音したメダルに誘われて   作:カワード

13 / 13
メダルの音、それが示していたのは、真実だけじゃなく、木野の意思だった。
今、木野と、明天の、思いが衝突する。
過去を認めず、新たな自分として生きるか。
過去を認め、苦しんで生きるのか。
その結末を見届けて下さい。


落としたメダルのその先で,その2

  目の前の光景が、現実である事を受け入れたくなかった。

 

 

 

 破砕機に巻き込まれ、無惨な姿となった門宮。

 

 これをやったのは、僕だ。

 

 

 

 何も思わずに押した破砕機の運転スイッチ、それが門宮の上半身をぐちゃぐちゃに潰した。

 

 

 

 どうして?

 

 どうしてこうなった?

 

 

 

 僕は門宮に確認したはずだ、これから機械を運転させると。

 

 それなのに、なんで巻き込まれた?

 

 

 

 何故、門宮は了承した?

 

 こんなの不慮の事故じゃないか!

 

 

 

 違う……僕じゃない…僕はやってない!

 

 

 

 いくらそう思っても、脳裏にこべりついた、あの光景が真実を突きつける。

 

 否定することが出来ない。

 

 

 

 否定したところで現実は変わらない。

 

 

 

 どうしよう?

 

 

 

 どうしたら、門宮は助かるのか?

 

 いや、もう助からない。

 

 上半身が完全にすり潰れているからだ。

 

 こんな光景、フィクションでしか見た事が無い。

 

 なら、僕はどう責任を取ればいい?

 

 何をすれば許される?

 

 警察呼んで、全て僕がやったと、素直に白状して、逮捕されて、死刑になって、刑務所で惨めに死んだらいいのか?

 

 

 

 他人の命を奪った代償は、自身の命で償えばいいのか?

 

 

 

 それで、門宮は納得するのか?

 

 僕はそれで許されるのか?

 

 

 

 いや、何をしても、意味は無い。

 

 

 

 おかしいよ、こんなの。

 

 

 

 認めない………こんな現実、こんな僕は、絶対認めない!

 

 認めたくない。

 

 

 

 僕は殺人なんて起こさない、ましてや、門宮を殺すことなんて、ありえない。

 

 だが、実際に門宮は目の前で死んだ。

 

 

 

 人の命が失われれば、二度と戻ることは無い。

 

 それを自らの手でやってしまったのだ。

 

 

 

 その罪悪感から逃れる事はできない。

 

 門宮を殺した。この真実は、この先、何年経っても、何を成し遂げても、どれだけ喜ばしい体験があったとしても、ずっと、心に大きな傷として残り続けるだろう。

 

 それだけじゃない、門宮の家族や友達にとっては、門宮と、突然の別れになる。

 

 その責任を僕はどう取ればいい?

 

 僕は死んだ方がいい。

 

 

 

 いや、生きても、死んでも、何をしても、この罪が消えることは、決して無い。

 

 

 

 でも、死んだら、何も出来なくなる。

 

 何もしないのは、それこそ、本当に無責任じゃないのか?

 

 

 

 なら、この苦しみを背負って生きるか?

 

 

 

 それは…………とても、できそうにない。

 

 

 

 でも、死ぬくらいなら、門宮が生きれなかった分も生きる。

 

 例えそれが、罪滅ぼしにもならないとしても、今ここで死ぬよりは、いい。

 

 

 

 そのためには、この罪悪感をどうにかしなければならない。

 

 この罪悪感がある限り、僕は生きることができない。

 

 

 

 僕の過去よ、今は、今だけは、眠っていてくれないか?

 

 

 

 そう思うと、突然、自分の周りが暗くなり始めたが、そんな事どうでも良かった。

 

 

 

 自分の過去を切り離す。

 

 過去の自分の失態が産んだ罪悪感が、生きる事を拒ませるのなら、それを切り離す。

 

 

 

 そして、目の前に、心から溢れてきた、黒いモヤのような何かが、集結し始める。

 

 それはやがて、人型を形成し、僕になった。

 

 

 

 これは、僕の過去の全てだ。

 

 昨日までの僕だ。

 

 

 

 今は生きるために、この過去を否定する。

 

 

 

 いや、待て。

 

 それじゃ、何も変わってない。

 

 同じことを繰り返している。

 

 僕は変わらなければならない。

 

 

 

 過去の自分と、今の自分、そこに明確な変化をつける。

 

 

 

 そうする事で、過去と決別し、罪悪感を乗り越え、新しい自分になる。

 

 

 

 それが僕が――いや、私が生きる方法だ。

 

 

 

