日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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リベンジ=ガンファイア・ファイト

 円形闘技場のような広大な空間で、純白と漆黒の第四世代AC(アーマードコア・ネクスト)が激突する。

 

 第零世代のACに備わった破壊力を想定した戦闘空間として設計された地下アリーナは、ネクストAC同士の戦闘にも耐えられる代物だ。

 強固な構造体に加え、基地のジェネレーターを動力にエネルギーフィールド――戦闘兵器に採用されている防御スクリーンと同様のものだ――で戦闘による倒壊を防いでいる。

 

 とはいえ、エネルギーフィールドで補強された強固な防壁でも分子構造を破綻させるコジマ粒子兵器は流石にオーバーパワー過ぎる。そのため、今回の決闘での使用は禁止されていた。

 これも、二百年前と変わらない。コジマ粒子の汚染対策がなかった当時、コジマ兵器はより厳格に管理された環境でテストされていた。

 

 激しい機動で、全身に慣性荷重を感じながら、エリスはふと思う。

 この戦闘はまるで、黒羽サヤと遊間クィナの決闘の再演のようだ。

 地下で繰り広げられる少女たちの闘い。

 

 以前は、サヤとクィナの試合の解説をする立場だったが、今回はエリス自ら戦う。

 しかも模擬弾ではなく、実弾を装填しての実戦だ。

 古代ローマの剣闘士さながらの真剣勝負。流血の試合を求めるカリギュラは、漆黒の重装機を駆る陽気な少女であった。

 

『踊ろう、エリス!』

 

「せっかく付き合ってやるんだ! 途中でぶっ倒れるなよ!」

 

 イクリプスはアサルトライフル、レーザーライフルを同時発射。

 

 まずは手始めの削り合いだ。被弾の手応えは軽い。手持ち火器とはいえ、頑強な重量級であるアルティマ・ラティオに対して効果的なモノをチョイスしてある。

 単純にヒットした数が少なく、最大出力で展開された厚いプライマルアーマーで減衰しているのだ。

 

 撃ち合いながら、ウルティマ・ラティオの真正面に入って、集中砲火を浴びないよう立ち回る。エリスの意志で駆動し、レヴがサポートする純白のイクリプスは、サイドブーストを効かせつつ、旋回する。

 イェーガー・ユニットと併せたイクリプスのブースター推力に比肩するネクストACはいない。

 スピードでは圧倒しているが、アンヘラの射撃と弾幕で相手の機動と意思決定を操る戦場掌握術は、エリスの優位を許さない。

 

「振り回されてるぞ、ペースをこっちに引き戻せ」

 

「そりゃわかってんだけども!――――ぬっ、ふぅっと!」

 

 エリスは警告してきたレヴに応じる。

 強力な横Gに、クイックブーストの急加速が加わり、ぶん殴られたような衝撃を受ける――が、エリスとってはこれが楽しい。それに戦闘マシンを操るということは、心と身体を徹底的に痛めつけることでもあると理解している。

 

 オートキャノンの四連装砲身から吐き出される強力な徹甲弾に避けつつ、ハンドミサイルの軌道に意識を向ける。ロックオンされ、視界に表示された計器が赤くアラートを発した。

 弾頭部が紫色に発光している――プラズマミサイルだ。さらにエクステンションの連動ミサイルポッドから、通常弾頭の小型ミサイルが発射されている。

 

 ミサイルが一気に炸裂しても、プライマルアーマーを高密度に張っている今のイクリプスに殆どダメージはないが、粒子装甲が一気に減衰してしまう。

 ミサイルはまっしぐらに突っ込み、加速。奇襲ともいえる、完璧な発射タイミングだった。高機動を繰り返し、エネルギーが消耗した瞬間に差し込んでいる。

 

 「流石はアンヘラだ――けど!」

 

