日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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エピローグ

 

 横転したタンクAC"大筒丸"の背面装甲が内側から吹き飛び、コクピット・ブロックがロケットモーターで射出される。

 アナログ式の脱出機構はジェネレーターが停止していても搭乗者を排出することができる。

 その確実性から最先端の超兵器であるネクストであっても、この形式の脱出装置が採用されている。

 

 怒りに震えながら、大地に立つレイヴン"四柳"はオレンジ色の髪の好戦的な少女だ。

 

 露出度が高く、煽情的にさえ見えるレオタード状のパイロットスーツが、少女のしなやかなボディラインを縁取っている。

 

 極端なハイカットが施された際どい股間部の印象を少しでも和らげつつ、着用中の負担を減らすためなのか。股間部分の布地の脇から腰に向かってサイドストラップが伸びていた。

 

 色は光沢のある黒を基調とし、髪色と同じく鮮やかなオレンジがアクセント。

 布面積の少ない側面はメッシュ生地で、可能な限りの軽量化が施されている。

 スーツのメーカーによれば忍者をモチーフにしているのだという。

 

 少女の細身の体は怒りと屈辱に震えていて、生意気な笑顔がトレードマークの貌は涙でくしゃくしゃだった。

 

 空の一点から広がった緑色の輝きは未だ淡い痕跡を残している。

 天上に残った美しくも悍ましい光を見上げると、屈辱という名の深い傷が心の中で広がっていく。

 

 打撲で痛む体を引き摺るように、先に撃破された純白の逆関節ACの元へ向かう。

 

 レイヴンとしての名と機体を継いだ、亡き父の最期がフラッシュバックする。

 母が早世し男手一つで育ててくれた父は優れたレイヴンであるだけでなく、力ない人々のために働く義賊だった。

 

 そんな父が四柳――――クロエにとっても誇りだった。

 

 父が命を落としたのはクロエが十二歳の時だ。七月のことだった。

 当時の火星では企業による熾烈な開発競争が繰り広げられていた。

 

 初期の開拓を担い、火星に根付いていた入植者達は圧倒的な資本を持つ企業の横暴により、困窮していった。

 

 巻き起こった独立運動を支えるべく、父は愛機"大筒丸"と膨大な武器弾薬と共に、火星に降り立った。

 獅子奮迅の活躍はメディアを通して地球にも届き、やがて父の戦闘の光景がライブ配信されるようになった。

 敵であっても、無意味な殺生はせずに命を救う父の高潔さは民衆の心を掴んだ。

 

 確たる信念を持った正義のレイヴンとして名声は限りなく高まり、若手のレイヴン達が挙って火星の民衆の側に立つに至った。

 しかし、ある日の戦闘で父の機体は企業軍の猛攻によって擱座してしまった。

 

 火星に大きな影響力を持つ企業による頭部パーツ「EHD-NIGHTEYE」で統一された精鋭AC部隊に包囲された父は、あろうことか敵に命乞いをした。

 最期の刻、コクピットで喚いていたのはレイヴンの四柳ではなく、優しく、臆病で、打算的な男だったのだ。

 

"俺はあんた達を殺さず、助けてきたんだ! だから頼む、殺さないでくれ! 俺には娘がいるんだ! まっまだ小さい――――"

 

 父の断末魔が蘇り、クロエは硬く目を瞑った。

 

 無線の音声は全世界に生配信され、父の名声は一瞬で失墜した。

 英雄の最期に独立派の士気は目に見えて落ち、企業の猟犬たるAC部隊に怯えた、若いレイヴン達もこの件から手を引いてしまった。

 

 独立の火はかき消され、今日でも初期入植者への搾取は続いている。

 

 英雄から一転、無様な最期は世界中で嘲られ、英雄の娘であることを誇ってきたクロエも多数の悪意に晒された。

 父への敬意は失っていない。だが、あの男は弱く、愚かだったとも思っている。

 

 四柳というレイヴンの名に再び、名誉を与えることがクロエの願いであった。

 

 思考が寒さによって中断される。我が身を抱き締め、少しでも体が冷えないようにする。

 空調の効いたコクピットでの着用を想定した、露出度の高いレオタード状のスーツでは、東欧の気候は堪える。

 

 生意気そうなハイティーンの少女が股座を鋭角に切り上げた、煽情的なパイロットスーツ姿で寒さに震えながら森を彷徨う様は傍から見ればさぞ滑稽だろう。そう考えて余計に惨めな気持ちになってしまう。

 

(どうしてアタシ達を殺さなかったっ!)

