音したメダルに誘われて   作:カワード

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門宮が死んだのは、工場の全職員が勤務中の時間だったが、そのことを誰1人として覚えてはいなかった。
 木野はその翌日、会社に向かう途中、山道で奇妙な神主、明天に会った。
 その神主の正体は刑事で、今回の事故は、誰かによって引き起こされた事件だと告げる。木野が無意識の内につけてた面。それが記憶を改ざんした原因だった。
 それを告げられた木野は、頭痛を起こし、忘れていた記憶を思い出した。


忘れられた変死体 その3

 

 

メダル、神社の看板、明天(あす)の服、それらに描かれていた肖像画は、肖像画ではなく鏡だった。

 

 それは僕自身の姿を写しており、それは僕の方をずっと見ている、と明天は言った。

 

「その面(めん)が原因なんです。今回の事件は」

 

「これが、僕の姿?」

 

 鏡には言葉では形容し難い、不気味な面を着けた僕が写っている。いや、ありえないだろ、大体こんな姿になってたら、朝鏡を見た時点で気づくだろ。

 

 

 

 いや、僕は、本当は知っていた。

 

 思い出した。

 

 わざと忘れていた、昨日の記憶を。

 

 

 

 昨日、僕は門宮と共同で、破砕機のメンテナンスの作業をしていた。

 

 僕は工具を取りに、一旦離れた。

 

 そして必要な工具を持って帰ってくると、そこにはリーダーに殴られている門宮がいた。

 

 僕は怖くなり、その様子をただ見ていた。動けなかったのだ。

 

 門宮は声を荒らげることなく、動かなくなり、破砕機の投入口に身体を無理やり突っ込まれた。

 

 そしてリーダーは、なんの躊躇いもなく、破砕機のスイッチを入れたのだ。

 

 ぐちゃぐちゃ、ベギィ!ゴギッ!ちゃりん。

 

 肉と骨が碎ける音が響いて、機械は停止した。

 

 落ちたメダルの音に反応して、リーダーは振り返った。

 

「あ…………」

 

 僕はリーダーに見つかっていた。

 

 呼吸は荒く、血走った目で僕を見つめている。

 

 そして焦りながら僕の方へ、迫ってくるリーダーに対して、僕はこの事実を忘れたい。そう強く強く思った。

 

 そしてこの事実を忘れる事にした。

 

 リーダーも僕も、工場のみんなも、忘れた。

 

 事故は起きていない。そう記憶は改ざんされたのだ。

 

 僕は、嫌な現実に直視して、忘れたいと強く願うと、僕自身の記憶を含めた周囲の人間の記憶を改ざんできる。

 

 願う度にその事を思い出すんだ。

 

 そしてこの時、改ざんした、全ての記憶を思い出す。

 

 そして今、明天の言葉で、僕はこの事を思い出した。

 

 

 

 だが、今回は記憶の改ざんは起きなかった。何故だ?

 

「それは、真実に気づいたからですよ」

 

「くっ!」

 

 僕は逃げるように走り出した。

 

 忘れたい!忘れたい!忘れたい!

 

 違う、これは真実じゃない!ありえないだろ!僕が殺人を目撃したなんて!デタラメだ!そんな事、あるわけが無い!

 

 僕は工場の普段は使われない古い倉庫へ駆け込んだ。

 

 時間を稼げば、記憶の改ざんがまた起こると思ったからだ。

 

「はぁ、はぁ、忘れろ!忘れろ!忘れろって!」

 

 願っても何も起きない、こう願うと全て忘れられたと思ったのに。僕は悲しみを知らずに生きていたいんだ!忘れろ!

 

 ふんっ!と頭に力を入れるが、無意味だった。

 

「…思い出したぞ、木野」

 

 リーダーの声が聞こえた。

 

 記憶を取り戻したのだろうか。

 

「お前、見てたんだな」

 

「僕は、何も……何も知らない!!」

 

 逃げようとした。

 

 だが倉庫は狭く、使わなくなった機械や大量の備品が敷き詰めるように置いてあり、さらに僕は倉庫の奥の方にいたため、身動きが取れなかった。

 

 それを知っているからか、リーダーはゆっくりと近づいてくる。

 

 涙が溢れてくる。

 

「門宮は、知ってはならない事実を知った。だから殺した。どうして今までこの事を忘れていたのか、分からないが。全て思い出した、お前も殺さなくちゃならない」

 

「止めて……ください!絶対誰にも言いません!」

 

 信じられない。

 

 リーダーが、こんな人殺しをするなんて。

 

 忘れたい。

 

 嫌だ、殺されたくない。助けて。

 

「お願いします、待って!」

 

「……」

 

 これが僕の罪、なのか?

 

 嫌な事から逃げた僕の。

 

 僕は殺されなきゃいけないのか?

 

 違う!そんなわけが無い!悪いのはあいつじゃないか!

 

「僕は、僕はもう警察に話してます!」

 

「何!?」

 

「あなたが殺したという事実をね!」

 

 そうだ、あいつは門宮を殺した殺人者だ!その事実は間違いないじゃないか!殺しがバレたらきっと動揺する!そうだ、追い詰められているのはあいつの方だ!僕は僕の決断を信じる。

 

 自分の命がかかっているんだ、それだけじゃない、門宮を殺した犯人を絶対に許さない!