 エクステンションのチャフ・フレアをリリースして、シーカーを攪乱――目標を失い、まっすぐ飛んだかと思うと、息を吹き返したかのようにミサイルが追尾を再開。

 その動きに「おや」とレヴが感心する。

 以前、アンヘラとの対戦でエリスたちがやった戦法を模倣してきたのだ。追尾を再開したのではなく、イクリプスの回避機動を読んで、飛行コースを先行入力している。未来予知に等しい技だ。

 

「それも読めてる!」

 

 イクリプスもイェーガーユニットの兵装コンテナからマイクロミサイルをシュート、再追尾してきたミサイル群、全弾撃墜。

 

『ちっ! 防がれたか!』

 

「私たちの手を真似ようたって、そうはいかんぞ!」

 

 珍しく真剣に悔しそうなアンヘラの声音。陽気さが鳴りを潜めた、女戦士(アマゾネス)の猛々しさだ。

 

 この一瞬でジェネレータを休ませ、イクリプスはコンデンサにエネルギーを蓄えた。

 左腕のレーザーライフルをフルオートに切り替え射撃。荷電粒子の青い光条の幾つかが、ウルティマ・ラティオのコジマ粒子装甲を射抜く――今度は手応えがある。

 

 が、ウルティマ・ラティオの黒い巨体がサイドブースターでクイックブーストをかけることで、射線から逃れる――と見せかけてレーザーを正面装甲で受け止めながら、突進。オートキャノンをぶっ放し、再びハンドミサイルランチャーからプラズマミサイルを発射。

 

 全長はイクリプスと変わらないが、厚い装甲それにアンヘラのプレッシャーが、実際よりも大きいと錯覚させる。

 

「これで!―――やっぱりダメか!」

 

 エリスはレーザーライフルのアンダーバレルからグレネードランチャーを発射。着弾。炸裂する。これも真正面で受け止めたウルティマ・ラティオは黒煙を吹き払いながら間合いを詰めてきた。

 

「殺る気満々だな、こん畜生!」

 

『やるからには全力! でしょ!?』

 

 エリスの口癖を真似るアンヘラの楽し気な声。陽気と快楽主義が極まって、超級のサイコパスの域である。

 

 イクリプスの背部で、イェーガー・ユニットが咆える。可動フレームに取り付けられた追加ブースターとミサイルや手持ち兵装を格納できるウェポン・コンテナを一体にした複合兵装(コンポジット・アームズ)だ。

 

 フレームを高速可動させることで得た慣性力まで活かしきる。神経接続によって全身を制御するネクストACの利点をフルに使って全身を動かしていた。

 オートキャノンにプライマルアーマーを削られながら、イクリプスは応戦。右腕アサルトライフルの射撃も加え、ダブルトリガーでダメージを与える。VAC専用ライフルをベースに、ネクスト用のアサルトライフルとミキシングした銃は貫通力、衝撃力ともに優れている。

 

 手持ち武器なので取り回しやすく、軽めの背部キャノン並みの威力がある。地味に反則級な武装だ。

 

 同時に精密攻撃を重視したその武装選択は、この戦いでエリスが望む結末をアンヘラに伝えるモノであった。

 

 互いに広いアリーナを縦横無尽に駆け巡りながら撃ち合い、装甲を削っていく。遮蔽物がない密閉空間だ。時間と共に損傷していくのは必然。

 

「いっくよぉエリス! ボクを受け止められるかな!?」

 

 短時間で何度も幾度となく繰り返された交差の果て、アンヘラが間合いを詰めた。

 

――――レーザーブレードを抜くか!