 

 四柳は深紅の破壊天使を思い描き、虚しく咆える。

 

 先代四柳を反面教師に、恐れを捨て去り、死を忘れ、無慈悲に敵を殲滅するのがクロエのやり方だ。

 アリーナであっても、最低限のルールだけを守り、ラフファイトに徹している。

 

 だからこそ、臆病なだけの他のタンク乗りどもを押し退け、アリーナの上位に名を連ねることができた。

 

 命を奪わないのは甘さ、弱さ、そして自己保身の表れだ。四柳にとって父のような負け犬の行いだ。

 

 なのに、コジマ粒子という絶対の力を振りかざすヤツは無力化した敵機を無視するだけでなく、衛星砲を狙撃して敵の命を救ってみせた。

 

 絶対兵器アーマードコア・ネクストを操る独立傭兵。

 近頃の権力者どもの大きな頭痛の種を取り去る、今回の依頼がトリニティから回ってきたのも情け容赦のない戦いが評価されてのこと。

 

 最新型のACをフルセットで揃えてもお釣りがくる、破格の報酬を前払いされ、強力な試作パーツまで提供され万全で臨んだ今回のミッション。

 あと少しでネクスト撃墜というトップランカーも手にしていない最高の栄誉を二人で手に入れられた。

 

 なのにネクストは信じられない機動を始めて、こちらを叩きのめしやがった。これが山猫(持つ者)と鴉(持たざる者)の差なのか。

 

――――いや違う。奴が桁外れに強いだけだ。規格外戦力であるネクストの中の規格外なのだ。

 なぜ弱者のように振る舞うのか?答えはあの深紅の機械天使のコクピットの中にだけある。

 

 地面に叩きつけられた僚機ダイヤウルフの元に辿り着いた。

 

「お願いだから無事でいてよ」

 

 四柳は機体を伝ってよじ上り、メリッサがいるコクピットに向かおうとする。

 だが、機体表面の金属の冷たさを想像して身震いしてしまう。

 

 その時、コアのハッチを押し上げて自力で脱出するメリッサ・ロングファングの姿を見た。強化人間の筋力によるものだ。

 

 灰色のショートヘアで身長は百七十cm超。

 メリッサは理想的なボディラインを備えていた。芸術的な造形美を誇る豊かな胸と臀部がパイロットスーツに縁取られている。

 

 首から下を覆うボディスーツタイプなので寒さは平気だ。

 白兵戦も想定した造りで鎧のようなハードスキンが四肢を守っている。

 

 一方で胴体を覆うのは極薄の生地だ。黒いサランラップに覆われているように見えた。

 衝撃的なことに胸と股間の部分にプライバシーを守る仕組みが一切ない。

 クロムバウが暗殺部隊の女性兵士に配備している高性能スーツだ。

 

 一年前のミッションで共闘して以来、共に活動しているが、四柳はメリッサの事は殆ど知らない。

 彼女が教えてくれたのは、四柳より二つ年上であること。クロムバウが管理するスペースコロニーの出身であり、身体強化手術を施された暗殺者であったことだけだ。

 

 当人は殆ど無傷なようで、氷雪の如き美貌に相応しい無表情で下りてくる。右目は黒い眼帯で覆われていた。

 

「メリッサ! よか―――」

 

 四柳は言い切る前に強く抱き締められ、メリッサの巨乳の間で挟まれて窒息しそうになる。

 