 過去を乗り越え、明日を生きる、私は明天だ。

 

 

 

 私のやる事は、過去を眠らせる事だ。

 

 その行為が私の罪悪感を切り離す。

 

 

 

 この場所が既に、現実でないことは理解した。

 

 ここで、どれだけ時間が経っても、現実の時間は進まない。

 

 

 

 自分の心が生み出した世界だ。

 

 

 

 この世界で、私は変わるんだ。

 

 罪悪感を抱えて過去のまま死ぬか、過去を乗り越え明日を生きるのか。

 

 

 

 記憶、想像、自分が生きてきた経験、それを使って、過去を眠らせる。

 

 

 

 永遠に。

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

 ……その音が邪魔だ。

 

 

 

 木野は、その後、振り返るように、過去を追体験し始める。

 

 メダルの音に誘われた木野が辿り着くのは、門宮を殺した真実だ。

 

 真実を思い出した木野は、今一度それを忘れたいと強く願うだろう。

 

 そうすれば木野は簡単に眠りにつくが、私がそれを黙認するのでは、この世界の意味は無い。

 

 

 

 できるなら、木野を真実から完全に隔離し、穏やかに眠ってもらう。

 

 偽りの世界を現実だと思わせ、都合のいい展開を繰り広げるストーリーの主人公として、そこで永遠に生きて欲しい。

 

 

 

 だから、私は、木野を救うために、目の前にあるモニターで木野を、監視し、度々駆けつけ、メダルの音から遠ざけようとした。

 

 

 

 周りが暗くて見えないが、ここには、幼少期から大人になるまでの、様々な木野の記憶がある。

 

 今立っている、この真下には、木野の顔がある。

 

 顔だけでは無い、全身が埋まっているのだ。それも、何万体も。

 

 底が見えないほどに、この空間を乱雑に埋めつくしている。

 

 生まれた時から、今日まで、過ごした日の数、全ての身体がある。

 

 その中から、小学生時代のお婆さんを亡くした日の木野と、高校生時代に直雄と決別した日の木野を、見つけ出し、それを体験させた。

 

 

 

 最初は木野を真実から、遠ざけ、生きる苦しみを体験させた後、都合の良い職場である圧夢駅で、永延と働かせようとしたが、真実を示すメダルの音からは逃れらず、結果、真実にたどり着いてしまった。

 

 

 

 だが、どうにか、圧夢駅に誘導し、自身の意思で眠りにつかせた。

 

 

 

 そうすれば、真実を忘れたい木野の望みを叶え、過去と決別した私が生きる事が出来る。

 

 

 

 音が聞こえない圧夢駅で、メダルの音が聞こえたのは、木野が真実を知ろうとしたからだ。

 

 

 

 真実を忘れたいと強く願った今の木野には、メダルの音は、聞こえることは無い。

 

 

 

 ピキリと真っ暗な空間に、白いヒビが入る。

 

 まるで面が割れるように。

 

 

 

 それは、もうじき、木野が眠りにつき、この世界が消えようとしているからだ。

 

 

 

 やっとだ。

 

 やっと、終われる。

 

 

 

 過去は変わらない。

 

 だが、救う事はできた。

 

 

 

 過去と決別し、乗り越え、今を生きる。

 

 

 

 それが、私の役割。

 

 この物語の意味だ。

 

 

 

 ピキ、ビキッ。

 

 白いヒビが次第に大きくなっていく。

 

 

 

 ここからが、現実の、本当の物語だろう。

 

 今よりもっと苦しいかもしれない。

 

 それでも私は、生きていく。

 

 

 

 ピキ、ピキ………ピキピキビキィッ!

 

 

 

 バギッ!

 

 

 

 光が溢れ出す、だがその光は、現実への帰還ではなく――まったく別の、予想外な物だった。

 

 

 

 フォオオオオオン!!!

 

 

 

 これは!?

 

 電車のヘッドライト!?

 

 

 

 眼前のモニターを破壊し、何も無い空間から出現したのは、見覚えのある電車だった。

 

 

 

 まさか!木野!?

 

 

 

 電車は私の前を横切る手前で停車し、ドアが開く。

 

 

 

 疑念と共に、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 

 何故……何故戻ってきた?

