日蝕のアサルトレコード 作:その辺の残骸
学園
赤い髪の美少女が纏う聖オルベリア教導学園の制服はスカートが短い。しゃなりしゃなりと歩む瑞々しい白い脚は春の陽気に晒されている。
聖オルベリア教導学園。
略して聖オルと呼ばれることが多い。地球政府と巨大企業体の共同出資で運営されている巨大な学び舎である。
生身での通学を基本とする稀有な教育機関であり、多数の専門科と中立的なカリキュラムで知られている。
人類を支配する複数の勢力の思惑が絡み合い、その結果として理想的な中立地帯となっているメガフロート都市、海鵬市の性質を象徴する名門校であった。
神薙エリスは入学早々に注目の的となった。
御坂は筆頭とする日系企業の合同事業として建造されたスペースコロニー。
植民地という意味合いに反して、特権階級の楽園として創られた広大な宇宙の人工島から天下ってきたお嬢様なのだから。
実際はその経歴は偽り。
電脳サメが創作したプロフィールでしかないが、赤い髪のヤンキー娘はクラスメイトを怯えさせて悪目立ちしないための偽装を上手くこなしている。
入学してまだ一週間も経ってないが、女子高生というヤツは面白い。そんな心境。
「あっエリスちゃんだ。おーい」
後ろから声がする。
脚を止めて振り向くと、一見女子大生に思える成熟した容姿の女子高生が手を振っていた。
夜闇のような黒髪。艶やかな美貌の黒識リゼ。その隣には金髪ツインテールの凛々しい美少女、ササラ・レイフィールドの姿がある。
「御機嫌よう、リゼさん、ササラさん」
「おはよう。良い朝だな」
ササラはクールな佇まい。しかし、他者を突き放す感じではない。
(奇遇だよなぁ。同じ学校に通うなんて)
なんとシャルル・ド・ゴール国際空港で出会った二人もエリスと同じ学園に入学していたのである。
入学式で彼女達の姿を見かけた時には、エリスは思わず素の調子で叫びそうになったものだ。
キャンパスに咲き誇る桜の美しさを語り合いながら歩む。誰が見ても穏やかな日々を健やかに生きるお嬢様方である。
その裏に隠された苛烈な本性を見破れる者はこの場にはいない。
「神薙さんが来た!」
「今日もレイフィールドさんと黒識さんと一緒!」
「やっぱり、綺麗な娘同士って惹かれ合うんだ。あのグループにはとても入れないなぁ」
超が付くほどの美少女がクラスに三人。騒がしくなるのは、男子よりも女子の方だった。ちなみにクラスの男女比は女子が優勢である。
エリス達は揃って背が高く、姿勢が良い。
非の打ちどころのない美貌に感嘆の声を漏らす者も少なくない。
「御機嫌よう」
女子だけでなく、男子のクラスメイトにも分け隔てなく挨拶するエリスお嬢様。
「ごっごきげんよう」
琥珀色の瞳に見つめられた男子は、雷に打たれたみたいだ。
間を置いてから、緩み切った調子で挨拶を返した。一生に一度拝めるかどうかの美少女の不興を買わないように絞り出したお返事。
優しい微笑みで、エリスは男子に応えていた。
席に着く。ササラとリゼの様子を眺める。
(朝から賑やかだなー)
ササラは黄色い声を上げる女子に囲まれている。
金髪ツインテールの美少女の顔立ちはカッコいい系――いわゆるイケメン女子だ。
だからなのか女子を惹き付ける。同い年と思えないほど、成熟した精神性も魅力を高めていた。
自信に満ちた、しかし驕らない態度でツインテールを靡かせ歩む姿は、まるで超一流のモデルのよう。
既に他のクラスはおろか、他学科にまでその名は轟いていた。
(声掛けりゃいいのに)
男子共も、横目でササラの胸を窺っている。豊かなバストが制服を押し上げており、否応なしにも意識させられる。
「君も見られているぞ。喜べ、とりあえず異性の興味を惹けてるみたいだからな」
(うるせーよ、クソ鮫)
REVが男子の視線を知らせた。インプラントを通じて電脳サメはエリスの知覚を把握している。
多数のハードにREVは遍在しており、いざとなればイクリプスを自律モードで動かすこともできる。
おもむろに赤い髪の令嬢は自分の胸を見た。真剣な顔になり、双丘のボリュームを確かめるように両手で触る。
男子生徒はエリスの大胆かつ意味深な行為を目の当たりにして、フリーズしていた。おっぱい大きいし、真剣になった神薙さんのお美顔かっけぇ。
――――四限目は体育の授業。金髪のツインテールと赤い髪が靡き、競い合う。ライバルは真横にぴったり付いている。
