学園都市に来て何ヶ月たったのか。そんな事はどうでもいい。
能力ですべてが決まってしまう学園都市。
俺はいつからこんなになってしまったのだろうか。
学歴で就職活動で有利に立てるように、能力のレベルが高ければ高い程認められる。
だがそれはほんの一握りの人間の話だ。俺の様な最下位から見れば夢のまた夢のまた夢……と数え切れない夢を重ねなければならない。
能力のテスト。俺の様なヤツはたくさん居るのに俺、たった一人だけが汚名を着せられた。
レベル0……学園都市内の不良共は大体が無能力者だ。
レベル5、学園都市で何人だったか。5人くらいしか存在しない能力者達。
能力がそれより劣る者達はレベル5を目標に日々脳を開発するのである。
何故俺が最下位なのか。そう。たとえ無能力者でも能力を持っていないという訳ではない。
能力とは言えない能力を持っているヤツも居るはずなんだ。そう。はず……。
―――俺はそれすらもない。無能力者の中の無能力者だ。
薄暗い大通りで俺はこんな事を考えていた。
目の前に広がる格差社会。それは俺が無能力者であるという事を実感させてくれる。
能力は愚か才能すらない俺、不知火信矢(しらぬいしんや)
名前に不知火とかあるくせに無能力者。小学生の頃なんかこれで何度いじめられた事やら。まぁ、そいつらは全員殴り倒したが。
薄暗い大通りを歩きつづける。理由は特にない。
あえて言うなら夜のお散歩だ。この時間帯ならスキルアウトの人々がたくさん居るから暢気に散歩なんて出来ないけど。
ため息を付きながらいつの間にか捩れていたジャージの裾を元に戻しながら歩く。
「ドンッ」またぶつかったか……。
そんな事を思いつつ俺は裾から目を離し目の前を見る。
「どこに目を付けてるのかな?」
「……すんません」
すごく爽やかに絡まれた。生まれてこんな爽やかに絡まれたの初めてなんだけど俺。
目の前の爽やかに絡んできた少年。俺よりいくつか年上っぽい。背も俺より少し高い。175辺りだろうか。その割にはそこらへんのヤンキーが着ている様な学ランを着ている。
どこの高校だ?
「ごめんで済んだら警察は要らないよ」
「えぇ……」
上から目線を爽やかに少年は俺の事を睨みつける。
俺は愛想笑いを続ける。
「一発殴らせてもらおうか」
「えぇ!?」
無駄に爽やかだなコイツ……。そう感じた。
ちなみに俺の欠点は考えた事がすぐに顔に出てしまう事だ。
「……死ねぇ!!」
「えぇ!?」
少年は手を振り上げ俺の顔面目掛けて拳を放つ。
俺は何故かこちらに迫ってくる少年の手を掴んだ。
「ダニィ!?」
「お前……覚悟して来てるヤツだよな? 人を殴るって事は逆に自分が殴られるっていう危険を覚悟してるって訳だよな」
俺の視界に入るもの。それは少年の手を掴んだ俺の手から冷気が発せられ一瞬の内に少年の腕が凍った光景。
「う、腕がァーーーーッ!!」
「無能力者が無能力者を潰そうとしてどうするんだよ」
「お前、能力者だろ!?」
「俺? レベル0。立派な最下位の無能力者だ」
俺は少年の手を掴んでいない方の手、つまり左手で少年の足を掴む。
右手は掴んだままさらに少年の腕を凍らせていく。
そして左手で足を凍らせていく。
そこから数十秒後。少年は顔以外全部凍った。
「あ、ありえない……数十秒の内にこんな……」
「自分の罪を改める事だな。懺悔でもして眠りな。最もその氷は割れたり溶けたりしないが」
「無能力者じゃなかったのか……?」
「能力者のテスト……学園都市内、最下位だ」
「矛盾してんだろ!? 何者なんだ……」
「ただの最下位だけど?」
薄暗い夜の大通りでこのような事件があったそうだ。
★
「完全に事件としてとり扱われてるな……」
公園のベンチで暢気に首を上に向けどこかのビルにくっ付いてるデカイ画面を見ながら呟く。先日の事件がどうやら兵器を使ったとされているらしい。
昨日凍らされた少年は恐怖のあまり覚えていないらしい。
「どっかに逃亡しようか……。でもなぁー」
「最下位ねぇ」
最下位という言葉を耳にする。いつも敏感にこの言葉に反応してしまうのはどうしてだろうか。やはり俺が最下位だからなのか。
ベンチの隣、時計台の前でスマホをいじくる中学生らしき人物。どうやら昨日の事件の記事を読んでいるらしい。まさかその事件の犯人が隣で阿呆面しながらそのニュースを見てるとは夢にまで思わないだろう。
「またこの事件か……。黒子が何か知ってるかも」
ジャッジメントにそんなヤツが居たような気がする。
別にどうでもいいけど。
「軍事兵器を使った実験をどうして大通りでやるんだか」
「誰も軍事兵器なんて言ってないだろ……。第一、冷凍をする軍事兵器とか何だよ冷蔵庫の強化版みたいな感じか」
「……」
笑いながら言った。うん。あれ? 心の中で言ったつもりだったんだけどな~。
怒ってるかな……?