「んぐぅ!? むぅ! むぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 強化人間の筋力に叶うはずがない。すべすべした生地が包む双丘に頬を擦られながら、もがき苦しむ四柳。

 これは出撃前にメリッサと交わした、どちらかがやられた時点でミッションを放棄する約束を破った罰だ。

 

 頃合になるとメリッサは力を弱め、四柳を胸の谷間から解放して向き合う。

 

「どうして、逃げなかった?」

 

 誰にでも食ってかかる狂犬少女レイヴンであったが、メリッサには頭が上がらなかった。

 

「それは―――」

 

 四柳は押し黙る。言葉を探した。

 

「やっぱり…その…死ぬならメリッサと一緒が…良い…と思ったから」

 

 震えながら少女は言った。

 

「約束を破るのは悪いこと」

 

 メリッサは幼い子供に言い聞かせるようだった。

 

「わかってる……次は絶対に約束を守るから」

 

 前衛であり近接戦専門(ブレオン)機を駆るメリッサのほうが先に撃破される可能性が各段に高い。

 四柳を生き延びさせるための約束だった。

 

 デビュー以来、アリーナ戦無敗という圧倒的な強さでランク4に上り詰めたメリッサだが、伝え聞くイクリプスの常軌を逸した戦闘能力、勝負強さに死の気配を色濃く感じていたのだ。

 

「なら、よし――――ところで」

 

 まだお小言があるのかと姉代わりの元暗殺者に身構える四柳であった。

 

 メリッサの姿が一瞬ブレる。四柳は肩に担がれていた。

 

「怪我してる。私が運ぶ」

「大丈夫だって! 大した怪我じゃないから!」

 

 元気さをアピールするべく、じたばたする四柳。

 ハーフバックで素肌が大きく露出した、生意気そうなお尻が柔らかく暴れている。

 

 父の遺品であるACを大切にしている四柳には悪いが、機体はここに放棄して、どうにか後でトリニティから取り戻すしかない。

 

 メリッサが動く前にヘリのローター音が聞こえてきた。トリニティ製の機体だ。

 反射的にスーツの太股ホルスターに収めたレーザーブレードを握った。

 

「待ってメリッサ。ヘリがモールス信号を出してる。何々――――」

 

 肩に担がれ、ヘリのほうを向いている四柳がヘリのライトによるメッセージを読み取る。

 なんと上層部が四柳達を砲撃に巻き込もうとしていたことを詫びている。

 

「騙して悪いが…」に警戒しつつも、二人はヘリに乗り、依頼人ヤヌス・キルロイと直接面会することになった。

 

 今回の一件の口外禁止と戦闘データの提出を条件に怪我の治療、強化人間であるメリッサに必要な薬物の提供、ACの完全修復及び、さらに試作パーツを無償で譲渡するという。

 当然前払いで渡された報酬を返す必要もない。

 

 ミッションに失敗したというのに、あまりにも気前が良すぎる処遇であった。

 それらは全てキルロイの権限によるものだった。

 

 トリニティの暗部を担う特務部局長を務めるこのエリート軍人はキャリア初期にACドライバーを務め、その性能に心底惚れこんでいた。一方で彼にとってネクストACは邪道の極み。彼にとってのACはノーマルと呼ばれている機種のみだ。

 ノーマルによるネクスト撃墜に黒い執念を燃やす彼は有力なレイヴンとの関係を維持しておきたかった。

 

 一週間後。

 二人の駆るACは完全な姿を取り戻した。

 

 リフトが上がり、コロッセオを模した試合会場が視界に広がる。モニタ越しの溢れんばかりの歓声が機体に浴びせられた。

 

 今回の仕事は他のアリーナのランカーとのスペシャルマッチだ。

 奇しくも対戦相手は深紅のカラーリングのACによるコンビであった。

 どちらも上位ランカーだ。

 

 四柳とメリッサは深紅のACをイクリプスと重ね闘志を燃やした。

 

「三十秒でぶっ潰す! 重二はアタシがやるからもう片方をよろしくね!」

 

