日蝕のアサルトレコード   作:その辺の残骸

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オン・ザ・コロシアムⅡ

 

 横浜アリーナ、正式名称YOKOHAMA Titan Nest(ヨコハマ・タイタンズ・ネスト)

 東京湾に浮かぶ広大なバトルフィールドと並び、日本が世界に誇るAC戦闘競技の殿堂である。

 

 いわゆる中央――ややこしいが、日本国内の総合ACリーグの東京競技場のことだ。

 日本のアリーナは東京から興り、徐々に広まっていったものだ。日本総合リーグの正式な名称であり、ブランド名でもあるTOKYO MAXには、俗称として東京アリーナが定着している。

 そのため、会場として東京アリーナは中央と呼び分けられていた。

 

 中央アリーナは開放型のバトルフィールドを採用していた。

 観客はオンラインで観戦する。一方、横浜アリーナは競技場を取り囲むように客席が配置されている。

 無論、客席と競技場は厚い防護壁と防御スクリーンで隔たれて安全を確保している。

 

 モニタースクリーンが臨場感を最大化するよう設計されているとはいえ、観客は映像越しに戦闘を見守る。

 だが、違いは確かにあった。壁を挟んだ向こうに感じられる鋼鉄の脈動。砲弾とエネルギー兵器の激突のリアルが人々を魅了していた。

 観戦チケットの倍率がその熱狂ぶりを証明している。上位ランカー同士の試合ともなれば、倍率は百倍をゆうに超えるのだ。

 

 

「「すっごい」」

 

 綺麗に感嘆の声が重なるサヤとチトセであった。いつでも元気溌剌なセミロングの姉と中等部のメガネ少女。

 黒羽姉妹は母であるクレハに連れられ、アリーナを観戦した経験は何度もある。しかし、VIP区画に足を踏み入れる日が来るとは夢にも思わなかった。

 

 その中でも最もチケット代が高価なプライベートスイートに聖オルベリア学園ACバトル同好会の面々は通されていた。

 

「なんか贅沢過ぎて気が引けるな」

「またとない機会。セレブ気分を存分に味わっておくといい」

 

 イリヤ・フレアテイルは、十人で利用しても狭苦しさを微塵も感じないほど広い空間に圧倒されていた。火星生まれの薄金髪ヤンキー娘にとって全く未知の世界だ。

 観戦席のみならず、座り心地の良いソファに壁掛けのディスプレイ。おまけにミニバーにシャワールームまでも完備されていた。

 当然、飲食物はすべて無料で提供される。

 

 気後れするイリヤに対して、アズは満足気に室内を見渡していた。

 植民惑星の過酷な砂漠で銃声を子守唄に育った銀髪褐色のミステリアス少女は、VIPルームのラグジュアリーさに臆していない。

 

 将来はたっぷり稼いで自分だけでなく、一族に贅沢させる野心があるので、今日は予行演習と思っている。

 

「はっはっは! アズ君の言う通りだ、楽しんで元を取ってくれたまえよ!」

「ほら、部長もこう言ってる」

 

 部員二人の会話を聞いたミコ部長は陽気に笑ってみせた。

 金髪の和風ビスクドールといった趣の可愛らしい容姿だが、部員たちにとって二年生の先輩にあたる。

 

 ミコの隣には脇腹が見えるほどの深いサイドスリットが、入ったメイド服姿の村雨レネが控えている。同好会顧問の立場だが、今日は従者としての装いをしていた。

 

「アンヘラくんもだぞ」

「もちろんだよ。ありがと、ミコ先輩」

 

 ミコに礼を言いながら、小麦肌の健康的な南米娘アンヘラはリビングスペースに足を運んだ。

 

 アンヘラは引き締まった腰から広がるお尻をソファに降ろす。

 金髪ツインテールと黒髪の美少女がアンヘラに付き添っている。ササラ・レイフィールドと黒識リゼ。二人はエリスからアンヘラのガードを頼まれ、快諾していた。

 

 ソファに座った美少女たちは揃って露出度が高い服装だった。

 カラダに自信がなければとても着られない。三人とも短いトップスでお腹を露出させている。引き締まった腹筋。

 ササラとアンヘラはショーツのようなホットパンツで、リゼはタイトで布切れのように短いミニスカートで、眩しい太股を露わにしていた。

 

「手慣れているんだな」

「クロムバウにいた頃はLAのアリーナに出掛けることが多かったんだ。戦術の研究って理由なら外に出るのは難しくなかったし」

「いいなぁ、LAって今一番熱い所じゃない」

 

 リモコンを手にすると、アンヘラはディスプレイのチャンネルを切り替えていく。

 警備のACが立つ各ブロックの映像が次々に切り替わり、開会式を目前に控えた格納庫を映した。格納庫を眺められるのは観られるのはVIPの特権の一つだ。

 

 これから執り行われる開会式では、出場するランカーACが格納庫からメインドームに行進する。

 

 サヤは友人達がくつろぐリビングスペースを通り過ぎ、展望室のようになった観戦席に向かった。

 

 親友である白髪の令嬢は全面ガラスのように見えるスクリーンの前に立っている。リリィはまるで熱に浮かされたような足取りで進んでいった。興奮しているだと、サヤには分かった。

 

(これがアリーナ) 

 

 オルドリッジ家は由緒正しい貴族であり、大手総合医療企業の創業者として巨万の富を有しているが、今日この日までアリーナとは無縁だった。

 サヤが隣に立つが、リリィに気付く様子はない。声はかけず、白雪色の髪の親友の横顔を見守ることにする。

 

「すみません、気付かなくて」

 

