日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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アンアームドな戦乙女たちの遭遇

 アンヘラとの決闘の翌日。

 同好会の反省会も終わり、遊びの時間がやってきた。

 少女達は横浜市の中華街に繰り出す。

 

 桐嶋ミコ部長率いるACバトル同好会の面々――――サヤ、リリィ、アズ、イリヤ、クィナ。教官とオペレーターとして、ササラとリゼが。

 部外協力者組という立場のエリス、アンヘラ、レヴ、ヤト。

 サヤの妹であるチトセは記録係として今日も張り切っている。

 総勢十四人の大所帯での団体旅行だ。

 

「では、僭越ながら拙が引率を務めさせていただきます」

「「お願いしまーす!」」

 

 少女たちの元気のいい声。

 同好会顧問として引率する青銀髪のサムライメイドは涼やかな笑みを見せる。こういう時、クール系なアズやヤンキー娘もアズもしっかり挨拶する。

 

 主であるミコもいるが、今日のレネは群衆に溶け込むべく私服姿だ。

 露出度が高くて涼し気な、青と白の中華風の上下で魅力的なオトナのボディラインを包んでいる。

 ノースリーブのトップスとショートパンツの組み合わせ。蒼銀髪の長い髪はお団子でまとめてあり、いつもの颯爽としたポニーテールと違った印象。腰に刀は――流石に下げてない。

 

(気合入ってんな、レネ先生)

 

 そんな頼もしいサムライメイドのばっちり決まった服装を見た際に思うのである。

 横浜だからってわざわざ中華風の服を選んでいるのだ。

 勿論、エリスだってめかし込んでいる。だが、選んだのは着慣れた衣装だ。

 

「君が着た切り雀なんだよ」とレヴに突っ込まれ、「そうでしょうか?」とお嬢様口調で涼しく微笑んで返す。

 

 夏の香りをいっぱいに含んだ風に、赤い髪を靡かせる。

 万が一オルベリア学園の生徒などに目撃されてもいいよう、お嬢様スタイルで決めていた。

 自然なコーディネートだが、服のバリエーションが少ない。

 

 ゴシックオートマタのほうもいつもと変わらず、首から下を覆う暑そうなドレスに黒タイツ。

 他人の服装をとやかく言うが、電脳サメも着た切り雀である。

 

 

――――――――

 

 団体での行動となるが、少女たちは統率が取れていた。

 周囲の邪魔にならないよう二列で歩いている。

 勝手に行動するとか、人混みではぐれることもない。チームワークの良さを物語っていた。

 

 驚くほど統率された女子高生の集まりである。しかも華やかな美少女揃い。

 人でごった返している白昼の中華街であろうともACバトル同好会の面々は、人目を惹きつける眩しさのある集団だった。

 

「なんか、慣れてきちゃったな」

 

 黒羽サヤは注目されることに馴染んだ自分の感覚に、はにかんだように笑う。

 こんな日が来るとは思っていなかった。

 

 しかしながら。次に起こった出来事にはまだ馴染みがなかった。それはアサルトスクワッドで活躍していれば、いずれは来るであろうことではあったのだが。

 

「あの、すみません! もしかして、聖オルのAC同好会の皆さんですか!? ですよね!?」

 

「そうですが、何か御用ですか?」

 

 隣のリリィが駆けてきた同年代くらいの少女に応じる。リリィはいつも通り、クールに対応していたが、勢いに内心で動揺していた。

 

「やっぱりそうだった!」

 

 答えると大喜びする少女。なんと同好会のファンだという。興奮しながらも、少女は記念撮影を丁寧にお願いしてきた。

 

「緊張する」

 

 このお願いに、同好会の面々はちょっと戸惑った。

 超然とした態度の銀髪褐色のアズでさえ、そわそわしているくらいだ。クィナに至っては、「どうしましょうどうしましょう!」とアワアワしている。

 

 とにかく、撮影に応じることにした。

 

「では、撮りますよ~」

 

 まず通行の邪魔にならない場所に移る。

 チームメンバーの真ん中にファンの少女に立ってもらう。写真はチトセが撮る。姉にファンができるというのが、不思議な気持ちのメガネ娘な妹であった。

 

 撮影後。丁寧に一礼して、少女は去っていった。

 

「おい、こっち見てる奴らがいるぜ。まさかあいつらもオレたちのファンか?」

「みたいだね。ほら、こっちに来るよ」

 

 薄金髪のヤンキー娘、イリヤと黒髪妖艶オペレーター、リゼの会話。

 少女が去ると、今後は若い男性の二人組が近寄ってきた――とこのような調子で五組ほど、性別も人数も性別も様々なファンに応対することに。

 

「我々の出番は無さそうだ」

「だな。平和が一番だ」

「ですな」

 