 より磨きがかかった命知らずの特攻戦法で四柳の大筒丸が弾幕を張りながら突き進む。

 新たに購入した両背部を用いる大型レーザーキャノンもぶっ放す。

 

 雷神の一撃さながらに敵機の厚い装甲を耐エネルギー塗装ごと融かす。反撃のバズーカに分厚い装甲で耐えながら肉薄し、至近距離からガトリングを浴びせるべく、四柳は闘牛の如く突進する。

 

「了解」

 

 相棒の動きを注視しつつ、純白の魔剣機ダイヤウルフが大出力のOBで空を翔ける。

 ジグザグ軌道を描いて飛ぶ絶技に観客が騒然となっている。

 

 メリッサは四柳を側面から狙う深紅の軽量二脚をインタラプト、即座に腰部から両断。

 歓声がダイヤウルフただ一機に浴びせられた。

 

 昏い闘争の道を征きながらも、少女達の黒い翼は今日も力強く羽ばたいていた。

 

 

* * *

 

 

 イクリプスのブースタの噴射炎が暗闇を照らす。時速四百kmを超える滑走によって路面に火花が散る。

 地下通路を走り抜けた先は放棄されて久しい日防軍の地下ドック。

 

 テログループによって要塞化された地下施設を奪還する任務だった。

 

 滑るように躍り出て、ノーマルとMTの混成部隊にアサルトライフルのダブルトリガーで先制攻撃を見舞って一気に殲滅する。

 著しく火力を欠いた反撃をPAで無効化しつつターゲットにまっしぐら。

 

 テログループのリーダーが指揮するのは蟹を彷彿とさせる大型MTだ。

 ロックオンした時、エリスは奮発して夕食にたらふく食べた蟹の味を思い出した。

 

 MTがガトリングキャノンを乱れ撃つ、パルスライフルをばら撒く。

 

「はっそんな温い攻撃っ!」

 

 深紅のナノスキンスーツに身を包んだ神薙エリスは猛々しく笑う。

 ドライバーシートに座して大股を開いた格好なので、股間をV字型に覆う黒いハードスキンが目立つ。

 

 威力自体は大したものなガトリング砲を横にブーストして躱し、右背部にマウントしたハイレーザーキャノンを発射。

 閃光が襲い掛かり、MTの装甲を青白く輝かせた。

 

 砲撃が止むと、QBで踏み込む。

 

 近寄ってきたネクストを追い払うべくアームを振り回してきた。

 

 正面装甲が融解し、機内が高温に晒されているMTの最後の反撃をくるりとターンして回避。

 あとは突撃ライフルの銃剣を突き立てれば今夜の仕事は終わりだ。

 

 必殺の直前。MTの装甲を突き破り、巨大なサメが顔を出した。

 テロリスト達は押し出され、四肢を振り乱しながら落ちていく。

 

「REV?」

 

 エリスは硬直した。

 そういえばイクリプスの統合制御AIである電脳サメは今夜の任務中ずっと黙っていた。

 

 巨大サメはイクリプスを丸呑みできるくらい大きい。

 その口を広げて「今、起きなければ遅刻は確実だよエリス――――さあ起きて」と告げた。

 

「遅刻?」

「そう、遅刻。今日は一限目からオンライン参加不可の授業があるでしょ」

 

 遅刻。その単語と共に世界が暗転し、ナノスキンスーツの感覚が消える。

 

 快適なベッドとシーツの感触があり、裸の体を温めてくれている。

 けたたましい目覚ましアラームの音が鳴り響く。

 

「おわぁっ!」

 

 珍妙な叫びと共に、赤髪の戦乙女は生まれたままの姿で身を起こした。

 危機的な状況にOB並みの速度で身支度を始める。

 

「ははは、そのスピードなら間に合うよ」

「もう少し早く起こしてくれてもいいんじゃないかなぁ!」

 

 エリスは身支度の手を緩めず、視界に浮かぶ電脳サメに文句を言う。

 

