日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
ACバトル同好会合宿場 宿舎
その共用シャワールームにて、少女達は熱いシャワーを浴びようとしていた。
夏の暑さのなかで遊び歩いて汗を掻いていたし、最悪の事態として想定される戦闘に備えた身支度を兼ねた入浴でもあった。
「うーし、風呂だ風呂」
薄金髪の長身な不良娘、イリヤ・フレアテイルが長い脚で闊歩して、真っ先にシャワーブースに入る。
厳しい環境の火星で生まれ育った不良娘のイリヤだが、日本の夏のじっとりした暑さには、ほとほと参っていた。
しかも、今日は見えない所でやった暑さ対策が裏目に出てしまった。
後ろの布面積が少ない極端に少ないショーツを穿いていたせいで、お尻に掻いた汗が吸われずにいたのである。そのため、スカートの下が余計に蒸し暑くなってしまった。
「~~♪」
三つ編みを解き、灰白色の髪を下したルベリア・アーヴィングも、熱いお湯のシャワーを浴びている。まさに極楽といった表情。逃亡生活を送っていては、のんびりお風呂に入る余裕さえなかったのだ。
穏やかな美貌と裏腹に、ルベリアの肉体は驚くほど研ぎ澄まされた筋肉質だった。
女性らしい曲線も含めて、あまりにも整い過ぎている、彫像のような錯覚を与える白い裸身。
脱衣所でTシャツをはだけ、腹筋バキバキのお腹を出した時には皆驚いていた。
「なんというか……エリスちゃんとササラちゃんの鍛え方に似てるような気がします」
というのはルベリアの裸を見た遊間クィナの評。それは後の明らかになる彼女の素性を考慮すると、まことに鋭い指摘であった。
ナノスキンスーツを部屋に取り戻ったエリスとアンヘラ、ついでにレヴも仲良くシャワーで汗を流している。
「ホントは
エリスは隣でシャワーを浴びるアンヘラに言う。
危ない冒険に出たがる妹を窘める姉のような物言い――一応、レヴが偽造した書類の上では血縁関係があることになっている。
このガレージにもメイド隊の装備として隠してある。
ブースターによる三次元機動が可能であり、武装もACからスケールダウンしたようなモノが多い。
パワードスーツであるため、着用者の動作に追従するマスタースレイブ方式というのがACとの違いだが、近い感覚で戦える。
「嫌だよ。エリスと一緒がいい。それにあれ、中でガニ股になっちゃって落ち着かないし」
「そう言うだろうと思った」
ガレージに帰るまでの間は、何かあっても後ろで大人しくしているように命じていた。手元にナノスキンスーツを用意した今、アンヘラに参加しない理由はない。
超極薄ぴっちりスーツでありながら、ナノスキンスーツは軍用パワードスーツとしても高い性能を持つ。
パワーアシストや通信系が完備されており、超極薄でありながら防御性能も優秀だ。
大部分を占める厚さにして0.01mm未満以下のソフトスキン部分でさえ、圧力に反応して瞬間硬化することで高い防御力を発揮する。
遺失技術となってる超高度ナノテクの産物は、反則的なスペックを誇っていた。
アンヘラの生身の戦闘技能についてはツクヨミ艦内の訓練施設にて射撃、格闘ともに確認済み。エリスが合格を出さざるをえない実力だった。
クロムバウ時代はネクスト運用ベースで待機することが多く、その間に射撃や格闘技の習得で暇潰ししていたらしい。
「どうしても付いてくるってからには働いてもらうぜ」
「もちろんベストを尽くすよ♪」
危険はあるが、一緒のほうが守りやすい。それに、この南米生まれの陽気娘の戦場を広く見渡すセンスは防衛戦にも向いている。
神薙エリスはこと戦闘に関してはシビアな戦乙女なので、戦力にならないのならふん縛ってでも大人しくさせる。
アンヘラもそれは承知している所であり、戦力に数えられることが嬉しかった。
――――――――