 少し離れた場所で撮影様子を見守る金髪ツインテールのササラ、その隣にエリスとレネがいた。

 相手に下心があれば、ササラが前に出て応対するつもりだったが、その必要はなかった。

 幸いにも、男女問わず礼儀正しい人たちだったのだ。

 

――――――――

 

 そして、まあ。なんというか。偶然というのはあるものだと、エリスは思ったわけである。

 

 突然のプチ撮影会が終わった直後のことだ。

 オレンジ色の髪の少女と、少女を守るように付き従う灰髪の長身美女。モデルみたいな容姿端麗な二人組が街を堂々と歩いている姿を見かけたのである。

 

 敵として戦い、共闘もしたレイヴンの二人組、四柳とメリッサ・ロングファングだ。

 

「少しの間、外してもよろしいですか? 今しがた、知人が通りかかりました。せっかくなので、声をかけておきたいのです……アンヘラ、貴女はどうしますか?」

「ボクはやめとく。ボロが出ちゃうからね」

「意外と冷静というか自分のこと分かってるよな、お前さんって」

 

 南米娘と話していると、口を滑らすなよー、レヴがインプラント通信で直接エリスに釘を刺してきた。分かってるってとウインクして相棒に返答。

 

「エリスくんのことだから大丈夫だと思うが、気を付けていってきたまえ」

 

「行って参ります」

 

 エリスは同好会の前で見事な跪礼(カーテシー)を披露する。一瞬、誰もが言葉を失ったのは、あまりにも美麗で瀟洒な様だったからだ。

 颯爽とエリスは人混みに飛び込んだ。

 

 滑稽なほど見事だったぞ、とレヴが褒めてくる。うるせーやい。

 

――――――――

 

 人の間をすり抜け、四柳とメリッサの後を追いかけた。

 

 二人はゲームセンターに入った。

 二十世紀末から続く超老舗のゲームセンター。博物館級から最新まで多種多様なアーケードゲームが遊べる場所である。

 

(へぇ、クロエもゲーセン行くんだ)

 

 オレンジ髪の少女のことを知れたことが、何だか嬉しい。

 けたたましい大音量を心地よく浴びながら店内を突き進む。

 

 ヤンキー娘な本性を晒していたほうが相応しい場所だ。清楚なワンピース姿のエリスはむしろ場違いのよう。

 ガラの悪そうな輩に声をかけられても、エリスは微笑み一つで丁寧にスルーしていく。

 

 さて、どうやって接触しようか。

 まず、素性は隠すのが大前提。もう既にバレまくりだし、これから声をかける二人も言いふらすような性格ではない。

 四柳(クロエ)を刺激したくない。イクリプスへの対抗心が強いから絶対怒るだろう。

 

 何かきっかけが欲しい――――

 

(おっチャンス)

 

「こういうの好きだね、クロエは」

 

「まあね~。CPUだと張り合いないのが残念だけど」

 

 四柳が格闘ゲームに目をつけると、エリスは動いた。

 

 真っ先に反応する灰髪の長身美女、メリッサ・ロングファング。いわゆるアスレジャー、身体の線がくっきり出る超薄着で、メリッサは四柳の隣に立っている。

 

 向けられたアイスブルーの眼差しに、エリスは微笑みで返す。一瞬高まった緊張が緩む。

 

「失礼。対戦よろしいですか」

「いいけど」

 

 オレンジ髪の少女はエリスの顔を見ると、一瞬だけ硬直してからぶっきらぼうに応じた。

 四柳の反応を少し不思議に思いながらも、了解を貰ったエリスは対面の筐体に座った。

 四柳と同キャラを選択。深呼吸して戦いに備える。

 

「えっちょ…これどうやってんの!? あっ! やだ負ける!」

 

 最初は互角の勝負だったが、四柳のクセを掴んだエリスは読み合いで勝り、KO。

 

「結構やり込んでるみたいだな! けど、まだ勝負はこれからだ!」

 

 次のラウンドはギリギリの攻防の末、四柳が勝つが、最終ラウンドはエリスの圧勝に終わる。

 

「アタシはクロエっていうんだ」

「エリス。神薙エリスと申します」

 

 勝負が終わると、お互いに自己紹介する流れに。

 最終的に手酷い負け方をしたが、クロエは不機嫌になることはなく、見知らぬ地で出会えた好敵手に喜んでいた。

 それからも幾つかのゲームで対戦したり、協力プレイをしたり。

 

 クレーンゲームでクロエが欲しがっている景品を、エリスが取ってあげるとすっかり上機嫌だ。

 

「メリッサさんは遊ばれないのですか?」

「よく聞いてくれた。集中力を研ぎ澄ましてた。見ていて」

 