 

 

 

 開いたドアから姿を現したのは、ボロボロで醜い姿をした木野だった。

 

 

 

 血塗れで、服はほとんど破けていて、酷く汚れている。

 

 顔から身体にかけて、殴られた様な痕が、真っ赤に腫れ上がり、ボコボコになっている。

 

 右手、左足は何かにえぐり取られて欠損、出血は止まってない。

 

 首は、青ざめており、骨と食道だけになったように細い。

 

 そして首が傾き、座っていない。

 

 頭を引き摺ったのか、前髪の一部分が禿げている。

 

 

 

 立っているどころか、生きているのが不可解な状態だ。

 

 例え、この世界に死の概念がなくとも、それ程、壮絶な体験をして、精神が崩壊しないはずがない。

 

 

 

 いや、崩壊した結果、この行動に至ったのか。

 

 

 

 まだ私は、過去を乗り越えられなかった……だから、ここで終わらせる。

 

 

 

 木野、何故戻ってきた?

 

 何があなたをそうさせた?

 

 

 

 木野は黙ったまま、握りこぶしを差し出した。

 

 

 

 やはり、メダルの音か…あなたは、私に託したはずです。

 

 生きる意志を。

 

 

 

「託した……そう、あの時はそうした……でも、今は違う。お前と同じだよ」

 

 

 

 私と同じ?

 

 まだ分からないのですか!

 

 あなたは過去!

 

 それ以外の何者でもないのです!

 

 

 

「だったら、自分の目で、それを確かめてみて」

 

 

 

 木野が差し出した手を、パッと開く。

 

 

 

 手から、落ちるのは、1枚のメダルだ。

 

 

 

 表裏を幾度も交互に反転させながら、メダルは地面へと、落下し、そして。

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

 音が響く。

 

 

 

 その瞬間、私の目の前の光景が、一変した。

 

 

 

 それは見覚えのある光景だった。

 

 

 

 木野と、電車が音と同時に消失し、現れたのは、破砕機だ。

 

 

 

 その破砕機の前で、リーダーが木野を何度も殴っている。

 

 

 

 これは、木野が体験した、偽りの光景だ。

 

 真実を隠すための、妄想から作り出された嘘の記憶だ。

 

 

 

 私はこの先の展開を知っている。

 

 あの時、モニター越しで、その様子を見ていたからだ。

 

 

 

 このリーダーは、門宮を動かなくなるまで殴った後、破砕機に体を突っ込ませて殺そうとする。

 

 

 

 もし、この光景を私に見せたのが、木野の意思だとしたら、私に自分と同じ体験させ、何も変わっていない事を証明しようと、しているのか。

 

 

 

 そうか、だったら、私は違う結末を辿り、木野を圧夢駅に送り返してみせる。

 

 

 

 このまま、ここでじっと見つめていては、例え偽りとは言え、あの時と同じように、門宮が殺されてしまう。

 

 

 

 そうなる前に、門宮を救い出す。

 

 今、試されている時だ。

 

 

 

 私は、リーダーの元へ、一目散に駆け寄った。

 

 

 

 私1人で、この状況を覆すのは、困難だ。

 

 だが、ここは工場。騒ぎを起こして誰かに伝えれば、リーダーを追い込める。

 

 

 

 おい、お前!そこで何をしている!

 

 

 

 腹の底から声を荒らげて、リーダーを威嚇し、手を伸ばす。

 

 

 

 その指先が破砕機のスイッチに当たった。

 

 

 

 ぐちゃぐちゃ、ベギィ!ゴギッ!

 

 

 

 ――ちゃりん♪

 

 

 

 その瞬間、破砕機が起動し、あの時と同じように、門宮はぐちゃぐちゃに潰された。

 

 無惨な遺体がまたしても出来上がってしまった。

 

 

 

 何っ!?

 

 

 

 どうして!?

 

 リーダーは、破砕機のスイッチには触れてなかったはず!

 

 

 

 いや……リーダーがいない!?

 

 

 

「……お前…これは、どういう事だ!?」

 

 

 

 後ろから、リーダーの声が聞こえた。

 

 

 

 違う!私じゃない!これはおま――ぐっ!?

 

 

 

「お前がやったのか!」

 

 

 

 リーダーは凄い力で、私の首を絞めてきた。

 

 

 

「死んで詫びろ!この人殺し!」

 

 

 

 苦……しい。

 

 

 

 こんな展開、私は知らない。

 

 

 

 意識が朦朧とする中、首を絞めているリーダーの後ろに木野の姿が見えた。

 

 木野は、握りこぶしを前に出している。

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

 がはっ!

 

 

 

 メダルの音と共に、リーダーは手を離した。

 

 

 

 私はすぐに顔を上げられずに、しばらく、嘔吐いていた。

 

 

 

 はぁ、はぁ、木野は!?リーダーは!?