少女たちがシャワーを浴びている間に、各自のパイロットスーツがメイド達によって脱衣所に用意されていた。
同好会のユニフォームでもある灰色のレオタードスーツだ。競泳水着ほどに薄くてぴったりとしており、ラバーのような質感。このレオタードを下着代わりに使い、しばらく過ごす。
パイロットスーツとして完全に機能させるには、ハードプロテクターを四肢に装着する必要があるのだが、フル装備になるのは実際にACに乗り込むときだ。
部外者であるヤト、チトセ、ルベリアには体形に合わせた予備のスーツが用意された。
同好会の予算を浮かせるためにメイド隊の戦闘スーツの余りを流用したユニフォームなので、大抵の体形にフィットする予備がある。
「ほほーう。なるほどなるほど」
「早く着ないと風邪引くよ」
タオルで水気を拭い、素っ裸にメガネだけは掛けた黒羽チトセ。真顔で同好会の灰色のレオタードスーツを広げて裏地まで観察している。
妹に着替えるように促しながら、サヤは広げたレオタードスーツの首の穴に足先を通す。
「んぅっ……っ!」
ハードなトレーニングで鍛え抜かれた肢体を押し込めば、伸縮性のあるレオタードスーツが広がる。ラバー素材特有のギチギチという音が鳴った。
レオタードスーツは締め上げるように密着してくるので、着脱にはかなりの力がいる。
それに、力を込めるために踏ん張るような姿勢になりがち。
着替え中は赤の他人にとても見せられない恥ずかしいポーズになってしまう。
ササラやリゼは魔法のように滑らかに着込むが、同好会の少女達は、まだそのレベルに至っていなかった。
「思ったよりキツい……!」
入部してから数か月のサヤでも苦労しているわけで。スーツを始めて装着するチトセは、ことさら苦戦していた。
どうにか両脚を通したが、抵抗が強すぎてそこから先に進めない。
胴体が締め上げられて痛い。助けを求めて視線が彷徨う。
「手伝いましょうか?」
「ありがとうございます、リリィさん」
「もうチトセったらニヤニヤしちゃって」
白雪のような髪の令嬢、リリィは既にユニフォームにウィンドブレーカーを羽織って着替えを完了していた。
優しい手付きで、チトセの引っ張るのを手伝っている。手伝われているチトセは幸せいっぱいに表情を緩ませていた。
「ヤトちゃん先輩はどうかな?」
サヤは着替えているヤトの様子を観察する。当人からの要望もあり、恐れ多くもちゃん付け+先輩という呼び方で櫛名田ヤトを呼んでいる。
「手間は取らせへんよ」
ヤトは長い黒髪をポニーテールに結び、苦もなくレオタードスーツに着替えていた。
股座の角度が際どいとはいえ、色合いもデザインも清楚な印象を引き立てるユニフォームだが、ヤトのような大人っぽい色気がある美少女が着ると、妖艶な雰囲気が醸し出される。
「似合ってる」
「ありがとな。そう言ってもらえると嬉しいわ」
長い黒髪をかき上げて見せるヤトに向かってアズが言った。灰色のレオタードが、アズのしなやかな褐色の肉体美を引き立てている。
「そんなカッコで外を走り回るのか!?」
驚きを隠せないイリヤの声は、ササラとリゼに向けられていた。
金髪ツインテと黒髪シニヨンの美少女は隠密行動用のステルス・ボディスーツに身を包んでいた。
闇に溶け込む真っ黒なスーツは、イリヤが着ているレオタードスーツよりさらに薄い。ササラとリゼの引き締まったボディラインの凹凸がはっきりと浮き出ていた。
イリヤはダンサー志望で自慢の肉体をアピールする派手な衣装を好む。
だが、それはステージで着るから平気なだけ。
レオタードスーツも基本はコクピットの中だから気にならないだけで、意外と羞恥心が強い不良娘なのである。
「心配しないでくれ。防御力は皆無だが、運動性は十分にある。この時刻なら潜伏も容易だ」
「着脱はキツいけど快適なんだ。皆のユニフォームと同じで、緊急シートが張ってあるからトイレも脱がずにできるし♪」