 サヤが隣で笑っていることに気付いたとき、リリィはバツが悪そうにしていた。

 アリーナ観戦が待ち遠してくて今朝からずっと興奮気味であり、それを思い返して自制心を欠いたことを恥じている。

 

 

「ヤトちゃん先輩はきっと今頃忙しいんだろうな」

「ミサカはアリーナのスポンサーですからね」

 

 ヤトちゃん先輩――櫛名田ヤトは開会式に来賓として出席することになっている。

 それ以外にも今日は丸一日、ミサカの人間としてのお仕事がある。そんな多忙なヤトだが合宿場から発つ際には、着物で正装し同好会の前で披露してくれた。

 

 雅やかな先輩は学園で共同生活を送っていたときにも着物姿で現れることがあった。普段着だという。ミサカの最新技術が用いられており、動きやすく、汚れにくいとのこと。

 

 今日のヤトの衣装が、その時によりもさらに高価だというのはサヤの目にも明らかだった。

 それに髪型も化粧も普段に増して艶やかで、とても女子高生には見えなかった。

 

「それにしたってチトセったら、反応が大袈裟過ぎだったよね」

「ですが可愛かったですよチトセさん」

「それはまあ。そうだけど」

 

 今朝、ヤトが着物姿を披露した際の出来事を思い出してサヤは忍び笑い。

 

 黒羽チトセは美少女の着飾った姿を好んでいる。

 なので航宙部の部長でもある妖狐風な先輩の艶やかな装いに大いに喜んでいた。合宿に同行している間、魅力的な先輩たちに囲まれずっとご機嫌であった。

 

「ちなみにお値段などは」

「チトセちゃんは意外と野暮なこと聞くんやな」

 

 そう言いながらも、ヤトは屈んでメガネ少女にそっと耳打ち。金額に目を丸くしたチトセは、「ひょえー!」とそのままひっくり返ったのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

 ティルヴィングの整備を終え、エリスはルベリアと一緒にVIP専用区画に上がった。

 赤髪の少女はヤンキー娘からお嬢様に装いを変えている。

 

 主と同じく灰白色を纏った第零世代機ではあるが、後世の再現機。自分の知識や手持ちのデータが通用するかやや不安だったが、幸いにもティルヴィングはエリスとレヴの知る構造であった。

 少し調べて勝手が通じるマシンと判ると、整備に熱が入った。

 運び込んだ部品でティルヴィングを全面的に補修。イクリプス用の武装に換装した。

 

 このままの恰好でVIPのお歴々がいる区画に立ち入るわけにはいかない。

 あらかじめトレーラーには整備の後に着る服も用意してあった。エリスとルベリアは身体を拭き清めてさっぱりしてから、下着を含めて着替えたのである。

 

 エリス達がVIPフロアに入ったのは開会式の直後だった。

 フロアにはまだ開会式の興奮が残っている。こういう所は一般の観客であってもVIPであっても変わらない。これから始まる試合を誰もが心待ちにしているようだった。

 

「二秒ほどかかる。いざという時のために覚えておいてくれよ」 

「はて、何のことでしょう?」

 

 通路を歩いていると、後ろからレヴが告げてきた。

 肩越しに振り向いたエリスは優しい笑顔でとぼけつつ、内心苦い顔。誰に聞かれる分からんのに不穏な話をするなっちゅーに。

 

(用心深くなりすぎってのは分かってるけどさ)

 

 自覚がある赤髪ヤンキーギャルではある。

 レヴが作った偽の身分でコロニーに上がった時もこんな感じでずっと気を張っていた。あの時はREVも電脳空間にいるだけで、物理的には独りきりだったので猶更緊張していた。

 

「エリスさんの立ち振る舞いは本当に綺麗ですね。惚れ惚れしちゃいます」 

「お褒めにあずかり光栄です。ですが、そう手放しに褒められると照れてしまいますね」

 

 ルベリアは心底感心している。当人の振る舞いも優雅だ。

 タイトにフィットしたミニ丈の白いワンピースに、ルベリアの起伏に富んだ見事な肉体美が浮き出ている。正直、胸もお尻も張り詰めていてかなり色気があったが、下品な印象はない。

 むしろ、おっとりした優しい雰囲気が貴婦人のような印象を与えている。

 

 それはそれとして。

 

 ちょっとキメ過ぎたかな。琥珀色の視線を落として自分の服装を確かめる赤髪の美しい少女。

 エリスは襟付きの黒いワンピースを選んでいた。カフスと首元のリボンタイが上品さと華やかさを強調している。丈は足首が見えるくらい。

 

 ルベリアほどくっきりではないが、そこそこタイトなラインで体の線が出ている。しかしながら、お手本のように上品な令嬢の装いになっていた。

 

 ラウンジを通り抜ける。

 どこぞの企業重役のツレなのだろう、派手なタトゥーに露出度の高い服装の女性たちがエリスを指して、「素敵」「滅茶苦茶にしたい」など淫らに笑い合っていた。

 エリスは微笑みで応じて聞こえてるぞ、と教えてやる。

 

 エリスとルベリアは脚が長く、腰の位置が高い。理想的な体型をしている。

 

 そんな美少女と美女が、魅力を引き立てる装いで闊歩しているのだから人目を惹きつけるばかりだ。

 後ろにいる電脳サメも見た目は、幻想的な白金髪の美少女で、その所作は人間離れした優美さ。なので余計に注目を集める。

 

 エリスは周囲の視線を受け流しながら、同好会のいる個室まで向かった。

 

「お待たせ! 開会式どうだった?」

 

 お嬢様の装いで、あえて素の口調で皆に聞いてみる。

 

 

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