日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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影に潜んで

 

 ブリーフィングが終わり、出撃組は武器庫に移って装備の最終チェックに入った。

 エリス、アンヘラ、ササラ、リゼはメイド隊の隠密行動チームに加わる。そのためのステルス装備だ。

 

 見せ札にあたる通常の警備チームも増員しており、海からの侵攻に備えて警戒体制を取ってある。

 

 こちらはタクティカルベストにメイド服、インナーにレオタードスーツ。武装はアサルトカービン。

 

 メイド服の若い女性揃いという点を除けば、一般的な警備員の範疇の装備だ。

 今日日、日本であっても所によっては自動火器を持った武装警備員がいることは珍しくない。

 

 工廠艦ツクヨミはできる限り沿岸に接近させてある。

 

 エリスはメイド隊の装備で手に負えない海上・海中戦力が来たら、ツクヨミに対処させるつもりだった。

 インプラントで繋がっている赤髪ヤンキーギャルが主として命令を下せば、ステルス魚雷やミサイルが瞬く間に敵を吹き飛ばす。そんな事態は起きてほしくないが。

 

 ルベリア(オルベリアではなく、こちらの呼び方を希望した)は同好会と一緒に宿舎で待機している。本人は隠そうとしていたが、戦う気満々ではち切れそうだった。だが、ターゲットが前に出てきてしまうと敵を刺激しかねないので、いざという時まで大人してもらう。

 

 隠密作戦なので、ナノスキンスーツはステルスモードに切り替えた。

 エリスのスーツの深紅の被膜と、アンヘラの黒紫色の被膜は黒一色に変わっている。

 黒色のハードシェル部分の質感も変更されている。

 光を反射せず、闇に溶け込む色調。文字通りの漆黒。

 

「準備ヨシ。こっちも問題ないみたいだな」

 

 普段背面に折り畳まれているアーマーヘルムが展開され、頭部が覆われる。

 赤髪をヘルムで覆ったエリスは、同じく展開したアンヘラのヘルムをこんこんとノックした。

 完全に気密され、NBC防御も万全。宇宙空間でも活動できる恰好だ。

 

 ステルススーツを装着したササラ達も真っ黒なヘルムを被った。滑らかなフォルムのヘルムに覆われた頭部は貌はない。黒く染まったバイザーで顔は完全に隠れていた。

 

 静穏性を重視した特殊被膜は衣擦れの音を立てない。足裏も音を吸収する素材を使っているため、足音が響くことはない。

 

 頭の先から爪先まで、黒く塗り潰したかのように剥き出しの裸身。闇が瑞々しい女性のボディラインを取って動いてるような、異様な姿だ。

 

◆ ◆ ◆

 

「それじゃ、気合入れていきましょ~」

「おー」

 

 隠密行動チームのメンバーには金髪ロングヘアの明るく陽気な陽気な火澄アリアと、銀髪片目隠れの水凪ラキもいる。アリアが能天気に拳を掲げると、それにラキが応じていた。顔が見えないヘルムの下で、お気楽に笑っている。

 

「まったく貴様らときたら。少しは緊張感を持たんか」

 

「「ごめんなさーい」」

 

 隠密チームの部隊長を任されたのは眼帯がスパルタンな印象のメイドさん。軍曹殿の愛称で呼ばれるマルレーナが腕組みしてため息をつく。ミコの部下になる前は某国の特殊部隊におり、訓練教官も務めていたらしい。

 

 怒られたアリアとラキは並んでぺこりと頭を下げており、チームワークと仲の良さを感じさせた。

 

「皆のために頑張ろうねササラ!」

「うむ。だが、くれぐれも無理はしないでくれ」

 

――――こっちはこっちで戦意旺盛。エリスは苦笑いする。

 アンヘラはそのたわわなお胸の前で両手を握り、金髪ツインテの美少女傭兵に話しかけていた。

 

 アンヘラとの会話を終えると、ササラはエリスに近寄ってきた。

 

