日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
ブラン・ニューデイズ
練習と調整は順調に進み、いよいよ親善試合当日となった。
聖オルベリア学園ACバトル同好会の対戦相手はラッティ・バッズ。外宇宙出身者による寄り合い的なチームだ。
とはいえ実力は折り紙付き。上位リーグ進出も近いと評されている。
戦場は横浜市にある模擬戦闘ブロック。
アリーナのランカー戦にも使われている場所だ。
ハンガーに出場するACバトル同好会の五機のACが並んでいる。
セミロングの黒髪をなびかせ、軽やかな足取りでキャットウォークを進む女子高生が一人。
レオタードスーツを身に着けた黒羽サヤだ。
火星生まれの不良娘なイリヤ・フレアテイルと一緒に、気合を入れるために顔を洗ってきたのである。
試合に全力で臨めるよう、ミコ部長のメイドさんたちがあらゆることを取り計らってくれた。
ユニフォームである灰白色のレオタードスーツは丁寧に洗濯と手入れが施され、真っ新な感覚で身体にぴったりとフィットしている。
華の女子高生なので実際に着けたことはないが、褌を締め直すとはこういう感覚なのだろうと
サヤは思う。
素肌に圧着されるレオタードスーツのため、褌に近い締め付けられる感覚があるお尻をドライバーシートに降ろす。
パイロットスーツ各部のコネクタで身体をしっかり固定した。着座したら必ずそうするようにササラ教官から言われていた。
「戻りました、部長!」
『うむ! では、最終ブリーフィングを始めようか!』
今回から出撃メンバーを退き、裏方に回ったミコ部長はレネと一緒に管制室にいる。
交替して出撃するクィナは極めて真剣な表情、神妙な佇まいでシートに座っていた。
モニターには、試合会場の3Dマップや相手チームのACのデータが表示されている。
ラッティ・バッズのチームカラーは、明るいトーンの赤を基調としている。芸術性が感じられる鮮やか色遣いだが、攻撃的な雰囲気で対戦相手を威嚇する意図が感じられた。
『実力的には勝てる見込みは十分。
だけど、一気に攻めて頭数を減らすっていう相手の勝ちパターンに乗らないよう気をつけて』
オペレーター担当のリゼも交えて、作戦や戦場の注意点を確認する。
リゼのパートナーであるササラ・レイフィールドは、今回は急な仕事で外していた。
「ねえリゼ。ササラの事、心配?」
ブリーフィングを終えるとアンヘラが声をかけてきた。小麦色の健康的な肌をした金髪の少女も、今回の仕事は出番無し。同好会の応援に徹している。
「ぜーんぜん。エリスは頼りになるから。それにレヴのサポートもあるし」
「その通り」
ゴシックドレスの少女オートマタが、名を呼ばれて偉そうに胸を張った。
「この僕がいるのだからね。エリスがどんなヘマをしても作戦は成功するよ」
レヴは管制室にいながら、アークセイバーの電子支援を行っている。
そして、神薙エリスはアークセイバーのサブドライバーとして、ササラとペアを組んでいる。
リゼの返答に「だよね! そうだと思った!」と得心がいったような南米陽気娘である。アンヘラは友達と気持ちを共有したかったのだ。
――――――――
まだ試合は始まっていない。
無人の仮想市街地を映しているだけだが、既に視聴者数はかなりの数に達している。
下位リーグの試合としては、驚くほど多くの人々の注目を集めていた。
神薙エリスは、アークセイバーの後部シートでその様子を眺めている。警戒の一環としてネットに繋ぎ、ディスプレイに映像を映していた。
レイヴンとしての戦装束――パイロットスーツを着ている。
が、今回は赤髪のヤンキーギャルが身に纏っているのは赤と黒のナノスキンスーツではない。
エリスが装着しているのは黒いハイレグスーツだ。
黒識リゼのスーツの予備を借りている。
伸縮性の高いパイロットスーツなので、一切の調整を要することなく着用できた。
全身をぴっちりと覆うナノスキンスーツと違い、素肌が露出するスタイルなので下半身が涼しかった。シートに素肌が触れている。お尻がかなり露出する、艶やかなデザインなのだ。
二人乗りのコクピットで、狭い空間に他人と一緒なのは新鮮な感覚だった。
「これで試合がお流れになったら、自分が許せないぜ」
「同感だ。好きにさせるワケにはいかない」
前方、メインドライバーシートに座るササラが応じる。静かな呟きに滲む凛々しい決意。
変則的なバディを組んだ少女たちの仕事は、試合を妨害する勢力から守ること。
不確実ながら対戦相手のラッティ・バッズを狙った動きがあり、ACを使った護衛ミッションの必要があった。
「しかし、本当だとしたら酷い話だな。対立煽るために同胞を狙うなんて」
襲撃を企んでいるらしいグループは、植民惑星の解放を謳うレジスタンスを称する集団であった。地球至上主義を掲げるテロリストに扮して同胞を傷つけ、地球への敵意を高める計画とのこと。
傭兵としてドライなところがあるエリスをして、憤りを覚えるようなやり口だった。
会話はそれだけ。二人で警戒に集中する。
レヴやアンヘラと一緒だと待機中でもお喋りが多い。
だが、ササラは無駄口を叩かない。これもまた、新鮮な感覚。むしろ、兵隊ならばこれが正しい姿というものだ。
(緊張させてしまったか?)