真顔で説明するササラは、実用性の問題を指摘しているのだと思っている。
その隣のリゼはイリヤの気持ちを察しており、妖艶に指を這わせて自分の局部を示す。気の強いイリヤのような娘が顔を赤らめるのが可愛くて仕方がない。
「拙の私物で恐縮ですが」
「こんな素敵な服をお借りしてよろしいのですか……?」
体格が合うため、ルベリアの着替えはレネが提供することになった。
レネが渡した衣服は修道服風のワンピースだった。
禁欲的な意匠に反発するように、片側のサイドスリットが腰まで入っている際どい衣装なのだが、ルベリアは抵抗感を感じてない様子。
レネ自身も中華風の私服から本業であるサムライメイドの恰好に着替え、腰のベルトに刀を下げていた。青みがかった銀髪も見慣れたポニーテールに結び直されている。
エリスとアンヘラが、ナノスキンスーツを着ようとすると注目の的になった。
サイドスリットで太ももが露出する修道服姿になったルベリアまでもが、少女達の後ろで興味深そうにしている。
「それじゃ、行くぞ――って言っても大したことはしないんだけど」
先日に引き続き、二度目の公開生着替えとなる。今回はクラスメイト達に見られているせいか、少し恥ずかしい気分だ。
赤髪ヤンキーギャルと陽気な南米娘は、ゆったりしたサイズに伸びているナノスキンスーツを引っ張り上げ、頬から顎にかけてのプロテクターで固定。
手首のスイッチを入れると、スーツ内側の空気が排出され、赤髪と金髪が揺れる。あっという間に身体にフィットする。
「これで装着完了ってわけ」
「どうかな、カッコいい!?」
サービス精神を発揮して、エリスとアンヘラはモデルみたいなポーズを取った。抜群に美少女なのでサマになる。
「おお~」という感心の声が同好会の少女たちから漏れていた。
ちなみにレヴは黒いパジャマワンピースに着替えている。少女型オートマタに入った電脳サメは、後方から電子戦を担当するので戦闘装備は必要ないのだ。
――――――――
こうして着替えを済ませた同好会メンバーも交え、ブリーフィングを行うことになった。
「私を追っているのは"熾天派"という秘密結社――のような方々です」
広いブリーフィングルームで注目を浴びながら堂々と立つのは、ルベリア・アーヴィングその人。
背筋を伸ばした、優美かつ威厳のある佇まいは、歴戦の英雄のそれである。
とはいえ、おっとりとして親しみやすい雰囲気は変わっていない。
ルベリアは知りうる限り詳細を説明してくれた。
熾天派なる秘密結社は宗教的な結びつきによる豊富な資金とコネクションを有するが、非常に小規模な組織だった。
情報管理が徹底されており、桐嶋ミコや櫛名田ヤトにとってさえ、未知の相手であった。
その活動目的は。
「最新兵器で慈善活動とはご苦労なこった」
各地の企業間紛争に武力介入し、紛争の拡大を防ぎ、民間人を保護しているのだという。
ルベリアによると、その理念は決して建前ではないという。
少数精鋭主義らしく、規模が小さくとも運用兵器は豪華そのもので、殆どの作戦を成功させている。
巨大企業体各社から提供されたネクストをはじめとしたコジマ兵器や普及タイプのアームズフォートを保持しているという――なんとも腕が鳴る話だ。
「質問」
「はい、エリスさんどうぞ」
エリスが挙手すると、ルベリアがにっこり笑顔で応じた。
琥珀色と銀色の視線が交差する。それは分かりきった正解を確かめるような問いかけだった。
「肝心な事を聞きたい。なぜ追われてるんだ?」
「私が彼らが創った聖オルベリアのクローンであり、脱走者だからですね。善い方々ですが、力を貸すには不安があったので逃げてきちゃいました」
ルベリアの告白にブリーフィングルームはどよめいた。驚いているのは、主にメイド隊だ。同好会の面々は「やっぱり」という顔であった。