 華麗に背筋を伸ばし、巨大かつ美麗な双丘を微かに揺らしながら歩む姿は凛々しい。金髪ツインテに応じるべく、エリスも姿勢を正す。

 お互い胸が大きいので、近づくと先端同士が触れ合いそうな――そんな錯覚を受ける。

 実際には一般的な会話の距離で話しているのだが、ボディペイント同然で体のカタチを晒しているので、そんな錯覚を覚えた。

 

「借りた銃は大切に使わせてもらう」

 

 今回、リゼと組んで狙撃を担当する金髪ツインテが使用する銃はエリスが提供していた。

 改造タンカーからイクリプスを降ろす際、エリスはコクピットに積んでいた物を持ち込んでいた。なんとなく護身用に欲しいかなと思っての判断だったが、ドンピシャだった。

 

 30mm対物ライフル――キャノンと呼んだほうが良い大型重火器である。これもまた遺失技術の産物であり、バレルはエリスの手製だ。対空砲火のみならず、装甲目標も撃ち抜ける。

 

「ちょっと人に貸すには小汚いけど」

「気にしないさ」

 

 ヘルムの上から頬を掻き、はにかむエリス。

 まさか他人しかも友人に貸すとは思ってなかった。もっとちゃんと手入れしておけば良かった後悔している赤髪ヤンキーギャルであった。

 勿論、実用に問題ないよう整備してあるが、見た目に使い込んだ感じがあるのだ。

 

 メイド達にしてもエリス達にしても、交わす会話の空気は緩くリラックスしている。メイド隊と本格的に生身で作戦行動するのは初だが、エリス好みの雰囲気のチームで上手くやれそうだ。

 

「ねえねえ、エリス!」

「何?」

 

 不意にアンヘラが肩をつつき、武器庫の扉を指さした。

 

「えへへ、どうも。せめて見送りをと思いまして」

 

 セミロングの快活娘、黒羽サヤが廊下からのぞき込んでいる。サヤは持ち前の軽快さで先行してきたようだ。同好会メンバーやルベリアなどがやってきて勢揃いした。最後尾にレヴの奴もいる。

 

「お嬢様とお友達の皆さん! いやー嬉しいなぁ♪」

 

 ササラ、リゼと一緒にストレッチしていた火澄アリアは大喜び。大げさに跳ねるように動いて、大きな双丘が上下にぶるんと弾む。

 素早く整列するメイド隊。エリス達も一緒に並んだ。背筋を伸ばし、体幹の鍛え具合が良く分かる直立不動の姿勢に。

 

 体温を隠蔽し、足音を消し、汗の匂いさえ封じ込める隠密仕様の全身スーツで引き締められたカラダは、それぞれの個性ある胸部(おっぱい)をありのままのシルエットで主張している。

 

 ヘルムで顔が隠れた黒一色の姿が整然と並ぶと、威圧感と不気味がある。全員揃って、非の打ちどころのない刺激的な女性の肉体美を誇っているのが、かえって不気味さを増している。

 

 腹筋の迫力も相まってクィナはちょっと怖がり、後退っていた。

 

「こうしたほうがいいだろう」

 

 バイザーを透過モードにしてエリスは素顔を見せる。他のぴっちりスーツの面々もそれに倣い、笑顔を見せた。

 

◆ ◆ ◆

 

 闇色のスーツだけを裸体に纏い、守るべき者達に見送られ夕焼けの空の下に出たエリス達は、訓練された動きで銃火器を軽々と抱え、各所に散らばった。

 

 傍受されたり不審に思われないよう通信は最小限に留める。状況を事前に決められた単信号のパターンで報告し合う。本格的な電子支援は相手が実力行使を開始してからだ。

 

 ササラとリゼが潜伏するのは、同好会のACが並んだガレージ。管理棟上階の窓から双眼鏡で外を警戒している。

 

 借りた30mm対物ライフルは壁に立てかけてある。使用する際は窓から突き出す。反動を抑える銃架はない。ササラは立射でこの巨大な重火器を扱うのだ。

 金髪ツインテのクールな美少女が、超人的身体能力の持ち主だからこそできる取り回しだ。普通なら自殺行為でしかない。

 