 

 ウルティマ・ラティオは両手の武装をパージ。左手にコアから引き出したレーザーブレードを装備している。

 オーバードブーストに上乗せして、マニュアル制御で最大燃焼されたクイックブーストの加速がウルティマ・ラティオの黒い巨体をかっ飛ばす。

 

『パワーで押す! それがクロムバウのスタイルだ!』

 

 さらに、アンヘラが放ってきたのは背部キャノンの散弾。両背部からの時間差砲撃がくる。

 

 

 これは躱しきれない。

 無数の散弾を浴びてイクリプスの全周を覆う粒子装甲が眩く輝く。減衰したコジマ粒子の防壁を抜けた散弾がイクリプスの装甲を傷つける。

 

「ちぃっ! もう"元"クロムバウだろーに!」

 

 南米娘の勢い任せのセリフに突っ込みつつ、エリスはウルティマ・ラティオが自分の必殺圏に入ったのを感じ取ていた。

 ギガベースと連動していないアンヘラが弱いってワケじゃない。今日はこっちのほうがノってるってだけ。

 

 獰猛に笑い、エリスは跳んだ。脳天唐竹割するべく、飛び上がったウルティマ・ラティオよりもさらに高く。そして――――

 

『ふっ踏み台にされたぁ!?』

 

 アンヘラの縦一文字の斬撃を跳んで挫いたイクリプスは、ウルティマ・ラティオの頭部を踏んづけ、さらにジャンプ。イェーガーユニットの加速で一気に距離を取りつつ、反転。

 馬鹿みたいな加速Gで視界が回り、赤髪が靡き、ナノスキンスーツに覆われた綺麗なバストが弾む。コクピットシートから振り落とされないように全身の力で踏ん張り、ロックオン。

 

 イクリプスは、メインブースターを正確に狙い、アサルトライフルで連続精密狙撃。マガジンに残った残弾二十発をぶっ放す。

 発射されたAPFSDS弾はプライマルアーマーを貫いた。ウルティマ・ラティオのメインブースターが弾け、スパークが起こる。

 

「やるね! けど、まだまだここからだっ!」

 

 これでも闘志を失わないのがアンヘラという少女だ。ブースターの破損に伴う爆発から機体を神業的に立て直し、敵機に向き直る。

 

「命に換えてでも、君を――――」

 

 無事なオーバードブースターを使って、突進、否―――捨て身の特攻をかまそうとする。

 

「そういうの、趣味じゃないんでね」

 

「ぎゃん!」

 

 しかし、それよりもイクリプスのほうが速い。

 ウルティマ・ラティオのオーバードブーストが開始される直前、全力のクイックブーストから蹴りを叩き込む。転倒した漆黒のネクストACは壁まで転がっていく。ぐるぐる回るコクピットでアンヘラが目を回し、可愛らしい悲鳴が通信に響いた。

 

 エリスはアンヘラがウルティマ・ラティオを起こす前に近寄り、レーザーライフルを突きつけた。

 

「勝負ありだ」

 

 勝ち誇る赤髪の戦乙女の呼吸は荒い。しかし、強気に笑っている。前よりも楽に勝ったようだがそうではない。エリスはアンヘラが納得し、しばらく大人しくしてくれるように勝つため、全力を尽くした。

 

 

『ちぇー、あえての接近戦ならいけると思ったのに』

「ナメんじゃねえって。とにかく、これで満足だろ?」

『それはまあ、ね。ありがとエリス。また闘ろう』

 

 二度目の敗北に、心底悔しそうなアンヘラの顔が通信ウィンドウに映る――とはいえ、すぐに受け入れて明るさを取り戻すのがアンヘラという娘なのだが。

 

 エリスとアンヘラは笑顔を交わし合っている。 濃厚な汗の感触は不快だが、それも戦いの後の余韻を感じさせた。

 二人とも、ナノスキンスーツの下の裸身は汗でびっしょりだ。高度なリサイクル能力があるナノスキンスーツだが、汗の処理は優先度が低いため、リサイクルされるには時間がかかる。

 戦闘で大量発汗するため、排泄物を処理する局部装甲下パックの出番は少ないが、不快度と衛生的な理由で、最優先処理されるようになっていた。

 

「どうにか上手く済ませたな。しかし、これからも大変だね。定期的に勝負しないといけないだろう」

 