実際のところ、ササラも待機中はリゼと会話することが多い。
気を引き締め、センサー情報に注視するエリス。その様子にササラはしまったと思っている。
臨時のパートナーだからこそ、緊張を解しておくべきなのに、余計に気を張らせてしまったようだ。
もう少し積極的になるべきかと、内省する金髪ツインテのクール系美少女であった。
「おっ試合が始まるぜ」
試合開始のコールがコクピットに鳴り響くと、エリスが明るい声を上げたので、ひと安心だったが。
――――――――
最大五機のACによる集団戦となるアサルトスクワッドは、その派手な絵面からAC戦闘競技でも屈指の人気を誇る。
戦闘空間として整備された仮想市街は観客ウケを重視して、実物が精巧に再現されている。
五機のACがブースト推進で戦場を駆けていく。
『リリィはわたしと!』
『了解。後ろは任せてください』
リトルクロウはホワイトバレルと
前衛型のリトルクロウを狙撃担当のホワイトバレルが援護する。二人の連携は互いの呼吸を感じ合うレベルになっていた。
『援護お願いします、イリヤちゃん、アズちゃん!』
『おうっ! アズ、相手が同じ外宇宙出だからって加減すんじゃねえぞ!』
『当然。むしろ試合なら全力でやらなきゃ相手に失礼』
本試合から参戦のプラクティス、遊間クィナはもう一チームのほうだ。
重量級VACは同じくVACであるアズのアフシャールと共に、
一方、四脚、重火力が売りのキマイラは道路のど真ん中を突っ走る。
普段の怯えた様子が微塵もない、凛々しい声音で呼びかけるクィナ。片目隠れの少女に触発され、イリヤとアズは戦意を昂らせる。
生意気などとは思わない。むしろ、実力者であるクィナを心強く感じている。
――――序盤は危うい場面があったが、オペレーターであるリゼのフォローもあり、赤尽くめのラッティ・バッズ相手にガンガン攻めていく。クィナが一機撃墜し、同好会が先制点を得る。
『一機撃破! このまま気を抜かずに行こう!』
エースとしてだけでなく、リーダーとしての才覚を発揮してきたサヤの勇ましい掛け声に、仲間たちが応じる。今回の試合では、被撃墜ゼロでの勝利を目指していた。
「いやはや、ダブルエース体制恐るべしだな」
続いて二機目が落ちる。二つに分けたチームが連動し、数的な不利に陥ったラッティ・バッズに追い込みをかけていく。
管制室で見守るミコ部長もサヤとクィナの破壊力に驚き、苦笑いだ。
―――――――――
「地下からだ。熱源、AC。数は三。出力からみて第五世代」
エリスがササラに報せる。事前に撒いておいたセンサーが敵襲を報せたのだ。
「残念だ」
「同感、さっさと片付けよう―――集中集中、なんてね♪」
ササラの碧い眼差しが鋭さを増す。
機数で勝る敵を恐れてはいない。殺し合いとは無縁の純粋なスポーツとしてのAC戦に邪魔が入ったことに憤りを覚えている。
金髪ツインテの気持ちに共感しつつ、エリスはリゼの口調を真似て言った。
「アークセイバー、対応を開始する」
忍び込むならここしかないと目星をつけていた地下セクション。敵はそこから侵入してきた。しかし、相手は戦闘MT程度と読んでいたが、ACを三機も使うとは。
模擬弾しか搭載していない競技仕様のACがターゲットにしては過剰な戦力じゃないか?