「こういう時って時間の流れが遅く感じるよね。日が落ちるのもやっとな感じ」

 

 静かに外を覗いていたリゼが、別方向を警戒するササラに暢気な口調で言った。

 最愛の相棒と一緒なので、不満はない。あるとすれば、ステルススーツと艶姿をじっくり堪能できないことくらいだ。

 

 電光石火の攻撃で敵を撃滅する華やかな活躍が目立つササラやエリスのミッション。

 

 だが、本来兵隊の仕事とは気が遠くなるほど待つこと。

 延々と続く行軍の疲労に耐えること。

 そして、その間も集中を維持することにある。

 修羅の道を征く戦乙女達は、辛抱強く待つことにも長けていた。

 

 しかしながら。ステルススーツには隠密行動用の特殊装備でありながら、長時間の活動に向かない一面があり、日頃から培った忍耐が試されることになってしまった。

 

◆ ◆ ◆

 

 既に夕日は沈み、夜になっている。

 室内の照明も消しており、長身の美少女二人は闇と一体化している。

 

「んっ……」

 

 いつもクールで涼やかなササラが、 ヘルムの下で顔を顰めていた。

 徹底的に鍛え上げて引き締まった豊かなお尻を左右に微かに揺らしてもじもじする、煽情的でらしくない仕草。

 長い付き合いなので、リゼはその動きを肌で感じることはできた。プレミア物の光景だが、余所見はせず真面目に外を監視していた。見逃したのが物凄く惜しいシーンではあったが。

 

 同時刻。

 

 合宿場の物陰や周囲を囲む防風林に潜むメイド隊のメンバーも、スーツの内側に感じる不快感に顔を顰めたり、微かに身動ぎしていた。

 

「このスーツ、やっぱ蒸れてくるなぁ。あちこち痒くなってきた」

「汗で全部出ちゃうかトイレ行く必要はないっスね」

 

 鍛えられた美しい裸体黒い被膜の内側で汗に蒸されていた。

 

 ステルススーツの超極薄被膜は圧着し、肉体の凹凸を完全に露わにする。双丘の先端やおヘソの窪みが浮くし、お尻も食い込んで割れ目が強調されてしまう。

 

 一見心許ないが、高度に進歩した材質工学で造られた素材は優れた断熱性で着用者を外気温から保護し、高温多湿や極寒の環境での活動を可能にし、熱感知(サーモ)センサーからも隠蔽する。

 

 隠密性のために着用者の体温を内部に閉じ込め、汗も外に漏らさない。それが問題だった。処理機構が内蔵されているが、それは最低限のモノ。

 

 一時間程度なら平気だが、時間経過とともに内部に熱が籠って汗蒸れし、発汗を促す。

 そのため、長時間の着用は過酷を極めた。ヘルムに内蔵された飲料パックに詰められた薬品添加済みの飲料水で水分補給と冷却していなければ、熱中症になってしまう。

 

 ステルススーツの中はもはや、夜でも蒸し暑い日本の夏の気候と変わらない。

 

 ササラやリゼやメイド隊の少女たち、それを率いるマルレーナ。誰一人の例外なく、甘酸っぱい汗がぴったりとしたスーツに滲んでいく。特に、乳房の下や腋、お尻、太股などの汗蒸れは容赦がない。

 

 

 エリスとアンヘラが着込んだナノスキンスーツは、戦闘などで大量発汗しない限り、汗を処理できるので快適だ。しかし、なだらかな丘陵を超えてくる敵を想定して防風林に潜んでいるので、時折虫が這ってきた。虫刺されから完全に護られてはいるが、不快ではある。

 

「なんか虫がいる。ちょうど股のところ……お尻のほうに昇ってきてる」

「無駄に動くな、じっとしてろ。実況もせんでよろしい……取ってやる」

「わっありがとエリス! 嬉しいよ!」

 

 這いあがってくる虫の感覚も直に伝わってしまう。珍しく露骨に嫌がっている南米娘のために、さっと豊満なお尻にエリスは手をやり、虫を取って放ってやる。

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