 イクリプスの損傷をチェックしつつ、ウルティマ・ラティオの統合制御体と雑談しているレヴの呟き。機械知性体であるため、この程度の並列処理はお手のものだ。

 

『お疲れさん、お二人さん。二人とも無事みたいで良かったわぁ』

 

「あれ、ヤト? 来てたのか」

 

 不意に通信に櫛名田ヤトが割り込んできた。この地下基地の存在は教えていたが、来る予定は聞いていない。

 

『後学のためにね。ほら、ウチも一応リンクスなわけやから。ええもん見せてもろうたわ』

 

 とのことである。本日は黒い着物をお召しの黒髪の女狐は嗤っていた。

 

――――――――

 

 エリスとアンヘラの決闘開始と同時刻。

 四柳のレイヴンネームを名乗るクロエは、パートナーであるメリッサ・ロングファングと共に、日本の地を踏んでいた。

 

 私服姿の二人は空港を出たばかり。今回の依頼者はファーストクラスの席を用意してくれた。

 四柳は黒を基調とするパンクファッション。派手なオレンジ色の髪と相まって、可憐ながらも剣呑な印象だ。しかし、日本の夏の暑さを全身で感じて、渋い表情。

 

「あっつぃ」

 

 四柳は照りつける太陽に手をかざして、日差しを少しでも防ごうとしたが、無意味だった。

 四肢やお腹が露出するパンクファッションのため、四柳の白い肌は強烈な直射日光を浴びて焼かれているようだ。

 

 肌を出したのが逆効果になっており、四柳は後悔していた。

 汗がお気に入りのハイレグショーツにまで染みて、お尻辺りが気持ち悪い。しかも、身体から水分が失われていく。そこに、隣からミネラルウォーターのボトルが差し出された。

 

「はい、クロエ。水分補給はしっかり」

「ありがと、メリッサ」

 

 ペットボトルを受け取り、四柳は隣のメリッサにお礼を言う。メリッサは片目を覆う眼帯が凄惨な過去を想わせる長身の美女だ。

 

 氷の化身のような静謐な雰囲気。灰色の髪にアイスブルーの瞳。高い背丈と大きく胸、引き締まった腰から広がる豊満な臀部は筋肉で引き締められている。当然、脚は恐ろしく長い。

 徹底的に引き絞られた、美麗な肢体。

 四柳にとって、メリッサはレイヴンとしてのパートナーであると同時にお姉さん的存在だった。強化人間であり、ランクもユーロ・アリーナの第二位という最上位の実力者である。

 

 メリッサは500mlの飲料水をあおる四柳を無表情ながら、愛おし気に見守る。

 

 ぴったりとした白いリブニットのワンピース、太股が殆ど露出するミニ丈だ。胴体は隠しているが、魅惑的なボディラインは剥き出しだし、強調されてもいる。

 メリッサはパイロットスーツに、局部を含めた体の凹凸を全く隠さないボディスーツを選んでいるほどだ。身体を晒すことが苦にならない性質だった。

 

「たまには楽に稼がないと」

 

 不意に、今回の依頼を請けることを決めた際、四柳が言ったセリフを口にするメリッサ。

 

「? どうかしたのメリッサ?」

「なんでも。ただ、ちょっと嬉しいだけ」

 

 最近、二人は複数ハイリスク・ハイリターンのミッションを見事にこなし、その報酬で四柳は搭乗機を一新した。

 

 強力な機体を試すべく、今までの四柳ならより危険なミッション。たとえば、ネクストやアームズフォートを撃破するような達成困難な任務を選んでいただろう。

 

 しかし、今回は安全な仕事を選んでくれた。その変化――成長と呼ぶべきだろう。それは、四柳に健やかに生きて欲しいと願うメリッサにとって、歓迎すべきことだった。

 

 二人の女レイヴンは、輸送機で運ばれた愛機を確かめるため、貸しガレージに向かっていった。

 

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