『ACだと!? 護衛がいるなんて聞いてないぞ!』
面白いことに、向こうの考えも似たようなものであった。
立体的な構造の地下通路を降てきたアークセイバーが姿を見せると、襲撃者たちは狼狽えたのである。
上位リーグの公式試合ならともかく、下位リーグチームの親善試合如きをACがガードしているるとは想像もしていなかったようだ。
その動揺ぶりはササラとエリスにも伝わっている。
趣味と実益を兼ねた改修が施されたアークセイバーの電子戦能力は非常に高く、相手の通信を拾って復号化しているのだ。
「退くのならば撃たない。どうする?」
真正面から三機と向き合い、ササラは警告した。
白と蒼の機体、左腕に超高出力レーザーブレード。相手が凄腕のレイヴンであるアークセイバーだと気付いて狼狽えている。
後方支援型アセンブルの四脚が思わず後退る。動揺して、操縦桿を倒してしまったのだ。
(このまま、終われば楽なんだがな~)
そんなことを考えるエリス。だが、願ったような展開にはならないのがこの仕事の常というもので。
『構うことはねえ、こっちは三機だ!』
『カネで動く傭兵如きとは覚悟が違う!』
『やっやるのか!?――クソッ!』
リーダー格らしい男の威勢のいい発言に乗る形で、残る二機が攻撃態勢を取る。
相手が言葉で戦闘意志を示す前に、その気配を察した金髪ツインテと赤髪の少女は戦いの姿勢を取っている。飛び掛かる直前で固定された猛獣の如し。
だから、不意を撃ったつもりで放たれた先制攻撃も余裕で躱せる。狭いコクピットにロックオン警告が反響するなか、白いハイレグスーツの金髪ツインテが長い美脚でフットペダルを踏み込む。
メインシステムは既に戦闘モードでスタンバイ。コンバットマニューバー。コクピットにいる少女二人は強烈な慣性荷重に圧される。
「こんな感じかな?」
一瞬にして時速400kmを超える加速に達しての垂直上昇――ブーストジャンプのひと跳びで飛んできた火線を避ける。ミサイルも発射されていたが、これはエリスが起動したECMが攪乱した。
「上出来だ」
「ありがと」
電子妨害のため、大幅に精度を落としながらも追従射撃を続ける敵機をいなす。
「にしてもチンピラ丸出しだねえ」
大義ぶった物言いをしていたが、発言から滲み出る雰囲気はチンピラのそれであった。
既に相手の素性も照合済み。ECMを展開する傍らで、管制室から電子支援しているレヴと競い合うようにエリスはコンソールを叩いていた。
肩にパーソナルエンブレムがない時点でそうだと思っていたが、やはり相手はレイヴンとして登録された傭兵ではない。単なるACに乗ったテロリストだろう。
「勇ましいな」
その呟きはササラには珍しい皮肉だった。
地球政府と企業に苦しめられてきた同胞を襲うつもりであったというのだから救えない。口ぶりからして、このテロリストどもは地球至上主義者のフリをして同胞を襲うことが、正しい行いと心から信じているのだろう。
アークセイバーはエクステンション可変ブースターで急速後退。
さらにクイックブースト、第六世代の電子機器と中枢制御系の進歩により、AMSを用いずとも使用可能になった瞬間的な急加速――サイドブースターが瞬発し、右にスライドしたアークセイバーが抉り込むように旋回。
電子戦と並行した出力調整も赤髪のヤンキー娘は卒なくこなしている。借り物のシートで、下手を打つのはエリスのプライドが許さない。
ハイレグスーツでますます美麗さ際立つ両脚を開いて踏ん張る少女ふたり。
ササラは操縦桿で愛機の手綱を取り、エリスはコンソールを弾く。
高速戦闘するACに最適化された操作系なのだが、今やっている雑魚相手の戦闘は比較にならない激戦の最中に正確無比な操作してみせるリゼの凄さを実感していた。
分岐点となっているこのエリアは広い空間。
AC戦をやるにはもってこい。極めて頑丈に造られているため、戦闘で崩落する心配もほぼない。
「ササラ、その武器は好きに使い倒してくれ!」
「そうさせてもらうよ」
トップアタックを仕掛ける。
アークセイバーの右腕武装は
相手もインサイドからECMメーカーを射出しているが、ササラはマニュアルモードに切り替え射撃しているため、照準が狂うことはない。
元型のリニアライフルではあり得ない高速三連射が、射撃反動によるブレもなく放たれ四脚を打ちのめした。
脚部に射撃を集中し、破損させる。これにより体勢が崩れ、立て直しもままならずに壁に激突。四脚は行動不能に陥る。
ノイズ交じりに『理不尽だろ』とドライバーの嘆きが聞こえたような気がした。
残る二機は一太刀で片付けられた。
乱れ撃ちを急降下で潜り抜けると白と蒼のACは、滑らかな動きで相手の懐に飛び込んだ。
左腕の超高出力レーザーブレードが抜かれ、青い光刃が空間を眩く照らす。その光が物語るエネルギー量が地球至上主義を騙る植民惑星のテロリストたちを怯ませる。
交差。斬撃。当然、相手も死にもの狂いで回避運動していたが、まるで吸い寄せられるかのようにアークセイバーの振るったレーザーブレードは急所を切り裂いた。
腰部を切断し、ACの戦闘力を奪う。
しかし、ドライバーの命は奪っていない。追加報酬の条件として生け捕りが提示されていた。
アークセイバーは油断せず、柔らかに着地して残身。金髪ツインテと赤髪ヤンキー娘の豊かな胸が着地の衝撃で上下に揺れる。
「やるぅ♪」
エリスの称賛は、奇しくも同時に決着を迎えたアサルトスクワッドの試合とササラが繰り広げた戦闘の双方に向けられたものだ。