横に首をゆっくりとまげる。どうやら……
「うっさい!」
怒っているようだ。
「な、何の事やら……」
「アンタでしょ! 今私をバカにしたのは!」
「し、知らないなぁ……」
「アイツみたいな事言ってるんじゃないわよ!」
「バチ―ン」という文字だと全然迫力の伝わらない電撃が彼女の後ろの時計に流れる。
同時に俺の方にも電撃が来る。
「おいぃ!!」
とっさに俺は特殊な目に見えないバリアを展開し、電撃を弾き飛ばす。
どうして俺は電撃を喰らわされているのにベンチから動かないんだろうか。
普通、逃げるべきだよな。今からでも……遅いか。
「どうして電撃が……。ますますアイツみたいでイラついてくるわね……」
「俺何も悪いことしてないよな。そうだよな。そうだと言ってよバーニ○」
「挑発してきたのはアンタでしょ!?」
「あんな独り言をまず挑発と受け取る方がどうかしてる」
「……うう。確かにそうね」
「わかってくれればいいんだが」
「最近、ストレスが溜まっててごめんなさい」
「俺も独り言とはいえすまない。あまりにもあの事件がどう起きたか予想する人達がおかしすぎて」
「おかしすぎて……? どういう意味?」
「だって普通、あんな大通りで冷凍事件とか起こると思うか? しかも軍事兵器だとか」
「た、たしかにそうね。いくらなんでも軍事兵器をそんな大通りで使うわけないし、溶けない氷を作る方法なんて不可能だし……もしもそれが出来ても大型の兵器とかになるはず」
「その兵器を見た人なんていない。軍事兵器っていうので勝手に結論付けてるだけ。今の社会、軍が何してるかなんてわからない。だからそういう兵器を作っているとかこじつけで言える。それにそんな兵器があるという事がわかればスキルアウト達に脅す事もできる。今や無能力者が束になって兵器使って軍を潰そうとしてるくらいだしな」
「そんなのニュースになってないわよ? 第一スキルアウト如きが軍に勝てるわけないでしょ」
「スキルアウトがそんな事をしでかしたってわかったら学園都市の治安がどうたら……って面倒事になるだけだ。裏で隠蔽してるんだよ」
「ならその隠蔽された事をどうしてアンタが知ってるのよ」
「それは内緒だ。俺は何かと運がないんだ。そんな事しゃべったら何時どこから銃弾が飛んでくるかわかったもんじゃない」
俺は彼女の言葉は聞かずそのまま走ってその場を去った。
走っている最中にも彼女が何か言っていたが俺は耳を傾けなかった。
「軍の情報とかを漁る俺って何だか殺伐としてるよ」
無能力者のはずの俺が持っているこの謎の能力。
瞬間凍結(モーメント・フリーズ)
俺自身この能力の様な物が何なのかはわからない。上条はこれを神の贈り物とか言ってるけど案外そうなのかもしれない。
能力のテストには一切感知されないこの力。
体のどこかしらが触れている物なら一瞬の内に何でも凍結させることができる。
もちろん、上条のイマジン・ブレイカーには効かないけど。
「今日は何をしようか」
最下位の俺、不知火信也の自由で殺伐としている生活は始まっている。