第1話 転生
七星優(ナナホシユウ)11歳。この物語の主人公である俺は病室の天井を眺めている。自分の命がいつ消えるかも分からない状況で、である。
(…まさかこんな早くに死ぬことになろうとはなぁ)
余命が定まっているというわけではないが、身体を蝕む激痛には耐えることはできないと確信している。
薄れていく意識の中、家族を横目に見る。泣きそうな顔で、俺の細くなった手を握っている。
(まあ、そりゃ当然か…。姉ちゃんを交通事故で亡くしてから半年も経ってないからなぁ。親不孝もいいところだ)
もともと身体が弱かった俺は姉が交通事故で死亡してから、その体調がさらに悪化した。普通の人なら耐えられるであろうウイルスに感染して、今となっては死の淵だ。
声すら出なくなって、身体を動かすことすら難しい。そんな状況がここ1週間続いていた。
(泣くなよっていうのは酷な話か…。俺も泣きたいけど、涙すら出ないし。ただ、向こうで姉ちゃんに会えることを期待して、一度死んでみるか…)
俺は姉である七星静香とは仲が良かった。いや、仲が良いで片付けられるレベルなのだろうか。姉は昔から病弱な俺の世話をめちゃくちゃしてくれた。両親が仕事でいないとき、助けてくれるのはいつも姉だ。
だから、そんな姉が交通事故でこの世を去ったときは一ヶ月間は立ち直れなかった。いや、今でも正直立ち直ったとは言い難い。
(お願いだから、もう一度だけ、会いたいよ…。何も言えずにお別れだなんて…)
泣きたいのに何も出てこない。そのときが近づいているんだとぼんやり思った瞬間、俺の意識はブラックアウトした。
柔らかい感覚が俺の顔にある。
(ここが天国ってやつか…。それにしてはやけにリアリティがあるな)
そしてどこか暖かい。
(…これは胸か)
俺は女性の胸に抱かれていたのだ。天国だとすればこういうこともあるのかもしれない。しかし、俺みたいな親不孝者が天国に行けるのだろうか。
「ーー・・・ーー」
俺を抱く女性が何か語りかける。いや、何喋っているのかさっぱり分からない。少なくとも日本語とは思えない。
「ーーー・・・ー・・ーー」
近くにいる金髪の男の人も何か言う。ていうか、男の人もいるのか。そりゃそうか。天国だとすれば性別関係なく行けるだろうし。
しかし、ここがどこかくらいは聞かせてもらいたい。
「あ、あーう」
声が上手く出ない。なぜと思い起き上がろうとするがそれもできない。というか、そもそもの手足が短すぎるのだ
(何が起こってるんだ…)
そう思いながら、さらに喋ろうとするが、急速に俺の意識が遠のいていく。
(…もう時間切れかよ)
そう毒づいたところで再び眠りにつくのだった。
自分が異世界に転生したと気づいたのは、その数日後だった。起きても病院のベットではない。そうすると夢かなと思ったが、実感がありすぎる。どのみち夢だとしても、自分が死んでる以上戻るのは無理だが。
幼児である自分にできることは非常に少ない。この年で(といっても11歳だからまだ幼い部類だが)再び母親の乳を吸うのはなかなか抵抗があった。とはいえ、不自然に喋り出したりするのもできない。そもそもこちらの世界の言葉がほぼ分からないが。
それでも数日過ごせば最低限の家庭環境は理解できた。どうやらこの世界においても俺には姉がいるらしい。髪の色は緑色で俺とは異なっている。とりあえず姉とともに言語を学習していくか。
そう決めてから半年が経った。その頃になると言葉もだいたいは理解できるようになった。これはかなり早い方なのかもしれないが、一度日本語で同じことをやっているので、コツは掴んでいるのだ。
そして、自分を含んだ家族の名前も分かった。俺の名前はレーディス、通称レードというらしい。髪は白色、いや銀色と言った方がいいか。
姉の名前はシルフィエット、通称シルフィである。一人称が僕であるため、緑色の髪の彼女を最初は男の子かと思ったが、歴とした女の子のようだ。前世では黒髪ロングの美少女、転生先では僕っ娘姉ちゃんに恵まれるとは俺は姉運が相当良いらしい。
(穏やかな景色だなぁ…)
ビルも車もない外を眺めてぼんやり思う。
「レード?」
そんな姿を見たシルフィ姉がどうかしたのかと声をかける。にしても本当顔が良いんだよなぁ…。姉じゃなかったら惚れてるまである。
なんて答えていいか分からなかったため、とりあえず微笑み返しておくと、シルフィ姉は俺を抱きしめて頭を撫でてくれた。
(超絶気持ちいい…。これは静香姉ちゃんのそれに匹敵するな)
さて、次はこの世界のことについて話そうと思う。見た感じこの世界はラノベやゲームにあるような剣と魔法の世界のようだ。
とはいえ、現状俺に何か特殊能力があるというわけじゃない。まあ、まだ発現してないだけの可能性もあるが。
(生まれつきの何かはないし、そうなったら自分で勉強していくしかないな…)
そう思ったものの、家に何かしらの教材がある様子はない。そこまで裕福ではないし、もしかしたら紙自体の値段が高く、流通している本というものは少ないのかもしれない。
(なら、身体を鍛えるか…。どっちにしろ今はまだ難しそうだけど)
自分の肉体がどれほどの可能性を秘めているのか分からないが、それを探る意味でも大事だろう。それに可能性がなくともこの世界で生き残るためには必要だろう。
とりあえず自分が死んだ年の倍までは絶対に死ねない。それがこの世界で決めた俺の目標である。
次回から本格的に進んでいきます。長編は初めてですが、頑張って書いていくのでよろしくお願いします