調で挑発するような赤髪のヤンキーギャルにNOを叩きつけられる元気があった。

 

『ねえねえササラ、今のエリスとサヤちゃん、ちょっとえっちな感じじゃない?』

『こらこら。真面目にやっているのだぞ』

 

 どこか艶のある二人の会話に、オペレーター席のリゼは少し興奮気味だった。腕組みして、神妙な表情で戦闘を見守るササラは、静かに相棒を窘める。

 

「おっお姉ちゃん頑張って……!」

 

 普段は姉の扱いがぞんざいなところがあるチトセだが、素人目にも信じられないような機動をしているACの中にサヤがいるとあっては気が気じゃない。両手を組んで祈るように画面を注視していた。

 

「はーおっかない。もう流れが変わってしもうたわ」

 

 狐めいた京風美少女のヤトが目を細める。戦術の専門家というわけではないが、物事の流れというやつを察することに長けているのだ。

 

 ヤトの見立て通り、戦況は瞬く間に動いた。

 三機に包囲されたリトルクロウだが、オーバードブーストと壁蹴り(ブーストドライブ)を巧みに使い、恐ろしく強引な動きで敵機をまとめて翻弄。

 

 太陽をバックに宙返りしたリトルクロウの天地が逆さまになったコクピットで、エリスはロックオンサイトに敵機を捉えた。

 

「いただきだっ!」

 

 上空から撃ち下すことで位置エネルギーを上乗せしたライフルの連射で、最も装甲の薄いフロートタイプのACを撃破する。相手の機動に合わせてコアに連続で当て続け、撃墜判定を下させたのだ。

 

「凄い、一機撃墜!?」

「ちゃんと視えてたか、さっすが」

 

 後ろでサヤが歓声を上げる。今の状況なら、自分でも一発くらい当てられるかもしれないが、撃墜は無理だ。

 

 AIとて、僚機の撃墜で隙が生じる。それが予想外(イレギュラー)であれば猶更だ。

 

『そこ、もらい!』

 

 その混乱を鋼灰色(スチールグレー)の重量級VACが衝いた。地面効果を揚力に利用した高速巡行モード、グライドブーストで低空飛行している。

 

 アンヘラも二機に追われている。

 高速飛行からいきなりメインブースターを切って反転。プラクティスは慣性でまっすぐ飛びながら、左腕の大型シールドをかざして背面からの攻撃を防ぎつつ、肩部内蔵のミサイルを発射して牽制。

 

 直後、再度反転して元の進行方向に向き直り、ハイバーストの瞬間加速。壁蹴りで左に曲がって追尾を振り切る――殺人的なGと共にコクピットがぐるんぐるんと回る、出鱈目なマニューバをやってのける南米娘である。

 

 リトルクロウを狙っていた二脚ACに向けて、高出力レーザーライフルを発射。蒼い輝きが一閃する。フルチャージされたレーザーは敵機のコアを直撃。エネルギーの爆発が広がり、二機目の撃墜判定。

 

 そのまま、VACプラクティスはリトルクロウと合流。分厚い重量級の脚部で地を抉るように着地すると、漆黒の僚機の背中を護る位置につく。

 

 レシーバーからの声には「うひゃぁぁぁ!」というクィナの悲鳴も混じっていた。

 

 大の大人でも並大抵のドライバーなら吐血していてもおかしくない。悲鳴だけで済んでいるのは大したものだ。

 

 あっという間に味方を失った三機目にリトルクロウが躍りかかる。

 

 相手は高機動の四脚だ。

 指を模した形状の四つの銃口から拡散して放たれる弾幕でリトルクロウを牽制しつつ、素早く後退している。WH03M-FINGER、接近戦において最強の瞬間火力を持つと評価される特殊マシンガンだ。

 レーザーブレードを決め手とするリトルクロウのような白兵戦型ACに対するメタにもなる。

 

(こういう状況ならきっと……)

 

 被弾の音がコクピットに反響する――実際には合成した効果音を鳴らしている――コクピットでサヤは、エリスの次の一手を考察する。

 

 四脚は左腕の武器も油断なく構えている。前腕にマウントするタイプのクレスト製グレネードライフルだ。

 四脚は高速で後退し、十字路に出た。

 エリスが駆るリトルクロウはマシンガンの弾幕に勢いを削がれないよう動き回った。

 瞬間火力に優れるが装弾数が少ないFINGERの欠点をつき、弾切れと同時に接近する。

 

 そこを狙ってグレネードライフルが発射された――だが、大口径の榴弾が獲物たるエリスを捉えるはなく。

 

「やっぱり、そうするよね!」

 

 予測が当たり、サヤは喜んだ。単純に友達と気持ちや考えが一致したことが嬉しくもある。

 

 エリスはあえてグレネードを使わせるように甘い動きを交えていた――四脚からすれば、狙いやすい位置にきた敵機に躊躇なく叩き込むのが自然な発想。

 

 だが、重心移動で機体を傾けることでリトルクロウは攻撃を回避していた。

 当然、バランスが崩れて転倒しそうになるのだが、エリスは巧みにバランスを立て直している。

 

 コアから射出した格納武器のマシンガンで迎撃しようとする四脚。しかし、遅すぎた。

 漆黒のリトルクロウはすでに接近戦の間合い。

 

「てやぁっ!」

 

 高出力レーザーブレードを四脚のコアに叩きつける。斬るのではなく、まっすぐに突き入れ、エリスは一撃でACを撃破した。

 

『二人で一機ずつ落とす。まずは私がオフェンスでいく!』

『りょーかい♪』

 

 さらに二機を撃墜。二者一体のチームワークで敵チームを一方的にボコるヤンキーギャルと陽気な南米娘であった。

 

 試合終了までにかかった時間は一分ジャスト。アサルトスクワッドの試合時間としてはごく短い。

 

 試合が終わった直後。同好会の面々は言葉を失っていた。手本を見せるようお願いしたミコでさえ、予想以上の暴れぶりに固まっている。

 

『これが姉御の本気……! やっぱりすげえっスよ姉御は!』

 

 エリスを姉御を仰ぐ薄金髪の不良娘、イリヤはシートに正座して観戦していた。

 

『二人は大丈夫なのか?』

 

 出自柄、大抵の事には動じないアズやリリィもこの時ばかりは狼狽えていた。

 

「どうだ。掴めたか」

「うん。ある程度は」

 

 サヤは肩で息をしながら正直に答えた。

 単に優れたレイヴンの娘というだけではない驚異的な体力と気力を発揮していた。サヤはエリスの操縦を頭の中でなぞり、視線や意識の向け方まで追いかけていたのだ。

 

「今度は後ろで見ててもらっていいかな?」

「もちろん。一応、プラクティスのほうも確認してみるか」

 

 通信を入れると予想通りの返事が来た。

 

『ねえねえエリス! クィナが次は自分でやりたいって!』

『お願いします。まだ、これくらいへっちゃらですから』

 

 汗だくのクィナだが、髪で隠れてない片目は戦意に満ちた力強い眼差しを向けていた。

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