 そう告げると、メリッサはダンスゲームに向かっていく。

 灰色の髪の長身美女は長い脚で、真一文字に歩んでいる。

 それは、ハイスコアを取るという決意が静かに、しかし強く感じられる歩みだった。

 

「メリッサ、かっこいい!」

 

 エリスの隣でクロエが明るい声を上げる。

 

 実際、驚くべきキレだった。

 機械のような正確さでスライドするメリッサのお胸やお尻は豊満。

 ダンスの大きな動きで揺れ弾む。真剣な表情だ。激しい運動に汗がキラりと散る。

 

 この時のために、メリッサは活動的な服装を選んでいたようだ。

 白いお尻は黒いレギンスで覆われ、豊満な臀部の鍛えられた筋肉が見て取れる。

 

 曲が終わる。メリッサは見たこともないハイスコアを叩き出していた。

 激しい運動で灰髪の美女の全身が汗で濡れている。近づけば凍えるような白い肌に熱が感じられた。

 

「どうだった?」

 

 魅惑的なダンスを披露したメリッサに、ギャラリーは大いに沸いていた。

 

――――――――

 

 クロエはすっかりエリスのことを気に入ったようだ――というか、懐いている。妹が姉に寄せるような憧れの感情を向けている。

 

「ご機嫌よう。お二人が守ってくださるのなら、明日のアリーナの観戦も安心ですね」

 

 そう告げて、エリスは二人と別れた。

 

「なんでアタシ達がレイヴンだって――――」

「なるほど」

 

 ひどく驚いた表情のクロエ。得心のいった表情のメリッサ。

 明日、上位ランカーの試合が複数開かれる横浜アリーナにはVIPが何人も来場する。当然、厳重な警備体制が敷かれる。

 二人は警備のためだけに、高額な報酬で雇われていた。

 テロリストなどが、戦闘MT級以上の機動兵器を持ちだした場合に備えてだ。

 

 その情報の詳細は一般には伏せられている。

 警備に有力レイヴンが雇われたらしい、という程度にしか伝わっていない。

 

 なぜエリスが知っているのかと言えば、同好会のオマケとしてVIP待遇で観戦することになっているからだ。

 VIPには具体的な警備の一部が開示されている。

 万一のために、エリスはササラとリゼと一緒に詳細情報を確認しており、ついでにレヴがネットワークから漁ってきた内部向けの情報と突き合わせていた。

 

 会場の警備体制は完璧と言えた。ここに攻めてくるバカはいないと断言できる。

 だが、万が一がある世の中。エリス達のACは緊急発進に備えて戦闘態勢でスタンバイさせることにしていた。

 

「待って!」

 

 オレンジ髪の少女は、ミステリアスなお嬢様を追いかける。

 クロエの必死な表情は別れを惜しむようでもあった。

 その姿が消えた曲がり角まで全力で走る――懸命に探したがエリスの姿はどこにも見当たらない。

 

――――――――

 

「~~♪」

 

 やや浮ついた足取りでエリスは同好会と合流するべく歩いていた。クロエはやっぱりいい娘だ。できれば、友人になりたいと思う赤髪のヤンキーギャルである。

 

(店がゲーセンの近くで良かった)

 

 さて、時刻は昼頃。サヤ達はレストラン、それもミコが予約を取った超一流の店に先に入っている。

 豪勢な昼食を夢想して、エリスはご機嫌だったのだが――――

 

「んっ?」

 

 狭い路地から出てきた人影が、ばたりと倒れる。背の高い、白い肌の女性だ。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

 この平和な国で行き倒れ、それも若い女性が。

 思わぬ出来事にエリスは素のヤンキー口調に戻りながら、女性の容態を確かめる。

 

 灰白色(アッシュホワイト)の長い髪を三つ編みで一本に束ねている。

 気品を感じさせる輝かしい美貌。だが、服装が少し妙だ。借り物みたいな夏用のトップスにジーンズなのである。それに服のシワに格闘の痕跡が見られる。

 

 ワケありの可能性が高い。灰白色の髪の女性は、酷く消耗していた。

 

「お腹、空いたぁ~」

 

 絞り出すように出た女性の呟きがそれを証明しているのだ。

 これは捨て置けない。

 エリスはすぐにインプラントからレヴにコール。電脳サメに頼み、ミコに一人分の席を追加できないか、相談する。

 

 返答はすぐに来た。可能とのことだ。本当頼りになるぜ、ミコ先輩。

 

「お気を確かに。もう少しの辛抱ですから」

「はっはひぃ~」

 

 エリスは女性に肩を貸し、支えて歩いた。

 女性は大きな胸をしており、力なくもたれかかっている――互いの双丘同士が触れ合うことになった。

 

 

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