 

 

 

 見上げると、辺りの光景がまた、一変していた。

 

 木々が生い茂る、夜の森、それが今見えている景色だ。

 

 

 

 今度は、山の中。

 

 

 

 次は、老婆の所か。

 

 

 

 だとすると、次に来るのは――ワン!

 

 

 

 犬の鳴き声が聞こえた。近くにいる。

 

 

 

 鳴き声の方へ向くと、そこには、月明かりに照らされたような明るい場所に、犬がいた。

 

 

 

「ま、まさか!?ありえん!ななはワシの目の前で動かなくなったはずじゃ!」

 

 

 

 老婆もすぐ近くにいた。

 

 

 

 この後に起こる展開も、全て知っている。

 

 次はさっきのようには、いかない!

 

 

 

 この犬は、老婆の知っている、なな、では無い。ななと同じ犬種の凶暴な野良犬だ。

 

 

 

 離れろ!

 

 

 

 犬を老婆から遠ざけようと、脅すように、駆け寄る。

 

 

 

 だが、犬は逃げずに、私の股下を掻い潜り、老婆の元へ走り行く。

 

 

 

 ダメだ!間に合わない!

 

 

 

 ななと勘違いした老婆は、両手を広げ、迎え入れようとしたが、あの時同じように、首に噛み付いてきた。

 

 

 

 すぐに私が、老婆の元へ行き、犬を追っ払ったが、既に老婆は、息を引き取っていた。

 

 

 

 私の行為は無駄だった。

 

 

 

 いや、こんなのは、木野が見せてくる幻想に過ぎない。

 

 

 

 私の手法と同じだ、どうしようも出来ない場面を見せ、自分には何も出来ないと思い込ませる。

 

 木野と、私がなにも変わらない者だと、証明しようとしている。

 

 

 

 私は変わった。

 

 いくら過去の、トラウマを呼び返した所で、それが何だ?

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

「それが、僕の意思だ」

 

 

 

 ……木野、私に近寄るな。

 

 

 

「いいや、僕を……過去を認めなければならない」

 

 

 

 それで、この先、生きれるのか?

 

 

 

「………………分からない」

 

 

 

 だったら、もう大人しく眠っていろ!

 

 何で、前に出てくる?

 

 生きるために邪魔なんだよ。

 

 過去が変わらないのは、分かってる。

 

 それでも、苦しみの中、生きようとした!

 

 だから、過去を切り離す!

 

 罪悪感で苦しみ、死ぬくらいなら、何としてでも今を生きる。

 

 それが、私の意思だ!

 

 

 

「私じゃない!僕だ!お前は僕なんだ!一人称を変えた所で、何も変わっていない!」

 

 

 

 何にでも変えるさ!

 

 変わったんだ!

 

 過去を乗り越えなければ、生きることはできない!

 

 

 

「乗り越える前に受け入れろ!」

 

 

 

 木野が1歩、近付いた。

 

 

 

 ピキリと、何かがひび割れる音がした。

 

 

 

 近付くなと言っているだろう!

 

 お前は耐えられなかったんだろ!

 

 どうして、そこまで苦しみを求める?

 

 どうして、そんな醜い姿になってまで、過去にこだわる?

 

 真実から逃げたままで良かった。

 

 否定したままで良かった。

 

 お前が眠っていれば、私が現実を生きる事ができたんだ!

 

 

 

「過去を受け入れなければ、生きれない」

 

 

 

 木野はまた1歩、近付く。

 

 

 

 それを、お前ができないから、代わりに私が乗り越えようとしたんだろ!

 

 

 

「過去を乗り越えて生きる。そうじゃなくて、辛くても苦してくても、過去と向き合って生きる、それが生きるって事だ。だから、認めてくれ、門宮を殺した事実を、受け入れてくれ」

 

 

 

 ピキリ。

 

 また、ひび割れた音がした。

 

 その音が、私の顔から、響いている事が分かった。

 

 木野と同じ面が、私にまだ付いているとでも、言うのか?

 

 

 

 違う。

 

 私は真実を、過去を乗り越える者だ!

 

 

 

「面については、お前から教えて貰ったな。真実と向き合う事で面が割れる。真実と向き合い始めたから、面にひびが入り始めたんだ。その面は、この世界と繋がっている。過去を受け入れなければ、割れることは無い」

 

 

 

 そんなはずは……。

 

 

 

「そのための物語だったんだ。明天、お前が真実を受け入れるんだよ」

 

 

 

 僕が真実を、受け入れるための物語?

 

 

 

「僕はただの木野、過去そのものだ。それ以上でもそれ以下でもない。だから僕は、過去として眠らず、苦しみ、傷付き、こんな醜い姿をしている」

 

 

 

 過去を切り離す事はできない?