400メートル走の結果は同着。ひと勝負を終えて和やかに話している最中、一瞬視線を鋭くして、エリスはササラと見つめ合った。
「神薙さんもレイフィールドさんも速いね!」
そこに声を掛ける黒髪の女子。
途中で一気に追い上げて、三着になった黒羽サヤだ。
元気溌剌な明るい声。セミロングの黒髪、白い肌に健康的な体付きの女の子だ。一般人だが、電脳サメ的にはちょっとした要注意人物。
「体を動かすのが好きなもので」
「サヤの方こそ。追い抜かれないように必死だったよ」
ササラが言ったのは決してお世辞や喧噪ではない。エリスからすれば、この黒髪のクラスメイトのほうが驚きだった。
全力を出さないように抑えて走るつもりだったが、金髪ツインテとの勝負でヒートアップ。見学している生徒達の間で、どよめきが起こるほどの速さを出してしまった。
サヤはそんな二人に追いつき、喰らいついたのだ。
前屈みになって、サヤは相対する赤髪と金髪の美少女のお腹を見つめた。そして、
「それに腹筋も割れていてカッコいいね!」
と瞳を輝かせる。
聖オルベリア学園の女子体操着は本格的なレーシング仕様なのだ。お腹が露出する丈のぴっちりとしたハーフトップと、ハイカットなショーツの上下。
布面積は少なく、太股丸出し。水着のような格好なので、恥ずかしがる女子が多いのも無理はない。
アスリート然とした肉体がはっきり分かる格好だった。ササラもエリスも腹筋がしっかりついていて、色っぽくもある。
「そんなに見つめられると恥ずかしいです」
エリスは思わず、お腹を片手で隠した。この鍛え込みで華のお嬢様キャラ設定はちょっと無理がある。
ちなみに隣のササラは堂々と立ち、腰に片手を当てている。気取ったポーズだが、嫌味にならないのが、凄い。
「サヤさんはこの体操服が平気なのですか? そ、かなり活動的といいますか……」
「確かに脚が出るし、ショーツのカットは際どいな」
エリスはサヤに質問してみる。
呼応して改めて自分の身体を見下ろして、金髪ツインテールが言った。クールな表情で、全然恥ずかしそうじゃない。
「中学まで陸上部だったから慣れてるんだ! 今、神薙さん、私のことをサヤって呼んでくれたね。嬉しいな!」
全身で喜びを表現する元気な黒髪女子高生。エリスは思わずササラと微笑みを交わした。黒羽サヤは好ましい性格の少女であった。
(((こっ行動力――――ッ!!)))
一部始終を見守った女子らは目を剥く、硬直している。
超絶美人な少女たちに親し気に話し掛けるサヤの行動力に絶句し、とても真似できないという思いであった。
入学して最初の休日は"本業"に費やすことになった。
未明に海鵬市の港を発った貨物船の狭い更衣室。
ロッカーを閉じて、黒髪の親友に振り返る金髪ツインテール。
長身の凛々しきイケメン女子、ササラ・レイフィールドだ。その眼差しは鋭く、全身からは闘気を静かに発散している。
「よーし、お仕事頑張るぞー♪」
リゼはちょうどブーツを履き終えたところだった。
少女達は浮き世離れしたコスチュームを身に纏っている。ハイレグの鋭いボディスーツ。グローブにサイハイブーツ。ササラは清廉な白、リゼは魅惑的な黒。
決してコスプレなどではない。強靭な特殊繊維製の戦闘スーツだ。ハイレグのラインに沿って超高吸水シートを局部に貼り、長時間の活動に備えてある。
これこそがササラ・レイフィールドと黒識リゼの真の姿。
ササラはアーマード・コアを駆る傭兵、レイヴンであり、リゼはサブパイロットとリサーチャーを兼ねるパートナーであった。
更衣室から階段を昇り、甲板へ。
怪談を昇る際には「絶景絶景~♪」とリゼは幸せそうに息を吐いていた。
大好きな金髪ツインテールの親友の後ろ姿、背中からお尻にかけてのラインを堪能していたのである。ササラの尻は大きく、ハイレグスーツはTバック寸前の布面積なので、白い肌が剥き出し。
お尻が殆ど見ているのは淫魔風な艶やか女子高生も同じである。
二人とも扇情的なハイレグスーツを着ることに恥ずかしいという気持ちは抱いたことはない。
ササラは機動性が高く効率的な戦闘装備と考えているし、リゼは艶やかなデザインを気に入っている。
上向きの瑞々しいお尻が、戦いを前にしても穏やかな心を示すかのように、自然体に揺れていた。