「昨日のミッションで疲れただろうから、ゆっくり休ませてあげようと思ってね」

 

 REVは意地悪そうに笑っていた。

 

 ここは日本政府と巨大企業体の一つ、ミサカ重工が共同運営しているメガフロートだ。

 

 晴れて聖オルベリア教導学園の生徒となったエリスは学園があるメガフロートに住居を移したのである。

 

 愛機であるネクストAC、イクリプスは近海で待機させた工廠艦ツクヨミのガレージに置いてある。

 

 必要時には埋め込んであるインプラントでREVと交信して射出してもらう。

 REVが夢の中に現れてエリスを起こせたのも、インプラントによる交信によるものだ。

 

「僕を飼って良かったろ? 感謝の念は常に抱いてくれよな」

 

 トイレを済ませた全裸姿のエリスに手ヒレを広げた尊大なポーズで言い放つREV。我こそ、全知電脳の神なり、諸人こぞって我を讃えよ。

 

「パートナーが私以外だったら即コアチップをトイレに流されていたわよ。あんたこそ私の忍耐力に感謝しなさいっての」

「それじゃまるで僕の性格が悪いみたいじゃないか? んーところで流すって、今エリスがトイレで出したものみたいにかい? せめてトイレットペーパーで包んで優しく送り出してほしいもんだね」

 

 REVはニヤニヤして、くるりと空中を泳いだ。

 素っ裸で人前に出ても平気なエリスもこの発言には羞恥を煽られた。

 

「あんたの性格は悪い! 最悪! 最低! 人類種の天敵!」

 

 赤面しながら罵倒しつつも動きは止めないエリスだった。

 残された十五秒の猶予でブレザータイプの制服を身に纏い、完璧に身嗜みを整える。

 

 これでアセンブルは完了。最後に動作テストを行う。

 姿見の前で微笑む姿は深紅の令嬢。生まれてから一度も負の感情を抱いたことのない、天衣無縫の乙女だ。

 

 エリスのスカートは不意にパンツが見えそうなほど短い。白い肌の美脚は惜しげもなく晒されている。

 機動性を重視した結果だ。淑女然とした美少女のスカート丈が極めて短いというギャップはビジュアル面でも高い効果を発揮している。

 

 厳格な服装規定があるのだが、スカート丈に関してはなぜか驚くほど緩かったし、実際、皆スカートを短くしていた。

 

 AMSのジャックは偽装用ナノスキン・シールと装飾品として許可されているチョーカーで二重に隠蔽している。

 

 神薙エリス、自宅より出撃。最大戦速で次のミッション目標「登校」に邁進する。

 残された時間で達成可能な方法は超絶の身体能力による登校のみ。

 

 軍用の超ハイカロリーな栄養バーでエネルギーを得ると、近くのマンションの外壁を脚力だけで駆けあがる。

 常人では影すら捉えられない高速で走り、建物から建物へと飛び移り、最短コースで学園を目指した。

 

 生まれつきの身体能力をフル活用してのエクストリーム登校の最中、ミニスカートは派手に捲れていた。

 

 乙女の柔肌に張り付いた、股座のカット深めのシームレスパンツを目撃できた者はいなかった。

 

 路地裏に降り立ち、額の汗を拭うと、眼を閉じて一呼吸。

 メインシステムを学園生活のために新たに構築したお嬢様モードに切り替え、こっそりと通りに出る。

 

 赤髪の乙女が嫋やかに仕草で通りを歩けば、すぐに多数の視線にロックオンされる。

 「ごきげんよう」の挨拶で強力に応戦しながらしゃなりしゃなりと突き進むエリス。

 

 偽りのプロフィールに合わせて、REVに構築を手伝ってもらったお嬢様モードであるが、女子生徒の言葉遣いは意外にも普通。

 

 入学から二か月が経った今、エリスは際立った容姿と相まって学園に溶け込むどころか目立ちまくりであった。

 

 エリスは学園生活という長期ミッションにアセンブルを間違えて出撃してしまったのである。

 

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