 

「僕を殺せば、お前の犯行は明白にな……」

 

「黙あああぁぁぁれ!!!!!」

 

「うっ!」

 

 僕の言葉はただの煽りにしかならなかった。リーダーは両手を広げ、発狂しながら僕の首を掴んできた。

 

 抵抗したが、力及ばず。リーダーは僕の首を思いっきり、絞めてきた。

 

 リーダーは血走った目をぎょろぎょろとさせながら、腕に力を込める。

 

「ぁ……ヵ……」

 

 息ができない。めっちゃ苦しい。

 

 僕の目玉が飛び出そうだった。

 

 それでもリーダーの手は緩まない。

 

 あれ?どうして?僕は間違ったのか?

 

 意識が…………遠の………く。

 

 せめて……この事実だけでも……忘れ……たかっ……た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃりん♪

 

「その手を離しなさい」

 

「痛っ!お前は!?」

 

「ガハッ!ゴホッ!」

 

 意識が戻った。

 

 四つん這いで、僕は嗚咽しながら、必死に息をする。

 

 僕の視線の先にメダルが見えた。

 

 明天の声が聞こえる。

 

 僕は勘違いしていた、本当のヤバい人はリーダーだった。

 

「どうしてここが!?」

 

「いやぁ、あなたが知る必要は無いですよね。取り抑えなさい」

 

「はっ!」

 

 近くにいた、他の警官がリーダーを捕まえて、そのまま連行していった。

 

「怪我はありませんか?」

 

 僕は明天に、泣きながら謝った。

 

 どれだけお礼を言ったか分からないほど感謝した。

 

 それと同時に、自身の浅はかな行動を悔いた。緊迫した状況下ではあったが、あの時、命乞いをしていれば首を絞められる事も無かったかもしれない。

 

「いやぁ、私も同じくその面をしていましたから。同じ過ちを犯しています」

 

 明天も、かつて僕のように、記憶の改ざんをやっていたらしい。

 

「でも私は、もう既に治っています。あなたもそうですよ、ほら、何も映らないしょ?」

 

 明天の服の模様、そこに肖像画の様な刻印は見えなかった。

 

 明天はどうやら、このメダルを投げつけて、リーダーを止めたらしい。

 

「あなたの面は取れました、記憶の改ざんは、もう起こりません。ですが、面をつけた人は、この世にまだまだ存在します。あなたにもその人たちが見えるはずです」

 

「でも、僕はその人たちに何をすれば?」

 

「真実と向き合わせれば、面は取れます。私があなたにしたように。いいですか?面はあなたにしか見えないのですよ」

 

 明天は、そう言うと立ち去ろうとした。

 

「分かりました。本当にありがとうございました!」

 

「……おや……あなた、まだ見られていますよ」

 

「え?」

 

「では」

 

 明天は去った。

 

 

 

 それから、一夜明け、僕は新しく生まれ変わったような気分になった。

 

 これで門宮が報われたのかどうかは、分からない。

 

 ただ一つだけ気がかりな事があった。

 

 明天は、『もう面は取れた』と言っていたが、本当にそうだろうか?

 

 確かめる方法は、あのメダルや、神社の紋章をその目で見ることだ。

 

 いや、あの場所にはもう正直行きたくない。真実と向き合う必要は無くなったのだ。事件は解決したのだ。

 

 ……それでも、真実と向き合う必要がある。

 

 僕は真実を否定した結果この惨劇を起こした。

 

 だったら、最後の最後まで、自分の目で真実を確かめよう。その責任がある。

 

 恐怖心もあった、もしあのメダルにまた、あの不気味な仮面が映っていたら、僕はまた記憶の改ざんを起こしてしまうのだろうか?

 

 そう思った僕は仕事終わりの夕暮れにあの神社へ向かった。

 

 山は暗いので、携帯のライトで照らしながら進む。すぐに神社が見えた。

 

 あ、人影だ。隠れないと。

 

 ライトを消して息を潜め、コッソリとその人影を覗いてると、どうやら、賽銭箱の前に立っているようだった。明天?なのだろうか。

 

「まずいな……」

 

 僕にも言えたことだが、明天らしき人物は、賽銭箱をしばらく覗き込むと何かを確信したのか、おもむろに賽銭箱を持ち上げたのだ。

 

「えっ!?」

 

 声が出てしまった。

 

 賽銭箱を持ち上げるのはかなりの力が必要なはずだ。だが明天は、それを軽々とやってのけた。

 

 声で居場所がバレたのか、その人はこちらを見ると、ニヤッと笑みを浮かべながら、山の奥へ走り去ってしまった。

 

 賽銭箱の小銭が踊り、ちゃっちゃっ♪っと音が辺りに響く。その音は次第に遠くへ行った。

 

「明天……だった。あ、メダル。まずい!メダル持ってかれた!?」

 

 状況は理解できないが、今、明天はメダルが入った賽銭箱を箱ごと持っていったのだ。

 

 どうして……。

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