出航する際に、甲板に載せた機体に被せられていたシートは外されている。
片膝をついて搭乗者を待つ白と青に塗装されたアーマードコアの姿が明らかになっていた。中量二脚、人型の機体だ。
左肩に【稲妻を纏った長剣】のエンブレムが描かれている。
アークセイバー。それが白と青を纏った騎士の名だった。
曲線的かつ精悍なフォルム。
コアはC03-HELIOS、ヘッドパーツはH11-QUEEN、腕部と脚部はそれぞれA11-MACAQUEとLH09-COUGAR2。最新鋭のフレームであり、限界までチューンされている。
左前腕に装備されたレーザーブレードは、桁違いの威力からイレギュラーナンバーと畏れられるWL-MOONLIGHT。
ACの傍にはメイド服を誇らしげに着込み、武装した女性の集団が。
メイド達の主は和風のビスクドールいった印象。背が低く可愛らしい印象の金髪の少女、桐嶋ミコだ。
聖オルベリア学園においては二年生であるミコはササラ達の先輩でもある。
その本業はレイヴンに仕事を斡旋するフィクサー。年齢が二桁になると同時に素性を隠して活動を開始したという紛れもない異才の持ち主だった。
「準備万端だ。いつでも出撃できる」
小柄なフィクサーの前に立つ、金髪ツインテの美少女と黒髪の妖艶な相棒。
形が良く豊満なバストが突き出されると、ミコは羨まし気に見上げていた。
「うむ、そのようだね。アークセイバーは責任を持って整備させてもらったよ。オーダー通り、コンテナミサイルと使い捨てのブースターを装備してある」
「感謝する」
「いつもありがとう、ミコ先輩♪」
ミコは頷き、メイドが整備した彼女たちのアーマードコアを指し示す。
アークセイバーの背部には、超大型のミサイルランチャーがアセンブルされ、さらに長大なブースターまで背負っている。高速強襲のための装備だ。
「レイヴンが確実にミッションを遂行できるようにするのは、フィクサーとして当然のことさ。それと今まで通り、ミコでいいよ。君たちに先輩と呼ばれるほど、私は立派じゃないからね」
今回、日本政府から請けた依頼は手強いモノだった。
公海上で暴走した完全自律型アームズフォートの破壊である。
月面に本社を置く巨大企業トリニティがテスト飛行させていたアームズフォート"ソラリス"のAIが突如制御不能に陥り、護衛用の無人兵器を搭載したカーゴや主砲のハイレーザーキャノンなど、オプション込みのフル装備で、日本の領海に直進している。
停止のための施策は功を奏さず。既にニュースになっていた。
低空を飛ぶソラリスの航路、及び射程内は接近禁止令が出されている。
日本及び御坂グループとしては、アームズフォートを撃墜することでトリニティ・グループを刺激したくない。なので、迎撃に最適なアームズフォートや
早急に処理しなければ危険だ。そこで、次善の手であるレイヴンが投入された。
ネクスト技術のフィートバックでアップデートされた第五世代、ノーマルとしては最新鋭のACであっても、アームズフォートとの戦力差は歴然。トップクラスにしか果たせないミッションだ。
ミコとメイド達に別れを告げ、ササラはアークセイバーに乗り込む。海風に靡く金髪のツインテール。
コクピットには、少女たちのアドレナリンの残り香が常に漂っている。
「よいしょっと」
複座型になっており、後ろのシートにリゼが座る。
電子戦と出力制御を担当する彼女のおかげで、アークセイバーとササラは数々の戦いに勝利することができた。
脚を広げた勇ましい姿勢で座るので、ササラとリゼのハイレグカットの股間は否応なしに際立つ。
ハイレグスーツの美少女レイヴン二人は、真剣な表情で起動シークエンスを素早くこなす。
「アークセイバー、発進する!」
周囲の人員が安全圏に退避したのを確認するとブースターを点火。アークセイバーは垂直に飛び立ってから背負った大型ブースターで一気に加速した。
同時刻。眩い白緑色の輝きを放ち、音速で蒼天を翔けるアーマードコアの姿があった。真紅の機体を駆るのは、鮮やかな赤髪の美少女。
ヤンキー娘の神薙エリスだ。赤と黒のナノスキンスーツが引き締めるように密着した戦乙女の肢体には、力が漲ってる。
――――できれば味方として出会いたいな、君はどうだ?
金髪ツインテールのクラスメイトの言葉を反芻しながら、エリスはイクリプスを飛翔させた。