 

 

 

「だから、僕はお前の前に現れた」

 

 

 

 嫌だ……それじゃ生きれない。

 

 耐えられないんだよ…だから、切り離そうとした。

 

 

 

 近付いて来る木野に対して、僕は何も出来なかった。

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

 その時、木野の後ろから、デーモンが走ってくるのが見えた。

 

 

 

 あ!後ろ!

 

 

 

 僕が叫んだ瞬間、デーモンは木野に追いつき、その凶悪な爪で、木野の体を引き裂いた。

 

 デーモンはその後、消滅した。

 

 

 

 木野は、上半身をえぐり取られ、無惨な下半身だけになった。

 

 

 

 その姿は、まるで事故死した、門宮のように見えた。

 

 

 

 うわぁあああああ!!

 

 

 

 すぐさま屈んだ僕は、目を強く閉じ、両手で耳を塞いだ。

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

 ダメだ、耳を塞いでも、メダルの音が聞こえてくる、そして目を閉じていても、その音が脳裏にあの光景を映し出す。

 

 門宮の遺体が、鮮明に見える。

 

 

 

 そして、それがこちらに歩いてきているのが分かる。

 

 

 

 止めてくれ。

 

 僕には、無理だ。

 

 受け入れられない。

 

 

 

「無理じゃない!これは、お前の罪悪感が生み出した幻想だ!心の中だけの存在だ!過去は、これだけじゃない!」

 

 

 

 ……………。

 

 

 

「しっかり自分の目で確かめろ!僕は木野だ!門宮じゃない!」

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

 何故か、そのメダルの音で、僕は目を開けた。

 

 そこにいたのは、門宮の遺体じゃない、木野だった。

 

 

 

 そばまで来た木野は、脱力しきった僕の肩に、手を乗せた。

 

 

 

「真実を受け入れて生きる。どれだけ逃げても、いずれそうする日が来る。真実と向き合う事でしか、人は生きていけないんだ。どんなに苦しくても」

 

 

 

 何で、そう思ったんだ?

 

 

 

「メダルの音が、鳴り続けたからだ」

 

 

 

 乗り越える前に、真実を受け入れる……例えどれだけ死にたいと思ってもか?

 

 

 

「死なないよ。この罪悪感がある限り。是が非でも必死に生きようとする。そう思ったんでしょ?」

 

 

 

 あぁ……そうだった。

 

 死ぬくらいなら、生きようとした。

 

 

 

「だったら、生きれるよ。何があっても、何を思っても」

 

 

 

 …………分かったよ。

 

 

 

 ピキリ。

 

 

 

 僕は自分の過去を認める。

 

 

 

 世界が崩れる。

 

 

 

 ボロボロと崩れる、世界の断片の隙間から、白い光が溢れ出す。

 

 光が辺りを包み込んでいく。

 

 

 

 この世界が、この物語が終結しようとしている。

 

 

 

 怖い。苦しい。辛い。死にたい。

 

 

 

「大丈夫、お前なら、全部乗り越えていける!お前は明天だ――明日を生きるんだ!」

 

 

 

 分かってる!

 

 

 

 僕は、真実を受け入れて生きる。

 

 

 

 

 

 物語は、これで終幕した。

 

 

 

 当然、この世界で起きた、全ての出来事は、現実では何も覚えていない。

 

 

 

 門宮を殺してしまった。

 

 

 

 その事実は、僕にとって、人生で最悪の出来事だ。

 

 

 

 いっそこのまま死んでしまった方が、いいんじゃないのか?

 

 罪悪感で、そう思った。

 

 

 

 ちゃりん♪

 

 

 

 血塗られたメダルが地面に落ちる。

 

 この音を聞く度に、この光景を思い出すだろう。

 

 そんな状況で、生きる事なんて、僕には、絶望だ。

 

 やっぱり、死ぬしかない。

 

 

 

 だけど、それじゃ、ダメだ。

 

 

 

 この事実を受け入れて生きるのは、とても苦しい。

 

 それでも、受け入れて生きていくんだ。

 

 

 

 それが生きる事なんだ。

 

 

 

 何故か、そう強く思った。

 

 

 

 おしまい。




これで、落としたメダルに誘われて、は全て終了しました。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!
この話は、自分の心の中だけのお話です。
全ての登場人物は、自分の中の想像で構成されています。
外とのの関わりが無いように、思えますが、自分を見つめ直すことも重要な事だと、僕は思っています。

まだまだ、小説も書いていきますので、これかも精進いたします!

では!次回作で会いましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。